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嫌われ剣士の異世界転生記  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
第七章 混色の聖剣祭(下)
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第四話 『額の痛み』

昨日間違えて投稿してしまったので再投稿します


「かなり、不味いこと……?」

「……ああ。他の奴の不安煽ることになるから、誰にも言うなよ?」


 王都を襲っている『かなり不味いこと』。

 俺達に念を押した後、その内容をエレナは教えてくれた。


 災害指定個体《蟲龍》の到来。

 現在、城壁に向かって少しずつ近付いてきているらしい。

 三番隊が戦っているらしいが、止めきれるかは分からない。


「そんな……」

「…………」


 エステラが顔を青くし、ヤシロ達が息を飲む。

 俺も、思わず喉を鳴らした。


《蟲龍》。

 この名前を知らない人間は、そうはいないだろう。

《喰蛇》や《鎧兎》と並ぶ、最悪の魔物だ。


《喰蛇》のような回復能力があるわけではなく、《鎧兎》のような魔術を無効化する鎧があるわけではない。

《蟲龍》はそうした、特殊な能力は持っていない。

 しかし、災害指定個体の中で《蟲龍》が出した被害が最も大きいのだ。


 理由は簡単だ。

《蟲龍》はデカイのだ。

 通常の魔物だと、比べ物にならない程の巨体を持っている。

 こいつが通った後は、何も残らない。

 すべてを蹂躙した後、《蟲鎧》はどこかへと姿を消していくらしい。


「……そんなのが攻めてきて、大丈夫なんですか?」

「ヤバイな。王都を守ってる結界が十全に働いてるなら、近づくことすら出来ないんだろうが……」


 結界は今、一部が何者かのせいで機能していない。

 そんな状態で、《蟲龍》の攻撃を防ぎきれるのだろうか。

 もしかすると、《蟲龍》は結界ごと城壁を突破し、王都に侵入してくるかもしれない。


「…………」


 そんな想像を、ヤシロ達もしたのだろう。

 重い空気が流れ始める。


「けど、大丈夫だよ」


 それを断ち切るように、エレナが明るく言った。


「王都には《剣聖》や《操山》がいる。それに、お師匠様もいるんだからな。災害指定個体だろうがなんだろうが、問題ねえさ」


 それにアタシもいるんだぜ? 

 と、エレナは自分を差して苛烈に笑った。

 

 確かに《剣聖》やジークならば、災害指定個体でもどうにかなりそうな気がする。

 エレナだって、トップクラスの剣士だ。

《蟲龍》だろうと、そう簡単に王都を蹂躙出来ないだろう。


 そんな風にエレナと話している間に、闘技場の中に入っていた人達が外に出てきた。

 どうやら、これで全員らしい。

 騎士達が、その場にいる全員に集まるように指示を出してきた。


「避難者の方は、騎士の指示に従って王城へ避難してください」


 そう口を開いたのは、ミリアの横に立っているフリューズだ。

 テキパキと避難者や騎士に指示を出している。

 それから、フリューズは学園の教師達に視線を向けた。

 

「貴方達はこのまま避難民を守りながら、王城へ向かって貰えますか?」

「分かりました」

「ご協力感謝します」


 フリューズの言葉に、教師の一人が代表して答えた。

 確か、魔術を教えている教師だ。

 魔術戦が得意で、功績を残している人物だったな。


 この場にいる他の教師も、皆優秀な者達ばかりだ。

 彼らが騎士に協力すれば、無事王城までたどり着けるだろう。


「――……」


 ふと視線を感じた。

 そちらを向けば、指示を終えたフリューズが俺を睨んでいた。

 敵意に満ちた目付きだな。

 黒髪の俺が、それ程までに気に食わないのだろうか。


 しばらくの間睨み合っていると、


「ウルグ君……!」


 フリューズの視線を遮って、ミリアが俺の元に駆けて来た。


「ミリアさん」

「……どうしてここに?」

「冒険者として、避難に協力していたんです」


 ミリアはキョロキョロと周囲に視線を向けた後、


「君達も早く避難して欲しい。ここは危険」


 ずいっと顔を近付けて、そう言ってきた。


 ……なんだろう。

 どういうわけか、ミリアが焦っているように感じる。

 俺を避難させたくて、たまらないという様子だ。

 心配してくれているのだろうか……?


