挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
三題噺 作者:雲鳴遊乃実
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

3/5

第三題「スイカ/工場/箒」

 工場の掃除をするのが仕事だった。鉄を加工する際に出る鉄くずを、工場の端にいくつも積んで、運んで捨てた。
 僕は仕事に熱中した。 掻かき集めればそれだけお金が貰えた。お金を稼ぐと両親が喜んだ。働く理由はそれだけだった。
 従業員は 終日ひねもす働いていた。二回ある休憩時間にはほとんどが寮へ帰った。何人かは工場内で食事をした。
 そんな毎日を眺めていた。
「こっち来い」
 ある日の休憩中、声を掛けられた。ゴーグルつきのヘルメットを被った男で、話しかけられたのは初めてだった。
「いつも掃除しているな」
 頭を 鷲掴わしづかみにされ、僕は怯えて固まった。ごしごしと、 撫なでられていると気づいて、おずおずと力を抜いた。
「お前にやるよ」と言われ、ビニール袋を唐突に手渡された。スイカが入っていた。
「いいんですか」
「同僚だけじゃ余っちまうからよ」
 細長いスイカ。 歪いびつではあったが、僕はすっかり恐縮してしまった。
「ここ座れ」
 男が示した作業員用の椅子を見て、少し迷い、結局座った。
「坊主、俺たちが何を作っているか知ってるか」
 僕がわからないと答えると、男は嬉しそうに頬を緩めた。説明がしたかったらしい。
「飛行機のパーツだ。エンジンの一部がここで作られている。空を飛んでどこまでも行くために不可欠なんだ」
 飛行機はこの国に導入されて間もなかった。僕は驚いたし、感心もした。鉄くず自体はゴミなのに、と思ったが口には出さなかった。
「お前は飛行機に乗れたらどこへ行きたい」
「わかりません」
「どこでもいいんだぞ」
「考えたことがありません」
 僕は困り、男も困り顔になった。 顎髭あごひげを撫でて唸り、急にぱっと目を開いた。
「そのスイカ、今すぐ食えと言われたらどうする」
 え、と小さく声が漏れた。
「切る物がないと無理です」
「あるよ」と、男が自信ありげに言った。首を傾げる僕の前で、男はしゃがみ、足下に転がっていた鉄くずを拾った。 尖とがった大きい鉄くずだ。
「これで叩けばすぐ食える」
 男は得意げに笑ってみせた。
 頭がすぐに回らなかった。何かを言い返そうとしたが、 折良く放送が鳴って休憩が終わった。男は「またな」と行ってしまった。
 結局掃除が進まなかった。落胆しながら、ゴミの山の方へ向かった。
 ゴミ捨て場に運ぶために、鉄くずの山を切り分けて一つ一つ台車に乗せていく。
 その作業中、尖ったくず鉄が目に入るたびに心がざわついた。
 スイカを持って帰るか、それとも。
 いつの間にかその問いばかりを頭の中で繰り返していた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