「ロボットが血圧なんか測って、どうすんだよ?」
すると、ロボットの福之助は上目遣いで、腕に巻いていたものを取りながら答えた。
『血圧ゼロです。』
「あたりまえだよ。」
『最近、ときどき電圧が下がって、動きが悪くなるときがあるんですよ。』
「どっか故障してるんじゃないの?」
『そうかも知れません。』
近くで見ていた看護婦さんが笑いながらやってきた。
『面白いロボットさんですねえ。』
即座に姉さんが答えた。
「変わってるんですよ。低電圧変態ロボットなんです。」
福之助は言い返そうとしたが、病院なので我慢した。
『姉さん、もう歯の治療は終わったの?』
「終わった、終わった。」
病院の待合室のテレビでは、夕方のニュースが流れていた。
【 昨日の全国の自殺者は85名、交通戦死者は30名です。 】
【 チャイナタウンの中央公園では、ニート革命軍を支援する過激派学生と、頭脳警察の機動部隊とが交戦しています。 】
【 頭脳警察の最強拘束ロボット”ハル”の出動命令が出されました。 】
『姉さんハルです、大変だ!』
「やばいなあ、死人が出るかも、行ってみよう!」
2人は、空中スクーターに乗り、中央公園に向かった。
『りゅうじからのメールです。』
≪
戸惑いながら 僕らは生きている
自らに掟を課し 懸命に生きている
笑顔が空中分解しても 僕らは ひたすらに生きている
≫
「夕闇に、ロックンロールな風が吹いてるぜぇ〜〜!ファイティング〜!」
『ファイティング! 義理がすたれば此の世は闇よ〜〜!』
「行くぜぇ〜、ポンコツ福之助〜〜!」
『そりゃあ、あんまりだ〜〜姉さん! そんでもって、お〜〜〜!』
「電圧、下げんじゃねえぞぉ〜!」
『お〜〜〜っ!ポンコツでもバッテリーはビンビンだ〜い!』
「りゅうちゃんは、絶対に死なせな〜い!」
『お〜〜〜、義理がすたれば此の世は闇よ〜〜!』
≪ 涙の数だけ生きてみろよ そしたら明日が見えてくるんだ! ≫
≪ 僕らの感覚は論理を凌ぐ! 計算だけのCPUには負けない! ≫
「やけに、ロックンロールな風が吹いてるぜぇ〜〜!」
『お〜〜〜!』
ギャイ〜〜〜ン
頭脳警察の大型拘束ロボット”ハル”の雄叫びが聞こえてきた。
『攻撃命令周波数をキャッチしました! 姉さん、ハルが4141を実行しています!』
「4141・・・なんだっけ?」
『よよいのよいよい、、最終実力行使です!』
「りゅうちゃんが危ない!急げ、福之助!」
『了解!』
「ただし、無理して死ぬなよ!」
『了解!』
『姉さん、りゅうじからメールが入りました。』
「読んでみんしゃい!」
≪ 我々はCPUの奴隷ではない! よって、我々は赤く熱い血で戦い人間を死守する! ≫
ダンダダダダン♪ ダンダダダダン♪ ダンダダダダン♪
『姉さん、ハルのテーマソングだ!』
「Immigrant Song!」
『ゼップの移民の歌だ〜!』
体長5メートルほどの8本脚の大型拘束ロボット”ハル”が、蛸足だか蛸手だかを空に伸ばし、テーマ音楽を鳴らしながら群集の叫びと催涙弾の紫煙の中を天空を揺るがし泳ぐように彷徨していた。
ギャイ〜〜〜ン
その足音は、まさに天才ジョン・ボーナムのドラミングの鼓動であった。
ドドン ドドドン
ハルが近づいてきた。
「あら、なんだか、目が回ってきたよ。」
ハルの対暴徒低周波音が人間の平衡感覚を鈍らせていた。
『姉さん、ハルから離れろ!ボーナム・ドラミングだ!』
「耳栓持ってる〜〜〜!」
『早く逃げてください!』
ボーナム・ドラミングで、ハルの周りの人々がよたよたとなっていた。
姉さんが叫んだ。「卑怯な真似をしやがって!」
福之助が叫んだ。『姉さん早く!』
≪ 逃げろ! そこから! 明日にたどり着くまで逃げろ! ≫
ハルの頭上に立つ者がいた。何かを叫んでいた。
【 地 ・ 水 ・ 火 ・ 風 ・ 空 ・ 識 】
『姉さん、ハルの上に人がいます!』
「あんなところに登って、危ないじゃないか!」
