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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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自責の念

「……やはりワシは、クズじゃな」

 処刑されるヴィッチを見て、クズは淡々と呟く。
 俺は黙って隣でその光景を見ていた。

「娘の暴走も、何もかも全てはワシの業が招いてしまった事件じゃ」
「そうかもしれない。だが、お前には仕事が残っている」
「わかっておる」

 大事にしていた愛娘だったヴィッチは世界をおもちゃにして、最後まで生き汚く道化を演じた。
 どうしてそこまで、人を利用できるのか……。
 クズは確かに酷い人間だとは思う。だけど、何か筋と言う物があるのだ。
 だから俺はヴィッチとは違うと最近は思えるようになった。

 クズの生涯で盾の勇者を憎む理由は腐るほどある。
 まさしく人生の宿敵と言われるだけには。
 親は元より、大事な妹まで盾の勇者を信仰するシルトヴェルトは奪っている。

 俺とは直接関係ないが、聞けばわからなくもない。
 どこの主人公だよと言いたくもなる経緯ではあるがな。

「妻は……娘を何度も矯正しようとしておった……ワシは当時、そこまで大きく思ってはおらんかったが、これが結果か」
「……」

 肯定するのは簡単だ。
 だが、俺は大きな疑問が浮かんでいた。
 クズと女王の娘であるヴィッチはそりゃあもう救いの無い害悪でしかない。
 女王は自分達のもっとも悪い所を受け継いだ娘だと嘆き、更生させようと色々としたとも言っていた。

 幾らなんでも、クズと女王を見て、ヴィッチは異質にも程があるのではないか?
 女王はメルロマルクの女狐と呼ばれるほど、交渉事は得意だったらしい。
 だが、その行動原理は国の為に集約している。

 悪事をするにしても、国を第一に考え、悪いことと知って平然とやってのける。
 国を守るために敢えてする悪事。
 それを女王はわかっていて行うのはある意味性質が悪いが、同時に人々の為であるとも言える。

 次にクズ。
 英知の賢王なんて呼ばれ、策略では右に出る者はいないらしい。
 策略と言えば聞こえは良いがやられた方は溜まったもんじゃない。
 だけど、戦争や争いなんてそんなモノであるとも言えるし、裏を搔かねば勝てる相手にも負けるとも言える。
 弱いからこそ、策略で相手を貶めて倒さねばならないだろう。

 ここで疑問がある。
 クズは……なんだかんだで守る者の為に知恵を絞る。
 今回の戦争だって女王の遺言である国を守るために知恵を捻った。

 だが……ヴィッチはどうだ?
 ヴィッチは一体何のために人を罠に嵌め、喜ぶ?
 全ては自分の為のようにしか思えない。

 女王とクズの子供が自分の為だけに行動するように育つと言うのは些か早計ではないだろうか?
 考え過ぎか? もちろん、クズは子供が出来た所為で腑抜けになったと言うけれど。
 だけどメルティをみれば考えたくもなる。
 メルティはなんだかんだで友情には熱い。
 フィーロが大変な時は率先して前に出るし、俺の領地経営に協力してくれていた。

 育ちが影響している……と言えばそれが全てだ。
 だが、仮にも王族として生まれたのだ。
 しかも親である女王は矯正させようと色々と策を弄した。
 にも関わらずあの性格に育つには元々の資質が関係している。
 けれど、両親の資質を見る限りではメルティの様な子に育つと思えなくもない。

 まあ、ヴィッチの過去なんて知りたくも無いし、クズが甘やかしすぎたと言えばそれまでだ。
 何度も考えを巡らせるけれど、やはりヴィッチはあの家族内では浮いている。
 クズに似ればあのワガママな性格は頷けるけれど、家族思いな所を受け継ぐはずだ。
 女王はどうかは知らないが、ヴィッチへの処遇を考えるに家族愛は人並みにあったとは思う。

 そりゃあクズの家系はフォーブレイの系譜にも連なる訳で、過去の勇者の血を濃く受け継ぎ、外道になる可能性もゼロじゃない。
 ……やはりタクトのように、過去の勇者達の中にも転生者はいたのだろうか?
 それとも四聖に選ばれた者は性格が歪みきっている?

 正直、俺は自分を善人だなんて思ってはいない。
 盾の精霊は俺を第一候補として召喚したと言うが、それも何処まで本当なのか。
 考えが脇道に逸れた。ヴィッチの性格だ。

 まるで、世界に害を成すため、勇者達を苦しめる為に生きているかのような女だった。
 転生者では無いかと疑りたくもなるが、あの行動から可能性は低いと見て良いだろう。
 だけど……否定しきれないのが怖い。
 これか……グラスが転生者の恐ろしい部分と言うのは。

 俺の所に居る連中を含め、転生者がいないとは言い切れないのだ。
 もちろん、タクトの様に目立つ行動をすればわからなくもない。
 だけど、本当の意味で隠すのが上手い奴だと見分けはつかないかもしれない。
 今まで信じていた奴が、土壇場で裏切られたら溜まったもんじゃない。
 疑心暗鬼に陥るのも理解できるな。

 ラフタリアが実は転生者で土壇場で俺に攻撃……なんてされたら俺の心が折れる。
 否定するのが難しい。出来れば無いことを祈りたいが無いとも言いきれない。
 自己申告や行動で判別しなきゃいけない個所が多すぎる。

