挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

230/835

感染性

 静まり返った村で人々は息を潜めている。
 灯りは点けたまま、夕食を何気なく終わらせたまま、まるで寝静まったかのように音を立てるのをやめる。

 そこに数台の、行方知れずだった馬車が辿り着く。
 馬車を引くフィロリアル、そして馬車に乗っている奴隷共はみんな操られているだろう。
 一人、一人と馬車から下りて、村を歩き始める。
 そして寝たふりをしている奴隷を担いで一番奥の馬車の後ろへと運びこもうとする。

 そこには――。

「そこまでだ!」

 近場の家から飛びだして俺は言い放つ。
 同時に連れ去られそうになっている奴隷が目を開いて抵抗した。

「おお、兄ちゃん。一体どうしたんだ?」

 そこにはキールが、何の異常も無いかのように振舞いながら平然と告げる。
 俺はキールの奴隷項目を呼び出し、罰則を掛けようと試みる。
 しかし……砂嵐が巻き起こって何も出来ない。

「キール、お前に演技は無理だ。お前を操っている黒幕はその馬車の中か?」
「操る? 何を言ってんだ兄ちゃん」

 目付きがおかしいキールが他の操られている奴隷共と一緒に首を傾げる。

「俺達は兄ちゃんの洗脳から解き放って貰ったんだ。だから一人でも早く、みんなあの人達に解放して貰うべきなんだよ」

 なるほど……洗脳から解き放つか。
 そう言う名目で樹はキール達を意のままに操っている訳だ。
 確かにその論法なら樹の方に義が立つ。
 あくまで樹の中では。
 これが……本当に解放であったのなら、な。
 リーシアの言う通りになった。


 数十分前、俺が作戦を提案した所でリーシアが言った。

「ナオフミさん。私はこれでも勇者の伝説が大好きで、小さな頃から沢山読んでいるのですが」
「いきなりなんだ?」
「勇者の伝承の中に出てくる敵に……その、支配の能力を持った魔王と呼ばれる悪者が出てくる話があります」
「盾の勇者か?」

 リーシアはぶんぶんと顔を横に振って否定する。

「あくまで、物語の中では魔王と呼ばれている存在でした。ですが、歴史の中では丁度その頃に勇者が数名存在し、死亡時期が一致する物があるんです」

 洗脳の盾という単語が出てきた原因か。

 となると盾の勇者である必要は無いな。
 この世界の連中に何か怨みがあって、それを実行に移す理由さえあれば、どの勇者でも問題ない。

 マンガか何かで聞いた事がある。
 勇者と魔王はコインの裏表。
 なんて話を。

 悪い事は偽者……魔王が起こした事になる。
 そんな陰湿な力を所持する者が勇者であるはずが無い。
 ……抹消された勇者か。

「その……伝承では、哀れにも被害者は魔王の意のままに操られ――」

 つまりは、そういう事だ。
 ささっと樹を捕獲して原因を絶たないと面倒な事になる。
 最悪、一人一人にシールドプリズンを使うしか手が無い。
 一体何個、魔力水が必要になる事やら。

 この話は錬にもしてある。
 もしも町に樹が現れた場合、可能な限り生きて捕らえる事。
 不可能であれば殺害しても構わない。責任は俺が持つ。
 そう言い聞かせておいた。

 まあ、錬は樹を殺す事に反対していたがな。
 あれ以来、妙に情に厚くなった気がする。

 以前の様に、フッ……クールな俺かっこいい、みたいな状態よりはマシだが。
 ちなみに、俺には辛い過去があるんだ……チラッチラッ。
 なんて事をしたら追い出すつもりだ。
 現状それっぽい素振りは無いから問題無いけどさ。

 おそらく何があっても殺害はしないだろう。
 それに強化自体は教えているが、呪いの所為で強化が中途半端になっているから、カースに侵食された樹を一方的に倒すのは難しいと思う。


「ただいまー」

 のんきな声が海岸の方から聞こえてくる。

「そろそろ寝る時間でしょ? アトラちゃんと一緒にナオフミちゃんの所に行こうと思ったのだけどー……どうしたの?」

 サディナがのんきな口調でのしのしと歩いてくる。

「なんでお前はこんな夜遅くまで出歩いているんだよ!」

 非常事態を完全に知らずにここに居るのは明白だ。
 この馬鹿、何をのんきにしているんだ。

「なんでって……ナオフミちゃんがサルベージを頼んでいるからじゃない」

 そうだった!
 サディナが海底に面白い宝物が沈んでいるかもしれないけど、どうするって言うから頼んでいたんだった。
 最近じゃ古い金貨とかを土産に持ってきた。
 好事家が喜ぶって良い値で売れたのを覚えている。
 だから調子に乗って頼んでたんだったよ!

