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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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ゲームが終わった日

 カルミラ島から帰還し、城での出来事の後、隣国の波を問題なく鎮めた……後の事。

「次はメルロマルク本国の波ですね!」
「その前に、さらなるパワーアップだ!」
「は?」

 元康はそう言うと、寄り道とばかりに、霊亀の眠る町へと向かった。

「平均60Lvあれば余裕だからさ、ここに眠る奴から出る素材や武器がすげー優秀なんだよ」

 そんな感じで気楽に、そう……本当に気楽な様子で元康は霊亀の眠る町の近くにある廃寺へと足を運んだ。
 廃寺とは言え、時折人の手が入る。あくまで管理された寺だ。
 元康はその寺に隠された仕掛けを知っているかのごとく、容易く解いた。
 エレナはその仕掛けを詳しく見ていないので、それ以上は分からないそうだ。
 で、元康はその寺の下に安置されていた像に近づいた所で管理していた住人が駆けつけてきたという。

「貴様等、何をしている!」

 住民も知らないこの隠し施設、そこに管理していた住民兼兵士が武器を構えて威嚇する。

「何者だとは失礼ね。槍の勇者であるモトヤス様よ!」

 ビッチがここぞとばかりに名乗りを上げた。

「な……槍の、勇者だと!?」
「ああ、悪いな。ちょっとしたイベントをクリアするつもりだ」
「まったく、今日は厄日だ。ここにも侵入者が居るだなんて!」

 エレナはこの時の台詞を強く覚えていると俺に教えた。
 ここにも侵入者……。
 普通に考えてその場所以外でも侵入者が騒ぎを起こしているという事だ。
 状況的に錬と樹か。

「とにかく、早く出て行ってもらおう!」
「そうは行かねえよ。イベントだとここのボスを倒さないと大変な災害が起こるんでね」

 と、元康はアッサリと像を破壊した。

「お、お前等!」

 兵士達が激昂した。
 そりゃあ、歴史的遺産である事も然ることながら、そこに無断で侵入した揚句、勇者を語る不届き者とくれば誰でも怒だろう。

「さーて、ボスのお出ましだ」

 ……。
 …………。
 ………………何も起こらない。

「あれ?」
「とにかく、来て貰おうか!」

 兵士達が元康たちを連行しようと取り囲んだ。

「無礼者が!」

 ビッチが叫ぶ。
 元康も首を傾げながら、ビッチを抑えて、事情を説明しようと口を開いた。

「いやな、この像は封印でな、早く解かないともっと大変な事が……」

 と、そこで地響きが起こり、全員よろめく。

「な、なんだ!?」
「うし! どうやら出てきたようだ!」

 元康は駆け出して兵士たちを振り切り、廃寺を出る。
 そこには地響きを立てて霊亀が……町と山の下から立ち上がる瞬間だった。
 ビッチやエレナはその光景に絶句した。
 あんな化け物と戦うのかと。

「見た目はああだが、大丈夫、見かけ倒しだ! いくぞ!」
「はい!」
「行きますわ!」

 と、全員で霊亀に向かって駆け出す。
 そこからが、崩壊の始まりだった。
 霊亀が使い魔を召喚し、辺りの命を刈り取ろうとし始める。
 それを阻止しながら、元康とビッチ達は走り続けた。
 やがて霊亀の顔にまで到着。

「いくぜ! イナズマスピアー!」

 と、元康が必殺技を放った。
 しかし……甲高い音と共に霊亀の顔にわずかな傷を与えるだけ。
 しかも、その攻撃も即座に修復されてしまう。

「あ、あれ?」

 霊亀の使い魔が群がってきて、それを迎撃する。
 のだけど、一向に霊亀を倒せる様子が見えない。

「ねえ……」
「まさか……」
「いやいや……」

 と、ビッチとエレナ、女2が囁き合う。
 極めつけは、霊亀が元康を無視して歩いているという事だ。脅威でも何でもなかったという扱いだったのだろう。
 俺の時は必死に必殺技や重力の魔法をぶっ放していたものな。
 使い魔でも組みふせるとかそんな扱いか。
 まあ、爪楊枝で人間を倒せと言っているようなものだものなぁ。よくラフタリアとフィーロであそこまで傷を負わせられたものだ。

「よ、よし! みんな、俺がこいつを引きうけるから魔法で援護してくれ! いくぞ!」

 やああああっと掛け声を出しながら走り出す元康にエレナは即座に見捨てて逃げ出した。
 わき目も振らずに逃げたので、ビッチや女2とははぐれてしまったそうだ。
 その後は、霊亀の進軍から逃げ切り、騒ぎが収まったのを確認して実家に戻った。

 母親は娘が生きていた事を喜び、やはり冒険者は危ないと家業を継がせる事を決めた。
 父親とは会ってから話をすれば良いって、母親は娘の生還を優先したらしい。
 もしも下手に国へ報告しようものなら重罪で殺されかねないと……結局は父親のコネもあり、司法取引みたいのに応じて、元康が来たらそれとなくおびき出すという話になった。
 という事が顛末だとエレナは語った。


