実験
「科学を志す者は、何事もいとわず、己が肉体で体験してみる必要がある」
教授は、威厳をもって、学生たちに言った。
しかし、内心は、嬉しくて仕方が無いのだ。この4月、晴れて念願の教授になれたのだから。
「そこで、諸君には、これから私が行う事を、そっくりそのまま、やってもらう」
そう言うと教授は、先ほど、研究室で雑巾がけに使ったバケツを取り出した。雑巾を何度も洗った水は、すっかりネズミ色になっている。その水の中に、教授は一本の指を浸し、そして、指を抜くと、なんと指を口でしゃぶって見せた。
「さぁ、1人ずつやりたまえ」
学生たちは、皆、やりたくなかったが、教授が自らやって見せたので、仕方なく、バケツの水に、指を浸し、それをしゃぶった。筆舌に尽くしがたい味に、皆、一様に顔をしかめた。
「はっはっはっ、皆、引っかかったようだね。実は、私は、中指をバケツの水に浸し、人差し指をしゃぶって見せたのだよ。科学を志す者は、何事も、よく観察しなくてはいかん。はっはっはっはっはっ」
教授は上機嫌だった。いつか、教授になったら、これをやりたいと、ずっと思っていたのだ。
翌日も、教授は、張り切って出勤したが、学生が1人も来ていない。首をかしげていると、学長に呼び出された。
「君はクビだ! まったく、くだらん実験で、集団食中毒など出しおって」
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