「早く。ここは私に任せて、先に言って……!」


 俺の手を掴み、ミリアがそう言ってくる。

 何だその台詞。

 何かのフラグが立ちそうな程に不吉だ。


「ウルグ君……」

「えと、ミリアさん……」

「…………」

「…………」


 ミリアに手を握られたまま反応に困っていると、ヤシロとキョウがジト目で睨んできた。

 何か言いたげな表情だ。


「ふふ。お兄さん、ずいぶんと騎士隊長さんと仲が良いんですね」


 メイだけは、そんな風にニコニコ笑っている。

 それが逆に怖い。


「そ、そういえば、エステラはどうしたんだ?」


 ヤシロ達の中にエステラがいないことに気付いた。

 ミリアの手からどうにか逃れ、周囲を見回す。


「エステラさんは、先生とお話しているようですよ」


 メイの言葉通り、エステラは教師と何かを話しているようだった。

 何を話しているのだろう、と疑問に思っていると、


「アタシはお師匠様を探すついでに、あんたらに協力するぜ」


 エレナがそう騎士と話しているのが聞こえてきた。

 どうやら彼女は避難せず、騎士達と行動を共にするようだ。

 エレナ程の実力があれば、龍種相手にでも引けを取らないだろう。


「先輩、どうしますか?」


 既に避難者と教師達は移動を始めている。


「……そうだな」


 キョウからの問いに、少し考える。


 龍種が跳びまわっている王都で、これ以上の活動は危険だ。

 テレスと合流出来ていないのが気掛かりだが、アイツのことだ。

 上手く避難していると信じよう。

 今はヤシロ達を危険から守ることを優先しよう。


「……俺達も避難した方がいいと思う」

「それが良い」


 俺が出した答えに、ミリアが安堵したように頷いた。


「私はウルグ様についていきます」

「賛成です」

「私も、避難した方が良いと思うかな」


 ヤシロ達からも異論は出ず、城へ避難するということで意見が固まった。


「ウルグ殿」


 そう結論を出してすぐに、教師と話していたエステラが戻ってきた。


「どうやら、私の両親は既に城に避難しているようです」


 先ほどの教師は、エステラの両親が城に入るのを見ていたようだ。

 生徒を無事避難させる為に、闘技場まで戻ってきたらしい。

 いい先生だな。


「置いていかれない内に、私達も行きましょう」


 避難経路の方へ、エステラが歩いて行く。

 不安なことはあるが、エレナもミリアも俺より強い。

 今は自分達の身を守ることを優先しよう。


「俺達も行こう」


 そう言って、ヤシロ達と共にエステラに付いていこうとした瞬間だった。


「――危ない!」


 ミリアの叫び声。

 直後、後ろに思い切り引っ張られた。


「――――」


 俺が踏み出そうとしていた、ほんの目の前を赤い光が通過していく。

 その熱に、ジリジリと肌が焼かれる。

 赤い光――ブレスだ。


 目の前を通って行ったブレスは、闘技場の横に立っていた建物に激突した。

 祭りに際して作られた、行事用の大きな櫓のような建物だ。

 柱の一つがへし折られ、櫓が勢い良く倒れてくる。


「下がって……!」


 ミリアの声に従い、その場から飛び退く。

 直後、俺達とエステラを分けるようにして、櫓が地面に激突した。


「……っ! エステラさん、無事ですか!?」

「も、問題無いです!」


 ヤシロの呼びかけに、すぐエステラの声が返ってきた。

 良かった。無事のようだ。


「魔術ですぐにどかし――」

「……待って」


 エステラの言葉を、ミリアが遮った。


「君達はそのまま避難所に逃げて」


 地面が四度、連続して揺れた。

 四匹の龍種が、同時に地面に降り立っていた。

 ……なんて数だ。

 次から次へと、どれだけ龍種が来てるんだよ。

 

「こっちは危険。戻ってきても邪魔になる」

「……で、ですが」

「大丈夫だ、エステラ。俺達もすぐに追う」


 問答をしている余裕はなさそうだ。

 俺の言葉に数秒の間が空き、


「……分かりました! ご無事で!」


 櫓の向こうから、エステラの気配が消えた。

 どうやら逃げたようだ。

 このまま、無事に王城に逃げてくれ。


「……ったく、なんて数だ。龍種の大盤振る舞いじゃねえか」


 エレナの言う通りだ。

 これほどの数の龍種は、そうそうお目にかかれないだろう。


「……先輩」


 後ろから、キョウが服の裾を握ってきた。

 その顔に、少しの恐怖の色が浮かんでいる。

 見れば、メイも握りしめている手が震えている。


「さっきも言っただろ。何が相手だろうと、俺が斬る。先輩の凄いところを見せてやる」

「はい。怖かったら、私とウルグ様の後ろに隠れているといいです」


 俺の言葉と、ヤシロの挑発地味た言葉にメイとキョウが苦笑を浮かべた。

 二人の顔から、不安の色が消える。

 どんな手を使おうと、誰も死なせはしない。


「……ごめんね」


 その時、ふとミリアの呟きが耳に入ってきた。


「……早めに、逃がしてあげたかったんだけど」


 ――その余裕、なくったかもしれない。


 ミリアの言葉の意味を、聞き返そうとした瞬間。


「――っ」


 ……まただ。

 また、額がズキリと痛んだ。

 こう何度も同じことがあれば、何となくこの痛みの意味が分かってくる。

 

「……こういう時は限って、悪いことが起こるんだ」


 不意に、ピタリと近付いてきていた龍種の動きが止まった。

 まるで、誰かに命令されるように。


「何が……」


 足音がした。

 ペタペタと、徐々に近付いて来る。

 ペタペタ、ペタペタ、とそれは龍種の横から姿を現した。


「な――」


 それは赤銅色の髪を肩までで揃えた、二十代程の女だった。

 身に纏っているのは使い古してあるボロボロの服だ。

 血のような双眸がランランと輝き、女は底抜けに明るい笑みを浮かべていた。


「――――」


 俺も、ヤシロ達も、騎士達ですら、その女の登場に固まっていた。

 女は平然と龍種の横を通り、こちらに近付いて来る。

 この場にいる誰もが、ひと目で分かっただろう。

 この女は、普通ではないと。


「どうも」


 ソレは黄金色の夕日を背に、ニッコリと場違いな笑みを浮かべながら言った。



「――皆さん、こんにちは」

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