目覚め─1─
ふわり、ふわりとまるで水の中を漂っているような心地よい空間の中にレイはいた。
柔らかく、暖かい……まるで母体の中で眠る赤子のような安らぎを感じる。
『…レイ』
自分を呼ぶ声が聞こえる。
『レイ』
声は更に大きくなった。
この心地よいまどろみにいつまでも浸っていたかったが……そのまま眠ることを許さぬかのように、名を呼ぶ声はどんどん大きくなる。
レイは、面倒臭そうに重い瞼を開けた。
そこは白い空間だった。
ぼうっとする頭で、しばらくその白い空間を眺める。
そうしていると、カチャッと音がして、人が近づいてくる気配がした。
目だけを動かして気配のする方を見ると、黄色い色がパッと目についた。しかし目が霞んで、それが何なのかまでは分からない。
黄色い色だけを目で追っていると、軽やかな歌が聞こえてきた。
かわいらしい優しい声で、それを耳に入れるのはとても心地良い。しばらくその優しい声に耳を傾ける。
そうしていると、目が次第に周りの景色を映し出してきた。
白い壁の狭い部屋に、窓にかけられた淡い黄色のカーテンが穏やかな風に揺れている。
あの黄色は……どうやら花のようだ。
大きな花びらが何枚もついた花は、やはり大きな花瓶に生けられていた。そして、それを重そうに持つ、短い黒髪の少女──。
歌の主はこの少女のようだ。少女は歌いながら花瓶を窓際のテーブルの上に乗せようとしていた。
ドンッと鈍い音がして、花瓶はテーブルに乗せられる。少女は「ふーっ」と息を吐き、ニコッと笑った。
そして、レイの方に視線を投げ──目が合った。
「……」
少女は笑顔のまま固まっている。
「あの……誰?」
そう訊いてみた。
何故かうまく声が出なくて、擦れた声になってしまったが……聞こえただろうか?
「うあっ、あああ、レイっ、あー、うー」
少女はかなり慌てた様子で、両手に握りこぶしを作って顔を百面相にしている。
「…あの…」
もう一度訊ねようとすると、少女が口を開いた。
「こ、コンニチハ。あー、オゲンキデスカ?」
何故かカタコトで喋る少女。
「あー、…マツ、イイ?」
「え?」
「マツ。マツ」
何を言っているのかがイマイチ良く分からないが──一生懸命手を動かしながら、少女は後ずさりし、先程入ってきたと思われるドアから出て行った。
(待ってろって言ったのかな…?)
少女の行動と言葉から推測すると、そのような感じだった。しかし、何故カタコトなのだろう? 少し知能の足りない子だったのだろうか…。
少女が出て行ってから、自分がベッドに横になっていることに気付いた。
左手を持ち上げてみると、そこから半透明の細い管が伸びていた。それを目で追っていくと、天井から下げられた透明な袋に繋がっているのが分かった。
腕を動かしたせいか、袋が揺れて、中の透明な液体がとぷん、と揺れた。
(何だこれ…)
どうやら点滴をうけているようだが、何故それをしているのかが分からない。
さらに、体を起こそうとして、全身に激しい痛みが走った。
「いっ…」
顔を歪めて、体をベッドに戻す。
この状況は一体何なのだろうか。レイにはさっぱり分からない。
もう一度、ゆっくりと体を起こしてみる。痛みは感じたものの、先程のような激痛はなく、何とか起き上がれた。
ハア、と息をつき、頭に手をやる。すると、何か布が巻かれている感触。体の方に視線を落とすと、白いシャツの下にも布──包帯が、肩から胸にかけて巻かれていた。
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