挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

161/835

王女来訪

 村に到着するのはフィーロの足でゆっくり進んで4日と少し必要だ。
 その行程で出会った魔物を飯にしながら、馬車の旅は問題なく進んだ。
 俺の飯を初めて食べた奴隷共の反応が同じだ。そんなに美味いのか?
 ちなみにフォウルは不貞腐れ、アトラは絶賛した。
 そんな三日目の夜。

「尚文様……あの……申し訳ないのですが包帯を巻きなおしてくださいませんか?」
「そんなのは俺がやる!」
「まあ、皮膚病に効く薬をついでに塗るか」
「くっ……」

 薬が効いたのか、アトラの肌が良くなり、かゆみを訴えるので、包帯を取る。

「……あれ? 火傷みたいになっていた肌が再生してきているみたいだぞ」
「あ、ああ」

 フォウルが呆気に取られたかのように妹を見つめている。
 そんなに驚くような事態だったのか? まあ、驚異的な回復力だけど。
 で、顔を覆っていた包帯を取って、確認する。

「まあ……」

 その様子を見ていたラフタリアが思わず声をこぼす。珍しいな、黙っている時は沈黙を貫くラフタリアがそんな醜態を晒すなんて。それもそのはずか。
 兄の顔は、生意気そうだけど整っていると思っていた分、妹を見て俺も驚いた。
 奴隷の身であるにも関わらず、髪には艶があり、肌はキメが細かくて白い。
 年齢は幾つだろうか……兄が十二、三歳くらいに見えるのだから、それよりも幼いだろうけど……。
 目の焦点は合っておらず、瞳孔は開いている。目が見えない子が目を開いているとこんな瞳なんだとここで知った。
 奴隷商の奴、外道な事を言っていたが、このクラスの奴隷なら別の意味で売れるんじゃないのか?
 まあ皮膚病が完治したからなんだけど。

「すっきりしました。尚文様。ありがとうございます……薬を塗ってくださるのですよね」
「んー……」

 言葉に困る。ラフタリアやフィーロは贔屓目なしに美少女に分類されるけれど、アトラはそれとは系統の異なる美人だ。
 幼い外見なのに、ガラス細工の様な繊細さがあるというか……。
 フォウルがなんか涙している。

「うう……アトラがこんなにきれいになって」

 お前は娘が嫁に行く前夜の父親か!

「どうやら経過が良いみたいだ。薬は必要ないな」
「そうなのですか?」

 目が見えないアトラは自分の顔に手を当てる。

「デコボコではなくなっています」
「みたいだな」
「尚文様のお陰です。ありがとうございます」

 アトラはペコリと頭を下げた。

「気にするな」

 馬車の隙間から別の奴隷が覗き見ている。小声で美人だと言っているのが聞こえてくるな。
 まだ完全に治ってはいないけど、やがて完治するだろう。さすがはイグドラシル薬剤。効果はばつぐんだ。

「と言う訳だフォウル、わかっているな」
「……ああ」

 俺の言葉に我に返ったフォウルは悔しそうに頷いた。
 病弱な妹をここまで治したんだ。馬車馬のように働いて貰うぞ。

「尚文様」
「なんだ?」
「何かお話をしてください……これから行く村にはどんな事が待っているのですか? ラフタリアさんも教えてください」

 馬車の旅ですることと言ったら魔物の素材の加工と薬の調合、後は魔法の勉強だが、今はそれもする事が無い。
 まあ、良いか。

「俺にコキ使われる地獄の様な日々が――」
「ナオフミ様!」

 ラフタリアが五月蠅いな。
 ちょっと脅かしてやろうと思っただけなのに。
 こういう悪ふざけを嫌うんだよな。ラフタリアは。
 まあ、今までの俺が原因な様な気もするが。

「ちっ! そうだな……」

 俺はアトラに村にいる連中や、これから何をするのかをラフタリアと一緒に話をする。
 些細なことではあるけれど、病弱な女の子が元気になったと思うと、薬の調合を覚えて良かったとも思う。


