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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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Lv上げ

「有能と呼ばれたメルロマルクの女王よ?」
「……」

 淡々と女王は辺りを見渡す。

「み、ミレリアなのか?」
「……」

 クズの問いに女王は答えない。

「さあ、軍隊を指揮してこの者達を仕留めなさい」
「は!」

 敬礼したかと思うと、女王は、メディアの魔法? で、遥か後方に移動させられた。
 その瞬間から後方で援護する者達の連携が向上する。
 裏切り? 実は死んでおらず、女神の先兵?

「クズ!」

 お前の妻は、裏切り者だったのか?
 と言う前にクズは首を横に振る。

「あり得ませぬ! あれは……アレは!」

 クズはメディアを睨みつけた。

「ええ、魂を引っ張って生き返して手駒にしてあげたの。今じゃ私の思い通りに動く手駒よ。あら? これは教えなかった方が良かったかしら?」
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 クズの怒りの叫びが木霊する。
 つまりアレは……女王を無理矢理操っているという事か!

 ……そうだ。あの女王が裏切りなどするはずがない。
 どれだけマンガやゲームをやってきたんだ。岩谷尚文。
 こういう死者蘇生展開は操られているとか、ゾンビ展開だろ。

 どんだけ外道なんだよ! コイツは!

 考えてみれば転生を斡旋なんて出来るんだ。
 死者すらも生き返す事が出来る証拠じゃないか!
 しかも女王は、奴の操り人形と化している。

 クソ! 非常にやりにくい相手だ。
 というかこんな真似して転生者は何も不思議に思わないのか?
 考えられるのは何を話したかわからない、もしくは……さっきのは俺達だけ認識できるようにした?

「アローレイン! さあ、早く! 黒幕を……敵を!」

 樹が元康と争っていた奴に矢の雨を降らす。
 っと、そうだった。
 ヴィッチの本体事メディアを倒せば、全て解決するかもしれない。
 見た感じ、強力な援護魔法を掛けたようだが連携が無いからフレンドリーファイアでボロボロだ。
 ……よし。

「いくぞ!」
「おう!」

 俺達、先頭に立っている勇者が決めなければならないだろう。
 でなければ付いて来る者も付いてこない!

「鳳凰烈風剣Ⅹ!」
「ブリューナクⅩ!」
「フルバスターⅩ!」
「シールドプリズン! チェンジシールド(攻)! アイアンメイデンⅩ!」

 一番強力なスキルを、メディアに向けて放った。
 火の鳥が光の槍と一斉に放った銃弾と混ざり合ってメディアに命中し、その爆発をプリズンが閉じ込めてスパイクした盾をアイアンメイデンが囲んで串刺しにする。
 これで、ダメージが入ったか!?

「……面白くないわね」

 ムッとしたように何事も無かったかのようにメディアは佇んでいる。
 強固な結界が展開されているように見えた。

 く……俺達の決め技を受けてもかすり傷一つ負わないのかよ。
 後はラフタリア達に力を貸してもらってもう一度挑戦するしかないか。
 ただ、転生者やグラスの世界の軍を相手に戦っている手前タイミングを合わせるのがシビアだ。
 幸いなのは相手が舐め切っているのか、近くをふわふわと浮いている所だろうか?

「尚文」

 錬が俺に視線を送ってくる。
 わかっている。
 ここまで強い相手、そして今まで俺達が手に入れた武器、スキルの中で……だろ?
 俺の考えに、錬は頷く。
 それはラフタリア達も同じだった。

「いくぞ!」

 転生者や軍を一瞬だけ無視、いや――。

「流星壁Ⅹ!」

 俺が発動させた結界で弾き飛ばして、全員が……メディアに向けてとあるスキルを放った。

「「「0の――」」」

 そう、あの何も無いスキルがあまりにも異質なのだ。
 ネタスキルだと馬鹿にするのはおかしいと、俺や錬、樹は説いた。
 だからどうしても強い相手に遭遇した時、使う可能性を視野に入れろと注意していた。
 まさか使う時が来るなんてな。

