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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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覚醒

「何処までも、何処までも邪魔をして!」

 樹が目を擦りながらリーシアに怒鳴りつける。

「絶対に許しませんよ! 正義である僕をここまで煩わせるなんて! 前座が何処までも出しゃばっちゃいけないのです!」

 樹の弓が更におかしく変化して行く。
 既に白い羽根の生えた弓では無く、悪魔っぽい蝙蝠の羽根が露出しだした。

「シネ……歯向かうモノは……シを!」
「イツキ様。何度でも言います。早くその力を捨てて、元に戻ってください。貴方は、そんな力に頼ってはいけません」

 ……リーシアが泣いている。
 想い人が堕ちていく姿に涙しているのか。
 それを止めるだけの力が、今のリーシアにはあると信じて、剣を振るっている。
 しかし樹は、もはやリーシアを憎悪の対象としてしか見ていない。

「正義の為に! シネ! お前等はこノ、世の、アクダ!」

 滅茶苦茶に弓を引き絞って放つ。
 その矢が全てリーシアに向かって飛んでいく。
 全てをリーシアがはたき落していくが、その中で俺はイヤな音が聞こえた。

「ごしゅじんさま」
「ああ」

 俺はリーシアの突剣、ペックルレイピアの折れる音が聞こえた。
 その折れた剣を……気の力で補って振り回しだしたリーシア。
 だが、形の無い物を維持するのは相当厳しいのだろう。
 リーシアの顔色がみるみる悪くなっていく。
 それに比例して樹の目が狂気を宿したまま笑う。

「何を笑っているのですか? イツキ様、私はまだ、負けていません」
「ナニを言っているのか。アナタは、もう負けです」
「いいえ……イツキ様は前におっしゃったではありませんか。正義は最後まで諦めないと」
「ククク……愚かな、アナタハ悪なのデスヨ」
「……イツキ様。私は、私は例えどれだけ苦痛に、絶望に追い込まれても諦めません。それはイツキ様が絶望から私を助けてくださった時に、教えてくれた事です」

 静かに、呼吸を整えて、魔法を唱える構えでリーシアは答える。
 剣でダメなら魔法で応戦するつもりなのだ。

 諦めないその精神。
 リーシアの成長か……何だろうか、とても誇らしく感じる。
 あのダメダメだったリーシアがここまでの成長をするだなんて、俺でさえも驚きだ。

 リーシアは没落貴族で、金の代わりに身売りされる立場にまで追い込まれた経験がある。
 そんな絶望的な状況から助けてくれた樹を何処までも慕っていたし、目標にしていた。
 だからこそ、絶望に呑まれずに乗り越えようとしたんだ。

 もちろん、一回は絶望して海に身投げまでした。
 だけど、それほどの事が出来る意志の強さを持っているとも言える。
 人間、死ぬ気でやれば出来ない事は無いとは良く言った物だ。

「何度でも言います。イツキ様、どうか、その力を手放してください。そして一から、信頼を取り戻すため、世界の人々の為に戦いましょう!」
「ナゼ、手放さないとイケナイ! 僕は、ボクはこの力で世界をスクウんだ!」
「イツキ様! 私は、貴方の正義が間違っていると、断言できます! 剣の勇者様と槍の勇者様を間近に見てきたからこそ断言できるのです」
「悪は黙って退ケ!」

 と樹が言い放ったのと同時だった。
 その出来事はこの場にいる全ての人物が驚きに彩られる程だ。
 それはリーシアの成長だとか、強さだとか、変幻無双流だとか、その程度の物じゃない。

 樹の弓が強く光り輝き、樹本人も目が眩んで目を瞑る。
 遠目だからこそ、俺には見えた。

 ――樹の弓から光が飛び出し、リーシアに向かって飛んでいった。

 リーシアは避ける暇も無く、その光に当たった。
 だが、リーシアは傷一つ負っていない。
 樹の弓から飛び出した光はリーシアの手に収まったのだ。

 そして、何故か俺の視界にあったリーシアの奴隷紋が砕け散って消滅した。

「まぶしいー……」
「キュアア……」
「目がチカチカする」

 フィーロやガエリオン達が目をしょぼしょぼとしながらその様子に目を向ける。

「な、なんだ?」
「尚文様」

 アトラが俺に向けて進言する。

「禍々しい気の中心から眩い……清らかな気の流れがリーシアさんに飛んで行きました」
「……清らか? 伝説の武器に、まだ隠された力でもあるのか?」

 樹の弓からリーシアに、力が飛んで行ったと見て良い。
 つまり、リーシアに樹の弓が力を貸した、と考えれば良いんだろうか?

