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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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盾を守る盾

 あれから数日、平和過ぎる程順調に日々は過ぎていった。

 大まかな目的は、主にラトの所でバイオプラントの研究と、近隣の町での問題の解決だ。

 町の方はメルティが思いのほか役に立っている。
 メルティの部下にも政治に詳しい奴がきていたお陰でもあるだろう。
 今の所、税は掛けず、その内掛けると町の連中には宣告した。
 復興の為に税を免除したという状況だ。
 町の連中も頷いている。

 メルティ……年相応な部分と年不相応な部分があるな。
 まあ暗殺未遂事件の時の事もあってラフタリア達奴隷を除けば数少ない信じられる奴だ。
 女王? 敵ではないが、今一信用が置けないんだよ。

 そういえばアクセサリー商がいつの間にか店を開いていた。
 亜人の神という扱いだからか酒場には亜人の冒険者も多くなってきているらしい。
 治安維持用の警備班を要請されている。この辺りは村で余裕のある奴を任せるつもりだ。

 まだまだ奴隷が足りないな。
 奴隷商に頼んで増員するか。

 ちなみにあの日、フォウルはフィーロのスパルタによってLv18になって帰ってきた。
 帰ってきた早々グロッキーで倒れたけど、僅か数時間でその数字なら儲けものだろ。

「な、なんかLvの上りが早い」
「まあフィーロの影響だろ、爆走で跳ね飛ばしていくからな」
「ち、違う……ただのウサピルが俺の知る数字よりも多く経験値を出した」
「そうなのか?」
「ああ、何が原因かはわからないが絶対に、俺の知る数字よりも高い」

 ふむ……ありえるのは勇者の仲間は他の冒険者よりも成長が早まるか。
 どうしてこんな情報を知りえなかったんだ?
 リセットした奴でないと知りえない?
 いや、他の勇者が仲間にしていた冒険者とかなら……ってあいつ等が話すはずもないか。
 俺が育てた奴隷は……最初からこの経験値でしか見ていないから判断できない。
 後でサディナに聞こう。

「ただいまー」

 サディナが大量の魚と素材を持って帰ってきた。
 村の連中がハイテンションで俺に調理を要求する。
 最近、聞きわけが良かったから作ってやるか。

「盾の勇者様の加護は凄いわねー入る経験値が多くなっていたし、Lv1毎の成長も高くなっているわ」
「やはりそうか」

 どうやらデフォルトの勇者補正という奴なのだろう。
 盾の勇者の能力……じゃあないだろうな。それならリーシアが気づく。
 それから夜が更け出した頃。

「ただいま!」
「ただいま帰りました」
「キュア!」

 キール達が帰ってきた。
 最近はキール、アトラ、谷子、ガエリオンのチームでLv上げに行かせている。
 主にキールが引っ張る形だ。
 フィーロのスパルタが無い時はフォウルも混ざる。
 まあこのチームだと、キールが若干パワー負けしている気もするが。

「今日は時間が掛ったな」
「ガエリオンちゃんのお食事に時間が掛りまして」
「ケフ」

 帰ってくる前に食事を終えてきたか。
 ガエリオンは一頭身だった体型から頭だけ伸び始めている。
 首がひょろ長いなぁ。不気味な体型に進化中……。

「飯は作ってあるから食って寝ろよー」
「兄ちゃんが作ってくれたのか?」
「ああ」
「ひゃっほー!」

 キールのテンション高い。
 そんなにも俺の作った飯が美味いか?
 盾効果もあるんだろうが、最近慣れてきたから味が上がっていたりは……どうだろうな。

「尚文様の作った料理は絶品ですものね」
「……うん」

 あの谷子まで頷いている。盾の効果だけど凄いなぁ。
 なんだかんだでキールたちの分の飯を出し、俺は家に戻った。

 あれ? そういえばラフタリアは何処だ?