 相手の心を読むことが出来れば全ては解決するだろうけれど、神を僭称する者はおかしな力を授ける事もある。
 読めたとしても隠す能力とかイタチごっこをされたら終わりだ。
 まあ、その神とやらがタクトを助けなかった意味を探す方が楽そうだ。

 精神衛生上の関係で、すぐに駆けつけられる所に勇者は待機させておいたんだけど拍子抜けだな。
 処刑を見ることが出来たが……途中で大半の連中を俺は下がらせた。
 あんまり良い光景では無いからな。
 代表として俺とクズとグラスが最後まで見ていたに過ぎない。

「業は受け入れよう……これがワシの罪じゃ」

 最愛の妻を失い。その妻を殺した間接的原因が娘、そして過去に大事にしていた妹の忘れ形見を殺したのも、実質娘が関わっていたともなれば、俺だったら心が折れる。
 最近のクズは目を見張る活躍と判断力がある。
 正直に言えば、女王が信じていただけの価値はあるのだろう。

 心の強さも……俺だったら、とてもじゃないが真似できない。
 初めて俺はクズに同情した。もうクズと呼ぶのはやめるかと思う時がある。
 本人が自責の意味で呼んでほしいと願うからこそ、呼び続けているがな。

「ワシは、あの子が出来る限り自由に生きてくれれば良いと思っておった。あの子もワシの愛情に応えて、よく甘える子じゃったのに、それがこの様な結末になろうとは……」
「自由に育てた所為だろ、人を貶める快感は何処で覚えたんだろうな?」
「返す言葉も無い……それでも、あの子が三勇教会の者に提案して四聖勇者を召喚すると言った時は使命に目覚めたと思っておったのじゃ」
「何?」

 ヴィッチが俺たちを召喚する事をクズに提案した?
 まあ、勇者特権は俺以外にはあったし、勇者に取り入って甘い汁も吸えた。
 だけどますますヴィッチの行動が理解できなくなった。

 クズが腑抜けになったのもヴィッチの所為じゃないか? とも思える。
 人に甘えるのが上手いし、堕落させるのは、まあ、俺を含めて勇者共を見れば間違いない。
 もしかしたらタクトもヴィッチと関わらなければもう少しまともだったかもしれない。
 察するにタクトとの接点って間違いなくフォーブレイの学校だろう。
 推測の域を出ないが、ヴィッチの初めては間違いなくタクトだ。

「ヴィッチがフォーブレイに留学した時の事は知っているのか?」
「ある程度は、じゃな」
「じゃあヴィッチの、初めての相手とかは知っていたか?」
「いや……ただ、最近になって妻の手記を見て知ったわい。あの子は隠していたつもりじゃったようじゃがな」
「そうか」

 ま、女王が俺の前で色々と話していたからなぁ。
 元康が初めての相手じゃないとか。
 勇者同士の不和を招き、自分の思い通りに他者を蹴落とす。霊亀までは女王の慈悲もあって見逃されていた。
 だが、霊亀の後はどうだ?

 怖くて素直に逃げ伸びてきたと女王の前に来れば良かったモノを、錬を罠に嵌めつつ元康に冤罪を掛け、錬の私物を窃盗して逃亡、その後は三勇教の残党と共に樹を勧誘してクーデター。
 幾ら女王に敵前逃亡をしたと怒られようとも、亡き豚王の元へ送られる事は霊亀から逃亡した時点では無いと思う。
 元康だってこの時、素直に白状すれば怒ったりしなかったはずだ。
 ま、本人共は賞金首になった心境だったようだけど、元通りとまではいかないにしても、更生する事は出来た。

 ……風聞で苦労するのがそんなに嫌だったのか?
 それだけでクーデター? 自分こそが女王に相応しいとか宣言していたしな。
 自分の為だけに何処までしたんだあの女は。
 クズに幼い頃から盾の勇者は断罪すべきだとか教わっていたのが根付いていてクズ同様引っこみがつかなくなったとかか?

「なあ、お前は娘に盾の勇者は敵国の神だから憎むんだとか教えていたのか?」
「言っておらん。確かに国の方針ではあったが……」

 まあ、宗教も携わっていたようだし、三勇教の熱心な信者だったと思えば、理由は出来るのか?
 だけどー……どうも信者にしては行動がチグハグなんだよなぁ。
 便乗はしていたけれど、熱心かと言うと凄く怪しい。
 正直、似合わない。

 この手の宗教って贅沢は禁止みたいな所があるのは何処の世界も変わらないみたいだから、贅沢大好きのヴィッチのキャラじゃない。
 利用していたのは丸分かりだし、教皇に利用されていたのを知った時はブチ切れていた。
 熱心な信者だったらあそこで受け入れていたはずだ。
 やはり目的が不明瞭なんだよな。

 結局、世界をいたずらに混乱に貶めた主犯は間違いなくヴィッチであるのは避けようも無い事実だ。
 やはりヴィッチは神を僭称する者から何かしらの干渉でも受けていたのだろうか?
 答えは出ないだろうな。拷問しても吐かないだろうし。

「全てはワシが悪いんじゃ」

 その日、クズの背中はとても小さく見えた。
 憎み合う間柄ではあったが、少しくらいは励ましてやりたいと外道な俺でも思う程には、な。
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