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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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強欲

「くっ……」

 悔しそうに口を鳴らす錬。

 上手く行ったみたいだな。
 ガエリオンが俺達に打ち合わせた事、それは転送スキルの無効化だ。
 俺達が前、ガエリオンの元縄張りで逃げられなかった事を参考に、ガエリオンが独自に研究して加工した魔法だそうだ。
 本来は辺りの魔法要素を覚醒させ、龍脈法の威力をあげる範囲魔法なのだが、今回は魔法要素を多く活性化させて干渉阻害をさせるとか言っていた。
 この魔法を工夫すると人間が普段使っている魔法の属性を指定して封じる事が出来るらしい。
 例えば水とかを封じるとメルティやサディナは大幅に戦闘力を下げられる事になるな。

「よし! リーシア! 合図の魔法を撃ちあげろ!」
「は、はい!」

 俺の指示に従い。隠蔽魔法の効果が切れたリーシアが魔法の詠唱に入る。
 直後に魔法は上にあげられた。
 よし、数分もあれば人員が集まるだろう。
 それまでの間に逃げられないように追いかけ続ければ良い。

「……」

 錬は逃げ切れない事を悟ったのか、剣を構える。
 こんな状況でも戦意を失わない事だけは認めてやっても良い。

「等々年貢の納め時だな。錬」
「年貢? それは俺の言葉だ」

 相変わらず現実逃避をしているようだな。

「群れなきゃ何もできない奴が俺に向かってくるとはな。ドラゴンまで従えるとは……俺が直々に成敗してくれる」
「……お前は自分の立場わかってるのか?」

 呆れて物も言えない。
 ドラゴン=悪とかの方程式なのか?
 傲慢のカース……か?

「一対多数で勝負を挑もうなんて卑怯者に、俺は負けない!」
「攻撃能力の無い相手に隠蔽スキル、しかも背後からの必殺攻撃は卑怯じゃないのか?」
「察知できないのが悪い」
「ぬかせ」

 やはり俺ルール全開だ。
 言動も何やらおかしいし、深層意識でも表面に出ているんだろうか。
 まるで、というかまんまネットゲームに出没する最強厨みたいだ。

 錬の言葉を借りるなら、仲間がいないのが悪い、とか頭の悪い事を言っても良いが、売り言葉に買い言葉な挙句どんぐりの背比べになってしまう。
 正直、使える手駒が少ないのがお前の敗因だと言いたいが、聞く相手じゃないしな。

「いくぞ!」
「話を聞け――」

 俺が注意するよりも錬は駆け出してくる。
 そして俺に向かって剣を――ではなく目標をリーシアに変えて走ってきた。

 おい……。
 今の錬はやっぱり何か変だ。
 一貫性が無いというか、方向性に欠ける。

「ふぇ!?」

 突然の攻撃方向の変更にリーシアが声をあげる。
 コイツ、この場で見る限り一番弱そうな人物を狙って攻撃するとか……。
 戦略の基本だけど弱い奴から狙うとか、正々堂々はどこにいったんだよ。
 だがな、お前は大きく間違っている。
 今のリーシアは……。

「でりゃああああああああああ!」

 錬が掛け声と共にリーシアに向けて剣を振りかぶった。
 だが、リーシアは咄嗟に屈みこむかのように体勢を崩したかと思うと、ロープ付き投げナイフを近くの木に投げつけて、スーッと高速で距離を取る。
 その距離を取る動作のついでに錬に向かって四本程、鉄の串みたいな物を投げ付けた。

