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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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変身能力

「親父親父親父親父!」

 俺は閉店している武器屋の扉を何度も叩いた。
 するとやや不機嫌な様子で武器屋の親父が渋々扉を開けてくれる。

「いきなりどうしたんだ盾のアンちゃん。もうとっくに店閉まいだぞ」
「そんな状況じゃねえんだよ!」

 俺はマントを羽織らせた少女の姿をしたフィーロを親父に見せる。

「アンちゃん。良い奴隷を買えたからって自慢に来るなよ」
「ちっげーよ!」

 親父は俺を何だと思ってんだ!
 親父の中の俺に会ったら、迷い無く殺せそうだ。

「ごしゅじんさまー? どうしたのー?」
「お前は黙ってろ」
「やだー」

 クソ! 一体どうなっていると言うんだ!
 あの後のざわめきは果てしなかった。
 奴隷商の奴、パクパクと俺を指差して驚くわ。その部下も驚いて言葉が出ないわ。
 ラフタリアだって絶句しているし。
 フィーロに至っては俺に近付きたいが為に、人の姿になるわで。
 気が付いたら親父の店にフィーロを担いでやってきていたんだった。

「へ……ヘックシュン!」

 ボフン! ビリイイイイ!
 変身して、羽織わせていたマントが破れる音が響く。
 一瞬にしてフィーロはフィロリアル・クイーン(仮)の姿になった。
 この鳥が! マントだってタダじゃないんだぞ。

「な……」

 親父の奴も言葉を失い。フィーロを見上げる。
 フィーロはまた人型に戻って、俺の手を握った。その頭の上には辛うじて原型をとどめているマントが落ちてくる。

「……事情は分かったか?」
「あ……ああ」

 親父は凄い複雑な顔で俺を店内に案内した。

「で、俺に会いに来た理由は、その子の装備か?」
「ぶっちゃけ防御力とか論外で、変身しても破れない服は無いか?」

 無理を承知で親父に頼む。

「というか何故変身するんだ!」
「アンちゃん。少し落ち着け」

 そうだ。良く考えてみればなんでフィーロは人型になっているんだ?
 背中には名残なのか羽が生えていて、金髪碧眼の少女だからか天使っぽい。
 しかも可愛いというのを絵に描いたように顔は整っている。
 年齢は10歳前後。昔のラフタリアと同じくらいの背格好だ。
 ぐうううう……。
 随分と古典的な腹の虫が響く。

「ごしゅじんさまーお腹空いた」
「我慢しなさい」
「やだー」

 くっ! 一体どうなっているんだ。

「とりあえず、うちの晩飯を食うか?」

 そう言うと親父は店の奥から鍋を持ってくる。汁物っぽいな。

「やめ――」
「わぁああ、いただきまーす」

 フィーロは親父から鍋を奪うと中身を全部、口に流し込んだ。

「んー……味はあんまりかなー」

 鍋を親父に返す。
 親父も唖然として俺を見つめた。

「その、すまない」
「……アンちゃん。後で飯おごれよ」

 どんどんドツボにはまっていくような錯覚を覚えてくる。

「そうだなぁ……変身技能持ちの亜人の服があったような気はするんだが……というか武器屋じゃなくて服屋に行けよアンちゃん」
「見知らぬ服屋にこんな夜中に全裸の女の子を連れて行けってか? しかも魔物に変わる女の子をだぞ?」
「……それもそうか、ちょっとまってな」

 ゴソゴソと店の奥のほうで親父は商品を漁りに行く。

「サイズが合うかわからないのと、かなりのキワモノの服だからあんまり期待するなよ」
「分かっている」

 結局、親父が出てきたのはそれからしばらく経ってからだった。

「悪い。見た感じだと変身後のサイズに合う服がねえ」
「なん、だと!」

 最後の砦だったというのに、俺はどうしたら良いと言うのだ。こんな、何時全裸になって俺に親しげに接してくる幼女に服を着させられないというのか。
 タダでさえ、最近、良く見てもらい始めた俺への評価が急降下する。

