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プロローグ〜10話
プロローグ

 どこにでもいるごく普通の同棲カップル。
 青年の方はやや威勢がよく、ケンカっ早いところもある。
 だからといって、凶暴でもなければ目立ちたがり屋というわけでもなく、単なる性格的なものにすぎない。

 一方、その彼女の方といえば、活発で明るい子という、とってつけたような定番評価がぴったりくる平凡な女性。
 とびきりの美人ではないけれど、彼女の人懐こさや個性的なしぐさが、青年にとってはとてもチャーミングに思えた。

 共働きではあったが、若い二人の稼ぎなど知れたもの。月々の家賃と生活費でギリギリの暮らし。 
 だが二人とも幸せだった。常にプラス思考で考える二人は、若いなりに苦労をバネに生きるすべを知っていた。
 
 青年は、自分の彼女に対してまだ“結婚”という言葉を口にしていない。
 でも彼は、着々とその準備と時期を考え始めていたのである。

 ────そんな矢先、青年の身に起こった不慮の交通事故。
 ひとり絶望に立たされた彼女。
 未来ある二人の運命は、その彼の死によりあっけなくついえたかに思えた。

 この物語は、その8か月後から始まる────



第1話 2度目の人生

 俺は心地良い眠りから覚めた。というか、突然邪魔が入って起こされたようだ。でもそれだけではすまなかった。廻りからのすごい圧迫感。
特に頭を上に引っ張られているようですごく痛い。

 やめてくれよ。。一体誰なんだよ。。痛いってばっ!

そう言おうと思ってもなぜか口が思うように動かない。もう泣きそうだ。
この引っ張り方って何なんだ?バキュームのようなもんで吸い込まれてるような。。首が伸びるじゃねぇかよぉ〜!
 俺は我慢できずに泣いた。大声で泣かずにはいられなかった。

 ───そしてどのくらいたったろう。
長く思えたが実際は数分だったかもしれない。俺は頭の圧迫から開放され、広い空間の中に放り出された感覚に陥った。でもまだ俺は泣き止まないでいた。たしかに頭からは開放されたが、次に顔中体中、タオルでこすられているようだ。全身いじくられ、むずがゆいやら痛いやらで、もう“いい加減にしてくれ状態”だった。

 それも少しおさまった頃、ようやく俺も少しは冷静になってきた。でも
なぜか目が見えない。おいおい、俺は失明したのか?一体俺に何が起きてる?そうこう思いあぐねているうちに、廻りの声が聴こえるようになってきた。
「ほらほら、ママでちゅよ〜いい子いい子」

ん?何?どうゆうこと?今の俺の想像する状態と言えば、大きな腕の中に抱かれているような…そして顔に当たる触感は、あたたかくて柔らかい乳房のような…いや、これはきっと乳房だ!間違いなく乳房だ!

 ってことはなにその……俺って今赤ちゃん?Σ|ll( ̄▽ ̄;)||l
なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!

 今の俺には歯がないし、体も未発達で目も見えず、言葉を発しようにも声にならない。ただ泣くだけであった。

「おーよちよち、また泣いちゃってぇ、ほんと元気な子ねぇ〜」

母親と思える人がこんなことを言っている。何も元気じゃない。やりきれない気持ちを抑えられず、泣いているのだ。
 この状態、いつまで続くんだろう。夢であってほしい。次の瞬間にでも元に戻ってほしい。そう思いつつ、俺はハッと気づいた。

 俺……そういえば死んだんだった。。
 ってことはだ。てことは…もしかして俺って生まれ変わった?マジで?

 そうこう思い悩んでいる最中、助産婦さんらしい女性の声が聞こえた。
「口元と鼻がママに似てかわいい女の子ですね〜」

 げぇぇぇぇぇぇぇぇ!!俺って女かよぉぉぉぉ!!

一体俺の新たに始まろうとしている人生はどうなっていくのだろう。。
こんな前世の記憶を持ったままで。。。
俺がそのうちいきなりしゃべり出しても、天才バカボンのハジメちゃんじゃあるまいし。周囲を混乱させない程度に生きていかなきゃならんのか?