姉さんは、スクーター止め、降りると、両手で左右の耳を押さえながら、すとすたとハルの方に近づいて行った。
福之助が大声で姉さんを呼んだ。『姉さん、何やってるんですか!』
姉さんは、ハルの手前10メートル付近で止まると、ハルに大声で怒鳴った。
「上に人がいるでしょう。危ないから降ろしてあげなさい!」
福之助が怒鳴った。『姉さん、何やってるんですか!』
「早く、降ろしてあげなさい!」
『姉さん、相手はハルですよ!言語は理解できません!』
ハルの上にいる人間は覆面をしていた。手には火炎瓶を持っていた。そして、それに火をつけた。
姉さんは叫んだ。「何するの、あんた!?」
火炎瓶がハルの動力部分に投げ込まれた。あっと言う間に、紅の炎が上がった。
姉さんは叫んだ。「あや〜〜〜〜〜!大変だぁ〜!」
福之助が慌ててスクーターを降り、駆け寄ってきた。
「姉さん、燃料に引火します!」
『そりゃあ、大変だ!」
2人はハルから走って逃げた。
直後に、過激派学生からの火炎瓶がハルに数発投げ込まれ、ハルは火だるまになり、爆発した。
【 こちら頭脳警察 社会に迷惑をかける人間の屑は 一斉検挙されます ! 】
ハルの背後に待機していた破壊活動防止機動隊から、過激派学生に向かって数発の催涙弾が発射され、公園内は大混乱になった。
『姉さん、ここにいると巻き込まれます。出ましょう!』
「そうだね。」
2人は、公園から出た。公園のあちこちから黒煙と炎があがっていた。時折、鈍い催涙弾の発射音が聞こえ、白煙が上がっていた。
「催涙弾で、涙が出てきちゃったよ。風上に行こう。」
『それがいいですね。』2人は、風上に回った。
「なんだか、お腹が空いちゃったねえ。」
『はぁ〜〜!?』
「わたし、緊張すると、お腹が空いちゃうのよねえ。」
福之助は、周りを見回した。
『あそこに、マッキントッシュ・バーガーがあります。』
「行こう、行こう!あんた、充電しなくていいの?」
『大丈夫です、夜中の12時までは。それに、外で充電すると高いです。』
「あんた、感心だね。ロボットの鏡だよ。」
『ま〜たまた。いつもポンコツって言ってるくせに。』
「そうだったっけ?」
『ま〜たまた。とぼけちゃって。』
「そんなことはどうでもいい。早く行こう!ポンコツ!」
『姉さん、そりゃあないよ〜〜!』
店の中は、お客が10人ほどいて、約半数の席が埋まっていた。なぜか、家族連れが多かった。平和な雰囲気が漂っていた。
「さっきの世界とは、まるで別世界だねえ。」
『ほんとうですね。世界の縮図を見てるみたいですね。」
「はっ?」
『2階に行きましょう。』
「あんた、ときどき難しいこと言うねえ。大学出てんの?」
『門を、入って出たことはありますけど。』
「りゅうちゃんは、凄い大学出てんだよ。」
『そうなんですか。』
「英語なんて、ペラペラなんだから。」
『そうなんですか。』
「あれぇ、下で注文しなくてもいいのかい?」
『この店は、各テーブルから注文するんです。』
「そうなの。あんた、来たこともないのに詳しいねえ。」
『実は、むかし、彼女と・・』
「なに!?」
『じょうだんプログラムを使いました。この辺りの店のシステムは全てメモリーに入っているんです。』
「なるほどね。」
『窓際の席が空いています。』
テーブルの上にはディスプレイとマウスが置いてあった。
「何なの、これ?」
『この画面で注文するんです。』
「ふ〜〜ん。」
『このマウスで選んで、クリックするんです。』
「そうなの。どれどれ・・」
姉さんは、慣れない手つきでマウスを握った。
「このマウス、変だよ、右のクリックが無いよ。」
『マッキントッシュですから。』
「そうなの。変なの。」
姉さんはサウスポーだった。
「なんか、やりにきぃな〜〜、ちょっと、席変わって。」
『はい。』
「じゃあ、マッキントッシュ・スペシャル・バーガーとぉ、バナナパフェとぉ、マッキントッシュ・アイスティとぉ、、」
『あんまり食べると、太りますよ。』
「そうだな、太ると解雇になるからな。あんたはいいのかい?」