「な――」

 余裕を見せていたメディアの表情に焦りが宿る。
 やはりか……。
 0で放たれたスキルがメディアに光となって命中した。

「女神様!?」

 争いあっていた転生者を含め、グラスの世界の軍も動きを止める。

「よし!」

 これで、倒せればいい。

「もっと畳み掛け――」

 俺が言い終わる前に、一筋の光が通り過ぎた。
 いや、見えなかった。
 何かが通り過ぎて、反射的にその方向を眺めたに過ぎない。

「ぐはああああ!?」

 それは、先頭に立っていた元康が胸を貫かれて倒れる瞬間だった。

「え……?」
「も、もとやすさん!」
「もっくん!」
「もーちゃん!」

 元康の取り巻きが駆け寄る。

「……」

 しかし、元康はピクリとも動かず……。

「よくも私に傷を付けてくれたわね!」

 そう……メディアの手に僅かな傷を付けただけであった。

「も、元康……?」

 ぐったりとしたまま、動かない元康に俺は声も出なかった。
 やがて。

「あ――」

 元康が金色の残滓となって消え去った。
 まるで最初からそこに誰もいなかったかのように。

「ちょっと焦ったわ。まさか……ここまでやるなんてね。でも残念だったわね。その程度で倒されるほど私はやわな神じゃないわよ」

 メディアは周りを見渡し、一瞬だけ眉を寄せた後、俺達を数え始めた。

「ひーふーみー……で11? 多いわね。これじゃあ釣り合わないじゃないの、聖武器もまだ三人も残ってるし、眷属器だったかしら? 8人ってアンだけやったのに残ってるって最悪ね」

 そして俺を睨みつける。

「盾の分際で私の計画を何処まで邪魔してくれるのよ」
「知るか! 勝手に進めるな!」

 全ての元凶が何を言っている。
 元康が死んだんだぞ! とは言わない。
 それは錬も樹もわかっているのか。
 怒りを抑えて、冷静に対応する。

「貴方の目的はなんですか! 何が目的で波を起こしているのですか!」
「ふふふ、知りたい?」

 余裕を見せるかのようにメディアは笑う。

「強いて言うなら、私が強くなるためよ。貴方達の言い方をするなら、Lvを上げたいだけ」
「そんな……そんなくだらない事の為に……こんな不毛な争いをしたと言うのか!」

 叫ぶ樹の弓を握る力が強まる。
 それは俺も……いや、この言葉を聞いた仲間全員だ。

 Lv上げ、だと!
 そんなふざけた事の為に俺達はこれまで苦しい日々を生き抜いてきたと言うのか!
 波によって沢山の命を失い、大切な人を犠牲にして、それでも戦ってきたのに、敵の目的がLv上げ。
 ふざけるな……。

「どうとでも、言うと良いわ。さあ、悪の勇者を倒すのよ!」

 メディアの言葉と共に敵が一斉に襲い掛かってくる。
 その力は異常に高められており、俺でも防ぐのがやっとだ。
 く……。

「ああ、そうそう、そちらが強すぎるからハンデに勇者数人は死んでちょうだい?」

 メディアが手を前にかざし、大きな半透明なエネルギー状の剣を出現させて前に向ける。

「じゃあね」

 俺は咄嗟に飛び出し、錬、ラフタリア、フィーロ、フォウル、みどりの勇者の中で前衛をしていた奴らを守る。

「0の盾!」

 神の攻撃に対して防御力があるのなら……これで耐えきれるはず。

「ああ、残念ね」

 世界が一瞬、止まったかのように俺は感じていた。
 その中で、メディアが一人だけ動いている。

「その程度の防御じゃ、無理よ」

 ―――っ。

「絶対必中、絶対即死『インフィニティ・デストロイヤー』貴方は死んだ」

 白と黒、そして赤い無数の線。
 それ等が粒子上の光線となって飛んできた。
 元康を殺された時と同じく、目に見えてはいない。

 そう……死とでも呼ぶんだろうか。
 死その物を具現化したような概念というか、気配が見えたのだ。
 どうして見えたかまではわからない。
 実際、メディアの攻撃を視認するよりも早く俺は攻撃を受けていたから、見えるはずは無かった。