 それにしてもとりあえず、目が見えるように早くなってほしいもんだ。
 今、俺を産んだ母親ってどんな人だろう?
 戸惑いもあるが、ちょっとこれからが楽しみにもなってきた。



 第2話 産婦人科にて

 どのくらい時間がたったんだろう?
 今の俺といえば、母親らしき人に抱かれては寝かされ、再び抱かれては寝かされの繰り返しだった。それに俺自身も何度寝てもすぐに眠れるのだ。
 以前の自分は毎日睡眠時間が5時間くらいだったから、そのツケが今来ているのだろうか?いや、そうではない。赤ん坊は寝れるもんなのだろう。それが仕事のようなもんだ。

 そんな中、誰か来客が部屋に入って来たようだった。
「美香、よく頑張ったね!おめでとう〜!体の調子はどうだい?」
「うん。ちょっときつかったけど、今は回復したよお母さん」

 げっ!この人が俺の婆ちゃんになるのか。。。
 しかも、この母親らしき人は美香っていうのか。。
   
「どれどれ抱かせてちょうだい。」と俺は譲り渡された。
「その次はわしの番だからな。」とまた違う声。
 うげっ!じいさんも来てたのか。。( ̄Д ̄;;

「おーよちよち。ほら、ばあちゃんのおっぱい吸うかい?」

 おいおい、いくら冗談でも言わないでくれ。想像したら具合悪くなる。

俺のそんな心のうちをよそに、無理矢理この婆さんが俺の顔を自分の胸に押し付けてきた。もう泣いてやるしかない。

「あららら、泣いちゃった泣いちゃった。ほら、今度はおじいちゃんよ」
     げっ!よけい気色わるっ!!

「おお、利口そうな子だぁ〜。さすが俺の孫だ」
年配の言いそうな決まりきったセリフを言ったあと、じいさんはいきなり俺にキスをしまくってきた。

 おえぇぇぇぇ〜〜!じじぃ、くせぇよっ!ニンニクくせぇ!
 孫に会うのに変なもん食って来てんじゃねぇよぉ!
 俺は再び、泣くしかなかった。

「おじいちゃん、なんかニンニク臭いよ?」
「おっと、ごめんごめん。そうなんだ。それ食べてきたんだよ。」

 ほれみ。身内からもバレてやがる。

「お腹がすいてるのかもしれない。母乳あげよっかな」
母親らしき人がそう言うと、俺はまたもや道具のように譲り渡され、乳房に口をあてがわれた。
 俺は生まれてこの方、この瞬間だけが大好きだった。母親の乳首をちゅうちゅう吸っている瞬間。大人だった頃、このような瞬間は恋人と愛し合っているときだった。
 でも今、同じようなことをしていてもそんなえっちな気分にはなっていない。
 そう…そうなんだ。。俺は赤ん坊だからだ。本能的に母乳を求めているだけなのだ。
 そう考えると不思議なもんだ。俺が死ぬ前に彼女と愛し合ったのは…

 ───ん?…この母親はたしか美香って呼ばれてたよな…
    Σ('◇'*エェッ!?まさか…いやそんなことは…
    こんな名前の人はいくらでもいるもんだ。

 なんかもう疲れた。ってか、また疲れたw 考えてたってしょうがないさ。寝よう。またあとでいいのさ。時間はたっぷりある。
 俺は深い眠りに入っていった。

 

 第3話 来客の日々

 数日たって、ふと気が付いた。
そういえば、俺が生まれたっていうのに父親が来ていない。
何かわけありなんだろうか?じいさん婆さんが来訪したときも、父親についての話題はいっさいしていなかった。

 まさか…シングルマザー?
 この産婦人科を退院したら母子家庭になるのだろうか?

 いろいろ考え始めるとキリがない。まだしばらくは俺の目も見えないだろうし、なんかイライラする。
 でもどうしてなんだろう?赤ん坊はまだ脳も発達していないはずなのに、なぜ俺はこれでだけ考えたり悩んだりできるのだろう?しかも、生まれる前の記憶も徐々に蘇ってきている。いわゆる前世っていうやつなのか?
 