 ……そうだった。
 ラフタリアとリーシアはババアの特訓で山籠りに行ったんだった。
 フィーロもメルティの所へ泊りに行っている。
 家に一人とか、久しぶりだな。

 さーて、今夜は行商用の薬の調合をしておくか。
 ルーモ種の連中にも教えないといけないからなぁ。
 コンコンと家の扉を叩く音が聞こえる。

 だれだ? こんな真夜中に。
 俺は家の扉を開ける。

 ……誰もいない。

 なんだ? 気のせいだったのか?
 閉めて作業に戻る。
 ……また扉を叩く音が聞こえた。
 開けても誰もいない。

 なんだ? 誰のいたずらだ。

 そして……。

「誰だ! いたずら者は!」
「え? いたずら……ですか?」

 アトラがキョトンとした表情で佇んでいた。

「お前じゃないのか?」
「ノックしたのはこれが最初ですが……?」
「どうしたんだこんな時間に?」
「その……寝所をご一緒したくて……」
「お前は兄がいるだろうが」

 下手に気づかれたら五月蠅いぞ、あのタイプは。
 厄介事はごめんだ。

「お兄様は今夜、既にぐっすり眠っています。ですから……眠るまで御話相手になってください」

 ぐっすりって……物理的に?
 いや、こんな純粋そうな子がそこまでやるかは知りたくはない。
 俺の事を慕ってくれているような気がするが、あんまり一緒に寝るのは好きじゃない。
 ラフタリアとだって時々、いやな感じがして目が覚めるんだ。
 本人は思いっきり寝てるけどさ。

 俺自身もいつまでトラウマを引きずっているんだと悩みもするけど、同じ部屋に女がいるといやな予感がして止まらないんだ。
 出来れば断りたい。

「ダメだ」
「では尚文様の家の前で眠りますわ」
「なんでだよ」
「他で寝たくないからです」

 ……なんだコイツ?
 変な奴だな。

「しょうがないな。ラフタリア用のベッドで寝ろよ」
「わかりました」

 本人が留守なのを良い事に俺はアトラを部屋に招き入れる。
 ……フォウルがどうなっているか気になってきた。
 アトラが寝入ったら行ってみよう。
 部屋に入ったアトラをラフタリアのベッドに案内させて寝かせる。

「尚文様は眠らないのですか?」
「ああ、行商用の薬の調合があるからな」

 なんだかんだで薬の売れ行きが好調だ。盾で作っても居るけれど生産が間に合わない。
 そろそろ村の連中にも薬作りを本腰を入れて教えて行かないとなぁ。
 金が回る構図を完全に構築していきたいのだけど、今の所まだ人手が足りない。
 一応、薬屋に薬を卸して町の方でも売って貰っているが……中々供給が追い付かないんだよなぁ。

 ラトにバイオプラントで薬草を作って貰っている分、無駄にも出来ないし……薬草自体を売ることも出来るけど、原価安いし、毒草系の盾とか毒系の盾も出してはいる。
 目利きに毒の鑑定が付いたり、毒自体の効果が上昇とか耐性アップとかばかりだったな。

「尚文様は働き者なんですね」
「金が欲しいからやってるだけだ」
「でも……そのお陰で私はこうして歩く事が出来るようになるまでになりました」
「……」

 打算で動いているのに、善意で返されるとむず痒いものがある。
 沈黙が辺りを支配していく。
 どうもこの子とは付き合い辛い。
 ラフタリアの様な何か、俺に理想を押し付けるでもなく、なんでも肯定してしまうような。

 よし、股を開け! とか言ったらアッサリと開いた揚句、圧し掛かってきそうで怖い。
 子供だけど。
 ヤバイ……そう考えたら二人っきりなんて危険じゃないか。
 寒気がするぞ!

「尚文様」
「な、なんだ?」
「ラフタリアさんから聞いたのですが、ラフタリアさんは尚文様の代わりに敵を倒す剣の役目を持っているのですよね」
「まあな」

 俺は守ることしかできない。
 これはこの世界に来てから変わる事のない盾の能力。
 唯一の例外は盾のカウンター効果とラースシールドのスキルのみ。
 フリスビーシールドの専用効果、フリスビーという盾を投げる攻撃が出来た。

