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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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自主性

 村に帰った俺は伝令役の女騎士に錬の話を伝えた。

「ふむ……どうやら剣の勇者は相当な甘ったれのようだな」

 ベキベキと拳を鳴らしながら女騎士は答える。
 錬の気持ちもわからなくもないが、ヘタレてたもんな。

「事前知識で勝てる戦しかしないとは……それで自らの非を認めないとなると、甘いにも程がある」
「ま、そうだよな」
「是非捕まえたら私が直々に教育を施したい次元だ」
「……身の程知らずって言葉を知るべきだぞ?」
「何を言う。勝てないかもしれない戦に行く事など騎士にとっては当たり前の事なのだぞ?」

 まあ、普通はそうかもしれないよな。
 弱い相手の力量を知っているから戦うって、ただの蹂躙でしか無い訳で。
 ネットゲームでは当たり前だが、現実でやられたらたまったもんじゃない。
 要するにいざ強敵が現れた時、アイツは俺より強いから逃げる、とか言い出しかねない。
 冗談でもそういうのは困るだろう。色々な意味で。

 この国も長い事平和が続いていたと言っても小競り合いや魔物の討伐とか色々と問題はあるようだし。
 女騎士も霊亀の戦闘に参加している手前、言うだけの資格は十分あるか。
 地味に強いんだよな。華は無いけど、ラフタリアに剣を教えるくらいには戦闘慣れしているというか。

「分かった。女王には伝えておこう。他に留守中の事で聞きたい事はあるか?」
「そうだな……ラトはどうだ?」

 目下、一番注意しないといけない奴がアイツだ。
 態々戦力を集中させて、隙を作った訳だし、何かするには十分な時間があったはず。

「言われた通り影と共に監視していたが、案外大人しいぞ、あの女」
「水面下で何かをしている様子は?」
「無い」

 む……泳がせてみたら何かをするかと考えていたが、思いのほか従順だ。
 可能性としてはフォーブレイのスパイとも思ったが、今の所その様子は無いな。

「時々、なんだったか……キャタピランドを可愛がっている子と口論をしているが、些細な事だ」
「それは俺がいる時にもやっていた」
「内容も意見のぶつかり合いのようだし」

 そうそう、ラトと谷子の口論の内容は大体同じだ。
 谷子は魔物自身がLvを上げて、自らの能力を向上させれば良い、改造は不要と主張し、ラトがそれで上げられないほど資質が低い魔物はどうするんだと反論する。

 そしてラトが魔物自身に強くなるかを尋ねるしかないと答え、そんなのフィーロじゃないんだから答えられるはずがないと谷子が反論する。
 答えられるように知能を上げる改造を……って所で谷子がキレて最初に戻るんだよな。
 堂々巡りになっているのを理解して尚、ラトは谷子の相手をしている。谷子もラトの伝えたい事を理解している所があるっぽい。

 稀に、息が合ったように長々と楽しげに話している時がある。
 ……ラトの改造か。

「ま、とりあえず見に行くか」
「私たちは何をしていましょうか?」
「そろそろ行商組を大々的に出す予定だから、候補者の教育をしておいてくれ」
「分かりました」
「フィーロは?」
「俺はラトの所へ行くんだぞ? 一緒に来るか?」
「やー!」

 ラフタリアは村の連中に指示を出しに行き、フィーロは走って行ってしまった。
 ま、苦手にもなるか。
 フィーロって初対面で悪い印象を持った相手に近寄らないし。

「あの……」
「ん?」

 イミアがおずおずと様子を見るように俺に話しかけてくる。

「どうした?」
「服を作ってくださった方に教わって……作りました」

 そうして渡されたのは手袋だった。
 素材は魔物の皮、サイズは俺の手にフィットしそうな大きさだ。

「勇者様、薬を作る作業中にお怪我をなさらないようにと……」
「ああ、ありがとう。お前は気が利くな」

 上手く出来ている。
 器用な種族と言うのは本当なんだな。

「村には慣れたか?」
「あ、はい」
「不便な事があったら報告しろよ」
「はい……」
「……何かあるのか?」

 イミアは下を見ながら頷くので気になった。

「地面を掘って良いですか?」
「……それでお前の生活環境が快適になるのなら良いぞ」
「ありがとうございます」

 一見するとモグラだからな。
 キャンピングプラントの仮設住宅じゃ不便だったのかもしれない。

「なんならデューンに命令しても良い。好きな穴を作ると良い。もちろん、掘る場所は考えろよ?」
「はい!」

 大人しくて聞きわけが良い子だ。
 キールとは雲泥の差だな。

「へくし!」

 キールがくしゃみをしている。偶然って怖いな。
 そんなこんなでラトの研究所に向かった。
 中が広い。二階建てで、内部に運動場の様な広間があった。
 ……キャンピングプラントで何処まで拡張していやがる。

