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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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望まぬ帰還

 ラフタリアがここにいる。
 俺は再度辺りを確認する。
 うん。異世界では無く現実の図書館だ。

「あの、ナオフミ様?」
「しっ! ここでは静かにしなきゃいけないんだ。俺も理解が追いついていないから考えさせてくれ」

 俺はラフタリアにそう告げて、四聖武器書をもう一度読み直す。
 ……さっきまで空白だったページに加筆されているのに気づいた。

 ――剣の勇者、槍の勇者、盾の勇者と槌の眷属者が倒され絶望する弓の勇者とその一行。
 戦いの果てに全員が損耗していきます。
 その最中、メディアは高笑いをしながら遊びと称して配下の者達を引き下がらせていきました。
 相手の気まぐれに命からがら助かった事を弓の勇者と仲間達は素直に喜べませんでした。
 なぜなら失った物があまりにも多かったからです。

 どうやら、あの女神は余裕を見せて引き下がらせたらしい。
 ここからどんな外道な展開が待っているんだろうか。
 クソ不快な気分だ。あのウザイ顔を打ん殴ってやりたい。
 ……。

「おい、これはどういう事だ?」

 四聖武器書に話しかける。
 だが、四聖武器書は何のアクションも起こさない。
 く……どうする?

「な、ナオフミ様?」
「あ、ああ」

 何をしても反応を示さない四聖武器書と盾のストラップを色々と弄ったが結局何も起こらなかった。
 ならばここで黙っていても始まらないのかもしれない。

「ここじゃあまり話が出来ないな。少し移動するから付いて来てくれ、ここが何処なのかは道中説明する」
「はい」

 ……ラフタリアの尻尾と耳はどう説明する?
 まあ、コスプレでどうにか……出来るかな?
 俺はラフタリアを連れて四聖武器書を持ったまま受付に行く。
 ちょっと待て、それ以前にこの本、借りれるのか?

 中表紙その他諸々を改めて確認する。
 うん。何もその類のセキュリティチップとかは埋め込まれていない。
 ま、それでも試しにか?
 俺は会員カードを取りだしながら四聖武器書と手ごろな本を一冊受付に持っていき、無言で受け付けに渡した。

「あの……こちらの本は?」

 受付の人が四聖武器書の中表紙や色々と箇所を見て首を傾げている。
 どうやらこの図書館に寄贈された本では無いようだな。

「あ、すいません。自分が持ってきた本だったのを忘れてました」

 さりげなく四聖武器書を受け付けからもらい、拝借に成功した。
 後は図書館に来た時に持ってきたリュックに借りた本共々つっこみ、ラフタリアの手を握って出る。

 図書館を出るとラフタリアが目を丸くして辺りを見る。
 比較的都市部にある図書館な所為もあり、ビルやデパートが沢山立っている。
 しかも自動車や信号機……あっちの世界には無い物が多いから、当然の反応だ。

「ナオフミ様? ここは一体どこなのですか?」
「ああ、俺の……世界のようだ」
「え!?」

 俺の視界には図書館の外に広がる街並みが映し出されていた。
 空気が悪いような気がするのは気の所為じゃないな。
 なんだかんだで異世界の方が空気が澄んでいた。
 懐かしく、帰りたかった世界ではあるが……。

「何故かラフタリア、お前を連れてこの世界に戻ってしまったらしい。今は状況を整理するために黙って付いて来てくれよ」
「は、はい! ここが、ナオフミ様の世界なんですか」

 キョロキョロと辺りを見渡しながら、ラフタリアは俺に付いてくる。
 道行く人がラフタリアをちらちらと見ているなぁ。
 やはり耳と尻尾が目立つか?
 いや、それよりもラフタリアの顔に目が言っているのかもしれない。
 ここは日本の良い所だよな。一見おかしく見えてもスルーしてくれる所。

