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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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蹴り逃げ

 翌朝。
 今日はラフタリアも早くに起き出したので、一緒に馬小屋に顔を出す。

「グア!」

 俺達が来るとフィーロは嬉しそうに声を出して駆け寄ってきた。

「もう、体は大人なのか?」

 心なしか……昨日より頭一個分大きくなっている気もするが。曖昧だ。

「大体、この辺りが平均ですよね」
「そういえばそうだな」

 城下町や街道で見るフィロリアルの外見と殆ど変わらない姿をしている。
 色は白……で、少し桜色が混じっている。
 綺麗な色合いだ。
 あの奴隷商。中々の仕事をするじゃないか。

「今日は腹減ってないのか?」
「グア?」

 フィーロは首を傾げて鳴く。
 うん。もう成長期は抜けたみたいだな。
 ビキ……。
 相変わらず変な音が響いている。
 まあ良いか。
 その後、俺達は朝食を終えて、これからどうするかを考える。その最中。

「グア……」

 村の中を通っていく木製の荷車をフィーロは羨ましそうに見つめていた。

「やっぱアレを引きたいのか?」
「ですかねぇ」
「どうしたのですか、勇者様?」

 俺が荷車を指差してラフタリアと雑談をしていると村の男が聞いてくる。

「ああ、俺のフィロリアルが荷車を見ていたから、引きたいのかって話をしてたんだ」
「まあ……フィロリアルはそう言う習性がありますからね」

 納得したように男は頷き、俺のフィロリアルに目を向ける。

「今、この村の建物は修復中で、人手が足りないのですよ。勇者様、何なら荷車を一つ分けるのを条件に手伝ってくれませんか?」
「む……」

 悪い話じゃない。せっかく、そういう魔物が手に入ったのだから利用しない手はない。
 上手くいけば移動中は別の作業ができるようになる。

「何をすれば良いんだ?」
「近くの森で材木を切っていますので、村に持ってきて欲しいのですよ」
「森か……」

 そういえば、あの森は行ってなかった。

「帰りが遅くなるが良いか?」
「ええ」
「分かった。話を受けよう」

 こうして俺は村の連中の厚意に乗り、荷車を一個譲ってもらった。
 車輪や物を載せる台の全てが木製で作られた。些か安っぽいものであるがタダなのだからしょうがない。
 新品という訳ではなく、ちょっと古いようだ。

「グア♪」

 自分用の荷車を用意され、フィーロは機嫌よく、荷車を引き出した。
 ついでに手綱を村人は用意してくれて、見た目だけだけど、馬車っぽい。

「よし! 今日は森へ出発だ!」
「はーい!」
「グアーーー!」

 俺が行く方向を指差すとフィーロは元気良く、荷車を引き出した。
 ゴトンゴトン!
 と、のん気な……。
 ゴトンゴトンゴトン! ガラガラガラガラガラ!
 徐々に車輪から大きな音を響かせ、昨日のように景色が高速で通り過ぎていく。

「早い! 早い! スピード落とせ!」
「グア……」

 速度を落とし、フィーロはトコトコと不満そうに鳴きながら歩く。

「う……なんか気持ち悪くなってきました……」

 ラフタリアが乗り物酔いをしたのかぐったりして荷車で横になっている。

「大丈夫か?」
「ええ……でも、あんまり揺らさないで……」
「そうか、ラフタリアは乗り物酔いをするんだな」
「……みたいです。ナオフミ様は大丈夫なのですか?」
「俺は酔った事無いんだよなぁ……」

 酒も然ることながら乗り物酔いとも無縁だ。小学生の頃、学校の遠足でバスに乗ったとき、リュックに入れた、漫画とライトノベルを読んでいたら尽く隣の座席の奴が気持ち悪いと俺の方を見ながら言って席替えをさせられた覚えがある。
 その他、親戚に会いに行く為に約一日の船旅で家族全員が船酔いでダウンする中、船内で携帯ゲームをやっていた覚えがある。

「まあゆっくりとしていろ、フィーロと俺が目的地まで運んでやるから」
「お言葉に甘えて休ませてもらいます……」

 元気なく言うラフタリアは荷車で横になっていた。




 そんな道中……遭いたくない奴と遭遇してしまった。

「ぶはっ! なんだアレ! はは、やべ、ツボにはまった。ぶわははははははっはは!」

 奴は俺を見るなり腹を抱えて笑い出した。その後ろのクソ女も一緒に笑ってやがる。
 一体何が琴線に触れたのかは知らんが、笑われているだけでムカムカしてくる。

「いきなりなんだ。元康」

 女を連れた元康が街道で俺達を見つけるなり、笑い出したのだ。

「だ、だってよ! すっげえダサイじゃないか!」
「何が?」
「お前、行商でも始めたのか? 金が無い奴は必死だな。鳥もダセェーーーー!」

 む……行商か! それも悪い手じゃない。
 フィーロの能力しだいでは実現も可能だ。本格的に考えておこう。

「ダッセェエエエエエエ! 馬じゃなくて鳥だし、なんだよこの色、白にしては薄いピンクが混じっているし、純白だろ普通。しかもオッセー!」
「何が普通かは知らんが……」

 コイツの笑いのツボがわからん。
 いい加減時間の無駄だ。こんな奴等無視してさっさと行くか。
 そう考えていると元康はフィーロを指差しながら近付いてきた。
 直後。