『どのくらいかかりますか?』
「そうだね、食後の休憩時間を入れて、15分ってところかな。」
『じゃあ、その間、寝ています。』
「パソコンで言う、スリープ状態ね。」
『はい、でも、触ったり叩いたりすると直ぐに起きます。」
「じゃあ、おやすみ。」
福之助は、目を閉じると動かなくなった。
「なんだ、1秒で寝ちゃうのかよ。ロボットは便利でいいなあ。」
食べ終え、姉さんが暫く外の景観を眺めていると、福之助が目を覚ました。
『おいしかったですか?』
「まあね。いまいちかな。」
姉さんは、公園の喧騒を眺めていた。
「すごいね。まだやってるよ。」
『姉さん、りゅうじからメールが入りました!』
「読んでみんしゃい。」
≪ みんな逃げろ! そんなところにいたら、脳が腐っちまうぞ! ≫
『まだいるみたいですね。近くに。』
「そのようだね。」
トントン秒針♪ トントン秒針♪ と言って、隣の隣の席で5歳くらいの男の子が騒いでいた。
姉さんは、手招きすると子供がやって来た。
「お店の中で騒いじゃ、駄目でしょう!」と言って嗜めた。
子供は「はい!」と言って、母親のところに戻って行った。母親が、「どうもありがとうございます。」と言って、頭を下げた。
子供が姉さんの方を見ていると、母親が「綺麗な、お姉さんね。」と言った。子供が、「うん。」と言った。
それを聞いてた姉さんは、「あ〜らいやだ、奥様ったら〜〜!正直ねえ!」と言って、でれでれになった。
福之助が、小さな声で「お世辞ですよ。」と、姉さんの耳元で言った。でも、姉さんには聞こえてないみたいだった。
「とんとん秒針って、流行っているのかい?」
『なんだか、流行ってるみたいですね。』
「歌ってよ。」
『とんとん秒針♪とんとん秒針♪』
「それだけ?」
すると、それを聞いてた子供が、小さな声で歌いだした。
トントン秒針♪ トントン秒針♪
寝ても覚めても トントン秒針♪ トントン秒針♪
昨日も明日も トントン秒針♪ トントン秒針♪
朝から晩まで トントン秒針♪ トントン秒針♪
まったく真面目なもんだぜ トントン秒針♪ トントン秒針♪
あきれたやつだぜ トントン秒針♪ トントン秒針♪
夕闇が、音もなくカーテンを降ろしはじめていた。
『あ〜〜、眠い。』
「どうした?」
『最近、ときどき電圧が下がるんです。』
「病院に行ったほうがいいぞ。」
『そうですね。明日、ロボット病院に行って、診てもらいます。』
「じゃあ、今日は帰ろう!」
『はい。』
福之助は小さな声で答えた。やけに眠そうだった。
「元気だせよ!」
『はい。』
すでに公園内は静まり返っていた。
大型拘束ロボット・ハルが2体、静寂の中を不気味に、青白い月をバックにして、道に迷った子供のように佇んでいた。
ハルのエンジンのアイドリング音だけが、ジミー・ページのギターのように、虚空を容赦なく引き裂くように鳴り響いていた。
『姉さん、りゅうじからメールが入りました。』
「大きい声で、読んでみんしゃい!」
≪ ただひたすらに僕らは佇む 憎むべき相手は風の歌を知らない! ≫
「行くぜぇ!」
『お〜〜!』
「やけにロックンロールな風が吹いてるぜぇ〜〜!」
『お〜〜!』
「ロックンロ〜、行くぜ福之助〜〜!」
『お〜〜!君はファンキーモンキーベイビ〜〜♪飛んでいるよ〜〜♪』
「電圧下げんなよ〜〜!」
『お〜〜!君と、ナイトアンドデイ〜!』
風に乗って、キャロルの歌が流れていた。
♪
君はファンキーモンキーベイビー おどけてるよ
だけど恋しい 俺の彼女
君はファンキーモンキーベイビー いかれてるよ
楽しい 君といれば
愛されてるいつも Satisfied
君がいなけりゃ Baby I'm blue No No No No No No No
君はファンキーモンキーベイビー 飛んでいるよ
歌も楽しい 君と Night and Day
♪
歌詞:ジョニー大倉 作曲:矢沢永吉
【 第四話 おわり 続きは、第五話 あけみちゃん(ニート革命軍5) 】
|