僕は今日、大好きな彼女に嘘を吐かれました。
私は今日大好きな彼に嘘を吐きましたの続編です。
前作を見ていないと分からないと思います。
嘘を吐かれた彼視点のお話です。
「ごめんね」
彼女が、僕の腕の中で泣いている。
彼女の背を優しく撫でながら、僕の心の中は怒りでいっぱいだった。
大好きで大切な貴美香が、大変な目に遭っていたのに気付かなかったなんて。
そりゃあ、貴美香が苦労したのは、こことは別の世界。その上、同じ日時に戻って来たからこの世界に貴美香が存在しなかった時間はない。
それでも、僕はそれに気付けなかった。力になれなかった。
自分が情けないし、口惜しい。
でも、一番許せないのは、貴美香をそんな目に遭わせたやつらだ。
自分達がしでかしたことなんだから、きっちり責任は取ってもらわないとね。
っていうか、取らせるよ。
「うん、皆集まってるみたいだね、感心、感心」
僕はぐるりと周囲を見渡して頷いた。
馬鹿連中を個別に相手するのは面倒だし、時間の無駄だからね。やっぱり一度で済ませちゃわないと。
「だ、誰だ、貴様は!」
声を上げたのは、重そうな鎧を着込んだ男。いちおうイケメンの部類にひっかかるかな? こっちの世界ではまず見かけない、蜜柑色の髪の毛。暑苦しそうな男だね。
「自分は名乗りもしないなんて、礼儀知らずだね~」
とはいえ、こんな男の名前なんて興味ないケド。
「ま、一応自己紹介はしてあげるよ」
僕はにっこり笑った。
「僕はね、あんた達が使い捨てにした貴美香の婚約者だよ」
僕の言葉に、一瞬静まり返った。まさか、異世界から関係者が来るとは思ってなかったんだろうね。
「使い捨てなどと」
反論しようとした蜜柑頭を一瞥して黙らせる。
「使い捨てでしょ? 勝手に呼びつけて、面倒事押し付けて。しかも寿命が代償だってことを教えずに解決させた。元の世界に帰りたかったら解決しろだなんて、酷いよね」
「しかし、我々ではこの事態はどうしようもなかった。この世界を守るためには致し方なかったのだ」
偉そうな男が、玉蜀黍色の髪の毛をゆらして、偉そうに言った。高そうな衣装と、あの態度からして王族かなんかだろうな、とあたりをつける。
「僕にとってはね、貴美香以上に大切な存在なんて無いんだ。ここがどうなろうと知ったこっちゃないね。こんな世界なんて、貴美香の髪の毛一本の価値にすら劣るよ」
「貴方は、人々の命もどうでも良いと仰るのですか……!?」
桃色の髪の女が、悲鳴のように叫んだ。
蜜柑頭が支えるように寄り添ってるから、恋人か何かなのかな?
「僕の貴美香の命をどうでも良いって思ってるような連中を、気遣う必要があるとは思えないんだけど?」
順番が逆だよ。
そっちが僕の貴美香を蔑ろにしたんだからね。
「大体、自分達で何とか出来無いからって、安易に他者に頼りすぎなんだよね。召喚頻度、結構高いよ」
ざっと確認しただけで、100~200年に一度は召喚されてるみたいだし。
世界の危機とかぬかしてるけど、そこまで大変な事がそうぽんぽん起きてるとは思えない。っていうか、そこまで起きてるんだったら、とっとと滅びてると思うんだよね。
「大切なのは自分達だけなんでしょ? 他の世界の存在なんて、便利な道具くらいにしか考えてないくせに」
「そのような事はありません! 貴美香様には感謝しております。私達に出来ることであれば、貴美香様にお礼をしたかったのです。ですが、元の世界に帰られる貴美香様に、私達が出来ることは殆ど無かったのです」
一応、本心から言ってるっぽい。
でもね、出来ることが殆ど無いって分かってて召喚したんだよね。何を言ってるんだかって感じ。
「じゃあ、貴美香にお詫びとお礼をしてもらおうか」
僕は笑った。
「とりあえず、貴美香の寿命を戻してもらうよ。ああ、僕がやるから心配しないで」
僕は皆に視線を走らせた。
「皆から寿命を貰って、貴美香に渡すよ。他者からの譲渡だと変換効率悪いから、結構もらうことになるけどね」
ぎゃあぎゃあと、皆が喚き始めた。正直煩い。
貴美香から寿命を奪っておいて、自分の寿命が減るのが許せないって、我侭にも程があるよね。
「王子だから、国に対する責任があるから寿命は渡せない? 責任があるって言うなら、真っ先に貴美香に寿命を渡すべきでしょ」
「もうすぐ結婚するから? 新婚生活を送る二人から寿命を奪うなんて酷いって? 僕と貴美香がこれから過ごす筈だった時間を奪うのは酷くないのかな?」
本当に、身勝手な連中ばっかりだ。
ま、嫌がろうと何しようと、実行するけどね。
「言っとくけど、イリス=リルヤの許可は貰ってあるからね」
イリス=リルヤっていうのは、一応この世界の女神。
ここに来る前に、きっちりOHANASIしてきたんだ。
うん、世界によって神の存在の仕方とか、力とか色々違うのは知ってたけどね。
イリス=リルヤってば、おまぬけさんだったよ。
一応さ、僕だって色々考えてたんだ。
ここの連中の考え方からして、神も同じように思ってる可能性だってある。
その場合、強制的に理解してもらう必要だってあったからね。
酷いのになると、自分の世界の存在だけが大事で、他の世界の存在は道具以下って認識してる神もいるから。
他の世界にも神がいるってこと、忘れてるんじゃないのかな?