「あら、伯爵じゃない。どうしたのよ」
「経過を聞きに来た」

 ラトは一番奥の部屋で試験管に入った魔物を見つめていた所を話しかける。
 いつの間にか大きな試験管が増えていて、色々と浮かんでいる。その中にはバイオプラントの種や茎まである。

「ああ、その話ね。バイオプラントの改造は……あんまり進んでいないわ」
「そうか」
「結果が出るには数日掛りそう。バリエーションや薬草の交配を考えると難しいわね」
「無茶な要求をしたつもりだ。気長に行くさ」
「無理では無い可能性を持ってはいる分、頑張れるわね」
「期待している」

 コンコンと試験管に入っている魔物をラトはからかい出す。
 その魔物は形状こそ良く分からないが、ラトに向かって楽しげに微笑んでいるような気がする。

「なんなんだこいつ?」
「ああ、この子?」

 俺が頷くとラトが遠い目をしながら試験管を見つめる。

「何をしてもダメな子って居るものよ」
「は?」
「この子はね。前にも話したでしょ。私の研究対象だった子……」
「殺されたって言ってなかったか」
「ええ、肉体の大部分がね……辛うじて、この試験管の中でしか生きれないけど繋ぎとめられたの」

 とても辛そうに、ラトは呟く。
 試験管の魔物もそんなラトを心配するかのように試験管の中で何かを伸ばす。

「人の言葉が分かる位に知能は高い子なんだけどね……何時も強くなりたいと言うかのように頑張ってた」
「分かるものか?」
「学校の専攻でね。下位の魔物に人と同じような考える力があるのかって実験をね」
「へー……」
「魔物だって、生きる目的以外で強くなりたいと思う個体はいるのよ。この子はそう言った意識が強い子だった」

 気持ちが分からなくもない。
 俺だって弱いと言われていたけど、ここまで上り詰めた訳だし。

「私に良く絡んでくるあの子の考えはね。元々資質の高い子なら良い方法なのよ。でもね、それでも強くなれない子はいる。この子のLv、幾つだったと思う?」
「……40」
「正解。でも……いっつもボロボロになってて私が上げさせていた感じだったわ」

 可愛がっていた魔物って奴か……。
 こいつの改造に関する情熱って……そいつが中心なんじゃないのか?

「あ、勘違いしないでね。興味の始まりであって、理由じゃないから」
「そうなのか?」

 とてもそうは思えないが……。

「調べれば調べるほど奥が深いのよ。深淵に足を踏み入れたら戻ってこれない程にね」
「ほー……」
「伯爵に取り入る時、過激なPRしたけど、本気で嫌がる子に改造はしないわ」
「どうだかな」

 こう言う奴に限って、隠れて勝手な研究を始めると昔から相場が決まっているんだ。
 俺は信じないぞ。

「ダメだったら!」
「ん?」

 声に振り返ると谷子がキャタピランドが来ないように扉で攻防をしている。

「何してんだ?」
「この子が勝手にババアの所に行こうとするの!」
「……は?」

 俺はラトの方を見ると、ラトは谷子が邪魔しようとしていたキャタピランドに近寄って撫でる。
 するとキャタピランドはラトにすり寄って大人しくなった。

「伯爵の所の子は素直で……頭が良くて向上心が強いわよね」
「むー……ダメだからね!」
「この子の自由にさせてあげなさいな」
「ダメったらダメなの!」

 何を言い争っているのだろう?
 どうも焦点が見えてこない。
 いや、なんとなくだけど理解は出来る。
 あのキャタピランド、ラトに懐いていて、谷子の制止を振り切って近づこうとしているのか。

