もうすぐ、工藤新一が“やっかいな事件”を解決して戻ってきてから2度目のクリスマスがやってくる。
戻ってきて、まず最初に幼なじみの蘭のところへ行き、今までのことの謝罪と、
告白を済ませた。
ずっと好きだった、と。
戻ってきた新一に、怒りながら泣き、でも嬉しかった蘭はビックリすると同時に顔が赤くなった。
何よりも望んでいた新一が戻ってきたことだけでも嬉しかったのに、思ってもみなかった告白。
幸せで幸せで、そして恥ずかしくて……。
「私も好きだよ、新一」
赤い顔のまま、新一をまっすぐ見つめて言い切った蘭に今度は新一の方が赤くなって……。
「おかえり、新一」
ニッコリ笑って言った蘭に、自分を抑えることが出来ず、思わず抱き締め
「ただいま」
と蘭の耳元でささやいた。
そんなことがあったのは、夏真っ盛りの1年前の8月。厳しい猛暑の日だった。
そして、約1年と4ヶ月が過ぎ、季節はもう冬になった。
本当の、誰にも文句を言わせない完全な恋人という位置に立った新一は、
クリスマスを大切な日にしたいと気合いが入っていた。
まず、蘭にはクリスマスの予定を空けておくように言った。
「あ、蘭! クリスマスの予定空けとけよ?」
「え、どうして?」
「ディナー。行こうぜ?」
「! ……うん!!」
新一がディナーの予約を入れたのは、いつかの米花センタービルの展望レストラン。
理由は言わずもがなである。
続いて、警察の皆さんへ前もって言っておくことも忘れない。
「すいませんが、今度のクリスマスだけはヤボ用があるので、捜査のお手伝いは辞退させていただけませんか?」
「あら、蘭ちゃんとデート?」
「えぇ、まぁ」
「羨ましいわね〜。昨年は私達が引っ張り出しちゃったからね。いいわよ! 警部にも言っといてあげる」
「ありがとうございます」
「バッチリ決めておいでv」
「……頑張ります」
苦笑した新一は、その後しばらく佐藤刑事に、どこへ行くかや、何をするかなど質問攻めにあったが。
いつもなら、事件であればたとえ蘭と過ごすことになっていても、
捜査へと走り出してしまう、日本警察の救世主である新一だからこそ、
あえて、事件が起こっても知らせないようにしてもらいたかったのだ。
おそらく、事件と聞いたら居ても立ってもいられないだろうから。
昨年は、蘭がクリスマスを一緒に過ごそうとして、計画を立ててくれていたのに、
自分のせいでその計画はパァになった。
だから。
だから、今度は新一が計画を立てているのだ。
蘭へのクリスマスプレゼントもきちんと準備をして、
いよいよクリスマスがやってきた。
6時に、フォーマルなスーツに身を包み、上から濃紺のコートをはおった新一は、
毛利探偵事務所の前にいた。
蘭を迎えに来たのだ。
「新一!」
嬉しそうな声で出てきた蘭に、
「よぉ!」
と返事をして片手を挙げて、そのまま固まった。
白いロングコートに、黒のブーツ。いつも下ろしている髪の毛はアップにしていて、うなじがとてもキレイだ。
いつも見る雰囲気と違う互いの姿に赤くなり。
それでも先に口を開いたのは、蘭だった。
「へ、変かな?」
「いや……キレイだなと思って」
「!! ありがとv」
「行くか」
「うん!」
2人でゆっくりと道を歩く。
街は、クリスマスイルミネーションでカラフルに彩られ、
人々は幸せそうな笑みを浮かべている。
しばらく歩き到着したのは、以前も来たことのある米花センタービル。
展望レストランへと行き、
「予約していた工藤です」
と、ウエイターに告げる。
そして案内されたのは、やはり……
「え、ここって前も座ったよね?」
「覚えてたのか?」
「もちろん。高そうなレストランだし、緊張してたし。新一が戻ってこないかってずっとキョロキョロしてたしね」
「申し訳ないです」
顔を見合わせて吹き出す。
「さ、頼もうぜ」
「ねぇ、やっぱり今日もお金って……」
蘭は、もちろんあのゴールドカードが出てくると思っていたのだが……
「ん? あぁ、もちろんオレ持ち」
「え!? あのカードは?」
「持ってきてねぇけど? とにかく今日はオレ持ち! OK?」
「う、うん……」
蘭は不服そうだったが、とりあえず同意し、コース料理を2人で頼む。
しばらくしたら、飲み物がやってきた。
「じゃぁ、メリークリスマス?」
「うん。メリークリスマスv」
チンとグラスが触れ、ディナーはスタートした。
「ねぇ、新一。どうしてこの席なの?」
「あぁ、ちょっとな……」
「ふーん? ……あ、コレおいしい!」
「ん。うまいな」
だが新一は、料理よりも別のことで頭がいっぱいだった。
目の前の蘭がやっぱりキレイなのだ。
ベージュのニットのセーターを着て、そのセーターには複雑な模様が編まれている。
濃い緑色のプリーツのスカート。
胸元に光るネックレスが蘭によく似合っていて、いっそうキレイに見せていた。
もちろん、食事をしながらも、蘭に向けられる男共を視線だけで威嚇する。
もっとも、自分に向けられている視線には全く気づいていない。
一方、蘭は蘭で、新一の姿に目を奪われていた。
スーツを上手に着こなす新一は、いつもと違い大人な雰囲気を出していた。
このレストランに入ったときから、周りの視線を感じる。ただでさえ、有名な新一。
それが立派なスーツを着ていれば当然ともいえる。
だが、新一と同じく、蘭自身に向けられる視線は全く意味を分かっていない。
新一には似合わないのだ、と内心落ち込んでいたりもする。
しかし、一切その様子は見せまいと明るく振舞う。
もちろん、新一は気づいており、気づかないふりをしつつ、またつまんねーことで悩んでやがると思っているのだが。
そんなことを考えているうちに、料理も食べ終わり、ふと蘭が呟いた。
「何か奇跡みたいね……」
「あ? 何がだ?」
「だって新一が事件のことを考えずに一緒にクリスマス過ごせるなんて、奇跡が起きたみたいじゃない?」
「バーロ……。奇跡っていうのはな、起きるんじゃなくて起こすんだよ……」
「? どういうこと?」
「こっちの話」
だって警察の方々には、今日は呼び出すなと言ってあるのだから。
「キザね〜、新一」
「うっせー」
アイツほどじゃねーよ、と思わず口に出かかったのを何とか止めつつ、
一瞬頭を過ぎった白い影を頭から追い払う。
すると新一がポケットに手を入れ、用意しておいたプレゼントを取り出し、テーブルの上に置いた。
キレイな包装紙に包まれた、小さな手のひらサイズの箱。
「なーに? コレ」
「蘭、あのさ――」
告げられた言葉と、プレゼントの中身を知り、蘭の顔が今まで以上に赤くなり、
そして、目に涙が浮かぶまであと1分――――
蘭の返事を聞き、思わず立ち上がった新一が蘭のほうへ行き抱き締めたとき、
実は聞き耳を立てていた周りの人から温かい拍手が起こった、とか……。
この日以来、米花センタービル展望レストランで語り継がれる伝説のカップルが1組増えることになる。
だが、それが親子2代だということを知っているのは、当事者の4人だけ。
もちろん、この席が新たなプロポーズの名所になったのは言うまでもない。
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