夢の章 6.分かれ道
森は緑。草は青い。
暑過ぎる事も無く、風は爽やかだった。
歩く事は、思ったよりずっと気持ち良かった。
ともすれば、コナンは、自分の目的を忘れそうになっている事に気づいて愕然とした。
"チェシャ猫は言っていたっけ。
長くここにいると帰れなくなるって"
どのくらい歩いただろうか。
分かれ道にやって来た。
六分岐、いやそれ以上に道が分かれている。
その分岐点に枝の広く垂れた大きな木があった。
木の幹には、様々な矢印がついている。
しかしどれ一つ道のほうをさしている物が無い。
コナンは矢印の文字を読んで見た。
「ベーカー街221B。プライド探偵事務所。
ハムレット荘、プルトニービル、スタイルズ荘
コーシィ島、うへっ、ロウフィールド館」
まだまだ続くがコナンは読むのをやめた。
どれも探偵事務所の所在地か、殺人事件のあった場所ばかりだ。
「一体、どこに行ったらいいんだ」
さすがに疲れを感じたコナンは木の下に座り込んだ。
ふと腕時計型麻酔銃が目に留まった。コナンは考えた。
"ここは夢の中だとチェシャ猫は言った。
だったらここで眠ってしまえば現実に戻れるんじゃないか"
コナンは自分に向けて麻酔銃を発射しようとした。
そのとたん頭の上の枝が大きく揺れ逆さまに人が降って来た。
いや、ぶら下がった。
「鶯の身を逆さまに初音かな」
その人影はそう言った。
コナンは驚きのあまり声も出ない。
「アリス、さっきね、公爵に邪魔されていえなかったけど、
この世界で眠ってしまえば現実に戻れなくなるから注意してね」
「チ、チェシャ猫。眠るどころかショックで永眠しちまうところだったぞ」
コナンは,やっと口がきけるようになって,叫んだ。
"哀"は,ふわりとコナンの前に降り立った。
「きちんと,ルールは説明しておかないとね,アリス」
「アリスってねえ〜,俺の名は江戸川コナンだ!」
"哀"の黄金の瞳の中に、
何かを面白がるようなきらめきが宿ったのをコナンは見た。
「アリス、何か食べた?」
「食べる?
白乾児飲んでキノコ食っただけ。たいした量じゃない」
「なるほどね。
でもまだ"アリス"とは呼ばれたくないのね。
まあ,"江戸川コナン"も一種の夢の名前だから,まだ"持って"いるのね」
"哀"の言葉の意味を聞こうとするコナンより先に"哀"が聞いた。
「で,これからどうするの?」
「もちろん・・・を,白ウサギを探す!」
コナンは一瞬言葉が出なかった自分に、愕然とした。
"俺から何かを盗った奴。
あいつの名前は白ウサギじゃなかった。
でもそれ以外の名前が思い浮かばない"
コナンは"哀"に詰め寄った。
「おい!チェシャ猫!あいつの名前はなんていうんだ!」
「誰?」
「俺から,何かを盗っていった奴だよ」
「白ウサギ,よ。アリス。私がチェシャ猫というのおんなじで」
コナンは,まじまじと目の前の"哀"の姿を見つめた。
"そう言えば,こいつもチェシャ猫じゃなかったはずだ。
まさか,俺、忘れちまってるのか?"
コナンは身震いした。
早くここから出なければ何が本当で何が夢か分からなくなってしまいそうだ。
「おい!チェシャ猫!白ウサギはどこにいるんだ!」
うっすらとした笑顔を浮かべて"哀"は言った。
「『火と水,風と土の集う場所』。
教えてあげたっていいけど,あなたが自分で見つけない限り
あなたは決してそこにはたどり着けない」
コナンは"哀"から情報を得るのはあきらめた。
話をきけばきくほど混乱する。
コナンは,それぞれの分かれ道を注意深く観察し始めた。
そしてやっと一本の道の側で求める物を見つけた。
木の幹に小石が当たったような新しい傷がある。
木の枝の先にも最近折れた跡がある。
「多分,この道をバイクで通ったんだ」
コナンは歩き出した。その横に"哀"もついてくる。
「おい,何でついて来るんだ」
「私もこちらへ行くのよ。
三月ウサギの御茶会に招かれてるの。
『きちがいじゃがしかたない』けどね」
「おい・・まさかこの道『獄門島』に通してるんじゃないだろうな」
"哀"は笑ってコナンを追い越し、歩き出した。
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