 それにミルクにも飽きてきた。ラーメンも食いたいし寿司も食いたい。
でもさすがにそれは当分無理だろう。
 俺はこれからどんなふうに生きていけばいいんだろう?

 しかも女の子だし;^_^A

 考えても時間はたっぷりありそうだからのんびりいくとしよう。
 こうなったからにはどうにもなるもんでもない。と考えたのはもう何度目だろうw

 しばらくして別な来客が来た。
「美香ー!おめでとぉぉ!」
「美香、おめでとう。キャー可愛い赤ちゃん!」
「美香ー!やったねー!O(≧∇≦)O イエェェェェェイ♪♪」

 どうやら女友達が3人来たらしい。俺はたちまち、代わる代わる抱かれまくり、絶賛のほめ言葉を浴びた。まぁ、普通に考えても人の赤ちゃんに対して『わ、キモい赤ちゃん!ブサイクねぇ〜』なんていう人間がいるはずもないが。

「美香、これ。。はい、少ないけど」
「あたしもね、はい」
「あらためておめでとう。これから大変だから有意義に使ってね」
「あぁ〜みんなそんなに気を使ってくれて…わざわざ来てもらった上に。。ホントにありがとう」

 (・ε・ん?もしかしてこれってきっと出産祝いのご祝儀だな。
 (*`▽´*)ウヒョヒョ。。一体みんないくら包んでるんだろう?
 なんか俺がこの金を使えるわけでもないが、現金もらうと妙に嬉しいもんだww

 その後も数人、親戚や友人関係が順に押し寄せ、出産祝いも次から次へけっこうたまったようだった。そしてようやく人が途絶えたころ、美香という俺の母親なる人が、のし袋を開け始る音が聞こえた。
「うわー、恵美は2万も!あ、さゆりは5千円かぁ。今月苦しいのかなぁ?ああああ〜、市議会議員のおじさん5万円も入ってるぅ〜♪(@^∇^@)わぁーい」

 なんとなく親の醜い1場面を見てしまったような…( ̄ー ̄;

 

 第4話 衝撃の事実

 こんな寝たきり状態の中で、俺が1番不快感なのがトイレに行けないこと。それこそ、小のときも大のときも気づかれるまで放置状態。
 泣いてみせてメッセージを伝えようとはしているものの、このバカ母は経験不足というか、鈍感というか、すぐには気づいてくれない。逆に看護師さんたちの方が理解してくれるのだ。

しかしながら最近では、おしりを拭いてくれるときなんかは最初はかなり気恥ずかしかったが、自分が赤ん坊であることに慣れ初めて来ると、けっこう快感になってきた。すっきりした爽快感の他に、何より自分でやらなくても全部人がやってくれる。言わば殿様状態。クセになりそうだw

 それから数日後の1週間目、ついに俺と母親は退院の日を迎えた。
 行き先は親のいる実家らしい。あのニンニク臭かったじじいの運転で玄関先に到着すると、早速、婆さんが待ち構えていた。
 一応これから世話になる礼儀上、俺は笑ってみせた。
「よく来たねー。お婆ちゃんだよー。あー笑った笑ったー」
 
 これくらいのことでみんなが喜んでくれるなら、た易いことだ。

 俺と母親はそこで過ごすであろうと思われる部屋に通された。
 爽やかな風と共に潮の香りも流れてくる。どうやら海のそばらしい。

 うむ。なかなかいい環境だ。毎日ぐっすり眠れそうだな。

 その後、俺は毎日風呂に入れられた。俺の風呂係は毎日何かしら口の臭いじじいだった。ある日は酒臭くて、ある日は納豆臭くて、またある日はネギ臭かった。
 しかしそれさえ我慢すれば、元々死ぬ前から温泉が大好きだった俺は、風呂が嬉しくて気持ち良さのあまり、湯船で寝入ってしまっていた。
「この子はえらいな。大物になるぞ。風呂に入れたら大泣きするのは覚悟していたのに、こんなにウットリした顔で寝てしまうなんてな」
 じじいは近所の人たちにも毎回この風呂話を自慢げに話した。
 近所の人たちもいい迷惑だったろう。

