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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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勇者達の噂

「ん?」

 次の村までおおよそ一時間程の馬車内で作業をしていた俺は変な音に気がついた。
 馬車の隣で、ゼェゼェと息を切らした声が聞こえる。顔を出すと何やら焦った表情で男は手提げ袋を片手に走っていた。

「何を急いでいるんだ?」

 こういう時には好奇心を働かせるのが良い商談を持ち出す秘訣だ。

「おい、そこの奴、どうしたんだ?」
「早く、山向こうの村に戻らないと……」
「急いで山向こうの村に行きたいのか?」

 何やら親が病で倒れて薬を買いに来ていた男が走っているのをフィーロが追い抜いたようだ。

「はい。一刻を争う状態でして」

 ガタガタと揺れる馬車に並走して走る全力疾走の男の事情を聞く。
 ふむ……山向こうなら距離的に平均相場銅貨50枚くらいか……。

「フィーロ、最高速で走ったら直ぐに到着するか?」
「うーんとね。馬車を引かずに走ったらもっと早くつくよ」
「分かった」

 俺はラフタリアのほうに視線を向けると心を読み取ったのかラフタリアは頷いた。

「銀貨1枚で運んでやろうか?」
「え!?」

 男は驚きの表情を浮かべる。

「ですが私には薬を買うだけで、もうお金が……」
「銀貨1枚相当の物でも良いぞ? 薬草とかを次に来た時に渡すでも良い。シラを切ったら許さんが」
「そ、それなら……」
「よし、話は決まった。フィーロ!」
「はーい!」

 フィーロは馬車を急ブレーキさせて、道端に止め、後ろに回る。
 俺はそのままフィーロの背中に乗り走らせて、男を追って、拾い上げた。

「うわぁ!」

 驚く男をフィーロは両手で担ぎ、全速力を出す。
 ラフタリアが馬車で手を振っている。

「出発だ!」
「おー!」

 ドタドタドタ!
 フィーロの本気の走りはふざけた体形でも変わらず、かなり早い。
 平均的なフィロリアルの倍は出せる。
 あっという間に山向こうの村にある、男の家にたどり着く。

「な、なんて早さだ……」
「それよりも早く親に薬を飲ますんだろ? 落とすなよ」
「は、はい!」

 男は家に入る。俺はそれを追って中に入った。まだ報酬の話を終えて無いからな。
 至って普通の農村の民家だ。
 中に入ると、コホコホと咳き込む声が聞こえる。

「おふくろ、薬だ。我慢して飲んでくれ」

 声の方に歩いて行くと、顔面蒼白の今にも死にそうな老婆に男は薬を飲ませようとしている。
 何の薬か、今の俺の知る薬よりも効果が高そうではある。
 ふむ……。

「おい。俺が飲まさせてやるから、お前はお湯でも沸かして精の付くものでも作ったらどうだ?」
「いいのですか?」
「何、行きがけのついでだ」

 男から薬を受け取り、俺は老婆の背を持ちながら飲ませる。
 ……前に習得した薬効果上昇というスキルが上手く作動すれば良いのだが。

「ゴホ……ゴホ……」

 老婆は俺が持つ薬をどうにか口に含み、飲み込む。
 俺の視界に淡い光が生まれて散る。
 どうやら効果があったらしい。
 老婆の容態が目に見えてよくなっているように感じた。青かった顔色に赤みが宿り、咳も心なしか少なくなる。