「ビックリしました」
「むしろ俺の方がビックリだよ」

 何その早業回避。殆ど一瞬だったぞ。
 コイツだけ別の世界で戦っているんじゃないか?
 いや、見えたから防御できない程ではなかったが。

 そもそもあの鉄串をどこに持っていたんだ?
 変幻無双流の隠し武器か何かなんだろうか。

「く……」

 刺さりはしなかったが、思い通りに行かず錬が煩わしそうに声を漏らす。

「我を忘れて貰っては困るな」

 バサァっとガエリオンが羽ばたいて威嚇する。
 そうだよな。
 今は三対一、卑怯な気がしなくも無いが常套手段だ。
 まあ、そもそも俺は一人で戦えないんだけどな。

「しかし、この程度の強さしか持っておらんとは……期待はずれも甚だしいぞ」
「ダメージを与えているようには見えなかったぞ」
「加減していたに決まっているであろう。まあ、倒すのには力が足りないのは否定せん」
「そうか」

 人手が増えればそれだけやりやすくなるか。

「おい。ヴィッチはこないのか?」
「……」

 俺の問いに錬は顔を歪ませ、剣から溢れだす禍々しいオーラの気配が高まったのを感じた。

「失言だったようだぞ。奴の力が強まった」

 む……下手に問い詰めるのは逆効果か。
 となると聞き出すのは難しい。
 せめて最後にアイツの居場所を聞いておきたかったんだがな。

「では本気で行かせてもらうとするか。盾の勇者よ。忌まわしき呪いの盾を出せ」
「いやだ」

 強化失敗してほぼ初期状態のラースシールドなど、呪いの効果で俺の自我が危ないだけの代物に等しい。
 もちろん、必殺のプルートオプファーを放つ場合はその限りでは無いが、今の俺は呪われていて次を撃ったら死ぬとまで言われている。
 アイアンメイデンで沈めるという手も無い訳じゃないが、それを使うまでも無く倒せるだろ。

「大丈夫だ。我に秘策があるのだ。それに……長引かせる必要もない」
「本当かー?」

 かなり怪しいんだよなぁ。
 ま、下手に浸食されそうになったら速攻で変えれば大丈夫か。

 俺は盾に手をかざし、ラースシールドに変える。
 バシっとやはり視界が黒く、変わる。
 ……まだ理性は保てるな。

 憎い感情が湧きあがってくるけれど、耐えられる領域だ。
 ん? 視界に3:00と表示され、2:59と数字が減って行く。

「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 ガエリオンの体が黒く光り輝き膨れ上がる。
 禍々しい漆黒のオーラ、溢れ出す憤怒の念。
 ラースドラゴンを思わせる姿。
 そこに現れたのは巨竜状態のガエリオンだった。

「ふむ……力が漲る」

 黒い炎を立ち上らせて、ガエリオンは声を出す。
 あー……多分、この数字は変身時間だ。
 フィーロが居る時は五分だった事を計算するに下がっている。
 まあ、ガエリオンがどれだけの能力を所持しているかにも寄るがな。

 それにしても、ガエリオン……なんて悪役臭い外見なんだ。
 まるで俺の方がボスキャラみたいな感じになっているぞ。
 本当は剣の勇者が盗賊の親玉なんだが。

「勇者を僭称する悪魔め。俺が成敗してくれる!」

 諦めもせず錬が吠える。
 現実が見えていないんじゃないか?
 さっきまで苦戦していた相手がパワーアップしたらどう考えても勝てないだろ。

「目覚めろ! 俺の力よ! 俺は、戦いの中で強くなる!」

 いってぇ! めっちゃ痛い! 背筋に悪寒が走ったぞ。
 中二病も大概にしろ!
 これは決まったな。
 錬が不殺に目覚めたのは、中二病だったからだ。

 アニメとかで今まで散々虐殺しておきながら、突然悟った様に不殺に目覚める奴いるよな。
 アレに近いんじゃないだろうか。

「愚かな……力の違いを見せてくれる」

 おい……ガエリオン、それは負ける側のセリフだ。
 なんで俺達は悪役みたいな言動ばっかりしているんだよ。

 そして2:30秒を下回ったガエリオンが大きく息を吸う。
 この姿って……ラースドラゴンでもあるんだよな。
 息を吸ったという事はブレスだろう。
 タイムリミットがある分強力なブレスだと思われる。

