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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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解雇の理由

 元康は青ざめながらリーシアから聞いたという話を答えた。

「最初は何で泣いているのかって心配になってちょっとしつこいかなって位声を掛けたんだけど……悪い……俺……そういう状態の子……苦手なんだ。だから頼めないか?」

 俺は元康の言葉を最後まで聞いていなかったと思う。
 考えてみれば元康は痴情の縺れで死んでこの世界に来たんだった。
 病的な子が苦手なんだろう。

 ギャルゲーとかのジャンルでいう所のヤンデレ?
 俺の世界にもそういったギャルゲーがあった。
 バッドエンディングの方が有名だったけどな。
 それに至るまでの行程にある、付きまとい状態に近いリーシアの話を聞いてトラウマか何かが刺激されたんだな。

 だが、問題はそこじゃないだろ!

 話を聞く限り、リーシアに全くの非が無い。
 むしろ犯人は別に居てリーシアを嵌めたのを知っている。
 俺は冤罪が大嫌いだ! 許そうとも思えない!
 だからこれは俺個人の怒りで樹を問い詰めている。


「頼み込むのが無理だと知ったら他の勇者に告げ口ですか……それで僕が仲間に戻すと思っているのですか?」
「リーシアは俺に何も言わなかった。女好きで手馴れている元康がやっとの事で聞き出したんだよ!」
「話した事は事実です。リーシアさんは嘘を吐いていました。どうやら助けた恩を忘れて僕を利用しようとしていたようですからね。当然の結果です」
「コイツ等が嘘を言っているとは思わないのか!」
「まったく……僕が信頼した仲間の方が嘘を吐いていると? ありえませんね。むしろリーシアさんは日が浅いですから……皆さんのいう事が真実なのですよ」

 コイツ……俺が何も知らないと思って、適当な事言ってやがるな。
 こっちはここに来る前に情報を探ってあるんだ。
 冤罪で貶められた俺が証拠も無しに感情だけで行動する訳にはいかない。
 リーシアが本当に犯人ではなく、そして真犯人が誰かまで割り出してある。
 まあ……影に聞いただけだが。

 結果、犯人は仲間だったそうだ。
 仲間内の揉め事に対しても影は樹に進言したらしいが、樹は影の話よりも仲間の方を信じた。
 そういう問答があったという内容まで裏を取ってある。
 ここまで来たら、後は攻めに転じるだけで良い。

「なんと言おうと証人がいるんだ! それもお前等と関わり合いの無い、客観的視点で話す第三者だぞ。そもそもお前の仲間が現行犯を捕まえない方がおかしいだろ。そこはどうなんだよ!」
「そこまで調査済みですか……しょうがありませんね。全ては彼女の為です。彼等は彼女に自分から言い出す猶予を与えたに過ぎません。彼等はあえて悪になる事でリーシアさんを戦いから遠ざけようとしてくれているのです」
「ちょっと待て。何の話をしているんだ?」
「リーシアさんを僕の仲間が悪役になる事でパーティーを抜けてもらう事ですよ。仲間想いじゃないですか」
「……?」

 何を言っているんだ?
 理解が追い付かない。
 もしかして陰謀だったのか? 抜けてもらう為の名目!?

「はい。リーシアは戦いには向いていない。皆で話し合って故郷で幸せに暮らした方が良いと決めたんだ」
「ええ、そうです。これは全てリーシアの為」

 仲間が樹の言葉に便乗しているが、何良い話に持っていこうとしているんだ。
 その過程でリーシアが謂れの無い罪を付けられているじゃないか。
 この状態で実家に帰ってみろ。なんて言われるかわかったもんじゃないぞ。

 つまりだ。
 樹としてはリーシアを解雇したかった。だけど一歩も引いてくれないリーシアに困っていた。
 それを仲間が汲み取って罪をでっち上げたって事か。
 完全に冤罪じゃないか。
 仲間想い? ふざけやがって。
 自分が傷付く覚悟が無い癖に相手にそれを強要したんじゃないか。

 ゲームじゃないんだぞ!