「ゆっくりと休むといい。すぐにお前の家族が食べ物を持ってくる」

 老婆は震える表情で俺を見上げ、そして横になる。

「さて」

 俺は老婆のいる部屋を後にして男のいる台所に向う。

「あ、飲んでくれました?」
「ああ、容態も落ち着いたようだ」

 俺の返答に男はホッと一安心したように肩を降ろす。

「後で来るから金は払えよ」
「はい」

 俺は男の家から出て、待っていたフィーロにまたがり、馬車を置いておいた場所に戻った。
 そして村に到着すると何やら男が何か緊迫した表情で出迎える。

「あの……」
「どうしたんだ?」

 行商する品と頼まれた積荷を降ろしながら男に答える。

「おふくろの様子が目に見えてよくなっていたのですが、アナタは一体……」
「俺を知らないなら知る必要は無い」

 知ったら悪名の方が頭に浮かぶだろう。そして変な疑いの視線を向けてくるに決まっている。

「せめて名前でも」
「答える義務は無い。薬が特別効いたんだろう。それより銀貨1枚かそれ相応の物をもってこい」
「は、はい!」

 男は家中から物をひっくり返して、食べ物を出してきた。

「まあ、こんな所か。じゃあ、また会ったらよろしくな」
「はい! 本当にありがとうございました!」

 男の顔が心なしか晴れやかだった。
 ちなみに、再度、この村に来訪した時、この男の親である老婆はかなり元気な……元気すぎるババアになっていたのは余計な話か。

 そうして俺は馬車に隠れて薬の調合と中級レシピの解読を進めた。
 魔法書よりも解読がしやすそうな中級レシピの方が取り組みやすい。
 やっと解読ができたのが治療薬だった時はかなり脱力したものだ。
 思えば俺は今まで勉強を蔑ろにしていた。
 ここ一ヶ月色々あって忘れていたが、もしも生きて弟に会えたら何か言ってやるのも良いかもしれない。

「ナオフミ様、ここでの販売は終わりましたよ」

 村に到着したのが昼過ぎ、現在の時刻は夕方になっていた。

「次の村へ持っていく荷物や手紙は?」
「承っていますよ」

 馬車を降りて、荷物を載せる。
 見知らぬ行商に任せる荷物などタカが知れている。
 盗まれても良い、安い物が多い。
 それでも小銭は稼げるので問題は無い。
 こんな感じで村から村、町から町へと行商をする。
 治療薬を欲する奴には直接飲ませ、効果上昇を掛けてのプランを行った。

 2週間位経った頃には、どうも珍しい魔物を連れた何でも屋として近隣では有名になり始めていた。
 有名になるというのは信用を得るという事であり、馬車に乗り込む客も増えてくる。
 結果的に金銭も少しずつ上昇傾向になってきた。
 行商の旅の長所は何個かある。
 まずは移動中に作った薬が売れる。
 次に、移動中に出てくる魔物を倒して盾の種類が増える。まあ、大体がステータス上昇系なんだけど……。
 旅を始めてわかった事だが、地方によって魔物の種類はガラリと変わる。
 弱い魔物でも盾に吸わせる事で強くなる俺には、行商は結果的に正解だったと考えて良いだろう。

 そして、様々な情報が耳に入ってくる。
 今まで知らなかったが俺以外の勇者、元康、錬、樹がどの辺りを拠点に活動しているのかが推測できるようになった。

 元康は城から南西地域を重点的に回っているようで、話によると飢饉で苦しんでいた村を、伝説に存在する作物の封印を解いて救ったとか聞く。大方、ゲームとかで知った知識を使っているのだろう。

 錬は城から南東地域を拠点にしているらしいが、凶暴な魔物が生息する地域なら何処へでも行く傾向があるようだ。東の地で凶暴なドラゴンが暴れていたのを討伐したとか、様々な噂が流れてくる。

 樹は……何がしたいのか良く分からないけど、メルロマルク国から来訪した冒険者として北方にある小さな国の悪政を布く支配者をレジスタンスと一緒に倒したとか噂が流れてくる。
 ただ、樹だと特定する決定的な材料が欠けていて良く分からない。何か弓を持った冒険者が一番強かったとか……樹を連想させる様な、そんな曖昧な話しか聞かないのだ。
 俺が異世界に来る前に読んだ四聖武器書と酷似した出来事が起こっているとも取れるが……。

 まあ、そんな感じで馬車の旅は続いていく。
 ここ2週間の成果として俺達のLvは。

 俺 Lv34
 ラフタリア Lv37
 フィーロ Lv32

 へと成長していた。
 ……魔物だからかフィーロの上がりが異常だ。
 この頃になるとフィーロの身体的能力の上昇が顕著になり、馬車を両手(翼?)で引いていたフィーロが片手で欠伸交じりに引くようになった。
 もちろん注意するのだが、本人曰く。