 これで俺にも攻撃能力が! とワクワクしながら魔物に向かって投げた時、なんとなくオチはわかっていたけど……バインと音を立てて弾かれた。
 今ではもっぱら、フィーロや魔物共に投げて遊ぶ道具になっている。
 キャッチされるとすぐに消えて手元に戻っているがな。

「ラフタリアは俺の為に頑張ってくれている。俺もアイツは頼りにしている」

 波への対処の為、世界の為、ラフタリアは頑張っている。
 アイツを見ていると俺も頑張ろうと思えるようになった。
 少なくともこの世界で一番信頼できる存在がラフタリアだ。
 他の奴等は、なんか色々と含みがある気がして、な。

「俺は盾の勇者だから、守る事しか基本的には出来ないんだよ」
「……そうですね。この村を見ていますと、尚文様の翼にみんなが守られているように感じます」
「翼ねー」

 親鳥の翼の下で守られる雛とかそんな感じか?
 ここは鳥の巣みたいな例えだな。

「みんな、尚文様に守られていずれ巣立つ時を待っていると思うのです」
「巣立つのは良いが、この村を最終的に守れよ。じゃなきゃ罰則があるぞ」

 ここはラフタリアの故郷だ。
 その故郷を復興させれば、俺がいなくなってもラフタリアは生きていけると思う。
 なに、俺が元の世界に帰ってもキールやサディナがいる。
 フィーロはメルティに任せる予定だが、フォウルやアトラもいるんだ。簡単には滅ぼされないだろうし、世界を救った勇者が作った村を滅ぼすなんて暴挙、した集団は国だろうがなんだろうが、終わりだ。

「ですが……尚文様を、誰が守るのですか?」
「は?」

 何を言っているんだ? 守る? なんで?
 事もあろうに俺を守るって、何を言っているんだ?
 盾の勇者相手にそれって無謀だろ。

「この村に来て、私は尚文様の偉業や出来事を聞きました。とても……誇らしい事をしていると思います。どんな逆境にも負けずに乗り越えてきた尚文様を尊敬します」
「あ、ああ……そうか。謙遜するつもりはないが、出世したもんだな」
「ですが、その尚文様を、誰が守ってくれているのですか?」
「……いないわけじゃないさ」

 ラフタリアやフィーロ、メルティ、女王とか俺の立場や身が危険になった時に助けてくれた奴はいる。

「私は思うのです。ラフタリアさんが尚文様の剣ならば、私は尚文様を守る盾になりたいです」
「盾ねー……そんな良い物じゃないぞ」

 誰かの盾になって庇うというのはあんまり良い気持ちにはならない。
 なんで俺が庇わねばならないんだと何度だって思う。
 痛い目を見る事だってあるが、気にしていたら勝てないし、不和を招く。

 事もあろうに俺の盾になりたいとか、凄い目標を持ちやがったもんだ。
 元々生まれた時から誰かに守って貰っていた子だからだろうな。
 守る事に憧れを持っているのだろう。

 俺の右腕がラフタリアなら左腕になりたい的な発言。
 でも……なんかいやな気持にはならない言葉だ。

「そういう台詞は、強くなってから言うんだな」
「はい。絶対に強くなります」
「頑張れよ」

 と、話しているうちにアトラは寝息を立て始めた。
 まったく、変な目的を持ち始めたなー……。
 こんな事をフォウルに聞かれたらまた怒り出しそうだ。
 アトラを抱えてフォウルが寝ている家に入る。
 ……本当に寝ていた。

「……おい」
「ぐー」
「ぐーとか……マンガか! 起きろ!」
「んあ!?」

 アトラのベッドにアトラを寝かせてから、俺は起きたフォウルを家から出して話す。

「ちゃんと妹の面倒を見ろよ。なんか俺と一緒に寝たいって来たぞ」
「な、なんだと! じゃあ……アトラは既に」

 俺を親の仇みたいに睨みつけるフォウルに奴隷紋を作動させて叱る。

「誰がするか」
「アトラに女として魅力が無いとでも言うつもりか!」
「ああもう! 面倒くさいな! 俺はそういうのに興味無いの!」
「嘘吐け!」

 ホント面倒な兄妹だな!
 とはいえ……。
 俺の盾になりたいか……変な奴だ。
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