「リーシア?」

 錬がリーシアに向けて声を掛ける。

「これは……」

 俺も驚いた。
 何せリーシアの手の中には一本のナイフが納まっていたのだ。

 形状は普通のナイフ。柄の部分に目立つ宝石が嵌っている。
 但し、半透明で造詣が曖昧だ。
 魔法で作られたような不安定な武器?
 アレはなんだ?

 リーシアが手を添えるとナイフの形状が忍者とかが使いそうなクナイに変わる。
 そしてブーメランへと変化した。
 伝説の武器に似た形状変化する力を持っている?
 一体何なんだ?

「な、一体、ナニが起こっているんだ!?」

 樹でさえも事態に困惑している。
 少なくとも、樹が何かを画策している訳では無さそうだ。

「そうですか……わかりました」

 リーシアは悟った様な顔をし、やがてブーメランを樹に向けて宣言する。

「イツキ様。貴方の正義は、貴方が所持する勇者の弓でさえも認められない。イツキ様を止める為に、私に力を授けてくださったのです!」
「ウソだ! そんな事があってたまるか! 僕の弓が、裏切るはずがない!」
「私は、この力でイツキ様を止めて見せます!」
「ふざけるな!」

 樹の弓から更に禍々しい気が噴出する。
 もはや樹自身が見えないほどに大きく膨れ上がった力が悪魔のような造形を作りながらリーシアに向かって襲い掛かる。

『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は神の名の元による長き平穏! 我が思いを犠牲に創造された執行者にその身を預けて眠れ!』
「ヘルトカイザーライヒ!」

 樹が強く弓を引き絞る。
 その弓が幾重にも、複数の天使や悪魔を模した羽の形状をし出しながらリーシア目掛けて放たれる。
 その造形は形を変え、熊の形状で定まりながらリーシアに向かって突撃してくる。

「変幻無双流投擲技、ローリングスピン!」

 武器に気を練りこんでリーシアが武器を樹目掛けて投擲した。
 光り輝くブーメランがカーススキルで作りだされた熊の首を落とし、体を無数に切り刻んでいく。

「ナ――何処までも! 何処までも愚かに絶対のセイギであるボクに歯向かって!」
「違いますよ、イツキ様。貴方が間違っているから、弓が正そうとしているのです」

 リーシアが右手を上げるとブーメランが手元に戻ってくる。
 そしてリーシアはブーメランをチャクラムに変える。
 ゆっくりと瞬き出したリーシアの目の色が僅かに俺には変わって見える。
 目に気が集中しているのだ。

「今の私には、全てが見えます。イツキ様を縛っている気の流れも、イツキ様の弓に寄生しようとする力も……これで……」

 リーシアは樹に向けて武器を投擲する。

「エアストスロー! セカンドスロー! ドリットスロー!」

 エアスト?
 その法則は伝説の武器のスキルにしか存在しないはず。

 あれは伝説の武器?
 七星の勇者の武器って奴か?