「私がこのジャンルの研究を続ける理由ってね。技術を習得してから、こうして人が飼っている個体や野生の魔物が近づいてくる子がいるのよ。まるで私に期待するかのように」

 そんなゲームみたいな事があってたまるか。
 ……とは思うが、実際に見せられたら俺だって信じたくもなってくるな。

「ま、ドラゴンとかフィロリアルには嫌われるんだけどね。基本的には嫌われるし、でもここの魔物はほとんど私を嫌わないわ。なんだかんだで伯爵の影響が出ているのね」

 そうなのか?
 俺の配下の魔物って奴隷と同じく上昇傾向が強いのか……?
 盾の影響か、それとも偶々そういう魔物が固まったのか。
 卵の多くはキール達が拾ってきた奴だから、何か他と違うという可能性もある。

「この子は自分で自分の道を選んだのよ」
「でも……うー……」
「とは言っても、資金や機材が揃ってないからお預け、帰りなさい」

 すり寄られるラトはキャタピランドに帰るように指示を出す。
 渋々、キャタピランドは谷子に連れられて魔物舎に帰って行った。

 そう言えばあのキャタピランド、確かキールが大怪我した時に運んできた奴だったか。
 あのキャタピランドがキール達を運んだお陰で一命を取り留めたんだとか。
 鈍足のキャタピランドのはずなのに……。

「私の見立てだと、あのまま育てても限界は近いわ……あの子は、もっと強くなりたいと願っているのでしょうね」
「分かった」

 魔物自体の自主性を重んじると……あのキャタピランド、俺が制限を掛けているのを嫌がっているとも取れる態度だ。
 強くなりたいと言う欲求か。魔物にもそういうのがあるんだな。
 フィーロはフィロリアルと言う強い魔物だから谷子の方針を望むという感じか。

「お前の研究って具体的にはどんなものがあるんだ?」
「そうねぇ……企画段階の物なら色々とあるわね」
「例えば?」
「乗り物型の魔物ね。船を背負った水生系の魔物が海を渡るようなイメージで良いわ。なんかこの計画書がバレて異端審問されたんだけど」
「その場合、船を魔物で引けば良いんじゃないのか?」
「魔物で作った船に乗る事に夢があるんじゃないの」

 うー……ん?
 古いRPGとかで大きなドラゴンの背に乗って移動するものがあったけど、それに近いのか?

「飛竜でやれば?」
「ドラゴンは嫌いなの!」

 むー……良く分からない理屈をコネやがって。
 効率が良いならそれでもいいじゃないか。

「お前の好みじゃないか」
「飛竜だと大量に荷物を運べないでしょう」
「それなら大きなドラゴンを使うとか……」
「ドラゴン以外でも出来るようにさせたいのよ。新種の創造!」

 先ほど、魔物の自主性を優先した癖に、新種を作りたいのか。
 ドラゴン嫌いって何があった?
 いや……そういう風に改造する方向を考えているという事だな。

「後は、武具タイプの魔物の創造」
「お?」

 何やら面白そうな計画だ。
 俺は盾の所為で装備できないかもしれないが、ラフタリア達が装備するには良いかもしれない。

「勇者の武器の概念を取り入れた成長する武具……なんだけど、こっちは現実味は無いわね。色々と難しいし」

 誰しもが考えつきそうな量産性のある勇者の武器の作成……なのだけど、現実味は無いのか。
 確か模造品でさえも多大の魔力を使うとか言っていた。
 そんな簡単に作れたら苦労しないって奴だな。

「核の作成がネックなのよ。武器の形をした魔物ってのもね。血を吸う魔剣とかを参考にしようとは思ったけどねー……魔物の意志とか問題あるし、制御が難しすぎ。堅実に行かないとね」
「面白い企画ではあるが、金が掛りそうだな」
「そうなのよ。だからまだまだ先、バイオプラントの改造はその辺りの解析に役に立ちそうなのよ」

 結局、ラトの研究が完成するには更なる経験と多大な資金が必要なのだろう。
 この辺りは俺に取り入って正解って所か。
 以前もフォーブレイってバックがいた訳だしな。

「そんな訳でやってほしい改造があったら教えてね♪」
「はいはい」

 あんまり進展は無いな。だがラト自身の評価は上がった。
 強さを求める魔物に好かれる狂った錬金術師という所がな。
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