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三題噺 作者:雲鳴遊乃実
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第五題「はしご/大陸/死人」

 高いところから百回落ちた。案の定一度も死ななかった。
「いい加減諦めたら」と友人に笑われて、ふたり連れだってとぼとぼと家へと帰った。
 他のどの方法を使っても同じだった。火に焼かれても、海の底へと沈んでも、時間が経つといつの間にか大陸の真ん中に聳える巨大なはしごを降りている。移動する間に死んでいるのかもしれないが、僕の意識は決して途切れなかったので、死んだという実感がない。それは死ではない。やはり死と言うからには完璧に無に帰してもらいたいものだ。
 こっちの世界にいる人は決して死ぬことがない。
 はしごの向こう側には元の世界がある。僕たちのような死なない人々が元々いた世界だ。人々は元々は限りある命の中で生き、死に絶えて土に還っていたのだが、いつの頃から死ななくなった。そのまま増えていっては地面がいっぱいになってしまうので、別の世界の空へと繋がる巨大なはしごを作り、要らなくなった人たちを放り捨てた。
 向こうの世界で人が少なくなりすぎたら、こっちの世界から選ばれた人がはしごを渡って元の世界へ帰らせてもらえるが、相当な経験をつまないとそんな恩恵には預かれない。僕などはまず年齢検査の時点で弾かれてしまう。
 死なない人であふれかえった世界は窮屈で、どこへいっても暗い顔が並んでいる。死ぬことは生きている人の特権だった。死なないことは決して、生きていることの裏返しにはならなかった。
「ねえ君、名前は覚えているかい」
 友人が僕の肩に身を寄せて訊いた。僕は首を横に振った。元の世界にいたときの名前は頭の中で霞んでいる。
「わたしも覚えていないんだ」と、友人は微笑んだ。
 僕と友人は一緒にこっちの世界に来た。手を繋いではしごを降りるくらいなのだから相応の仲の良さだったのだろう。だから‘友人’と呼んでいる。名前はとっくに忘れていた。
 友人は不思議な人で、いつも僕の髪や、腕、腹周りなどを撫でてくる。理由を訊くと首を傾げる。どうも無意識であるらしい。
 友人が何者なのか、知りたいと思ったのは最初のうちだけで、もう気力はどこにもない。きっとこっちの世界へ来たときに全て落っことしてきたのだろう。
 友人の指先が僕の髪を絡み取って、「変わらないね」と呟いた。仕方がないだろうと口にした。終わりの方が少し掠れた。震えていた。何故だろう。
 日も暮れ深く沈んだ闇に、夜鷹がキヨキヨと鳴いていた。

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