傷を負った少年─3─
「はいっ」
乃亜は力一杯白衣を引っ張り、少年を持ち上げた。小さな乃亜にはかなりの重さで、今にも落としそうだったが、歯を食いしばって少年を運んだ。
医院の中では、李苑が診察の準備を整えていた。診察台に乗せられた少年は、すぐに衣服をハサミで切られ、傷を確認した後、止血が施されていった。
「救急車呼んで。すぐに医大に運ぶ」
「はい」
「それから血液型調べといて」
「分かりました」
手早く処置を施す二人の医師の姿を、乃亜は呆然としながら眺めていた。
ふと、一緒にいた人物に目をやると、その人はガタガタ震えながらその状況を見守っていた。
「あ……だ、大丈夫だよ。あの二人は凄いお医者さんなんだから。絶対助かるから、ね?」
言葉は通じていないが……乃亜の励まそうとする意思は伝わったようだった。
聖と李苑の少年を助けようとしている姿を見て、悪い人達ではないと判断してくれたのだろうか…。その人は僅かに笑顔を作り、それを乃亜に向けてくれた。
「大丈夫だよ…」
乃亜は繰り返しそう言って聞かせた。
診察室では更に傷口との格闘が続いていた。
「……この傷」
はっきりとは言えないが、銃創のように見える。背中や太腿に貫通した痕。僅かに掠った痕は数え切れない。それが体中に何箇所も。それに、両脚の骨が折れている。明らかに異常だ。──一体、どこでこんな怪我を……?
少年を助けようと必死になっているところへ、困惑顔で李苑が話しかけた。
「聖くん…」
「なんだ!?」
懸命になっているので、少し荒っぽく返事をする。
「…血液型が、分からないの…」
その言葉に、聖は治療する手を一瞬止めた。
「え?」
「よほど珍しい血液型かと思ったけれど……顕微鏡で見たの。こんな型見たことないわ」
「……」
李苑は大学で血液学を専攻していた。その彼女が見たことのない血液型…? 今まで発見されたことのない血液型など、この世界にあるのだろうか…。
聖の目に、診察室の外で祈るようにして立っている人物が映った。
何か考えが浮かんだわけではなかった。ただ一瞬のひらめきだった。
「李苑、採血して」
と言いながら、その人物の手を引っ張り、診察室の椅子に座らせる。
「すまないが、君の血を採らせてくれ」
いきなり座らせられ、その人物は動揺している。
「──!?」
何かをわめいているが、何を言っているのか分からない。しかしきっと、「何をするんだ」と言っているに違いない。
聖は暴れるその人を力ずくで抑えた。
「ごめん、何言ってるか分からなくて怖いだろうけど、あの子を助けるためだ!」
「──!!!」
中性的な人物は、やはり性別の分からない高くも低くもない声で喚いた。
「ごめんなさい、チクッとしますよー」
注射器を構えた李苑は、素早くその人物に針を刺し、十秒足らずで採血は終了した。
「行き先変更だ。医大じゃなく……紫乃原医療センターに」
そこには、聖の最も信頼する医師がいた。その医師ならば、この少年を助けてくれる…。“誰にも内緒で”。
この少年達を、他に渡してはならない──。聖は本能的にそう感じていたのだった。
「がんばれよ、絶対、助けてやるからな…!」
出血多量でショック症状を起こしかけている少年の手を力強く握り、励ました…。
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