 そりゃあゲームだったらあっさり抜けてくれるだろうさ。
 コイツはコンシューマーだったらしいからな。
 仲間=NPCとでも思っているんだろうよ。

 完全に呆れながらリーシアの方を見る。
 すると今にも泣きそうになるのを堪えたリーシアが黙って樹を見つめていた。

「正直な所、リーシアさんは僕の仲間の中でも少々浮いていたというか……無理に危険な戦いに身を投じるよりも平和な所で幸せに過ごして欲しいんですよ」
「適当な事を言いやがって! コイツの気持ちや立場はどうなるんだよ!」
「そうは言いますが世界を救う戦いは想いだけではどうにもなりません」
「ならなんでそれを最初に言わずに追い出した!」
「では言いましょうか、戦力的に彼女は厳しいんですよ。育てれば変わるかと思いましたが、これだけ上げても変わらないのなら、故郷に帰った方が良いでしょう」

 ああ言えばこう言う。
 要するに自分達は悪くないと自己弁護しているんじゃないか。

「じゃあどうして素直にそれを言わない。自分が悪者になるのが怖いのか?」
「違いますよ! アナタはどうしてそうも短絡的なんですか」
「自分の為に他人を嵌める奴が思慮深いと言うならそうなんだろうよ」
「ですが戦力的に彼女はこの先厳しいんですよ。僕等は涙を呑んで心を鬼にしているんです」
「そうしたのはお前だろうが! 他人の人生をなんだと思ってやがる!」

 見た感じ、魔法の資質の方があるだろうが!
 にもかかわらず近接を要求してクラスアップさせたらどっちつかずにもなる。
 役に立たないから捨てるのが確定していたんじゃないか。で、理由を作ったって事か。
 ふざけやがって!

 素直に言った方がまだ理解してくれただろうよ。
 結局、自分が悪者になるのが嫌だっただけじゃないか。

 これは俺の時と全く同じだ。
 結果が既に決まっていて、嵌めたんじゃないか。しかも樹も結託している。

「丁度良い機会です。僕はリーシアさんとはやっていけません。正直、アナタは弱いんです」

 この言動だと初めて言ったな。
 つまり、ここまで事態が大きくならなければ本音すら言えないんじゃないか。
 しかも自分が責められていると感じているから、その原因であるリーシアを悪と認識してやっと言えたって所か。

 何が正義だ。とんだ偽善と独善だな。
 これならまだ奴隷商や詐欺商の方がマシだ。
 アイツ等は自分が悪いと思ってやっているからな。
 それも言う時は言う。
 その時その時の気分で動く奴よりは何倍も良い。

「――っ」

 樹の言葉にリーシアは声にならない声を漏らして走り去っていく。

「リーシア!?」
「気を引こうとしているだけですよ。さあ出て行ってください!」
「お前って奴は……また冤罪を繰り返すつもりか!」
「いつ僕が冤罪を掛けたというんです!」
「忘れたとは言わせないぞ。ビッチの件と成りすましの件だ」
「ビッチさんの件は僕と関わり合いがありません」

 何が関わり合いが無いだ。
 正義面して責めてきた癖に謝罪の言葉も無いだろう。

「成りすましの方は、まだアナタが犯人では無いと決まった訳ではありません」
「気が付いてなかったのか? 犯人なら見つかったじゃないか」
「はぁ!? 適当な事を言わないでください!」
「その態度は本当にわかっていないみたいだな」
「はぐらかさないでください。犯人が特定出来ているなら言えばいいじゃないですか」

 はぁ……てっきり、コイツは犯人……というか組織を糾弾して女王から謝礼でも貰っていると思っていたが違っていたみたいだ。
 あれだけ目の前でポコポコと自分は犯人ですよと主張していたのにな。

「三勇教会だ」
「何を言っているのですか? 頭は大丈夫ですか?」
「樹、お前、実はあんまり頭良くないだろ?」
「くっ! どうしてそうなるんですか!」

 俺も自分が頭が良いとは思っていない。
 むしろ悪い位だ。
 頭が良ければビッチに騙されていないだろうし。
 勉強も並だったし、親にも見捨てられていたからな。
 そんな俺ですら解る犯人がコイツはわからないのだから相当だろう。

「教皇が持っていただろ。弓に変化させる武器を」
「あ……」

 やっと気が付いたのか、唖然としている。
 教皇は個人的に弓の勇者を嫌っていたからな。理由としては十分だ。
 そもそも俺が教皇と初めて会った日に、コイツは俺を責めて来たよな。
 教会の目の前で。
 今考えると、どんだけ道化なんだ。コイツ。

