夜空に月の花を咲かせて見せましょう
「夜空に満点の月の花を咲かせて見せましょう」
王様の元に訪れた旅人はそう言った。
「よもや王城の前の湖に月を映して月の花などとは言うまいな」
「まさかそのような事はありませぬ。誠に月の花を咲かせてごらんにいれまする」
「ほう。では、いかように」
「この魔法の粉と何の変哲も無い筒を使います」
「魔法の粉とな?それまたいかがわしいな」
「いかがわしいでございますか?そうですか。では王様は月の花は見ずともよいと言う事でよろしいですか?」
「ふーむ。本当に見えるのだな?その月の花とやらが」
「はい。誠にございます」
「では、その粉こちらに持ってまいれ」
旅人は王様に魔法の粉を献上する。
そして、使い方をお教えするのであった。
「まずこの魔法の粉を少量手の甲に乗せます。そして、鼻から吸い込み、筒をもって月を見ます。されば月は大輪の花を咲かせ、見えましょう」
王は旅人の言う通りにする。
「うひゃひゃひゃひゃ、ホントーに咲いておるわ!!ウヘ、月の花が!!!」
「な、何事か?!」
王の異常に控えていた近衛兵たちが旅人を雁首そろえて、詰め寄る。
「貴様一体王様に何をした!」
「さて、私は王様が月の花を見たいとおっしゃったので、その方法をお教えしたまで。もしや皆さまも月の花に興味がおありかな?」
「そのような物・・・」
「無いとおっしゃるのですか?金などとりませぬ。さあ、どうぞ一時の夢、お楽しみください」
近衛兵の長は訝しがりながら剣を収め、恐る恐る王に倣って月を見る。
「さあ、皆さまも共に・・・」
そして、広まる月の花。
堕ちた王城を攻略するのは隣国にとって容易きものとなるのだった。