「今帰ったぞー」

 もうすぐ村だからと勝手に爆走したフィーロの洗礼を受け、ぐったりとした奴隷たちを連れては村に到着した。

「あ、おかえりー、先に着いてたわ」

 ……先にサディナが到着しているのはどう言う事だ?
 正直予想外だ。まさかフィーロより早いとは。

「早いな」
「むー……フィーロが本気だったら早く着いたもん!」
「何を張り合っているんだ」

 フィーロがサディナを忌々しそうな目で睨みながら呟く。
 乗り物としてのプライドか?
 余計な事を……サディナは乗り物では無いがな。
 大体こっちは病人と不慣れな奴隷共を沢山乗せているんだぞ。
 本気を出されたらそれこそ困る。

「お兄様、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……大丈、うぷ――」

 意外な事にアトラは乗り物酔いに強いようだ。
 ま、病人がいるのに爆走したフィーロには後で説教だな。

「ここが……尚文様の村なんですね」

 アトラは目が見えないのに、村を見渡す。

「目が見えるようになったのか?」
「いえ、ですが気配で……」

 そういや前々からそんな事を言っていたな。
 目が見えなくても不便じゃなさそうなのが凄いな。
 ていうか、気配って……。

「良く帰ったな。私も色々と報告したい事が山ほどあって待ちわびたぞ」

 女騎士が、メルティを連れてやってくる。
 そのメルティは頭から煙が出る位怒っている。
 またヒステリーを起こしたのか。

「近いうちにナオフミの所へ行くってフィーロちゃんに言っておいたのに遠出してるってどういう事よ!」
「ああ、そういえばそうだったな」

 すっかり忘れていた。
 そういえばメルティが近々遊びに来るんだったか。

「村に来たらナオフミは出かけているしフィーロちゃんはいないしで、何しに来たのか分からなくなったじゃない!」
「悪い悪い。で、いつ帰るんだ?」
「待たせた挙句、帰る事を先に聞くって失礼にも程があるんじゃないの?」
「だってお前、姫じゃん」
「姫だからなんだってのよ!」

 人間至上主義の国の次期女王が亜人の村を来訪ってのはどうなんだ?

「ちゃんと母上からのお達しなの」
「ああ、そう言う事ね」

 あの女王、メルティと俺をくっつけるのをまだ画策しているのか。
 まあアイツの立場からすれば盾の勇者を取り込むのは上策なんだろうけどさ。

「で、いつまでいるんだ?」
「ずっとよ! 母上が、ナオフミの領地経営を手伝って来なさいって私を派遣したの! 将来の為に村や町の経営を学んで来なさいって……面倒な事を押し付けたの」
「お前の親っておかしいよな。頭が」

 父親も母親も。
 この年で領地経営を覚えさせるって、年齢の割には姉よりも優秀なんだろうけど、どうかしてる。
 いや、亜人共を急成長させてコキ使っている俺が言えた義理では無いかもしれないが。

「うるさいわね! わかってるわよ」
「まあいいや、お前はフィーロと遊んで来い」
「なんでよ! 話聞いてた?」

 聞いた結果の結論なんだが……まあいいや。
 話をするとまた騒ぎそうだから、メルティ対策を取るとしよう。

「さあフィーロ、メルちゃんと遊んで来い」
「はーい」
「ちょ、フィーロちゃ――私はまだ、ナオフミと話が――」

 と、メルティが暴れながらフィーロに連れ去られて行った。
 これで静かになるだろう。
 やはりメルティにはフィーロが一番だな。

「イワタニ殿はもう少しメルティ王女に優しくしたらどうだろうか?」
「俺とあいつの距離感はこんなもんだよ。あいつ、気が強いし」
「そうなのか? イワタニ殿がいないと聞くや、すごくがっかりしていたぞ」
「フィーロがいないからだろ。あいつの親友だぞ」
「そうは思えないのだが……まあここから先はメルティ王女の頑張り次第か」
「何を言っているんだ?」
「気にするな。それよりも報告がある」
「あの女とガキがついに問題起こしたか?」

 ラトと谷子だ。
 俺が長期で村を空けた隙に何かすると踏んでいる。

「いや、そっちは大人しい」
「そうなのか?」
「楽しそうに魔物と遊んでいるよ」
「仕事しろ!」

 大人しい方向性が間違っている!
 遊んでいるってどういう事だ!?
 まったくアイツ等は……問題は起こさないけど何もしないのと同じだぞ。

「で? 問題ってのはなんだ?」
「ああ、あの女も若干関わる事になるのだが、ちょっと倉庫に来てくれ」
「何があるんだ?」
「良いから来い」
「あ、ちょっと待った」

 俺は馬車を降りた奴隷たちを見てから、村の奴隷を呼ぶ。
 そして、穴から出てきたイミアに手招きする。それ、巣穴か?

