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三題噺 作者:雲鳴遊乃実
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第一題「墓/バラの花/赤い」

 赤い鳥居の足下で死んでいた。
 痩身な異国の男だった。彫りが深いため青い瞳がつねに 翳かげっていた。古い旅装束は港で仕入れたようだ。片言のために下に見られたのか、高い背に似合わぬうえにほつれが目立っていた。
「魔除けの鳥居に弾かれたのさ」
 誰かが言い、せせら笑いが続いた。
  骸むくろを前に 屯たむろしていた群衆へ官憲の呼び声が鳴った。私の名前だった。官憲は私の腕を掴むと、「事情聴取」と妙な言葉を言い私を引いた。駐在所に着くと足を広げて座った。折り目の目立つ黒色の洋装だった。
「面識があったそうだな」
 威圧を肌に感じた。私は頷いた。事実、異人とは昨日会っていた。
「藩主の庭を見たがっておりました。庭師の私が応対しました。ですが藩主はおりませんし、土地は県のものですから、許可をもらって来るようにとお伝えしたのです」
「死にそうな体だったか」
「言われてみれば青白い顔だったような。しかし私どもと比べれば地肌の色が、違いますのではっきりとは」
「名は聞いたか」
「いえ」
「ならばもうよい」
 事情聴取は五分で終った。街道は暗く、 亡骸なきがらの虚ろな瞳を思い起こさせた。
 名も知らぬ異人は無縁仏として寺に葬られた。神社からは離れた墓所だ。彼がいなくなる様を私だけが気にしていた。
 片言での頼りない会話だったが、あの旅人が庭師を志しているのはわかった。
 彼は花の写真を一葉持っていた。花弁が 八重咲やえざ きに広がるその花は後に 天地開ラ・フランスの名で舶来した。薔薇の変種であった。
 その美しさは民衆にも噂になった。明治の世の中、新しいものは良いものだと考える人が多かった。旧藩主の土地に新しく住み着いた家主も天地開を求めた。私は栽培方法を一から学び、薔薇の塀で庭を囲った。艶やかな 棘いばらに夏には 紅くれないの花がずらりと咲いた。家主は大いに喜んだ。
 私は薔薇を好むようになった。きっかけのあの異人を思い出し、家主に断って手向けの薔薇を一輪携えた。
 寺に向かおうとしたのだが、初夏の風に足を止めた。遠く離れた寺よりも死んだ場所に近い方が良いと思った。
 神社への道を辿っていたつもりが何故か迷った。鳥居が見つからず、奥の社も見当たらなかった。暮れかかる空に焦りを覚え、道行く人に尋ね聞いた。
「官憲が全部壊したよ」
 仕方なく、道と道の交わりを頼りに鳥居の跡を探した。やがて盛り土が見つかり、薔薇の花を添えた。紅が夕陽に映えた。
 たどたどしい会話の間、弱々しくも笑っていた異人の顔を思い出し、頬が 綻ほころんだ。
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