「その話が本当だったとして、不可解な点が多いな……」

 まず霊亀を倒さないと災害が起こる、という話だ。
 何かを知っているみたいだが、霊亀以上の災害が起こるって事だろうか?
 だが、60Lv前後で倒せると公言した霊亀に事実上敗北しているんだよな。

 なんとなくバイオプラントの時に似ている。
 飢饉で困っている村をバイオプラントの種で救うまでは良かったが、結果として被害を出している。
 そう考えると元康の言う『身の潔白』という言葉に繋がる。

 となると霊亀……この場合青い砂時計に関わる何かを元康は知っているんじゃないだろうか。
 それに間接的な情報とはいえ、現場に錬と樹が居た可能性が強くなってきた。
 仮にゲーム知識を持っている三人が同時にあの場にいたのだとしたら、何かある事を前提に動くのが無難か。

 問題はその元康が多くを語らない事だ。
 今までの流れから錬や樹も秘匿癖から知っていても言わないかもしれない。
 ……また後手だ。今までと同じく情報が断片的過ぎて判断できる段階に無い。

「まさかあの化け物相手に生きていたとはね。驚きよ」
「それを倒した俺に言うのか?」
「ああ、そう言えばアレを倒したの貴方だっけ? 本当に凄いわね。失敗したわ。あんな底辺から這い上がってくるなんて……取り入る相手を本当に間違えたわ」

 はぁ……とエレナのため息が重たい。
 正直打ん殴りたくなる程のビッチっぷり。
 ここまで来ると逆に清々しいから不思議だ。

「ま、モトヤス様には色々と物は貰ったし、Lvも上げてもらったから良いでしょ。家業の手伝いっていう面倒な仕事さえ我慢すれば良いし」
「お前な……」
「なんか冷めた方ですね。お会いした時はもっと熱い方だと思っていたのですが……」
「んー?」

 なんだそれは。
 どうもフィーロは最近、変な口癖がついて来ているな。

「そんな訳で、一応また来たら通報するけど、あの様子じゃ無理そうね」
「まあなぁ……ついでにビッチが何処に行ったかは分からないか?」
「知らないわね。ああいうタイプはしぶといから死んではいないと思う」

 元康は捕まえ辛いし、ビッチも消息不明か。
 協力した手前、罰するのも……という所か。

 つーか私たちは勇者に従っていただけで私は知らなかったんです!

 とか主張すれば裁くに裁けないという事か。
 ま、それでも無理に裁けるが、女王もそこまで鬼じゃないか。

「分かった」
「後はそうね。あの能力は厄介よね」

 転移か……確かに。
 あんなスキルを使われたら牢屋の意味がない。
 捕えるにはゲームで言う所の沈黙とかの状態異常にさせなきゃ難しい。しかも永続的でないと治療した瞬間逃げられる。
 こりゃあ捕縛は困難を要するぞ。

「時々使っていたのよね」
「どんなスキルなのか分かるか?」
「そうねー……槍の勇者の仲間を全員入れても問題なく使っていたわ」

 4人でも平気か。ますます厄介なスキルだな。
 部隊単位の転送が可能かどうかもあるけど……。
 クールタイムとかそう言った制限も解析しなきゃならないし、何処へ飛ぶのかも知らないと。

「場所は? 何処へいけるとかそんな話は聞いてないか?」
「それこそ行きたい場所なんじゃないの? そこまでは知らないわよ。ただ、馬車での移動もあるから万能じゃないのでしょうね」

 一度行った事のある場所なら何処でもなのか? いや、さすがにこの手のスキルには制限があるはずだ。
 エレナの話では場所固定では無いようだし、とりあえずは女王に報告だな。

「分かった。協力には礼を言う」
「良いわよ。別に……ああ、そういえばなんか大きく商売始めたらしいわね。噂が来てるわよ」
「まあな。金を稼がなきゃやってられないからな」
「近々そっちへ物を売りに行くかもしれないわ……面倒だけど」
「物によるな。後、ホントお前は面倒くさがりなんだな」
「分かっているでしょ。私は楽がしたいの」

 元康はこの女の何処に魅力を感じていたのだろうか……ビッチもそうだけど理解が出来ない。

「なんか、凄い人ですね」

 ラフタリアはエレナとの会話を聞いてそんな感想を述べた。

「こうはなるなよ。ラフタリア」
「なりませんよ!」
「フィーロ走りたい」

 いきなり何を言っているんだ?
 ていうか、フィーロは完全に眼中にない感じだ。
 暇……なんだな。

「じゃあな」
「ええ、さようなら」

 エレナは深くため息をすると、また受付に座って頬杖を突いて暇そうにしだした。
 なんとも怠け者な奴。
 そんな感じで、元康の捕縛は失敗に終わった。
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