はじめまして。小説『安奈』に目を留めていただきありがとうございます。作者のナガスです。
このお話を読む前に、ひとつだけ誤解がないように言っておきたい事があるので、少しだけ注意文を書かせていただきます。
このお話はジャンルとしては恋愛小説に分類されると思うのですが、作者自身その自覚があまりありません。
ですので、甘ったるいものが読みたい。という方にはあまりお勧めはいたしません。そういう表現が無い訳ではありませんが…甘い恋愛小説のつもりで読んでくださった読者様はがっかりしてしまうのでは無いだろうか…?と心配になってしまいます。
かと言ってほかにジャンルも思いつかないので、恋愛に分けさせていただきました。ご了承ください。
あくまでこの作品は「心を語る、心に問いかけるお話」です。
第一話:後ろを歩く、地球の裏側の人
2005年、初冬。
場所は日本では北国と呼ばれている地域。
ホテルから出てきた俺達の目に飛び込んできたものは、この冬になって初めての雪だった。
乾燥した空気ではある。だけど同時に澄んだ空気でもあった。
少しだけ良い気分になる。火照った自分の体には、これくらいが丁度いい。
「……寒いですね」
後ろにいる少女が口を開いた。
「……あぁ」
俺はそう言って両手に息を吹きかける。
本当は別に寒く無い。
「あの」
再び少女が口を開く。
「ん?」
「その……つ……ま……んか?」
「……何?」
「手……」
「手?」
「……手、繋ぎませんか?」
「……」
別に拒否する理由も必要も無い。
……無いはずだのだが……
「いや」
そして、繋ぐ理由も、また無い。
無いと、自分に言い聞かせる。
「そ……そっか……あ、別に気にしないでくださいね。なんか……すみません」
「……別に」
少女は何故謝ったのか。俺には理解できない。
少女は照れくさそうに、差し出しかけていた左手をそっと体の背に引っ込め、うつむきながら喋らなくなった。
俺はその姿を横目で見ながら自分の手をコートのポケットにつっこみ、もう一度少女のほうをチラっと見たあと、自分が住んでいる安アパートへと向かい歩きだす。
俺は振り返らないで、少女の足音を耳で確認する。
しっかりと、一定距離を保ちながら付いてきているようだ。
これが、俺と安奈の形。
時には恋人のように体を求め合う。
しかし時には他人以上に無関心。
肉親以上に親密ではあるが、同時に地球の裏側に住んでいる、自分とは無関係な人間のような、そんな関係。
これが、俺と安奈の形。
「……ねぇ、松本さん……」
ホテルからの帰り道、安奈は突然話しかけてきた。
どうやら安奈は歩みも止めているようで、足音も聞こえてこない。
俺は面倒くさがりながらも後ろを振り返り「何?」とだけ聞き返した。
「う」
「何だ?」
「……う」
安奈はうつむきながら立ち止まっている。
俺が買い与えてやった薄い安物の黒いコートが風に吹かれてひらひら揺らいでいた。
「置いてくぞ……」
この台詞は、半分本気だ。
「置いて……かないで」
「じゃあ早く来い。雪が本降りになるだろ」
「……うぅ」
安奈はうつむき黙ったまま。
俺は相当面倒くさくなってきている。少しずつイライラもしてきている。そう思う事にしている。
何故、こいつのために立ち止まらなければならないのか。早く帰りたい。そう思う事にする。
「……置いてくわ」
ガキじゃあるまいし、一人で帰って来れない事も無いだろう。
俺は前を向きなおしてゆっくりとまた歩きだした。
「ヒックッ……置いて……グスッ……かないでぇ……」
……面倒くさい。
勝手に泣けばいいだろう。俺には関係無い事。
俺は歩くスピードを上げた。
「グスッ……グスッ」
泣き声は、しっかりと俺の後ろから付いてきているようだ。
その声を確認できて、俺は少しだけ、安心していた。
これが、俺と安奈の形。
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