「馬車が軽すぎてやる気が落ちるのー」

 だそうだ。まあ、良い。
 盾はやはりステータスアップ系と耐性系が多い。
 他の目立つ変化というと。

 ツルハシの盾
 能力解放済み……装備ボーナス、採掘技能1

 水晶鉱石の盾
 能力解放済み……装備ボーナス、細工技能1

 だろうか。丁度、鉱山で栄えている町に着いた時に、道端で落ちていた折れたツルハシと、質が悪くて捨てられていた水晶鉱石を盾に吸わせて出た盾だ。
 この二つ……金を稼ぐのには良さそうなスキルなのだろうけど、いまいち、踏み込むにはまだ情報が足りない。
 落ちてた水晶鉱石を適当に磨いたらぶっ壊れてクズ石になったので、やっぱり何かレシピ的な物が必要なのだろうと思う。
 そもそも、俺は薬屋から貰った中級レシピを読み解かねばならなかった。
 さすがに2週間も経てば解読は終わる。元々3週間近くにらめっこしていたのだから分からないはずも無い。

 解毒剤
 除草剤
 ヒール軟膏
 治療薬(既に作れた)
 栄養剤(既に作れた)
 火薬
 強酸水
 魔力水
 魂癒薬
 殺虫剤

 ここまで解読した所で本は終わった。これが中級の基礎で、薬の効果の上下は混ぜるもので変わるらしい。
 なんともあやふやなものだが、あの薬屋がオマケしてくれた部位で平均的なレシピは理解している。
 そこにまで至った所で俺は徐に薬の中級レシピ本を盾に吸わせた。
 それで出た盾がこれだ。

 ブックシールド
 能力解放済み……装備ボーナス、魔力上昇(小)

 うん。下手に薬の中級レシピが自然と出ると思って吸ったら危なかった。善意を無下にする所だった。
 しかも、防御力が凄く低い。
 でだ。話は中級レシピの解読が終わった翌日の事だった。

 トレントという魔物が現れ、俺達は早速倒して盾に吸わせた。

 トレントシールドの条件が解放されました。
 ブルートレントシールドの条件が解放されました。
 ブラックトレントシールドの条件が解放されました。

 トレントシールド
 能力未解放……装備ボーナス、植物鑑定2

 ブルートレントシールド
 能力未解放……装備ボーナス、中級調合レシピ1

 ブラックトレントシールド
 能力未解放……装備ボーナス、半人前調合


 これは何のいじめだ。
 解読が終わってから出るとか酷いだろ!
 唯一の救いはヒール軟膏までだった所か。おそらく、前回がマッシュだったので植物系のモンスターがレシピの出る盾の材料なのだろう。
 レシピ2と3が早急に出たら泣く。
 解毒剤に除草剤、ヒール軟膏は知っている草から作れたけれど火薬から下は素材自体が何処にあるのか分からない。

 薬屋の補足によると火薬は代用可能との事。だからパチパチ草とか言う燃えやすい草を代用して火薬は作ってみた。
 やはり粉末のような……燃える灰みたいな物で、試しに小さな袋に纏めて爆弾にしてみた。
 火を付けて敵に投げつけようとしたら。
 バチンと痛みと共に足元に落としたときは焦った。まあ、爆弾と呼ぶにはお粗末な燃え上がる程度の灰だったけど。
 攻撃には爆弾のような道具すらも使うことが許されていないのは、呆れを通り越して感心した。

 強酸水はガラス製のビンに詰める、硫酸より酸性度が若干低い水のようだ。
 これは薬草ではなく、この世界独自の鉱石を組み合わせて水を加えると出来る……らしい。まだ作っていないから一概に言えないけど、これを欲しがる奴はどうかしてる――ので盾用にだけ作るか考え中だ。

