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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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鳳凰戦前夜

「伝承では鎖にも変化できる武器だそうです。フレイルにもなれると聞いた事があります」
「それって槌と変わらないんじゃ……」

 鈍器と言う意味で。
 七星武器って境界が曖昧なんだな。少し羨ましい。

「大きな違いとして、魔物の力を引き出す事が出来るそうです」

 頭に女王様が鞭を振るって魔物を嗾けるシーンが浮かぶ。
 そう言う感じか? 目の前に女王がいるけど、そう言う事は……クズ相手にしてるのか?
 すっごくどーでもいい考えだ。

「槌と斧も似たような武器だよな」

 小手と爪の違いが……確かに無い訳じゃないけどさ。

「そうですか?」

 ああ、疑問に思わないのね。
 初めからそう教わっていたら不思議とは感じないか。
 とりあえず、小手と爪の違いを考えよう。
 って所で、フィーロを見ていて気付いた。

 そうか。小手は手限定だが、爪は足でも良いんだ。
 まあ、フィーロが勇者に選定されたら対応に困るけど、なんか納得出来た気がする。
 そこから考えるに、槌と斧も振り下ろす武器だけど、役割に違いがあるのだろう。

「そういや、クズ以外でその七星勇者に会った事が無いな」
「鳳凰戦にも参加するとの話を承っていますが、中々連絡が取れず、あちらも色々と忙しいそうで、ギリギリの到着になるそうです」
「へー……」

 やっとの事会えるのか? 七星勇者。
 確かフォーブレイが管理しているんだったか。
 クズを入れて、この小手がまだある訳だから5人存在するはずなんだよな。

「ちなみに異世界人は何人いるんだ?」
「確か、三名ほどだそうですよ」

 と言う事は、残り二人はこの世界の連中か。
 一度会って話はするべきではある。
 どういう武器を持っているかとか、強化方法とかを聞いておきたいし。
 まあ、四聖武器の強化方法が適応するかは謎だけどってクズに聞いた方がいいのか?

 ……やめておこう。
 なんかクズが杖を持っているの見た事が無いし。
 戦死するなら死ね。
 新しい杖の勇者を選定させるべきだろうし。

 などと思いながら奴隷共を見ていたら、アトラの番になった。
 小手に触れて引き抜こうとしているのだが……ウンともスンとも言わない。

「ダメでした」

 諦めたようにアトラはアッサリと俺の方へ来た。
 もう少し食い付けよ。

「気で探ったのですけど、私では不相応のようです」
「そんな事がわかるのか?」
「なんとなくですけど」
「へー……」

 次はフォウルか。
 やる気なさそうな顔をしているな。

「あら? ……お兄様頑張ってー、お兄様ならきっと抜けます」
「おう! ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」

 途端にやる気を出したフォウルが力いっぱい引っ張る。
 フォウルが小手に触れるとアトラが言葉を漏らした。

「さっきのはなんだ?」

 アトラが兄であるフォウルを応援するなんて珍しいと思った。
 何が理由があるなら聞いてみたい。

「私の時とは、少し違ったような……気の所為ですね。お兄様なら取れるかと思ったのですが、がっかりです」
「アトラー!?」

 これは酷い。上げて下げるのか。
 フォウル……アトラに遊ばれているぞ。
 なんて思いながら、黙ってその後を見ていたのだけど、誰も取れなかった。

「オーエス! オーエス!」

 なんでお前等、小手に紐を結び付けて綱引きしてるの?
 見ていたはずなのに気が付いたら奴隷全員でロゼッタストーンを引き倒す作業を始めていたのでやめさせる。
 そんな事をしても抜けないし、と言うかホント、我に返るまで気づかなかったぞ。

 とにかく、新しい七星勇者は誕生しなかった。


 まあ、そうした日々が過ぎて行った。
 連合軍は日に日に各国から増援がやって来て、人数はかなりのものとなった。
 幸運だったのはシルトヴェルトからの増援だな。
 基本的な戦闘能力が高いらしく、動きはかなり良い。
 明日には鳳凰の封印が解ける。

 そんな夜の事。
 鳳凰戦の打ち合わせを終えた俺の所にアトラとフォウルがやってきた。

「なんだ? どうしたんだ?」
「どうしました?」

 俺とラフタリアが二人に聞くと、どうやら配置に関して思う所があるようだった。

「なんでアトラまで前線なんだ?」
「私は尚文様と常に共に居たいのです」
「……フォウル、お前はアトラと一緒の方が良かったんじゃないのか?」

 一応はフォウルのやる気を維持させるためなのと、アトラ自身の戦闘力を評価して前線に配置したのだけど、どうやらフォウルからしたら自分の近くでも前線はイヤなのか?
 まあ、最前線は俺が立つ訳だけど、それよりも若干後方なのがアトラは気に入らないのか。