 それにしてもどうやら俺にはやっぱり父親がいないらしい。これから母子家庭で育つのだろうか?あるいは、いずれ母親に男ができたとき、俺はどうなるんだろう?施設行きか?それとも同居しながら父親に虐待を受けるのだろうか?ちと早い先走りかもしれないが、その日に備えて俺の体ができあがってきたら鍛えておかなくては。

 毎日がほとんど寝てるだけで、頭が絶壁になってしまわないか心配になってくる。それに、まだハイハイもできないでいる自分に歯がゆくなってきた。目はようやくうっすら見えるようになったが、はっきりと人の顔はわからない。でももう少しの辛抱だ。

 そして俺の名前が決まったようだ。まわりが一斉に呼び始めた。
「ことみちゃん。ほら。イナイナイバー!」と、婆さんが言う。
 今どきイナイナイバーなんてまだ言うもんなのか?(='m') ウププ
 でもなんか、ことみちゃんなんて呼ばれると俺はオカマバーで働いてるような感じがして、おかしくてたまらなかった。
「あ、笑った笑ったー。名前気に入ってくれたのねー」

 気に入るもなにも。。;^_^A  笑えるんだよ!

 でもやっぱし…これから女の子らしくしなきゃなんないのかなぁ。。。

 そんな中、ついに俺はある程度は目が見えるようになった。
 そして、ついにこの瞬間!鏡に映った自分を見る瞬間がやってきた。

 おぉ〜!俺って可愛いっ!!

 かなり嬉しかった。やっぱ美人でなきゃなw

「ことみちゃん。ミルクの時間でちゅよ〜」と母親の声。
「はい、ママがだっこしてあげるね〜!…ん?…え?どうしたの?ことみ。なんでこっち見たまま固まってるの?ママの顔なんか変?」

 ────そりゃ。。。固まるさ────
   お前……美香じゃん。。俺の…俺の恋人の美香じゃねぇか。。



 第5話 恋人が親

 俺は自分でもわかるくらい固まっていたが、与えられたミルクだけは本能的というか赤ん坊の定めというか、無意識に口が動いてすすっていた。

 一体どうなってんだ?俺が美香から生まれたってことか?信じられるかそんなこと!
 じゃあ、どう理解すればいい?死んだ俺がなぜこんな形で存在してる?
 美香は俺がいなくなってからすぐ再婚したのか?
 ということは俺と二股かけてたのか?
 いや。。でも父親はいないようだし結婚はしてないようだ。
 俺が死んでやけになって、行きずりで妊娠してしまったのか?
 いや…美香はそんな女じゃない。
 う〜ん、わからんわからん。わかんねぇよ!

 今すぐにでも美香に真相を聞きたい。1度しゃべってみようか?
 どこまで口がまわるだろう?まだろれつがまわらないもんなのだろうか?
 でも、もし俺が今しゃべれたとしたら化け物扱いされるかもしれない。
 うん。。もう少し冷静になって考えよう。今のままではどうしようもないのだから。

 翌日の朝、目覚めた俺はマジマジと美香を見てみた。
 俺と付き合っていたころの美香と見た目も変わらない。年もとっていないように見える。 
 俺と死別してからそんなに立ち直りが早かったのか?ちょっとショック…

 ミルクを飲むたびに美香の胸に抱かれるので、いつも顔を下の角度ばかりから見ている。美香は少し太ったかな?顔を俺に向けると2重アゴになっている。俺は相変わらずにミルクか母乳を飲まされている。
 ふと衝動的に母乳を飲まないで、美香のオッパイの先を舐めてみた。

 きゃwくすぐったい!ことみちゃん、吸うのよ吸うの。舐めてるだけじゃ飲めないわよ」

 わかってるって。わざとやってんだろうが。

 しかしこの先本当にどうなってしまうのか。
もし俺がこのまま女として成長していったとしても、男なんて好きになれねぇぞ!告られたらぶっ飛ばしてやる!
まぁ、今こんなこと考えてもしょうがないんだが。。