 まるで攻撃描写をスッポリと抜き取り『相手を殺した』という結果だけを繋ぎ合わせたかの様なツギハギ感。
 な、なんだ……これはっ!?

 幸い奇跡的にもガツンと俺は攻撃を……盾で受けきった。
 防いだという実感はある。
 自分が死んでいないという確信もある。
 だが――

「あら? 防いだ? 無限を超える速さを受けるなんて運がいいじゃない」

 無限を超える速さ?
 コイツ、頭大丈夫か? 単位が滅茶苦茶だぞ。
 いや、実際に俺は敵の攻撃を理解できなかった。
 奴の攻撃を防げたのは本当に奇跡的に盾を構えた位置に敵の攻撃が飛んできたに過ぎない。
 次撃たれれば――死ぬ。

「じゃあこれよ? 本当は無駄に力を使うからイヤなんだけどーしょうがないわね」

 ――メディアがそう言った直後、俺は死んだ。

「え……?」

 ブツンと何か、まるで電源を落としたかのように、意識が一瞬だけ途切れる。
 メディアが何をしたのか、本当にわからなかった。

「何も知らずに死ぬのは嫌でしょうから教えてあげる。貴方の過去、現在、未来、並行世界、分岐世界、その全てに向けて攻撃をしたわ」

 気が付くと吹き飛ばされていた。
 一瞬にしてステータス魔法に記載されているHPが0になった。
 それは錬も同じで――。

「ナオフミ様――」

 ラフタリアが咄嗟に手を伸ばしていた。
 その手に応えようと腕を伸ばそうとするが、力が入らない。

「神の名の元に消え去りなさい!」

 体中を刻まれて、それで尚吹き飛ばされ……。

「次元の波に落ちろ! アハハハハハハハハ!」

 メディアの耳障りな笑い声がいつまでも俺の耳に聞こえていた。
 まだだ……動け、俺!
 吹き飛ばされている最中だろ!
 と、思った矢先、かすむ視界の中で……俺の胴体が細切れで飛ぶ光景が見えた。

「あら? 槌の奴も巻き込んじゃった? まあ、これで釣り合いが取れるでしょ? 沢山待ったんだから、これからゲームの時間よ」

 と、笑い声を中断したかと思うと、空間が動き、俺の意識が遠のいて逝く。

 ……こんな訳のわからない所で終わりなのか?
 今日まで沢山がんばって、必死に戦ってきて、皆を救うと……守る事すら出来ず、無様に死ぬのか?
 それじゃあ俺達が今までしてきた事ってなんなんだよ。
 アイツ等が生まれた意味は経験値なのか? 
 ふざけるなよ……こんな事があってたまるか。

 動け。
 せめて抵抗だけでもさせろよ。
 だが、それすら今の俺には適わない。

 目を閉じたらきっと、次の瞬間には死んでいる。
 ……いや、既に死んでいるのかもしれない。
 何故だが知らないが、自分が『死んでいる』と認識しているのだ。

 ああ……そうなのか。
 俺は既に――死んでいるのか。

 それじゃあ、これは走馬灯か。
 嘘みたいに記憶が蘇ってくる。
 本当、クソみたいな人生だったな。

 散々好き勝手にマンガやゲームに浸って、世の中に不満たらたらで、この世界に召喚されて。
 最悪な異世界で必死にがんばって、ラフタリアに出会って。
 フィーロと出会って、メルティと出会って、無実の罪を晴らして。
 強大な敵を倒して、アトラやフォウル、村の連中に出会って、嫌いだった錬達やクズとも和解してさ。
 これからやっと、少しはマシになっていくはずだったのにさ……。

