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孤独な少女と誠の武士 作者:

信頼できる友

 さて、今日中に将軍に長州のことを報告しないといけない。そうしないと今後の動きの見通しが持てないから。
 確か、昨日からこっちに来てるはず。場所は、京で一番有名なお団子屋さんだったな。
 今は沖田さん稽古してるから、外には出てこないよね。あの人、お団子好きでよくあの店に行ってるから。今のうちに、土方さんに許可をもらって、用を済ませてくるとしよう。
 私は紙と筆、墨を用意して、手紙を書き始めた。
 手紙には、『新撰組と長州の動きについて、報告させていただきます。今はまだ、薬の情報を入手できておりません。今現在、長州の動きが活発化しており、先日も京の町を火の海にしようとしておりました。江戸がいつそうなってもおかしくありませんので、お気をつけください。引き続き、調査を続けます。 神田雪』と書いた。
 それじゃあ、土方さんに許可をもらって来よう。
 ここでは、出かけるときは副長に許可をもらわなくてはならない。もちろん、それを破って勝手に出ていく人もいるが、見つかれば鬼の副長の怖くて長い説教が待っている。
 私は土方さんの部屋に向かった。

「神田です」
「入れ」
「失礼します」
 私は襖を開けそう言い、入ってから襖を閉めた。
「神田、足のほうはもう大丈夫なのか? 怪我をしたと聞いたが」
「はい、もう大丈夫です。傷のほうも、それほど深いものではなかったので」
 嘘だけど。あの傷なら、数週間は歩けなかっただろう。
「そうか、それはよかった。で、用件はなんだ?」
「今日一日、京の町をゆっくり歩きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「今日一番組は何もないだろうし、これと言ってやってもらうこともないから、行ってきていいぞ。ただし、夜までには戻って来い」
 よかった。
「わかりました。失礼します」
 私は部屋から出て、すぐに待ち合わせ場所に向かった。

琉菜(るな)、久しぶり」
 お団子屋さんに行くと、店の奥の席に黒髪を一つにまとめ、黒い大きくてぱっちりした目、ピンク色の着物を着た女性がいた。
「雪ー」
 彼女は私に気付くといきなり抱きついてきた。
「久しぶり」
 彼女の名は宝月(ほうづき)琉菜。彼女は大目付の一人であり、私と同じ鬼だ。そして、神田家の側近。
 神宮寺家の側近は宮島家。神田家の側近は宝月家が代々勤めている。
 側近と言っても、琉菜は側近としての仕事はしていない。普通は本家にいるものなのだが、琉菜は自分の目的を果たすために表に出てきた。
 彼女と出会ったのは大目付に配属されてから。それから同じ鬼ということもあって、いろいろと話して、今では信頼できる唯一の友だ。
「これ、あの方に渡しといてくれる?」
「はーい! 雪、せっかく会えたんだし話そうよ」
 仕事が入ってあまり会えないしね。
「いいよ。でも、ここはだめだよ。誰かに見られたら面倒だからね」
 沖田さんがここに来る可能性一番高いんだし。あの人に見つかったらごまかすのに時間がかかりすぎる。
「わかってるよ。昨日いいところ見つけたから、そこで話そう」
「わかった」
 私は琉菜に付いて行った。

 連れて来られたのは、町から少し離れたところにある丘。
「気持ちいでしょう」
「昨日はここでお昼寝してたの」
 確かに風が気持ちいい。
「うん、気持ちいい」
 こんなにのんびりできるときなんてあんまりないから、今のうちにのんびりしてよう。
「えいっ!」
「あっ!」
 琉菜に髪を縛っていた紐を取られた。そのせいで、髪がほどけてしまった。
「琉菜、返して」
 琉菜の前だからって、油断しすぎた……。琉菜もそれがわかってるからこういうことするんだろうけど。
「やっぱり雪は、そのほうが綺麗だよ」
 私の髪は、腰ぐらいまである黒髪のストレートな髪だ。
「仕事の邪魔になるでしょう。今は男装してるんだし」
 戦ってるときとか邪魔になるし。
「昔はそうやってしてたのに」
「邪魔になったの! 返して。それがないと仕事できないでしょう」
「じゃあ帰ってきたら、またほどいてあげる」
「してくれなくていいから!」
 それからずっと琉菜とじゃれあい、やっと返してもらった。
 そのあと、琉菜といろいろな話をした。
「私もうそろそろ帰るね。また会おうね」
「ばいばい、雪」
 私は琉菜と別れ、急いで屯所に向かった。
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