普通、他の世界から存在を呼ぶときは、他の世界の神に話つけてからやるんだよ。
どんな小さな存在だって、世界の一部だからね。それが欠けるとなれば、どんな影響が出るか分からない。
他の世界のがどうなろうと知ったこっちゃ無いよ、なんて行動ばっかりしてたら、他の世界の神々から制裁受けることになるんだ。そりゃ、普通怒るよね、そんなことされたらさ。
イリス=リルヤは、召喚した相手に対してきちんとした対応するように、言ってあったから大丈夫だと思ってたらしい。
実際、初めての召喚の時はちゃんとした対応してらしいんだ。
でも、何度も行われるうちに、その対応はどんどん悪くなっていった。事前に説明すると、寿命が減るの嫌がって行動しないからって、説明しないようになったり。
どうせここからいなくなる相手なんだし、そこまで礼を尽くすことはないだろうって、扱いも酷くなっていった。
そのうち、便利だからとちょっと大変な事があると召喚して対処させるようになった。
貴美香がどんな対応されたか説明したら、驚いてた。
監督不行き届きだよね。
まあ、イリス=リルヤにも一応理由はあったんだ。
一番最初の召喚の時、本当に大変だったらしくて。イリス=リルヤも相当に消耗しちゃったらしいんだ。だから、この世界の維持で手一杯で、そこまで気付かなかったらしい。
それにしたって、何度も召喚が行われてるんだから、もうちょっと気付こうよ、って思ったけどね。
そんな訳で、イリス=リルヤからきっちり許可は貰ってあるんだ。
実際、この連中をここに集めたのだって、イリス=リルヤに指示出させたんだし。
嘘だのなんだの喚いて煩いから、そこらへんも説明しておいてくれれば良かったのに。イリス=リルヤも気が利かないよね。
あ、桃色が倒れ……る前に蜜柑頭が支えた。結構素早いね。手も早いのかな。
「イリス=リルヤ様から……彼の言葉に、間違いは無いとのお言葉です」
ふうん。巫女に意思を伝えるって言ってたけど、桃色が巫女だったんだ。
「ってことで理解できた?」
桃色の言葉に、黙り込んだ連中に僕は声をかけた。
「本当はね。この国の国民全部から寿命を貰ったりとか、貴美香が対処する前の状態に戻すとか、色々考えてたんだけどね。イリス=リルヤが必死に謝るから、そこまでしないことにしたんだ」
僕は一旦言葉を切った。
「自分達のしでかしたことで、神に頭を下げさせるなんて凄いよね。中々出来ることじゃないよ、僕にはとても出来無いよ」
やろうとも思わないけどね。
召喚の対応が間違ってたことも理解してもらったよ。
僕が説明しても嘘だと決め付けるから、イリス=リルヤに説明してもらったんだけどね。
これでも馬鹿な召喚が続くようなら、正式にイリス=リルヤに対して他の世界の神々から制裁が入るからね。イリス=リルヤも必死に説明してたみたいだ。
まどろっこしいことしないで、召喚自体禁じちゃえばいいのにね。
という訳で、僕はあの連中から貴美香に寿命を移した。これで貴美香の寿命は元通りっていうか、延びた。ま、それくらい色つけたっていいよね。
寿命を貰っただけで、報復はしないのかって?
イリス=リルヤとの約束でね、報復は一応しないことになったんだ。
一応っていうのはね、あの連中の今後の対応次第って注釈がつくからなんだ。
反省しなかったり、文句言ったりしたら、報復OKってね。
だってさ、この対応ってイリス=リルヤの許可が出てるんだよ。それに文句をつけるってことは、イリス=リルヤに文句をつけるってことだよね。
そんな連中にはさ、おしおきっていう名前の報復があってしかるべきだと思うんだ。
僕の予想では、多分報復することになると思うけどね。
それにしても、久しぶりに異世界とか行ったから、少し疲れたかな。
うん?
そうだよ、異世界は初めてじゃないよ。
僕も以前召喚されたからね。お約束の勇者としてね。あそことは別の世界だったけど。
魔王を倒して終わりかと思ったら、邪神が出てきてこんにちは。
頑張って倒したけどね。だって貴美香に会えなくなっちゃうからさ。
そしたら、色々とオプションがついちゃったんだよね。
魔王を倒すだけの力+邪神を倒せる力ってだけでも、一般人とはとてもじゃないけど言えない。
でも、邪神を倒した=神殺しってのが、ついたオプションの理由らしい。
神を殺せる=神より上の存在ってことになるらしくってね。
うん、神もピンキリだからね。
どんな神より上の存在って訳じゃないよ。
でも貴美香にちょっかい出した世界を特定して、イリス=リルヤにOHANASIできるくらいの力はあるんだ。
ああ、今回のことで、一つだけ良いことがあったんだ。
貴美香の存在が、僕に近くなったんだよ。
これならちょっと頑張れば、僕と同格とはいかないまでも、近い存在まで引き上げられる。
そうすれば、今の身体のままで、ずっと貴美香と一緒にいられるようになるかな。
うん、頑張ろう。
当初、続編は三人称で考えていました。
三人称だと、物凄いシリアスになるんですよ、この話。
女神の神託で集められた召喚の関係者。
突然現れた召喚者の関係者。そして告げられた寿命の剥奪。
理不尽に怒り、その理不尽を召喚者が味わったことだとつきつけられる。
歪んでいった召喚の実態を教えられ、自分達の過ちを知る。
頭では理解できるもついていかない感情。
しかし無情にも実行される寿命の剥奪。それに彼らが思うことは……
でも、彼は貴美香ちゃん以外どうでもいいので、彼らの心情はまとめてスルー。シリアスどこいった。
ちなみに、今回も出てこなかった彼の名前は夜剣 由鷹でした。