「イミア。お前の知り合いって奴を連れて来てやったぞ」
「え? あ、おじさん!」
「おー本当にイミアじゃないか。大きくなったな」

 イミアと同族の連中が再会を喜んでいる。

「ありがとうございます! 盾の勇者様!」
「え? 盾の勇者だったのか!?」

 そういや話してなかった。
 イミアの同族が深々と頭を下げてる。
 偉くなったな気分。偉いからどうだってのもあるけど。

「お前らには色々と細かい作業を教えて行きたい。頼めるか?」
「この命に代えても恩に報いたいと思います」
「……故郷がシルトヴェルトなのか?」
「いえ? 違いますが……盾の勇者様の伝説は有名ですし、噂は耳に入っております。それにイミアにも会わせてくださいました」
「住み心地がいいかは分からないが、少しでも良い場所にさせたいと思っている。その為に頑張ってほしい」
「はい!」

 これで手先が器用な者もある程度確保できた。
 何を覚えさせるかは後で考えよう。

「じゃあ新しく来た奴隷共は全員自己紹介をして親睦を深めておいてくれ、早く村に慣れるように」

 各々がガヤガヤと自己紹介を始める。村もかなり賑やかになってきたなぁ。

「あの、私たちは何処に住めばよろしいでしょうか?」

 水生系の連中が尋ねてくる。
 確かに、普通の村? キャンピングプラントの家じゃ、こいつ等住みづらそう。

「お前等はサディナと一緒に海の近くで生活してくれ」
「あ、はい……」

 イルカとタコみたいな獣人は素直に頷く。
 ああ、盾の勇者と知って驚いているのか。

「手先が器用らしいな。お前等にも仕事を近々振るが、自身の身を守れる程度にLvも上げて貰う」
「分かりました」

 タコっぽい獣人は手で頷いて海の方へと何本もある足で歩いて行く。
 イルカの方……良く見て無かったけど、身長はサディナと比べると小柄だ。やはり丸い。
 年齢の問題か? 昔のラフタリアくらいしかない。
 性別は聞かない方が良い気がする。オスだと思ってメスだったらいやだなぁ。
 女性率が高くて困るし、知らないなら知らない方が良い。あえて聞く必要もない。

「フォウルとアトラはー……」

 あの兄妹は……っと、フォウルがアトラを背負ってキールたちに自己紹介をしている。
 フォウルが凄くイヤそうな顔をしているけどアトラは親しげに新しく出来た友達と楽しげに話をしている感じだ。
 ……フィーロとメルティは何処まで行ったんだろうか?
 ここで自己紹介をしなくてどうするんだ?

「またせたな」
「ああ、しかしイワタニ殿の活動を見ているとこちらも頑張ろうと思えてくるから不思議だな」
「そうか?」
「そうだ。みんなで村を良くして行こうという意識が伝わってくる」
「そんなもんかねー……」

 効率主義で来ているつもりなんだがなー……。

「無意識にそう言う事が出来る奴は珍しい。イワタニ殿は本当に勇者なのだな」
「褒めたって何も出ないぞ。それに俺は打算で動いている。奴らを喜んで働かせて上前を撥ねているだけだ」
「フフ……お前のお気に入りのラフタリアが自慢する訳だ」
「は?」

 何を言っているのか全然わからん。
 こいつは人と話をしているのか?

「で、報告ってなんだ?」
「先ほども言ったが倉庫に来てくれ、ラトも待っている」
「は?」

 ラトも一緒って何だよ?
 とりあえず俺は案内する女騎士に続いた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