「喰らうが良い!」

 ガエリオンが羽ばたきながら地面に向けて息を吐く。
 おい! ここには俺も居るんだぞ!
 漆黒の炎だった。間違い無くダークカースバーニングSの炎だ。

「刹那・竜殺し!」

 錬が炎を切り裂いてガエリオンを切りつける。
 竜の形をした闘気みたいな物が飛んでいった。
 あの炎を切ったと言うのは単純に称賛しようと思う。
 ま、知った事ではないか。

「ツヴァイト・オーラ」

 ガエリオンに援護魔法を俺は唱える。

「……ふむ。ぬるいな」

 俺の援護魔法の影響もあってか、錬の攻撃をガエリオンは片腕で受け止める。
 闘気で作られた竜の首根っこを掴み、握りつぶす。

「そうそう、お主等は知らなかっただろうが、ドラゴンの……竜帝の本気のブレスと言う物を今、見せてしんぜよう」
『我、竜帝ガエリオンが天に命じ、地に命じ、理を切除し、繋げよう。我の力よ。我が前に居る愚か者を屠る力を発現せよ!』

 幾重にも重なる魔法陣がガエリオンの前方に展開されるのが俺には見えた。
 そんな物があるのに、何故今まで使わなかった。
 俺は出し惜しみが嫌いなんだぞ。

 いや、使えなかったのか?
 今は巨竜状態だし、その可能性は高い。

「ふぇえ……なんか危険な感じがしますぅうう」
「そうだな。逃げるぞ」

 俺達は急いで後退した。

「させるかぁああああああああああ!」

 錬が果敢にもガエリオンに向かって突撃している。
 元気な事で。
 俺はあんな場所に突撃するのは勘弁願いたい。
 そういう仕事こそ勇者様にやってもらいもんだ。

「俺は、誰よりも強くなる。そう……俺の欲望に限りはない……俺はここで更なる強さに目覚め、お前を倒す……俺の欲望に限界は無い! 欲望を糧に最強になるんだ。力に覚醒し、勝利し、装備を整え、金を集め、力を高め、全ての世界で俺は最強になり、全ての世界は俺を求める!」

 頭、大丈夫か? コイツ。
 同じ事を何回言うんだ。欲望欲望うるさい。

 力に覚醒? 既に剣の勇者に覚醒しているんじゃ……。
 呪いに侵食されるとあそこまでおかしくなるのか?
 もはや唯の痛い奴でしか無いぞ。
 ……なんとなく、錬がなんのカースに犯されているのかわかった。

 ――強欲。

 でも何故だろう。凄く惨めでちっぽけな強欲に感じる。
 あれを強欲と呼ぶのは厳しい。

 強欲というのは、底なしの欲望だろう。
 なんでもかんでも求めて欲する、限りの無い欲だ。

 錬の場合、強くなりたいという事に集約している。
 もちろんそれが欲望で無いとは言わない。
 だが、本当の欲に駆られた奴ってのはもっと醜いし、なんでもかんでも欲しがるもんだ。
 所詮強さだけに拘った……ああ、なるほど、どうしてなのかわかった。

 あえて言うなら過程が目的になっているんだろう。

 欲望というのはアレが欲しいから手に入れる。
 これが手に入ったけど、ソレも欲しいから手に入れる。
 て、感じだ。

 しかし錬の場合、強くなるのが目的で、何かが欲しくて強くなりたい訳じゃない。
 結果と過程が反転している。

 似た様な経験がある分、尚の事良くわかるな。
 以前、行商をしていた頃……装備を整える為に金を稼いでいたはずが、金を稼ぐ事が目的になっていた、みたいな。
 この程度でもカースシリーズは力を貸すのか。

 そして、俺の憤怒に勝てない理由にもなる。
 どれだけカースの力を増やしても、その強欲では、俺の憤怒に勝てないだろう。
 あれは仮初の強欲なんだ。

「俺は世界を救う最強の勇者なんだぁああああ! 素直に負けを認めろぉおおおおおおおおおおおおおお!」
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