「ごしゅじんさまー」
「お前は変身するな!」

 魔物紋を使ったとしても、人間に変身するのを禁止にするような項目は無い。さすがに魔物が人間化する事自体が珍しいのだろう。

「やだー」

 く……この子は一体何がしたいんだ!
 しかも俺の言う事を尽く拒否する。
 反抗期か? 生まれて数日で反抗期も無いだろうに。

「だって……フィーロが本当の姿だとごしゅじんさま、一緒に寝てくれないもん」

 ギュウっとフィーロは俺の手を握り締めて満面の笑みを浮かべる。

「……なんで一緒に寝なきゃいけないんだ?」
「寂しいんだもん」
「あー……なんていうか、アンちゃん。大変だな」

 俺は子守をしにこの世界に来たわけじゃないのだが……。

「そういえばラフタリアは何処だ?」
「やっと追いつきました」

 ラフタリアが肩で息をしながら店の中に入ってくる。

「いきなり走っていってしまうから……探したんですよ」
「ああ、悪い」
「あーラフタリアお姉ちゃん」

 フィーロが元気に手を振る。

「ごしゅじんさまはあげないよ?」
「何を言っているんですか、この子は!」
「あげないよって、俺はお前等のものじゃないぞ。むしろお前等が俺の物だろ」

 奴隷的な意味で。

「まあ、とりあえずおあつらえ向きの服が無いか探しておくから今日は帰ってくれ」
「ああ、すまなかったな」
「ごちそうさまー」
「まったく……アンちゃんには何時も驚かされるな」

 武器屋を後にして、ふらふらと宿の方へ歩いて行くとラフタリアが呼び止める。

「あ、奴隷……魔物商さんが呼んでましたよ」
「ん? 分かった」



 テントに戻った俺達を奴隷商は待っていたとばかりに出迎えた。

「いやぁ。驚きの展開でしたね。ハイ」
「ああ」
「して、フィロリアルの王が何故目撃証言が少ないか判明しました」
「お? 分かったのか」
「はい。というか勇者様も理解していると思いますよ」

 なんだ? 奴隷商の奴、もったいぶった言い回しをしやがって。

「分かりませんか?」
「……だから言えよ」

 奴隷商は人型でボロボロになったマントを羽織るフィーロを指差した。

「フィロリアルの王は、高度な変身能力を持っているのですよ。ですから同類のフィロリアルに化けて人目を掻い潜っていた。というのが私共の認識です」

 なるほど……一目でフィロリアルのボスであるのを分からせない為、化けて隠れる習性を持ち、その習性を利用して人型に変身した。という訳か。

「いやはや、研究が捗っていないフィロリアルの王をこの目にすることができるとは、私、勇者様の魔物育成能力の高さに感服です。ハイ」
「は?」
「ただのフィロリアルを女王にまで育て上げるとは……どのような育て方をすれば女王になるのでしょうか?」

 ……奴隷商の目的が分かったぞ。こいつ、フィロリアルを王にする方法を俺から聞いて量産する気だ。
 かなり珍しい魔物に分類されるだろうし、変身能力を持っているんだ。チビチビとけち臭く、それでいて高く売れば大儲けだ。

「たぶん、伝説の盾の力って奴だと思うぞ」

 成長補正の力でここまで育ったのだろうと推理する。そうでもしないと説明できない。

「そうやってうやむやにする勇者様に私、ゾクゾクしてきました。どれくらい金銭を積めば教えてくれますかな?」
「そういう意味じゃねえから!」
「では、もう一匹フィロリアルを贈与するので、育ててみて――」
「結構だ!」

 これ以上増えたら俺の財布が持たない。ただでさえ、フィーロの服とかどうするかを考えなきゃいけないのに、これ以上食い扶持が増えたって碌な事が無い。

「はぁ……後は思いつく可能性と言うとアレだな」
「なんでございましょう」

 う……奴隷商の奴、目を輝かせている!
 気持ち悪い。

「波で倒された大物の肉をコイツは食っていた。だから、その影響を受けていない可能性を否定できない」

 まあ、自分でも無理矢理捻り出した感はある。
 だけど、フィーロはキメラの肉を食べていたからなぁ。間違った事も言って無い。

「ふむ……それではしょうがありませんね」

 奴隷商の奴も、信じていないが俺が嫌がっているのだからしょうがないって態度で引き下がる。

「何時でもフィロリアルはお譲りしますので、試してください。ハイ」
「出来れば断りたいがなぁ……」
「もしも扱いやすい個体に育てたらお金は積みますよ」
「ふむ、余裕が出たら考えておこう」