 美香の実家は海のそばだけあって、夕食には肉よりも新鮮な魚や海鮮料理が食卓に並んでいた。もちろん俺はそれをまだ口にできず、ひもじい思いをしていた。
「お、ことみがよだれ垂らしてるぞ。刺身でも食いたいんじゃないのか?」と、じいさんが言う。
「まさかそんなわけないでしょ!おじいちゃんたらw」

 いや、そんなわけなんですよホントに;^_^A

 全く夕食の時間は拷問だぜ。。(゜ーÅ)ホロリ

  
 月日が流れて、出産後の日が明け、美香も炊事や洗たく、買い物もこなすようになった。特にスーパーに行くと俺はベビーカーに乗せられ、見ず知らずの買い物客に触られまくるのであった。それもほっぺたばかりツンツンされるので、こそばゆくてしょうがない。たまに4歳児が5歳児の子供が物珍しそうに俺を見てはちょっかいを出してくる。

 このクソガキが!走れるようになったら仕返ししてやるからな!

 俺はスーパーではいつも機嫌が悪かった。


 そんなある日、美香は俺を連れてどこかへ出かけようとしていた。
 「じゃお母さん、言って来るね」
 「気をつけるんだよ。向こうさんもきっと喜んでくれるよ。よろしく言っておいてね」
 「うん。。」

 いまいち俺にはすぐにピンと来なかったが、美香が運転する道をじっと見ているうちに、たしかに見慣れた風景であることに気が付いた。
 そして到着した場所───
 そこは……俺の家。。つまり俺が死ぬ前、大人の男として生きていた世界の家だった。

 美香は俺を連れて堂々と玄関を入って行った。



 第6話 昔の実家にて

「ごめんください。美香です。今着きました」
 そう言うと、美香は抱いている俺の顔を見て、考え深げに微笑んだ。

 奥の方から年配の女性が玄関に現れた。それはまぎれもなく俺の前世の母親だった。
「まぁ、美香ちゃん。よく来てくれたわねぇ。さっきお母さんから電話もらってびっくりしちゃった。」
「ごぶさたしてます。ようやくこの子を産んで日が開けたもんですから」
「まぁ、玄関で話すのもなんだから、遠慮なく入って入って」
「はい、お言葉に甘えて。お邪魔します」

 俺と美香は応接間に通された。この部屋も懐かしい。子供のころ夏場の暑い時期は、この風通しの良い部屋でよく大の字になって昼寝したもんだ。

「今お茶入れるから待っててね。」
「あ、おかまいなく」

 俺の母さん。。もうしばらく会ってないような気がする。一体俺が死んでからどのくらい月日が経っているんだろうか?

 俺の前世での記憶の最後は、病院で母親に手を握りしめられているときだった。俺が事故って薄れゆく意識の中で、母さんは泣きじゃくりながら俺を呼び戻していた。そう…あんな必死な母さんを見たことがなかった。俺も死にたくはなかったが、もう自分で無理だと悟っていた。あのときは無念でたまらなかった。

 母さん。。もう1度会いたかった。ずいぶん心配も迷惑もかけまくりだった。そして先に死ぬなんて親不孝もいいとこだ。

「お母さん、ことみを抱いてやって下さい」
 美香は俺の母さんにそう言うと、そっと手渡した。

「ことみちゃんって言うのかい。可愛いねぇ…ぽっちゃりして」

 俺は嬉しくてたまらなかった。今まさに母さんの胸に抱かれている。これが大人の体だったらとんでもなく恥ずかしいことだが、今の姿の俺にとって、母親に抱かれることは感激でしかなかった。謝りたい思いでいっぱいだった。ごめん母さん。。本当にごめん。。
 一人っ子の俺がいなくなって、さぞかし寂しい思いをしてるんだろう。俺は今にも自分の正体を名乗り出たい心境だった。

 そして母親に抱かれながら俺はもう熱い思いがこみ上げてきて、泣きまくってしまった。

 「あらあら。やっぱりママじゃないとダメなのね。。じゃママのとこに戻りましょうか?ことみちゃん」

 違うよ母さん。違うんだってば!そんな理由で泣いてないんだ。嬉しいんだよ。嬉しくて悲くて自分が情けないんだよ。まだ抱いていてくれよ。頼むよ母さん。まだ母さんのそばにいたいよぉぉ!

