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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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女神降臨

 世界中が震えるかのように空気が震え、雲が消え去って行く。
 地響きが聞こえ、俺は咄嗟に皆を守るように前に出て構える。
 こんな事で滅ぶ世界から全てを守る事なんて出来ないけれど、それでも俺は――。

「皆、俺の前に出るんじゃないぞ!」

 守ると決めたんだ。
 例え不可避の滅びが到来してしまったのだとしても。
 何が起ころうと、この身が朽ち果てるまで。

 亀裂から閃光が溢れ、全員が目を瞑る。
 く……世界の滅びとは、どんな物なのだろう?
 グラスの言った通り、全ての命が吸い取られ、荒野と化すのか?
 他に黒い闇……ブラックホールみたいな物が出現して全てが虚無に呑みこまれるような現象が起こるのか。
 とにかく、今は……奇跡を願うしかないじゃないか。

 そう考えながら、強く吹く風をその身に受けつつ……俺は、眩しい光をその身に受け続けた。

 やがて……。
 地響きは鳴り止み、目を凝らす。

「な……」

 そこには、俺の前には見知らぬ大地、融合した世界が広がっていた。
 一度見た事があるとも言えるのかもしれない。

「これは――」

 グラスが絶句する。
 そう……世界は滅ばず、融合を果たしていた。

「な? 波で世界なんて滅ばねえんだよ!」

 転生者達はこちらに武器を構え、敵意を向けながら言い放つ。
 どういう事だ?
 戦闘態勢を取りながら俺達は敵となる転生者を睨みつける。
 視界の砂時計は完全に落ち切り、沈黙してしまった。

「さあ、女神様が舞い降りる時!」

 転生者の一人がそう言い放つと、取り巻きにいたヴィッチ二号が淡く輝く。

「「え?」」

 ヴィッチ二号が目を瞑り、輝いたまま、空中に浮かんだ。
 そして光が収縮し……世界各地から光が集まるかのようだった。

「あ!?」

 グラスが声を上げる。

「どうした!?」
「使役していたソウルイーターが全て、謎の絶命をしました!」

 何!?
 空を見ると……光が何個も到来し、ヴィッチ二号を取り囲む。
 やがてまばゆい光となって、ヴィッチ二号が光に消えた。

「メアリー!」

 転生者がヴィッチ二号の名を呼ぶ。
 やがてヴィッチ二号を取り囲んでいた光が四散し……そこには見た事のあるような、無いような……女が一人、宙に浮いて現れた。

「おお……女神様」
「皆さま、ありがとうございます。皆さまの活躍で私はやっと、この地に舞い戻る事が出来ました」

 転生者とその仲間達は黙ってその光景を見ている。
 ……アレだ。強力な仲間が加入するような空気に似ている。
 となると、俺達からすれば強大な敵の誕生か?
 マンガやゲームだと燃えるシーンなのかもしれないが、敵である俺達からすれば、ふざけるなの一言しか浮かばない。

「メアリーが女神様だったなんて……」
「驚きましたか? 皆さまの補助をする為、この世界には私の分け身である魂を転生させた者達がいたのです。記憶こそ持っておりませんが、皆さまの近くにいたのですよ?」
「!?」

 分け身……?
 非常に嫌な予感がする。
 目の前の女神と呼ばれる存在、その根底にある何かを……俺は察していた。

 いや……全てが繋がったと言った方が正しいか。
 今まで感じていた違和感の正体はコレだったという事だ。
 女神は俺達の方を向いて会釈する。

「これはお初にお目にかかる。いえ、何度もお会いしたでしょうかね? 私はメディア・ピデス・マーキナーと申します。私の分け身であった、マルティとは少々不愉快な程の事をして下さったようで」
「ま、マルティ!?」

 クズが声を裏返す。
 そう、よくよく見ると、目の前のメディアと名乗ったこの女は、外見が何処となくヴィッチに良く似ていたのだ。

「クズ、落ちつけ!」
「は、はい!」
「ああ、なんとも卑劣な行いで女神の分け身をこの者達は残忍な方法で苦しめ、挙句処刑をするとは」

 演技の掛った態度でメディアは転生者に泣きまねをして俺達を指差す。

「絶対に許しがたい。貴方達の様な方々を神である私は断じて許しません」

 ……目が笑っている。
 あれはヴィッチが人を騙す時にやる目だと俺の記憶が囁く。

 なるほど、ヴィッチの正体は女神の魂の欠片だったのか。
 道理で、女王ともクズとも異なる性格に育った訳だ。
 元々が世界を破滅へ導こうとする神を僭称する存在なのだ。矯正したって変わるはずもない。
 おそらく魂に刻まれた命令は勇者をいがみ合わせるとか、贅沢をして世界を衰退させるとかなのだろう。

「クズ……理解しろ。お前の娘だった奴は世界の敵だ。それを忘れるな」
「パパ、私はここにいるわ!」

 ヴィッチそっくりの声真似でメディアはクズに囁きかける。

「よくも私を処刑してくれたわね。父親なのに! 絶対に許さないわ」
「あ、ああ……」

 クズが杖を持ったまま震えあがる。
 自らが殺した娘が帰ってきたような恐怖……なのだろうか?
 家族想いのクズには相当きついはずだ。

「クズ! しっかりするんだ! お前の愛した女王が残した国……そしてメルティはどうするんだ!」
「ハッ!」

 我に帰ったクズがキッとメディアを睨みつける。

「さあ、皆さん! 世界の敵を倒すのです!」
「「おおー!」」

 転生者が雄たけびを上げて俺達に各々の武器を向ける。
 その背後には転生者に力を貸す、グラスの世界の軍隊だ。
 総力戦……なのか!?