 自分でも守銭奴になってきた自覚が今の一言で確信に変わった。

「お話は終わりました?」
「ああ」
「所でどうしましょう」
「なにが?」

 フィーロが会話に入り込んで疑問符を浮かべる。

「アナタの処遇ですよ」
「ごしゅじんさまと一緒にねるー」
「させません!」
「あーずるーい! ラフタリアお姉ちゃんはごしゅじんさまを独り占めしてるー」
「してません!」

 何を騒いでいるのやら……。

「さて、じゃあフィーロは宿に備え付けられている馬小屋で寝ような」
「イヤ!」

 鳥の分際でハッキリと拒否しやがった。

「ごしゅじんさまとねるのー!」

 ……これは子供が親と一緒に寝たいとか言う駄々と同じだな。

「そうかそうか、しょうがない」
「ナオフミ様!?」
「ここで否定したって、ワガママ言うんだからある程度あわせてやらなきゃいけないだろ?」
「まあ……そうですけど」

 納得しかねると言うかのようにラフタリアが呟く。

「でも、絶対人前で裸になるんじゃないぞ」
「はーい!」

 ほんとに分かっているのか? まあ、良い。明日、武器屋の親父がどうにかしてくれることを祈って、宿屋に戻るしかあるまい。
 宿屋に戻り、店主に追加の宿泊代を払って部屋に帰って来た。
 勉強とか調合を……する余裕は、フィーロが人型になった所為でなくなってしまったな。

「わぁ! 柔らかい寝床ー!」

 ポンポンとベッドに乗って跳ねるフィーロに注意を促しつつ、今日は早めに寝る事にした。


 ……熱い!
 なんで熱いんだ!?

「うう……」

 体が思い通りに動かない。
 どうなっているんだ?
 恐る恐る目を開けると視界は白一色。
 羽毛に包まれていた。

「すー……すー……」

 このベッド、呼吸しているぞ!
 徐に顔を上げると、寝ていたところはベッドではなく、本当の姿に戻ったフィーロの腹の上だった。
 何時の間にか元の姿に戻ったフィーロがベッドから転げ落ちて俺を抱き枕にして寝入ったようだ。

「起きろ! このデブ鳥!」

 誰が本当の姿に戻って良いと言った!

「やーん」

 こいつ、本当の姿でも喋れるようになってやがる。

「な、なにをしているんですか!」

 ラフタリアが寝ぼけ眼で俺の方を見て叫ぶ。

「おお、ラフタリア、助けろ!」

 殴ってもコイツは起きやしない。単純に俺の攻撃力が足りない所為だ。

「起きなさいフィーロ!」

「むにゃむにゃ……ごしゅじんさまー」

 ごろんとフィーロは床を転がる。
 ミシミシミシ……
 嫌な音が床から聞こえてくる。木製の床じゃ耐久限界が近い。

「起きろ!」

 しかし、フィーロは俺を抱き締めたまま起きる気配が無い。

「起きなさい!」

 ラフタリアが俺を抱き締めるフィーロの腕を力技で開く。
 俺はその隙を逃さずにどうにか脱出した。

「ふう……朝から散々だ」
「んにゃ?」

 抱いていた俺が居なくなったのを察知してフィーロが目を覚ました。
 フィーロは俺とラフタリアが睨んでいるのに気付き、首を傾げる。

「どうしたの?」
「まずは人型になれ!」
「えーおきていきなりー?」

 くっ! この手だけは使いたくなかったが、しょうがない!
 俺はステータス魔法から魔物のアイコンを選び、禁則事項に俺の言う事は絶対という部分にチェックを入れる。
 こうすればどんな命令でも従わざるを得ない。

「人型になれ!」

 命令がフィーロに向って響く。

「えー……もうちょっとごしゅじんさまと寝たいー」

 俺の命令に背いた所為でフィーロの腹部に魔物紋が浮かび上がる。

「え?」
「聞かねば苦しくなるぞ」

 赤く輝く魔物紋がフィーロの体を侵食していく。

「やーん」

 フィーロの翼から何か幾何学模様が浮かび上がり、魔物紋へ飛んでいく。
 スーッと音を立てて、魔物紋は沈黙した。

「は?」

 俺は魔物のアイコンを確認する。何故か禁則事項に設定した項目が外されている。
 再度チェックを入れようとしたけれど、幾ら弄っても変わらない。
 言う事を聞かない魔物とはどういう事だ。
 くそっ! 俺は魔物が命令を聞くから買ったんだぞ。
 奴隷商……今すぐ貴様の所に行くからな。首を洗って待っていろ。
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