ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  NOAH 作者:緑川海月
目覚め─2─
(怪我……したのか?)
 
ぼんやりと考えていると、バタバタと足音が聞こえてきて、レイのいる部屋に勢い良く人が飛び込んできた。

「レイっ!」
 
長い黒髪をひとつに束ねた、大柄な美しい女は、入り口から少し入ったところで足を止めた。そして、目を潤ませてレイを見つめる。

「…レイ…」
 
顔をくしゃくしゃに歪め、ゆっくりとした動きでレイに抱きついた。

「レイ、目が覚めたのね……良かった……本当に良かった……」
 
レイは抱きついている人物を、不思議そうに眺めた。……この人が誰なのか、まったく分からない。
更に部屋に人が駆け込んできる。
白衣を着た背の高い男と、薄い茶色の長い髪の女、そして最後に先程の少女が入ってきた。

「あの…」
 
まったく見知らぬ顔ぶれに、だんだん不安になってきた。誰か知っている者はいないのか…。

「レイ?」
 
抱きついていた女がレイの異変に気付き、顔を上げた。

「どうしたの?」
 
女の瞳はレイを気遣っているようだったが、何だか怖くて、その視線から逃げた。

「…レイ?」
 
女は立ち上がる。

「…レイ、アタシのこと、分かる…?」
 
ひどく弱々しい口調だった。レイはその女のすがるような瞳に申し訳ないと思いながらも、首を横に振った。

「そんなっ…」
 
女は助けを求めるような瞳で後ろにいる白衣の男を見た。白衣を着た男はレイに近づき、

「本当にこの人が分からない?」
 
と聞いてきた。レイはもう一度、しっかりと頷いた。

「自分の名前は分かる?」

「レイ……だと、思う」

「友達とか、兄弟とか、親の名前は?」

「……」
 
考えてみてもまったく浮かんでこない。軽く首を振る。白衣の男は軽くため息をついて、何か言葉を発した。その言葉が聞き取れない。
しかし、男が言葉を発してから、目の前にいる女の顔はみるみる蒼白になり、後ろにいた茶髪の女や、黒髪の少女も顔を曇らせた。

(…何?)

何を言われているのか解らなくて、不安になる。それに気付いたのか、目の前の女がゆっくりとした口調で訊ねてきた。

「本当に……解らないのね?」

「…はい」

小さく返事をする。

「…記憶を…失ってしまったのね?」

「え……」

(記憶喪失?)

そう言われて、少し考えてみる。
……確かにそうだ。自分の名前以外、何も分からない。まったく思い出せない……。

「ねえレイ、本当に何も分からない? アタシよ、ヒオウよ、分からない?」

「……」
 
レイは首を振る。

「何か、何かない? 覚えていること!」

「覚えていること…」
 
ゆっくりと頭を巡らせる。

覚えているのは……そう、あの嵐の中立っていたこと。体中が痛くて、とても悲しくて、涙が溢れてきて、そして……。

「女の子が……短い黒髪の、女の子がいた。それから、もう1人…」
 
そこでレイは、一番後ろにいた黒髪の少女に気付く。

「…あの子だ。あの子が……いた」

「うんうん、そうね、いたわね」
 
女は何度も頷きながら、次のレイの言葉を待つ。

「もう1人…」
 
レイは茶色の長い髪の女を視界に入れた。そして、少しだけ首を傾ける。

「髪の長い女の人がいた……けど、あの人じゃない……と思う。髪の色が……確か、銀色で……」
 
その言葉を聞いた周りの者皆、揃ってレイを凝視した。

(…?)
 
皆の視線を浴びて、レイは縮こまる。
それに気付いたのか、長い髪の女がスッと前に出てきた。

「お腹、空かない?」
 
優しい微笑みに、萎縮した体が解される思いがした。

「あ……はい」
 
レイは素直に頷くことが出来た。



この作品は、野いちご小説大賞にエントリー中です。 面白いと感じでいただけましたら、一票よろしくお願いします。
野いちご版「NOAH」
投票期間 7月31日まで


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。