シンデレラより魔法使いに
シンデレラのガラスの靴は、どうして脱げてしまったのだろう。
「だってさ、ぴったりだったんだよ? って事はすなわち自分で脱ぎ捨てたって事だよね。だったらそう書けば良いのに。そのほうが面白いし。シンデレラの機転を褒めるべき」
私は作りかけの魔法の杖を振り回した。するとてっぺんの星がぽろりと落ちた。やっぱりちゃんと固定しなくちゃいけないか。
「魔法使いが、その一瞬だけ大きくしたんじゃない? きっとどこかで見守ってたんだよ」
冠作りに苦戦していた早紀は手を止めて答えた。
文化祭でシンデレラの劇をすることになり、私達は小道具係となったのだ。
私は拾い上げた星を握ったまま、机に突っ伏した。
「魔法使いって暇なんだねー」
「たぶん凄くいい人なんだよ。善意の塊みたいな」
「……どういう事?」
「ほら、魔法使いからしたらシンデレラは見知らぬ女の子な訳じゃない。なのにわざわざ現れてあんなに沢山魔法を使って、願い事を叶えてあげるなんて素敵だよね」
早紀は再び冠と奮闘し始めた。
今ひとつやる気のでない私は、童話の魔法使いに想いを馳せる。
そうだよな。魔法使いからしてみればシンデレラを助ける事になんの得もない。
ましてや、ガラスの靴を脱がしてあげたところで、シンデレラも王子様もきっと誰一人その事実を知らない。
自分は誰かのために何かをしたという満足感の、たったそれっぽっちの為に。
全部推測だから、実際に魔法使いにどんな事情があったのか解らないけど。
でも確かに凄くいい人だ。言われるまでそんなこと思ってもみなかった。あの物語で、魔法使いは意外と印象が薄い。
シンデレラはいいな、運良く魔法使いに願いを叶えて貰って、幸せになったのだから。シンデレラストーリーだなんて言うけれど、彼女は自分で何かをやったのだろうか。ただ美人なだけじゃないか。誰かに好かれるのも、才能だけれど。
私はすっかり魔法使いのファンになった。魔法使いみたいな人に、なれたらいいな。
「魔法使い格好いいー!」
「うん。私も魔法使えるようになりたいなあ」
早紀はもう使えてるじゃない、と言いかけたけど恥ずかしいので止めた。
彼女の扱う言葉は、いつも魔法のようだもの。
シンデレラに憧れていた私を、魔法使いになりたいと心変わりさせる位の魔法を。
私は起きあがって黙々と杖を完成させた。星が付いているだけの、拙い杖だった。
そっと振ってみる。勿論なにも起こらない。
早紀の方も冠が出来上がったらしく、得意げに笑うと不格好な冠を私の頭にのせた。
裏方ばかりの魔法使いも、たまには冠を被ってみたかったのかな。
冠を外して、早紀に被せた。
うん、よく似合う。