「グアアアア!」

 フィーロが元康の股間目掛けて強靭な足で蹴り上げた。
 俺には見えた。
 ヘラヘラと笑っていた元康の顔が衝撃で変に歪みながら後方に5メートルくらい錐揉み回転しながら飛んでいくのを。

「うげ……」
「キ、キャアアアアアアアアアア! モトヤス様!」

 はは、アレは玉が潰れたな。
 すっげえ爽快。これが見れただけでもフィーロを買った価値があるな。
 さすが俺の魔物だ。俺の代わりに復讐してくれた訳か。
 フィーロ、今夜は特別に美味い物を食わせてやるぞ。

「グアアアアアアアア!」

 バタバタと羽を羽ばたかせて、フィーロはドタドタと走り出していく。
 あっという間に元康達が見えなくなった。
 いやぁ……最高の瞬間。こんな場面に立ち会えるとは夢にも思わなかった。

「な、何かあったのですか?」

 ぐったりしているラフタリアは顔を上げて尋ねてきた。

「ん? なんでもない」
「……その割りには見たことも無い程晴れやかな顔をしてますよ」

 おおう。顔に出ていたか。
 しっかし、凄い脚力だ。槍の勇者をアレだけ吹き飛ばすとは。

「あの……もっとゆっくり走ってください」

 ラフタリアの声が耳に入らないくらい。俺は晴れやかな気持ちでフィーロを走らせていくのだった。



 その後、ラフタリアは道中でリバースし、森へたどり着いた頃には限界を迎えていた。

「う……うう……」

 青い顔をして唸るラフタリアにやりすぎたと反省する。
 全て元康が悪いのだ。あいつがあんなに俺の気分を爽快にさせるから。

「すまん」
「グア……」

 それはフィーロも同じようで申し訳なさそうに意気消沈している。

「だ、大丈夫です……よ」
「とてもそうは見えない。どこかで休めると良いんだが」
「あ、盾の勇者様ですね」

 森の近くには小屋があり、そこから木こりらしき村人が出てくる。

「ああ、村の連中に頼まれてな、木材を貰いにきたのだが」
「あの……お連れの方は大丈夫ですか?」
「たぶん、大丈夫じゃないと思う。休ませておきたいのだが良い場所はないか?」
「ではこちらに寝床があるので、寝かせましょう」

 そう言うと木こりは小屋へ案内し、俺はラフタリアの肩を持って運び、ベッドに寝かせた。

「フィーロが戦える範囲の敵を相手に軽く戦う程度にして、今日は荷物運びに従事するとしよう」

 ラフタリアが乗り物に弱いみたいだし、しばらく慣れるまでは荷車で爆走するのはやめよう。

「という訳だ、申し訳ないが荷車に材木を載せておいてくれ、しばらくしたらもう一度来る」
「あ、はい」

 フィーロは荷車を外して小屋の外からこちらの様子を眺めていた。

「じゃあ行くぞ」
「グア!」

 元康をアレだけ蹴り飛ばしたんだ。攻撃力は相当期待できるかもしれない。
 軽く森の中を回ってこよう。
 森の中に入ると意外にも、魔物とは遭遇しなかった。
 静かな森の中でフィーロと一緒に歩いて回る。
 森林浴とは言うけれど、なんとなく空気が澄んでいるような気がした。
 そういえば……この世界に来て、こんなゆっくりと景色を見て回るような真似をした覚えが無い。
 原因はなんだろう。
 あの元康が苦痛に歪む顔を見たら全てが吹き飛んでしまった。

 ……違う。

 ラフタリアが信じてくれたからだと思う。
 そのラフタリアが乗り物酔いでここにいない。
 なんとなく寂しい。
 考えてみればまだ半月、三週間くらいしか一緒にいないのに、もう当たり前のような関係になっている。

「乗り物酔いの薬とかあれば良いのだけど」

 とりあえず手近な薬草を探して採取する。

「しっかし……魔物が出てこないなぁ」

 しばらく歩き続けているのだけど、魔物の気配がしない。

「グア」
「ん?」

 不意にフィーロの声が遠くに聞こえる。
 振り向くとフィーロが何かを丁度口に入れる瞬間だった。
 ……気のせいか? ウサピルっぽい生き物だったような。
 やがてゴックンと何かを飲み込んだ。

「グア!」

 何事もなかったかのようにフィーロはこっちに駆けて来る。

 EXP34獲得。

 ……気にするのはやめておこう。
 そうして小一時間ほど、探索しつつ採取を繰り返し、木こりの小屋に戻ってくると、荷車には木材が満載されていた。
 小屋に入るとまだラフタリアがぐったりとして寝ている。
 これは困った弊害だ。
 フィーロの最高速で走らせるとラフタリアが持たないのか。
 これはしばらく訓練が必要かも知れない。ラフタリアが乗り物に馴れないと移動中の作業ができない。

「しばらくは荷車に馴れる訓練が必要だな」
「う……うう」

 俺の言葉にラフタリアが呻く。やっぱきついか。

「あの……材木を載せ終えましたのですが」
「あ、ああ。じゃあ一回村に届けに行くから彼女を頼めるか?」
「はい! 盾の勇者様のお仲間なら何が何でもお守りします」

 些か不安だけど、何もしないで待つと言うのは我慢できない。

「じゃあ行って来る」

 俺は荷車に乗り、準備万端だったフィーロに出発の指示を出す。

「グアアア!」

 元気な声を出してフィーロは走り出した。
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