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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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 キャタピランドと馬車を繋いでいた綱は所々千切れた残骸しか残されておらず、馬車はない。
 それでいてキール達はいない。

「どうした!」

 キャタピランドは俺を見るなり全身を振るわせて凄い速度で向かってくる。
 そして俺に縋りつくように見つめながら口をモグモグさせた。

「行商していたら襲われたって! 馬車に乗っていた子達はなんか誘拐された? え? 違う?」

 谷子はキャタピランドの言葉を聞きとるのだけど、上手く言葉に出来ないようだ。
 ただ、何かが起こっているのだけは伝わってくる。

「場所は何処だ!?」

 錬が谷子に向かって尋ねる。

「えっと……」
「コイツがやってきた方向で良いんだな?」
「た、多分」

 キャタピランドの足跡を遡るように錬が走り出す。

「あ、待て! 私を置いて行くな!」

 女騎士が後を追って付いて行く。
 それだけじゃ足りないだろ。

「フィロリアル共! 誰か錬と一緒に行ってこい!」
「クエ!」

 俺の指示に近くにいたフィロリアルが走って同行する。
 これで事件が解決すればいいのだが……。
 言い寄れぬ不安が胸をくすぶる。

「まずはコイツの治療だな。ラトを呼んでくれ」

 俺は回復魔法を唱えながら谷子にラトを呼ぶように頼む。
 魔物の中には回復魔法の効果が低い種類が存在する。その場合は自然回復、もしくは薬による回復を狙う。
 谷子はラトの研究所に駆け出して行った。

 まったく、いきなり問題ばかり起こり始めた。
 それからラトが到着するまでの事なのだが、キャタピランドの奴、来た道を戻ろうと何度も暴れ始めるのだ。
 ラト曰く、強くなりたいという願望が強い為に不甲斐なさを嘆いて、錬達を追いかけようとしたのだろう。

「大丈夫か? 何があった?」
「奴隷共の馬車に盗賊が襲撃したらしい」

 ガエリオンが騒ぎを聞きつけて舞い降りる。
 するとキャタピランドはガエリオンに向かってパクパクと何かを喋り始める。

「ふむ……ふむ……なに?」
「何かわかったのか?」
「ああ、襲撃があったのは事実なのだが、奴隷共が攻撃を受けた直後から動かなくなり、敵に着いて行ってしまったそうだ」
「は? どういう事だ?」

 薄々は考えていたが、奴隷共は腐っても盾の勇者の加護を受けている。
 正直、並の冒険者よりも遥かに強い。
 イミアの叔父はクラスアップをしていなったから多勢に無勢で負けたと考えていたが、違った様だ。

 それにしても洗脳っぽいな。
 この場にいない元康が最初に浮かんでくるが、違うと思う。
 となると消去法で樹と考えるのが妥当だろうな。

 しかしそうなると疑問も残る。
 自分本位とはいえ、樹は正義感が全てだ。
 さすがに洗脳行為を肯定して使う様な奴では無いというのが俺の評価だったんだが……。

 だが、ゼルトブルで見た樹は色々と壊れていたから、錬や元康の様に謎理論で動いている可能性も十分考えられる。
 それにしても姿を現さないとか、相変わらずだと思うが、凄く陰湿だな。
 ウザイ事この上ない。
 特に隠れたりしなかった元康がかわいく思えるから、気持ち悪さが倍増する。

 まあ、さすがはパーフェクト=ハイド=ジャスティスとでも思っておくさ。
 はぁ……どっち道、捕らえないといけないんだろうな。
 錬にしろ元康にしろ保護する事になったし、もういいよ。
 変に動き回られる位なら近くに置いてある方が遥かにマシだ。

「こやつもその攻撃を受けそうになったのを命からがら逃げ出してきたと言っている」

 ちゃんと伝わった事に安堵したのか、キャタピランドは力が抜けるように動きを止めた。
 死んだ!?

 そう思って脈を確認する。
 息はしている。死んではいない。おそらく、相当無理をして緊急事態を伝えたかったのだろう。
 で、俺にちゃんと伝わり、安堵した所で意識を失ったんだ。

 だが……そんな危険な所に錬達を行かせた?
 ヤバイか?
 急いで追いかけるのも手だが……。
 しょうがない。ラトが来るのを確認して俺も出かける準備をする。

「フィロリアル共!」
「「「クエ!」」」
「ガエリオンも行くぞ。リーシアとアトラも乗れ!」
「はい」
「わかりました!」
「「「クエ!?」」」
「なんだ? 不満か? 良いから着いてこい! 残りの連中は村の警護! 俺が帰ってくるまで警戒態勢を維持しろ!」

 俺達はガエリオンに変身するように命令して背に乗り、先行する。
 フィロリアル共も地上から後を追う。
 やがて錬達に上空から追いついたのだけど、やはりキール達が襲われた地点には何もなかった。
 匂いによる追跡をガエリオン達にさせたのだけど途中から掴めなくなった。

 日が完全に落ち切り、捜索を断念せざるを得なかった。
 錬はまだだと何時までも粘ろうとしたが、二次遭難になったら溜まったものじゃないと注意するとやっと観念した。

 村に帰り、奴隷共の頭数を数えつつ、夕食の準備を始める。

 確かに……最近、少しずつ数が減ってきている。
 気づかなかった訳じゃない。ただ、行商に時間が掛っているのだと思っていた。

 逃げる様子はなかった。
 未だに奴隷紋は機能しているし、外された様子も無い。
 数は減っていないし、俺の指示通りの範囲にはいるはずなんだ。
 なのに行方知れずか。