 そう思いながら、小腹が空いた事に気付いた。
 ……財布には金がある。

 ジャンクフードが食べたい。
 海外留学などをすると故郷の味が恋しくなると聞いた事があるが、同じ症状かもしれない。
 あっちの世界は味が結構薄いからな。
 俺の好みで比較的に濃い味にはしていたが、香辛料とかが単純に足りなかったし。

「よし!」

 レストランに行こう。
 俺はラフタリアを連れてファミリーレストランに足を運んだ。
 あ、ラフタリアにデパートのレストランを見せて反応を見るべきだったか?
 今回行ったのはストームというチェーン店だ。

「いらっしゃいませーお客様は何名様ですか?」
「二名です」
「二名様ですね。こちらへどうぞ」

 店員に案内されて俺達は席に着いた。
 ラフタリアはキョロキョロとしてはいるが、そこまで驚きは無い様子だ。

「あの、ここは何の店ですか?」
「いや、わかるだろう」
「食べ物屋なのはわかりますけど、黙ってついてきたらご飯を食べる事に……」
「そうだったな……とはいえ、考える時間も欲しい。腹もへったし飯でも食おう」
「わかりました。ナオフミ様の世界の料理を食べてみたいです」
「なら、これがメニュー表だ。好きな物を選んでくれ」
「あ、はい! わ、薄い映像水晶が貼り付けてあるのですか?」

 ふむ……よく考えてみれば異世界の方が発展した技術があるよな。
 映像水晶って現実に例えると3Dホログラムだろ?
 まあ、動かないタイプの映像水晶が写真なんだから……いや、この場合は絵と言うのが正しいのでは?

「絵と言わないんだな?」
「へ? だって凄く精巧じゃないですか。ルーモ種の方には絵を書く方がいましたけど、何か違うと思うので……」

 ああ、そう言う事ね。
 なんだかんだで異世界の絵って油絵みたいな物や水彩画、他に魔法の絵の具? で、描くモノが多かった。
 写実画も無い訳じゃないけど、そこまで多くないし……。
 絵と思うよりも写真と思う方が早い。それを映像水晶に当てはめた訳か。

「じゃあこれを」
「品名読めるか?」
「いえ……」

 やっぱり文字は読めないか。
 言葉は眷属器でどうにかなるだろうが、文字まではな……。
 というか、それができたらあっちの世界で俺は困らなかった訳だし。
 俺は店員を呼ぶボタンを押してから注文する。

「今、そのボタンを押して呼びましたよね。高級料理店なんですか?」

 よくよく考えてみれば、ラフタリアと異世界の定食屋に入った事は何度もあるからおかしな反応はしないか。
 店員を呼ぶベルがある店も無い訳じゃなかったしなぁ。
 そこまで高級な店に入った事は殆どなかったけど。

「これが普通なんだよ。俺の世界の庶民は」
「そうなんですか? す、すごいですね……」

 まあ、レストランでラフタリアの反応を見るのは間違っているか。

「外にフォーブレイで見た物と良く似た車がフィーロより早く走ってますね」

 窓から道路を見てラフタリアが感想を述べる。
 まあ、確かに車の速度はフィーロよりも早いな。
 あの鳥の速度はそこにある訳じゃないけど。

 オーラでブースト掛けたらその限りじゃないし、曲がる時やデコボコ道でも何のそので走って行く。
 そう言う意味じゃ車よりも万能だったな。
 一家に一台フィロリアルクイーンってか?

「大型になるとフィーロよりも物を運べるぞ」
「す、すごいですね」
「まあ積載量の関係だから、大きさをなんとかすればフィーロでも運べるのか?」

 なんて、どうでもいい話をしていると料理が運ばれてきた。
 早いな。
 いや……こっちではコレが普通だったな。
 ラフタリアも料理が出てくるのが早くて驚いている。

「お待たせしましたー」

 店員が注文したメニューをテーブルに置いた。
 目の前に置かれたのは懐かしき俺の世界の飯。
 ああ……どんだけ夢見た事かと思いつつ、ナイフとフォークで食べ始める。

「いただきます。えっとナオフミ様の料理の方が美味しいですね」
「お世辞は言わなくていい」
「そう言う意味じゃないんですけどー……おいしいとは思うのですが、味付けが濃いと思いまして」