 リーシアの投げた三つの武器はそれぞれ別の形状をしている。
 ナイフ、小型の斧、短い槍。

 一体どんな武器なんだ?
 仮に七星勇者の武器としても、どんな物かは知らないが、槍は元康のはず。
 そもそも投げた三つはどれも別カテゴリーの武器だろう。

「トルネード……スロー!」

 樹の周囲を何度も回りながら竜巻となって禍々しい気を吹き飛ばしていく。

「ぐああああああああああぁああああああ!」

 そして手元に再出現したチャクラムで樹の弓に向かって投げつける。

「イツキ様、これで、貴方が正義ではない事を証明いたしました……どうか、もう一度やり直していきましょう?」

 バキンと樹の弓にチャクラムが当たってリーシアの手元に戻って行った。
 そして――樹の弓は……音を立てて崩れ落ちていく。

「ぐああああ……僕の、僕の新しい、救世の力が……」
「何度も言いますが、違います。そしてイツキ様、覚えてください。正義は人の数だけ存在します。正義は……誰かにとって悪なのです。私の正義も同じ。正義の反対は悪ではありません。正義です。負けた者が悪と言う烙印を付けられてしまうんですよ」
「違う……僕は……僕は……悪じゃない。悪くない。僕は悪くなんか無い。みんなが、アイツ等が……!?」
「他者を裁く事、拒む事は正義ではなくとも簡単です。ですが、受け入れる事も大事だと思います。どんな悪い人であろうとも更生する事が出来ると、私は信じています」
「う……うう……」

 変な造形をしていた弓が砕け散り、樹の弓が元の、俺が初めて見た時の弓に変わった。
 同時に力の根源を失ったかのように樹はそのまま地に倒れた。
 見る限り、禍々しい気は失われている。

「アトラ、どうだ?」
「はい。禍々しい気の根源は完全にリーシアさんが所持している力によって払われました」
「そうか。リーシア、その武器は何なんだ?」
「えっと……わかりません」

 おいおい。わからずに振り回しているのかよ。
 エアストとかスキル名を叫んでいたけどなんなんだよ。

「ぐ……正義!」

 ちっ! 鎧が起き上がってきた。
 タフだなぁ。
 というか、起きて早々『正義!』ってなんだよ。
 正義菌すげぇな。笑いそうになっただろ。

 やっぱり樹を元に戻しても正義ウィルスの効果は据え置きか。
 いや、しかし、リーシアの今付けている謎の武器ならもしかしたら……。

「む……てい!」

 リーシアがチャクラムを投げる。
 すると鎧の周囲をくるくるとおかしな軌道で飛び、邪悪な気を切断すると手元に戻ってきた。

「あ……ここ……は!?」

 鎧の目付きが野心に満ちた目に戻る。

「弓の勇者! まさか倒されたと言うのか! なんと情けない」
「お前が言うな! てめぇはどこの王様だ!」

 樹は死んでないけどさ。
 あのイラッとくる城に引き篭もっているセーブポイントを思い出しちまったじゃないか。
 それを連想した所為で、クズを思い出すわ!

「そうです! 傷付いたイツキ様を利用した事、絶対に許しません!」

 武器をブーメランに変えたリーシアが鎧に向かって投げつける。
 ガスっと良い音がした、
 もっと痛め付けろ。

「うぐ――」

 二投目を顔と腹に受けて鎧は昏倒した。
 今度こそボコボコになった。

「さっきから思っていたんだが、それって」
「え? 投げると操られた人に纏わりついている力が切れるみたいです」

 つまりは正義ゾンビの洗脳を切り裂く事が出来るって事か!?
 要するに態々シールドプリズンを使って洗脳を解く必要が無くなった。
 色々と予想外の事が起こったが、想定外に良い事が起こる事もあるんだな。

「でかした、リーシア!」
「ふぇえ!?」
「しかもアトラと同じく、気が見えるんだろ? 集中しないと無理みたいだが」
「あ、はい。何故か見えるようになりました」

 リーシア、お前は成長してくれたよ。
 これでもない位、便利な駒としてな。

「じゃあリーシア。これからやる仕事は、わかっているな?」
「ふぇえ……わかってますよぅ。イツキ様が起こした問題を解決に行くのですよね」
「そうだ。まあ特別に、樹は利用されていただけで事の原因はあの短剣を作った連中、という事にしてやる」

 伝説の武器なのか、それとも七星勇者の武器なのかは知らないが、能力的に秀でているのなら高待遇で扱ってやる。
 まあリーシアには、これでもかという位恩を売っているとは思うが。
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