「今日はー良いワインと銛を見つけちゃった」

 サディナがサンゴで作られたかのような豪華な銛を俺に見せつける。
 それ、本当に海に沈んでいたのか?

「海底で崩れずに形状を維持していたわ。相当の業物だと思うわ」
「ああもう……少し下がってろ」

 サディナはくるくると銛を回転させて背に戻して辺りを見渡す。

「サディナ姉ちゃん。兄ちゃんったら酷いんだよ」
「あら? どうしたのかしら?」

 キールがトコトコとサディナに近づく。

「ダメです! サディナさん! キールくんから離れてください」

 リーシアが注意するとほぼ同時だった。キールが犬化して噛みつこうとしたのは。
 その瞬間、サディナは驚くべき速度でバッと下がってキールから距離を取った。

「ちぇ……外れちゃった」
「……どういうつもりかな? お姉ちゃん、事と次第によってはキールちゃんにお仕置きしなきゃいけないわよ?」

 即座に臨戦態勢を取ったサディナが銛をキールに向ける。
 キールの攻撃に警戒するのはわかる。
 俺も急いで注意するべきだった。

「もしもの話なのですが……その魔王の意のままに操られた伝承の通りだとした場合……」

 リーシアの言葉に、俺は最悪の展開を想像してしまった。

「なるほど。樹が直接攻撃して洗脳しているんじゃなくて、感染性があるって事か……アトラ、キール達の状態は?」

 俺はこの状況を注意深く感じ取っているアトラに尋ねる。
 あくまで可能性の一つとしてアトラには見て貰う必要があったのだ。

「先程、キールくんに巻きついていた禍々しい力がサディナさんに触手を伸ばしました」

 くそ、厄介な事で。
 キールを含め、操られた奴隷とフィロリアルは戦闘態勢に入る。

 現在、キールのLvは70。
 ステータスだけで言えばラフタリアには劣るが、かなり高めだ。
 種族的な差なのかキールの方が動きが早いだろう。

 まあ、俺がキールの攻撃を耐える事は可能だとは思う。
 問題は状態異常と周りへの感染性という事だ。

 敵の通常攻撃に混乱が入るようなゲームをイメージして貰えると良い。
 しかも治らない混乱。
 俺の配下である奴隷共が下手にキールたちの攻撃を受けたらそれだけで敵が雪だるま式に増えていく事につながる。

「どうにかする手段は無いのか?」

 というか錬達の方も相当危険な状況になっているんじゃないか?
 一応注意はしたけどさ。

「ワオオオオオオオオオオオオオオオオン!」

 キールの雄たけびに合わせて奴隷共が攻撃を始める。
 く……波に備えた私兵がそのまま敵になる。

 下手に樹だけを捕えられると高をくくっていた。
 もちろん、キール達とは戦うかもしれないとは視野に入れていたが感染性って何だよ。
 病みたいで厄介極まりないぞ。

「意志を強く持って耐えられた勇者の仲間がいた、という感動的な話がありますけど……」

 リーシアがキールの攻撃を受け流しながら答える。
 もはや村中で戦いは巻き起こっている。
 事前に味方が敵になる旨は伝えてあるので、先制攻撃で何名かは気絶させたが、予想以上に戦果が上がっていない。

 出来る限り俺も奴隷達を守るために前に出ているけど、攻撃を受ける者が出てきてしまう。

「大丈夫か!」
「な、なんとか」
「どうやら感染能力はそこまで高くないようです。ですが、何度も受けている内におかしくなってくるかもしれません」

 俺も相当防御力が上がっている自信はあるけど、キールクラスの奴に何人も群がられたらさすがに痛い思いをするかもしれない。
 必殺のシールドプリズンを使うとしても一か所に集めないといけない。
 もしくは事の原因である樹を閉じ込めるのが手っ取り早い。

「アトラ! 樹の居場所はわからないのか?」
「……ダメですね。禍々しい気が辺りに充満して特定できません」
「そうか……」

 大きく期待し過ぎるのは危険だとは思っていた
 くそ。全てが裏目に出ている。
 元康の例から、全ての原因である樹を捕まえれば何とかなると踏んだのは失敗だった。
 感染性があるのなら雪だるま式に感染者を増やす事ができる。
 つまり樹が村へ来てない可能性まで出てきた。

「兄ちゃん覚悟! よくも俺達を利用してくれたな!」
「ハッ! 土の付いたクレープでも食ってろ!」

 自分から尻尾を振っていた癖に、腹が立つセリフだ。
 言わされているんだろうけどさ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