 まあ、異世界の料理って調味料をそこまで使って無かったしな。
 変わった味の料理が美味しいとか言われる事もあったし。
 薄味なのはしょうがない。

 実際、俺の世界では若者の栄養がどうのって話は良く聞く。
 とは言っても、今の俺には無関係だ。
 なんて考えながら久々に食べるハンバーグの味。

「――っ」

 正直言えば、そんなに美味しくはないだろう。
 だが、半年振りに食べたハンバーグはすごく美味しく感じた。


 適当に腹を満たした俺達は会計を済ませて、外に出る。
 ……なんとなく、レストランを出た後、ハンバーガー店が目に入る。

「よし、あそこも行こう」
「まだ食べるんですか?」
「故郷の味が懐かしいんだよ」

 腹はいっぱいだけど、懐かしさに食欲が湧いてくる。
 それに500円もあればある程度は食える。
 今は節約を考える余裕もないし、その程度のはした金なら出してもいい。

「行くぞ、ラフタリア」
「は、はい!」

 それからハンバーガーやらなんやらと目に付いた物を片っ端から食いまくった訳だが……。
 食い過ぎた……かなり気持ち悪い。

「これがナオフミ様の故郷の味なんですね」
「まあな」

 ラフタリアは美味しいとは言うけれど、最終的には必ず味付けが濃いと言っていた。
 しょうがないとは思うが、そんなに濃いか?
 救いは食べた料理の中にはラフタリアが気に入った物も多かった事だ。
 食文化に慣れないは仕方がないと思うが、好きな料理が無いのはつらいからな。

 ま、外食は濃くて当たり前みたいな所がある。
 俺は適当に休める公園のベンチに腰を掛けて、リュックから四聖武器書を取り出して再確認した。

「これがナオフミ様が召喚される前に読んでいた本ですか?」
「ああ、さっき読んだ所だと、俺達がやられた後が書かれていた」

 ……図書館を出る時に読んだ内容の先は書かれていなかった。
 敵は撤退したようだが、あっち世界には聖武器が樹しか残っていない。
 クズ達眷属器の勇者とグラスも残っているが、厳しい局面となるだろう。

 あの世界での最後に見た光景がフラッシュバックする。

 いや……仮に俺達がいたとしても勝つのは難しい。
 正直、奴に勝利している自分達の姿が想像できない。
 自分が何をされて負けたのか、未だにわからないからだ。

「うーむ……」

 それにしても、これからどうしたらいいのか皆目見当もつかない。
 視界にステータス魔法は無いのが逆に違和感があるなんて思いもしなかった。

 って、そういやさっきから何か違和感があると思ったら空気の肌触りが何か違う。
 こう……当たり前のように感じていた何かが全くない。
 何かと例えると何だろうか? 異世界独特の空気としか言いようがない。

「ナオフミ様……」

 ラフタリアが不安そうにこちらを見つめている。
 服は周りに違和感を持たれないようなシャツにジーパンだ。
 ボーイッシュに見えなくもない。
 ラフタリアは髪が長いし、スタイルも良いから似合うとは思う。

「何が原因なのか全然わからんが、俺達は負けた。いや、死んだと言っても良かったのに、気が付いたら元々俺のいた世界だ」

 俺はラフタリアにストラップ化した盾を見せる。
 するとラフタリアも同様にストラップ化した槌を見せてくれた。

「考えられるのは盾と槌が緊急手段として俺の世界に逃がしてくれたという所だけど」
「うんともスンとも言いませんね」

 自らのストラップを指で弾きながらラフタリアは答える。
 そうだ。先ほどから何にも反応が無い。

「悩んでいたってしょうがないから話を続けるぞ。俺の世界に来てしまい、戻る手段が見つからない」
「はい……私達は負けてしまいました……」
「負けたままなんて癪だけどな。ここで一つ問題がある」
「なんですか?」
「ラフタリア、お前の生活だ。俺の世界は色々と生きるのが厳しいと言っただろ?」

