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その廃坑、不死生物の巣につき・1

 シエルが草の昼食から帰ってきたので、事情を説明し、俺たちは全員でムラサメの待つゴブリン村のハズレに転移扉を使って移動した。

 ムラサメの横にはぐるぐる巻きにされた白骨遺体のような骨の魔物――スケルトンがいる。白骨遺体と言ったが、色は茶色く、そして頭蓋骨の目の奥に闇の靄のようなものがあり、そこに緑色の光の塊――目のようなものが見える。


「これがそのスケルトンか――いたのは一体だけか?」

「いえ、あまりにも数が多いので、とりあえず全員の脚の骨を奪って、この一体だけを連れてきました」


 とムラサメはスケルトンの脛骨をまるで薪の束ように縄で括り付けて俺に見せた。

 足の骨だけ奪ってきたのか、確かにこれならスケルトンは動けないよな?

 ……ペス、後ろで涎をすするな。あんなもん食べたら腹を壊すぞ。


「で、このスケルトンの状態は? 目を覚ましているみたいだが」

「先ほど目を覚まして暴れていたのですが、縄が解けないとみると観念したのか動かずにじっとしています」


 無駄な体力を使わずに機をうかがっているのかもしれない。


「シエル、お前、スケルトンの言葉はわかるか?」

「スケルトンは言葉を発しないのよ。まぁ、スライムなのに喋るタードみたいな例もあるから、絶対とは言えないけど。その代わり最低限の知能は持ち合わせているから、人間の言葉でも通じるはずよ?」

「なるほど、試してみるか。おい、スケルトン。お前のあばら骨一本一本に腐った玉ねぎを刺されたくなければ、首を横に振れ」

 と俺がスケルトンの前に飛び降りて命令すると、スケルトンは首を何度も横に振った。

「さすがタード。普通なら骨を折られたくなければで済ませるのに、その先に行くとは――あたしの主人ながら恐ろしいよ」

 とアドミラが変なところで感心している。このくらい普通だろ?

 というか、偵察とかに出る魔物って、痛みとかそういう拷問には強い奴が多いし、中には殴られたら殴られた分だけ頑なにしゃべらなくなる奴もいるからな。いたぶるなら肉体ではなく精神というのが基本だ。

 どうやら話が通じるというのは事実らしい。知らなかったな。

「よし、スケルトン。俺の配下になれ。そうしたら腐った玉ねぎは勘弁してやろう」

 と俺がにやりと笑って言う。この調子ならスケルトンを仲間にするのも楽勝だろう。そう思っていたのだが、スケルトンは首を横に振った。

「あぁん? お前、俺が腐った玉ねぎを本当に持ってないと思っているのか? 上等だ、アドミラ! お前が昨日食料庫の奥で見つけて鼻を摘まみながら捨てた玉ねぎ、さっそく持ってこいっ!」

「タード、見ていたのかよっ!」

 アドミラが驚愕して叫ぶ。

 暇だったから仲間の様子を見ていただけだ。

「あれ、土の中に埋めちゃったよ」

「大丈夫だ、掘り起こせばいい」

「待ってっ! タード、アドミラっ!」


 とシエルが俺たちに待ったをかけた。

 なんだ? 臭いが嫌ならシエルは避難してもいいんだぞ? と言おうとしたが、シエルはスケルトンの丸みを帯びた頭を触り、


「《汝、その姿を我に見せよ。鑑定サーチアイ》!」


 と魔法を唱えた。

「あぁ、俺に使って不発に終わったあの魔法か」

「そうよ、余計な説明ありがとう。それと、このスケルトン、今のままなら腐った玉ねぎの上にさらにカビの生えたオレンジを刺しても仲間にならないわよ」

「どういうことだ?」

「このスケルトンは自然発生した魔物じゃなくて、多分他の魔物の特殊能力によって生み出された魔物なの。そういう魔物は、その術者の命令には絶対服従だから私たちの仲間にはならないわ」

「他のダンジョンボスやダンジョンフェアリーの仕業って可能性は?」

「百パーセントゼロとは言い難いけど、たぶんないんじゃないかしら? 先遣隊にしてもわざわざ廃坑のような場所にいないでしょうし、そもそもスケルトンは知能は多少あってもやっぱり偵察には向いていないもの。それよりかは、スケルトンを生み出す人間や魔物がいると思ったほうがいいわね――例えば、ネクロマンサーとか、アストゥートのような上級不死生物(アンデッド)のような」


 とシエルは自分の考察を述べた。

 ネクロマンサーに不死生物アンデッドか。

 どちらにせよ、うちのダンジョンの近くにそんなもんに居座られたらたまったもんじゃないな。

「よし、みんなで廃坑探索とするか」

「え? タードも行くの?」


 意外そうな目でシエルが俺を見てきた。


「ん? 俺が行ったら問題でもあるのか?」

「ほら、タードって危険なことはできるだけ避けたいタイプじゃなかった?」

「それは否定しないが、今回は勧誘目的だからな。ダンジョンボスである俺が出向かないといけないだろ。それにこういう廃坑の奥にいるボスは根暗美人だと相場が決まっている。もしかしたらかなりエッチな姿で儀式を行っている可能性だって大いにある。物語的に」

「何の物語よ……」

 シエルが小さな声で文句を言うが、これはもう決定事項だ。


「ということで、ムラサメ、ペス。お前らは死ぬ気で俺を守れ。アドミラとシエルはふたりの援護。そしてミミコは」


 と俺は一番後ろで笑顔で指示を待つミミコを見て、


「みんなに迷惑をかけるな」

「うん、わかった♪」


 ということで、これより廃坑探索が始まるわけだが。


「ムラサメ、とりあえずこのスケルトンは潰しておけ。ここはぎりぎりダンジョン領域だからな、ポイントになる」


 と俺は簀巻きにされたスケルトンの討伐をムラサメに指示した。

 スケルトンは殺されるのは嫌だと、じたばたと暴れ始めた。


「いいのですか?」

「邪魔になるし、これから会う相手がスケルトンを生み出せるのなら、一体くらい壊しても問題ないだろ」

「かしこまりました」


 ムラサメのカタナがスケルトンの頭蓋骨を叩き割った。

 そしてスケルトンは動かなくなった。

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