 魔力水は飲むと急速に魔力が回復するアイテムだ。ただ、材料が希少で入手が難しい。
 売っている薬草では高い。これを作るくらいなら売る方が良いかも知れない。
 同様に魂癒水も同じでSPを回復させる効果がある。やはり希少で、揃えるのは難しい。

 殺虫剤は簡単だった。虫除けの草同士を混ぜて固めるか水に溶かすだけ。
 新しく作れるようになったアイテムで売れるのは解毒剤、ヒール軟膏、殺虫剤という所だ。
 ただ……除草剤は少量の材料でずいぶん作れる所を見るに売る場所さえ考えれば良いかもしれない。
 これも余ったのを少し盾に吸わせる。

 アンチポイズンシールドの条件が解放されました。
 グリホサートシールドの条件が解放されました。
 メディシンシールドの条件が解放されました。
 プラントファイアシールドの条件が解放されました。
 キラーインセクトシールドαの条件が解放されました。

 アンチポイズンシールド
 能力未解放……装備ボーナス、防御力5

 グリホサートシールド
 能力未解放……装備ボーナス、植物系からの攻撃5%カット

 メディシンシールド
 能力未解放……装備ボーナス、薬効果範囲拡大(小)

 プラントファイアシールド
 能力未解放……装備ボーナス、火耐性(小)

 キラーインセクトシールドα
 能力未解放……装備ボーナス、昆虫系から攻撃3%カット

 アンチポイズンシールドの本来の習得技能はおそらく、毒耐性(中)これはキメラヴァイパーシールドによって先に習得してしまった事による変化だと思う。
 どうも習得している技能で重複する物は置き換わるようなのだ。
 メディシンシールドはなんか範囲拡大と出ているが、これは何の範囲なのか不明だ。
 一つの薬の効く範囲が増えるのか、それとも周りが薬の効果を受けることができるのか。

 後者は幾らなんでも便利すぎるような気がする。
 プラントファイアシールドに至っては大半の魔法すら無傷の俺に意味があるのか疑問。
 グリホサートって何だ? 除草剤に使われる薬品名っぽいな。キラーインセクトシールドαは……たぶん、混ぜる薬草によってβとか種類が増えると予想する。
 効果は敵の種類による攻撃のダメージカット。便利な能力だとは思う。

 問題は魔法書の解読だ。
 これはかなり困難を要する。
 最近ではラフタリアはコツが分かって来たらしくて、それらしい現象を、まだ習得していないにも関わらず出来るようになっている。
 光の玉がラフタリアの前に数秒だけ浮かぶのだ。
 これは勇者の面目が潰れかねない。
 だから、フィーロが変身の魔法を使えるので、ラフタリアが寝た後、尋ねてみた。
 あれを魔法と呼ぶかは非常に難しいが、藁にも縋る気持ちで聞いたのだ。

「えっとねー。体の底から力をねーぎゅっと入れてバッと考えてね、なりたい自分にね、なるの」

 うん。分からん。
 考えてやっている訳ではないのが分かった。
 後は書いてある文字を読み解けば使えるわけではないのが魔法のようだ。
 俺は魔法の無い異世界から来た人間なんだから使えないと逃げる気持ちが湧いてくる。
 それでも……俺は魔法を覚えねばならない。
 魔法屋のおばちゃんの期待だけではなく、生きる為に。

 波の戦いには基本的に不参加で問題は無いだろう。敵前逃亡なんてした日には何をされるか分かったもんじゃないので、近隣の村や町の守護が俺の仕事にピッタリだ。そうなると魔法が使えるのと使えないのとではいずれ差が出てくる。
 水晶玉を買うと言う選択もあるけれど、安く覚えられるのなら本で覚えるに越したことは無い。
 だから最近は馬車の中で魔法書を片手にうんうん唸っている。
 ラフタリア曰く、書いてある文字に魔力を反応させ、魂に同調させるとかフィーロと同じく、体感的で難しい説明をされた。
 フィーロよりは理解できそうなものだけど、魔力って何だよ? そんな感覚があるのか?
 と、疑問が頭をぐるぐる回ってしょうがない。

 まあ、こんな感じが2週間の成果だ。  
+注意+
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