 なんで、なんでこんなに理不尽なんだ……。
 どんなに苦労しても、悲しい事があっても、最後はさ……勇者が魔王を倒して世界を平和にして、皆を幸せにして終わり、じゃないのかよ……。
 そういうもんじゃ、ないのかよ。

 はは……結局は俺もアイツ等と同じで、甘っちょろいゲーム感覚だったって事か……。

 ……わかっている。あの日から今日までの日々で、吐き気がする位わかっているさ。
 そんなに甘くないってわかってる。
 どうしようもない理不尽があって、抗いようもない絶望があるのが、現実だって。

 ラフタリア……アトラ……皆……。
 指一つ動かす事も適わない手を、せめて心だけでも動かす。
 どうしてこんな事をしているのか、俺でもわからな……そうか、そうだったのか。
 なんだ、口ではああだこうだ言っておきながら、俺はこの世界が結構好きだったんじゃないか。

「皆さん。私の力で辛うじて悪の勇者を三名抹消し、次元の果てへ――」

 こうして俺は、無残にも死に、死体も残らず消し飛ばされてしまった。


 ――

 ――――

 ――――――

 深く沈んでいた意識が浮上する。
 ぼんやりとした、幽霊にでもなった様な感覚。

 紙と紙を擦る音と少し埃っぽい匂い。
 静かなのに懐かしい、忘れていた物が思い出される。
 これは……。

「――っ!」

 え?
 声が出せた……。
 何だろう、俺は瞼を閉じている。
 なら開ければいいだろうと、当たり前の事に行き着き、俺は目を開けて……言葉を失った。

 ――それは見覚えのある、図書館だった。

 備え付けの座席に座った体勢で、まるで先程まで居眠りでもしていたかのようだ。
 受付に置いてあるカレンダーと時計に目を向ける。

 ……俺が四聖武器書を読んで異世界に飛ばされた日から30分くらいしか経っていない!?
 俺は……手に持つ本の表紙を確認する。
 四聖武器書だった。
 そして盾の勇者の活躍が描かれている。
 俺の行った軌跡を概要をなぞったかの様な……ものだった。

 こうして、盾の勇者は世界の敵である女神メディアに敗北してしまいました。
 残された弓の勇者とその仲間達の戦いは続く――

 と、次のページが真っ白になっている。
 ページを戻して最初の方を読む。
 俺が最初に読んだのとはかなり内容が異なっているようだった。
 冒頭で盾の勇者は姫と王様に八百長に遭い、仲間である他の勇者との関係にも亀裂が入りとかご丁寧な事で。

 どういう事なんだ?
 夢……じゃない!
 そんな事はありえない。
 あれが夢のはずがない。

 俺は自分の格好を改めて確認する。
 それは異世界に行くまでの服装だった。
 もっと良く観察するんだ。全てが夢のはずが無いだろ!
 何か、何かあるはずだ! 今までの出来事が夢であってたまるか!

「いつつ……」
「ん?」

 俺は声のする後方を確認する。
 そこには……。

「だ、大丈夫ですか? ナオフミ様」
「な――ラフ、タリア……?」

 ラフタリアは片手を頭に当てて、起き上がる瞬間だった。

「こ、ここは……?」

 俺は言葉が出ずに固まっていた。
 そりゃあ夢であってたまるかと思ったが、ラフタリアが夢で無い証としているだなんて。

「あれ? ナオフミ様、服が……私のも」

 ラフタリアは自らの格好に関して首をひねっていた。
 どうなっているんだ?
 徐に盾のあった場所を見る。
 そこには申し訳なさそうに、ストラップと化した鎖の入った盾がブレスレットとして巻きついていたのだった。
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