 村の空気が重くなっているのを感じる。
 決定的な証拠が今日、判明してしまったからだ。
 ラフタリア達の方は大丈夫だろうか。まあ、修行中だから、何も起こっていない事を祈るばかりだ。
 それでも問題が起こったからと一時中断して帰ってくるように指示を出した。

 問題はその指示が通るか……だな。
 包丁で今日の素材を切って鍋にぶち込んで行く。
 コトコトと煮込んでいるのだけど、あんまり手に付かない。
 錬達もそんな感じで落ちつかないようだ。

 だが、闇夜の中を捜索するなんて真似をしたって事態は好転しない。
 俺も落ちつかないから料理をしているに過ぎない。
 こんな時、勇者は無力だな。出来る事が少ない。
 何か起こるのを待つ受け身しか出来ない今がこれほどだとは……。

「ま、こんな所か?」

 そう言いながら今日、作ったスープを試食する。

 危険!

 アラートが頭に響く。

「くっ……」

 なんだ? 俺は料理に危険な物でも混ぜてしまって失敗作でも作ったか?
 今までこんな事は無かったぞ。
 俺の視界にスープに関する目利きが作動する。

 毒物、毒性……中度、呼吸阻害性毒
 治療法 速やかに解毒剤、解毒魔法の使用。

 は?
 いやいや、ここにある材料でそんな危険な毒物が作れる筈もない。
 間違って錬金術とかで混ぜるな危険の物を作ったか?

「出来ましたか?」

 料理担当の奴隷がスープを見ながら尋ねる。

「いや、失敗みたいでな」
「え? こんなに良い匂いがするのに?」
「ああ」

 そう言いながら、スープを片付け、瓶から水を――。

 危険!

 さっきと同じアラートが俺の視界に写った。
 な、なんだ!?
 水?
 俺は入念に水を目利きする。

「おい、この水は何処から取ってきた物だ?」
「え? いつも使ってる井戸からだけど……」

 毒でも混じっているとでも言うのか?
 嫌な予感がする。

「ダメ!」
「なんでだよ」
「とにかくダメ! 苦しくなるの!」

 食堂の外を見ると井戸水飲もうとしている奴隷にフィロリアルが絡んで阻止していた。
 野生の勘という奴だな。俺が居ないから喋って妨害している。
 よくやったフィロリアル共。後で褒美の一つでも準備してやる。

「全員! 水を飲むな!」

 俺は大声で指示を出した。

「どうした?」
「井戸に毒物が混じっている可能性がある」
「そうなのか?」
「ああ、少し調査する」

 キャタピランドの治療を終えたラトを呼び、井戸水、そして念の為に近くの川を調査した。
 結果、両方ともに毒物が混じっている。
 幸いなのはバイオプラントは解毒作用があるようで大地にまでは染み込んではいないそうだ。
 ただ、川を良く見ると魚型の魔物がプカリと浮いて死んでいた。

 日が沈み、暗くなってきた所為で毒を流している犯人の捜索が上手くいかない。
 ただ、上流で亜人の冒険者らしき死体を発見した。

「コイツが犯人か?」
「どうかしらね」

 ラトが医者のように死体を確認する。
 亜人が俺の村に毒を流し込んだ? 間違っても俺の村の連中では無い。
 一応、宗教上では俺は神の扱いらしいのに、その俺が指揮する村に?
 シルトヴェルトやシルドフリーデンの連中か?
 物言わぬ死体ではどっちか特定できない。

「伯爵、ここ、わかるかしら?」

 ラトが亜人の死体を指差した。

「手には紙が握られているわね。何か書かれているわ」
「読めるか?」
「神を僭称する者に天罰を? でもこの字、メルロマルク公用語じゃない?」
「は?」

 ちょっと待て、盾の宗教の過激派が俺に攻撃してきた?
 いや、メルロマルク公用語と言うのが怪しいな。
 こういう場合はシルトヴェルトやシルドフリーデンの公用語を使うべきだろう。

「翻訳して書いたにしては手慣れた感じね。文字の癖でわかるわ」
「そう言う物か?」
「ええ、後ね」

 ラトが薬品を取り出して亜人の死体の胸に垂らす。
 すると死体の胸に……淡く奴隷紋が浮かび上がった。

「死んだら消える奴隷紋ね。上手く隠せたつもりなんでしょうけど私は誤魔化せないわ」
「奴隷ね……じゃあ白だな」
「そうね」

 シルトヴェルトやシルドフリーデンの亜人である奴隷が、宗教的理由で毒を流して自害……あり得ないだろ。
 亜人の国では奴隷は人間だと聞く、そんな国が同族の奴隷。
 決定的な理由として隠蔽する奴隷紋と謎の紙の所持。
 しかも天罰とか、俺を狙っているのは明白だ。

 疑われたいと言うかのようなオンパレード。
 俺だったら人間の奴隷にさせる。
 随分と幼稚な手口だ。
 犯人を亜人系列にして悪い印象を与えたったのか、それとも……。

「手厚く葬ってやれ」
「良いの?」
「犠牲者だ。今まで沢山苦労もしただろう。せめて死んだ後位は丁重に扱ってやろう」
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