相反する心─4─
あまりに急な出来事で、乃亜は一瞬頭が真白になった。
しかし、無理やり口を開けさせられ侵入してきた舌に、ようやく手足をバタつかせて抵抗する。
「んん〜っ!」
声も上げられず、痛いほどに掴まれた腕は振り解けない。バタつかせる足も黎の足で押さえられてしまった。
気が付いたらブラウスの上から胸を強く掴まれていた。
「や…やだっ、黎っ!」
何とか顔を逸らし声を上げるが、黎は止めない。
「いやっ…!」
小さな叫びを無視し、滑らかな太腿を撫で上げる。
ビクリと震える小さな体。
「俺が好きなら、ちゃんと相手しろよな」
耳朶を甘噛みしながら囁くと、乃亜の抵抗がピタリと止んだ。
黎は静かに顔を離し、乃亜を見た。
きつく閉じられた目から流れ出る涙。
震える小さな肩。
「……分かっただろ」
黎は嘆息し、手を離してやった。
「俺は“黎”じゃない」
「──っ」
乃亜は黎を押しのけると、勢い良く部屋を飛び出して行った。
黎はそれを見送ることなく、ベッドを振り返る。
残された鞄がぽつんと、床に落ちていた。
ベッドの上には、乃亜の字で書かれた授業のノート。
「ったく…。これで静かになるな…」
そう、静かに。
もう二度と乃亜がここに来ることもないだろう──。
パタリ、と床に雫が落ちた。
パタリ。またひとつ、落ちた。
「──っ」
後ろによろけて、壁に背を預ける形となる。
何故こんなものが?
あんな、華のように笑う少女を傷つけておいて、こんな涙を流す資格など無いのに。
(俺は“ノア”だけを愛してるんだ)
その想いだけは永遠に変わってはいけないのだ。
彼女を失った悲しみを。
愛した記憶を。
ずっと、この胸に抱いていなければ──。
それでも流れ落ちる涙。
その意味を、知ってはいけなかった。
二度と掴む事の叶わない華へ募る思慕を、断ち切らねばならなかった…。
静かに階段を下りる。
(なあ、ノア……)
誰もいないリビングを通り、ひっそりとしたキッチンに入る。
(俺も、そっちに行っても、いいだろ……?)
食器棚の引き出しから果物ナイフを取り出して。
静かな微笑みを湛えながら。
その刃を、手首に押し付けた…。
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野いちご版「NOAH」
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