「アトラ、その理屈だと一番前に配置しないといけなくなるぞ」
「そう言う考えで間違いはありませんわ」
「ダメだ! アトラはもっと安全な後方に居るべきなんだ」
「お兄様? それではただついてきただけです。お兄様だって、後方援護部隊に配置されたら納得しますか?」
「う……」

 何論破されてんだ。
 とは言いつつ、配置に関する問題か。

「尚文様、私は前にこう言いました。私は尚文様を守る盾に成りたいと」
「あのなー……」

 俺から仕事を奪って何をしたいと言うのだ。
 しかもそんな真似をしたらフォウルがどんだけ騒ぐと思ってんだ。

「だから妥協して俺の少し後方に居るんだろうが、それよりも前に立たれると俺が居る意味が無い。それくらい、ラフタリアだってわかっているんだぞ?」
「はい」

 ラフタリアが俺の言葉に頷く。
 前に出るのだってタイミングがあるんだ。
 それに俺を守るとは言うが、相手が相手なんだ。
 少しは自重してほしいな。

「……わかりました」

 アトラも渋々と言う感じに頷く。

「それでも、私は尚文様を守りたいのです」
「……前々から思っていたのですが、アトラさんは何故そんなにもナオフミ様の事を守りたいと頑なに主張するのですか?」
「俺もそう思う。確かに……コイツは、言っては何だが頼りにしなくてはならないとは思うが、何故そこまで守りたがる」
「ラフタリアさんもお兄様もお分かりにならないのですか?」

 苛立ったかのようにアトラは眉を上げて答える。

「私はいつまでも尚文様の優しさに甘えて居たくはありません。私は尚文様が前に出て誰かの代わりに傷付く姿を感じるだけで……心が締め付けられます」

 俺の役割を否定すんなと突っ込みたくなるが、心のどこかでアトラの言葉を肯定している自分が居るような気がする。
 少なくとも、悪い気分にはならない。
 それが盾の勇者という能力と反していても。

「……と言うのは詭弁ですね。私は、尚文様を勇者では無く人として、側に居たいと思っております」

 勇者では無く?
 よくわからないけれど、アトラなりの解釈なのか?

「何を言っているんですか!」
「そうだアトラ! よりによってコイツに向かって!」

 ん? ……よく考えたら告白してるな。
 気付かなかった。
 毎度、似たような事を言われていたから流していた。

「尚文様」
「なんだ?」
「私は貴方の本質的な優しさに惹かれております。どうか命を賭けてみんなを守るような真似はしないでほしいのです」

 事もあろうに守る事しかできない俺に、お前はまたしてもそれを言うのか。

「ああはいはい。それはわかっている。アトラの言いたい事もわかるがな、俺は卑怯者なんだよ。自分で出来ない事をお前等に任せようとしているからな」
「では尚文様? もしも尚文様が自らの力で敵を屠る事が出来た時、戦場の何処に居ますか?」

 ふむ……もしも俺が普通に戦えたら何処にいるか、か。
 面白い質問だな。
 ……結局は前に立っているだろうな。
 奴隷共を頼っているかはわからないけれど。
 もしもあの時、攻撃能力があったなら、奴隷を買わずに一人でLvでも上げてたかもな。

「尚文様、どうか覚えていてください。尚文様が傷付く事……それを当たり前だと思わないでほしいのです。尚文様の本質は、その献身的な所……常に他者に与え続ける尚文様を、誰が癒し、与えるのですか?」

 アトラは悔しそうにラフタリアの方に顔を向けている。
 何をそんなに悔しがっているのやら。

「尚文様……もしも、誰かがこの先の戦いで命を失う事があったとしても、守れなかったと自身を責める事は……絶対におやめ下さい。与えられる事だけを受け続けた者は惨めになり腐敗します。ただ腐っていく、自分が腐っていっている事すら理解できないあの感覚を私はもう……味わいたくありません」
「……そうだな」

 言っている事は間違っていない。
 前回も前々回もその前も死んだ者は沢山いる。
 可能な限り助けようとはしたが、できなかった事は否定しない。

 だが、腐敗云々はアトラのなんでも肯定する場合も該当するぞ。
 何をしても凄いだのなんだのと賞賛されると、別の意味で腐るぞ。
 とは思うが、なんか言える雰囲気じゃないから、黙っておこう。

「お兄様……私はもう、お兄様に与えられるだけの者ではありません。お兄様や尚文様のように、みんなを守りきってみせます」
「アトラ何を」
「お兄様は……私さえ無事なら誰が傷付いても良いと考えておられるのではありませんか?」
「――!?」

 フォウルが絶句している。
 まあ、フォウルはアトラ以外はどうでも良いとか思っている節はあるよな。

「私はそんなお兄様を見て居たくありません。もっとも……これは私が言えることではありませんね。では失礼します」

 と、ちょっと悲しそうな表情でアトラは立ち去ってしまった。
 何なんだよ。

「俺は……アトラの事だけしか考えていない? じゃあ、アトラがコイツに執着する姿に苛立ちを覚えた本当の理由は……」
「どうした?」

 俺が呆然とするフォウルに手を振っていると我に返ったフォウルはムッとした表情をしたまま、同様に立ち去ってしまった。

「配置は今のままで良いのか?」

 俺の問いに答えないまま……二人は去って行った。
 まったく、何なんだよ。

「ナオフミ様への甘え……」

 ラフタリアもなんか考え込んでしまうし、そこまで深く悩む問題なのか?