「そ、それとこれとは関係ありません!」
「樹、お前……!」

 どこまで自分本位な奴なんだ。他人の心など微塵も考えていない。
 怒りを通り越して呆れてくる。
 直前まで頭に上っていた血がサーっと冷めていく。
 ビッチに冤罪を掛けられた時に感じた物と似ているとも思ったが、違う。
 これは……。

「そうか、正義感が強くて、問題はあるが勇者としてはまともな奴だと思っていたが、この程度だったか。期待はずれも良い所だ。お前にはガッカリだよ」

 蔑みの目線を向けながら部屋を出る。
 聞いた事がある。
 好きの反対は嫌いでは無い。無関心なのだと。
 ともすれば嫌いの反対も無関心という事になる。
 俺にとって、もはや樹は興味の範疇から消えた。
 興味の無い相手に怒ったりはしないだろう。

「あ、アナタにそんな事を言われる筋合いなんてありませんよ! いい加減僕に近寄らないでください!」

 樹が普段よりも更に大きな声で俺に向けて怒鳴り散らす。
 ああ、なるほど。
 賞賛願望の塊であるコイツは他者に評価を下げられる事に対してトラウマでもあるんだろう。

「知ったことか、もうお前の独善に付き合うつもりは無い。精々期待以下の本性を見破られないようにな」
「失せろと言っているんだ!」

 今にも弓を引こうとしている樹を無視して走り出す。

「調子に乗っていられるのも今のうちですからね!」

 知らんな。


 リーシアを追って甲板に上がったのだが……いない。
 まさか……。
 と、手すりの方へ駆け寄ると丁度フィーロが海から飛び出して甲板に上がった所だった。
 その片腕にはリーシアがずぶぬれで抱えられている。

「このお姉ちゃんがね。いきなりに落ちてきたの。で、沈んでったから引き上げたの」
「身投げ……」

 悲しみのあまり自殺とか……酷いな。
 元康が苦手意識を持つのが少しだけ理解できた。
 幾ら好きな相手に悪く言われたからって死ぬ事は無いだろうに。

「よくやったぞ、フィーロ」
「えへへー」

 フィーロの頭を撫でる。
 もしもフィーロがいなければ最悪の形で幕を閉じていた所だ。
 そうなると寝覚めが悪い。
 何より既に決めている事があるんだ。

「さて、リーシア」
「ゲホ! ゲホ!」

 海水を飲んで咽ているリーシアに腕を組みながら俺は言う。

「身投げをしたという事はここでお前は1度死んだという事だ。救われた命をどうする?」
「……死なせてください。イツキ様に捨てられてしまったのですから生きる価値なんて私にはありません」
「それを決めるのは誰でもないお前次第だな」
「でしたら、死なせてください……」
「お前がそう思うのならそれでも良いのだろう……だが、許さん!」

 やられっぱなしというのは俺の怒りが収まらない。

「このまま冤罪を受け入れるのか? 見返してやりたいと思わないのか?」
「で、ですが!」
「樹に『どうか戻ってきてください。アナタが必要なんです』と言わせたいと思わないのか!?」
「わ、わたしが弱いのは分かりきっていたことです……」
「誰がずっと弱いと決めた? そんなのは樹だけだ。ずっと弱いわけじゃ無い」

 現に俺は弱職と言われ、他の勇者に蔑まれてきた。
 だから見過ごすわけには行かない。

「……本当に……わたしは強くなれますか?」
「約束しよう。絶対に、お前が強いと樹に思い知らせてやる!」

 あの時、仲間から外さなければ良かった、と思わせてやる。

「だからリーシア。お前が自分で強くなる方法を見つけるまで手伝ってやる。いや、強くしてやる!」

 これは意地だ。
 冤罪で嵌められ、弱いと蔑まれる過去の自分と重なるリーシアを絶対に強くして樹を見返してやる。

「俺の所へ来い!」

 リーシアは俺が差し出した手を、戸惑いながら掴む。

「わたしの心はイツキ様の物です」
「ああ、それで良い。別に俺を信仰しろとは言わない。お前は自分の事だけを考えていれば良いんだ」

 そもそも俺はリーシアが女だからこんな事をした訳じゃない。
 自分の都合を押し付けておきながら、役に立たないと言って簡単に捨てた事が許せない。
 俺とリーシアの境遇が似ているというのもあるだろう。
 だからこそ確信を持って言える。

「お前を強くしてやる。どんな手を使ってもな」
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