 クソ! ここまで来て、こんなわけのわからない戦いになるのか。
 だが、ここで俺が動揺する訳にはいかない。
 俺は自軍の大将で勇者でもなんでも演じなければならないんだ。
 じゃないと、本気で負ける。

「全員、応戦しろ!」
「「おおー!」」

 こっちも雄たけびを上げ、敵軍団とぶつかり合いを始める。
 そして誰よりも前に飛び出し、敵を視界に収めた。

「死ね! 卑劣な勇者共!」

 転生者の……刀を持った奴が切りつけてくる。

「ふん!」

 俺は刀を片手で受け止める。

「な、なんだと!?」
「中途半端な強化だな」

 これなら勝てるか?
 敵の総大将が出てきたからと言って敵まで強くなる訳でもなさそうだ。

「元康!」
「わかりましたぞ! ブリューナクⅩ!」

 元康の放つ光の槍が転生者を射抜く。

「ぐはあああああああ!」

 ち……死なないか。
 確か防御を得意とする奴がいたよな。

「くそ、まだ出ないのか!」
「錬、ラフタリア! 畳みかけろ!」
「わかった!」
「はい!」
「ラフー!」

 錬とラフタリア、ラフちゃんが接近して、連続で切りつけと殴りを繰り返す。

「うぐ――ぐ……」
「クズ、後方で儀式魔法を連続射撃!」
「応!」

 クズの指示によって後方で儀式魔法を唱え、フィトリアの眷属器に充填される。
 もちろん、コピー元のラトの戦車事ミー君も一緒だ。

「雷撃鞭Ⅹ!」
「キュアアアアアアアアア!」

 電気を帯びた伸縮自在の鞭がスナップを利かせて敵へと繰り返され、それに合わせてガエリオンの火炎が敵を包む。
 谷子とガエリオンのコンビ攻撃も健在だな。

「すぱいらるくろーてん!」
「滅竜烈火拳Ⅹ!」

 フィーロも近寄る者を螺旋の如く爪で薙ぎ払い、避けた相手をフォウルが複数回強打し、仕留める。
 よし、敵の連携が出来ていない。
 強化方法の話し合いなんてしていないんだろう。
 その点で言えば俺達の方が優勢だ。

「あらあら……しょうがありませんね」

 メディアがふわりと浮かんで指を弾く。

「永遠の付与」

 ばあっと転生者とその味方に光が降り注ぐ。
 その直後――

「ぐ……」

 俺が受け止めていた攻撃が物凄く強くなった。
 支援魔法か?
 しかし、俺が唱えたのはリベレイション・オーラのⅩだぞ?
 今までだって相当余裕で耐えきれていたのに今では俺でさえ耐えるのがやっとだ。
 それって錬や他の勇者は元より、後方にいる連中では耐えきれない。

「ありがとうございます、女神様!」

 転生者はメディアに振り向いて礼を言ったかと思うと俺を睨む。

「喰らえ! 刀剣衝波!」
「甘い!」

 刀から風のような光の刃が飛んでくる。
 俺はその転生者の攻撃を……受け流して錬が戦っている奴の方へと向ける。
 錬は以前よりも周りが見えている。飛んでくる刀の剣閃に気付くや後ろへ飛んだ。
 鋭い刃が絶対防壁を作ろうとしていた敵を切り裂いた。

「ぐはぁ!?」

 うわ。足が吹き飛んだぞ……。
 どんな威力してんだ。
 しかし、足の方がすぐに回復……再生して元通りに戻った。

「避けなかったのが悪い!」
「なんだと!?」

 反撃とばかりに刀を持った奴を防壁で閉じ込めた。
 おいおい、喧嘩かよ。
 コイツ等どんだけ協調性が無いんだ。

 ……人の事は言えないか。
 昔の俺達勇者を見ている様で頭が痛い。
 いや、さすがに錬達も敵を目の前にこんな争いまではしてなかったな。
 まあ後で罵り合いをしていただろうがな。

「絶対防壁が守りだけだと思うなよ!」

 強く拳を握りしめると刀野郎を閉じ込めていた防壁が小さくなっていく。

「ぐ……やめろぉおおぐ……」

 ボキボキと音を立てて刀野郎は小さな箱に無理矢理押し込められたかのように、抑え込まれていく。
 いや、それはやり過ぎだろう。
 仲が悪いにも程がある。
 ……もしかしたら元々殺し合いしてたとか?
 ほら、グラスが色々な国が戦争しているとか言ってたし。

「喧嘩はおやめなさい!」

 メディアが声を掛けるがこの二人は聞いていないようだ。
 やっとの事、防壁を破壊した刀野郎が防壁作りの奴に攻撃する。
 連携も何もないな。
 俺こそがエースプレイヤーとばかりに個人プレーをしている。
 後方にはそんな転生者の取り巻きだろうか? 女共が応援していたり、戦いに参加しようと駆けつけてくる。

「これは有能な指揮官が必要よね……あはは、面白い魂を見つけちゃったわ」

 メディアはくすくすと笑ったかと思うと……手を広げる。
 ん? 世界が止まる?
 俺とクズ、そしてメディアだけが動いている。

「出てきなさい」

 ぶわっとメディアがかざした所に黒いガラス玉みたいな物が出現したかと思うと……そこから出てきた人物に、俺とクズは言葉を失った。

「あれは――」

 それは他の連中も一緒だった。
 なんと死んだはずの女王が扇子で口元を隠して現れたのだ。
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