 翌日。
 俺の視界の隅にある青い砂時計のアイコンを拡大させる。

 00:12

 残り時間は後12分。
 もう何度も経験した事だが、心臓が音を立てている。
 いつも通り……いや、いつも以上にやるしか無いのはわかっているが、この感覚は慣れないな。

 既に近隣の住民は避難を終えていて、勇者とその配下、そして連合軍しかこの地には残っていない。
 霊亀の時みたいな突然の事態でも無いし、特に問題も無く避難は終わった。
 間違っても邪魔な奴が入ってこない様に注意もしてある。

 女王や連合軍の首脳陣は後方で、指揮をしてもらっている。
 先頭に立つのは俺達勇者勢だ。
 ……クズは後方だけどな。

 そうそう、七星勇者の奴等は遅れているのか結局、到着していない。
 あれだけ時間があったのに間に合わないとは……使えない連中だ。
 会う機会が合ったら嫌味の一つでも言ってやろう。

「久しぶりの決戦だ。出来る限りの事はしてきた。みんな、被害の無いよう生き残るために戦うんだぞ」

 俺が先頭に立って号令を宣言する。

「「「おー!」」」

 俺の号令に奴隷と連合軍の連中が一丸になって答えた。
 その中には錬や元康、樹とリーシアも含まれている。

 ……長かった。
 本来はこうして波に挑むべきなのに、どうしてこんなにも時間を掛けてしまったのか。
 俺はしみじみと思いながら鳳凰が封印されている場所を見つめる。

 事前に調査した結果、確かにその予兆的な物が山の中腹にある寺院のオブジェに存在した。
 鳳凰を捩った怪しげな像。
 その像が発熱していたのを確認している。

 むやみに刺激してはいけないと、細心の注意を払って調べた結果、やはり砂時計に表示された時間に合わせて封印が解けると判明した。
 あそこから鳳凰が出現するのだろう。
 戦いやすいように、山を降りた町への道にある荒野で挑む。

 他に色々と戦う手段も模索した。
 霊亀の装備品にあるグラビティフィールドを使って高高度の奴を降ろせないかとか、模索は繰り返し済みである。
 問題は射程範囲だな……意外と短いので、鳳凰に効果があるかは試してみないとわからない。

 フィーロかガエリオンに乗って、高高度に待機している鳳凰の方に飛び乗らないと使えないのも難点だな。
 飛んでいる奴に乗ったまま、グラビティフィールドを所持する盾にしていると飛べないし、飛んでいたら落ちる。
 一応は錬や元康、樹も似たような武器を持っているけれど、どこまで効果がある事やら。

「ナオフミ様」
「なんだ?」
「頑張りましょう」
「そうだな」

 ラフタリアの言葉に頷く。
 するとアトラも俺に声を掛けてきた。

「辺りに、熱を帯びた気が……集まってきています。尚文様、どうかお気を付けて下さい」
「わかっている」

 視界の砂時計の数字が三分を切った。

「今度こそ……」
「ええ……」
「絶対にやり遂げますぞ」

 錬、樹、元康がそれぞれの決意を元に、各々の武器を強く握りしめる。
 ああ……そうだ。鳳凰なんて作業の如く、倒してみせなければ、この先の戦いが楽になるとは思えない。
 勇者四人が力を合わせているんだ。被害無く、終わらせようじゃないか。

 0:01

 後一分。
 俺は意識を集中し、魔法を唱えた。

「アル・リベレイション・オーラ!」

 魔力と気を流し込み、可能な限り大きな範囲に変換し、以前フィーロに掛けた全能力アップを前線にいる連中に掛けた。
 あの時のフィーロみたいに超人軍団の完成だ。

 00:00

 バキン、という以前と同じガラスを叩き割る音が耳に響く。
 前にも受けた、大きな衝撃が視界に走った。

 そして山の中腹から火柱が上がり、巨大な二羽の鳥が姿を現す。
 その姿は壁画に描かれていた、鳳凰の形そのままであった。

「「キュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」」

 大きな嘶きが辺りに響き渡った。
 俺達と鳳凰との戦いの火蓋が切って落とされた。
+注意+
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