 そう、ラフタリアはなんだかんだで異世界人だ。
 戸籍なんて無いだろうし、住む場所だって問題が出てくる。
 何がどうなっても俺が匿うつもりだけど、それもいつまで、何処まで出来るかわからない。

「あと、尻尾と耳は今の所誰も不思議に思っていないみたいだが、下手に見つかったら危ないかもしれない」

 異世界の住人だと知られたら精密検査とかされてしまうかもしれない。
 さすがに見世物になる~~なんて事はないとは思うが、研究所とかに送られたりする可能性は十分ありうる。
 それは出来る限り避けねばならない事態だろう。

「は、はい」
「そういや、魔法とか使えるのかな? なるべく隠して試してみてくれ」

 俺は意識を集中して魔法を唱えられないか試してみた。
 ……リベレイションは無理だな。

『力の根源たる盾の勇者が命ずる。伝承を今一度読み解き、彼の者の全てを支えよ』
「ツヴァイト・オーラ」

 お? オーラが作動した。
 凄く薄らと視界にターゲットが浮かび上がる。
 試しにラフタリアに掛ける。

『力の根源足る私が命ずる。理を今一度読み解き、光の玉を出現させよ』
「ファスト・ライト」

 ふわりとラフタリアのかざした手に光の玉が出現した。
 ただ、凄く儚げな光だった。今にも消えそう。
 これなら百円ショップのライターの方がまだ頼りになりそうだ。

「う……なんと言うか、維持がとても大変です」

 すぐに光は消えてしまった。
 ふむ……龍脈法の方は全く使えず、普通の魔法は少しだけ使えるようだな。
 異世界からの魔法が使えるってロマンだと思うけど、威力が相当低くなってしまっている。
 おそらく、体の内から力を使う魔法だから僅かに使えるというのが妥当な所か?
 魔力を補充させる事が出来るのかわからないのがネックだ。
 って考えたってしょうがないな。

「とにかく、今はー……」

 ふと考えてみる。
 出来る事が無い。四聖武器書も盾も何にも反応しない。
 どうしろって言うんだよ。

「とりあえず、俺の家に行くか」
「ナオフミ様の家ですか?」
「あー……」
「ナオフミ様? どうしたのですか?」

 美少女に様付けで呼ばせるって……やばい奴だろう。
 ファミレスで散々言われても気付けなかったが、今思うと結構恥ずかしい。
 これは現実世界での常識が戻ってきている証拠か。

「ラフタリア、この世界にいる間は俺の事を様付けで呼ばずに行こう」
「は? わ、わかりました」

 ラフタリアは頷き。

「ナ、ナオフミ……さ――」

 若干詰まらせてラフタリアは頬を赤く染めて言う。

「ナオフミさん」
「うん。それでいい。後はラフタリアの方だよなー……」

 ラフタリアなんてハンドルネームとかニックネームとか思われたら良いけど……。
 ここは和名でー……と思いつつラフタリアを見る。
 顔の作りは外人のモデル並み、茶髪。
 日本人と言えば誤魔化せる範囲か?
 いや、ハーフと言えば通じなくもないが、かなり難しいだろう。

「偽名で呼ぶか。信楽たぬ子とか」
「そう名乗ればいいのですか?」

 そんな名前で大丈夫か? 俺?
 良くない。

 そもそも信楽ってラフタリアがタヌキっ子だから適当に名付けただけだし。
 というか、たぬ子も酷いだろ。
 名づけようとしたのは俺だけどな。
 ポン子、ラフ子、ラフちゃんって最後のは既にいるだろ。

「困ったら考えよう。今は普通にラフタリアでいいと思う。じゃあ行こうか」
「は、はい」

 俺達は町を歩きながら家路に着いた。
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