 俺は泣き止むことができなかった。ホント馬鹿だよ俺は。笑ってればまだ母親の胸にいられたのに。。。
 俺は美香の腕に手渡された。

「出産のときはいけなくてごめんなさいね、美香ちゃん」
「いいえ、事情はわかってますから。お母さんお1人で仕事もかかえながら大変ですもの。」

 そう、俺の母親も女手ひとつで俺を育てた。いわゆる母子家庭だった。
「それより美香ちゃんも私と同じ道を行くのは辛いわよ。いい人ができたら遠慮なく再婚して幸せになりなさいよ。もう浩一のことはいいから」
「えぇ…はい。。」

「本当なら、その子の養育費くらい払ってあげたいんだけど、私ひとりじゃ自分の暮らしだけで精一杯なの…」
「はい、わかってます。お母さん、気になさらないで下さい。あたし、そんなこと全然望んでませんから」


 え?養育費?何で母さんがそんなこと考えるんだ?どーゆーこと??えぇ??ま、まさか。。


「お母さん、浩一さんの仏壇拝ませて下さい」
「ええ。こっちへいらっしゃい」
 
 俺と美香は仏壇の前にいた。不思議な気持ちだ。今仏壇にある自分の写真を見ている。母さんは毎日この仏壇に俺のためにお供えしてくれてるんだ。
とそのとき、美香がしゃべった言葉に俺は呆然となった。さっき俺がまさかと一瞬思ったことが、事実として証明されたのだ。

「ほら、ことみちゃん。この写真がパパでちゅよー」


 ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!

 そ…そんなのってありか?Σ('◇'*エェッ!?頭がこんがらがってきた。
 俺が美香を妊娠させてたってことか??
 そして…そして生まれた子供がまた俺だと?!
 赤ん坊の俺の父親が俺だってぇ??

 なんでそうなるんだぁぁぁぁぁぁ〜?

「あら、この子写真見てびっくりしてるような顔してる。父親だってわかるのかしら?」

 そ、そうじゃないって!パニクってんだよ!
 今は真っ白で何も考えられないんだよ!



 第7話 はがゆい毎日
 
 訪問先から戻った俺は、自宅のベビーベッドに寝かされていた。
いろいろ考えることがあっても、ショックなことがあっても、赤ん坊の俺はすぐ寝てしまうのだった。

 早く成長したい。せめて一気に5歳くらいになりたい。
 そうしたら何でも好き放題話せるだろう。
 ちょっと大人に鋭いツッコミを入れたとしても、おませな子くらいにしか思わないに違いない。むしろ頭がいい子として、ほめられまくるかもしれない。
 おぉ、そうだ!俺がみんなの前で漢字書いたり、計算したりしたら天才少女としてTVで儲けて、ひと財産作れるかもしれない!
 
 うん。そうだ、そうしよう。そして歌も歌おう。
 あ、待てよ…童謡の歌詞とか、もう忘れちまったな。。
 まさか幼児がみんなの前でロックンロールやヒップホップ歌うわけにはいかんだろう…ちくしょう!得意なんだけどな〜;^_^A

 なんか早く実現したいことがたくさん出てきた。
 毎日がすごく長いぜ。こんなに自分の将来を先に考えてる赤ん坊なんているわけないよなw

 勝手に想像が膨らんでゆく俺は、ひとりで可笑しくなった。
 もう、自分の出生のことなんてどうでもいいや。俺は俺!
 美香は多分、俺の母さんにもたまに会いに行くだろうし、俺が成長したら勝手に行けばいい。

 でも待てよ──この世の中には俺と同じ立場の赤ん坊がもっといるのだろうか?
 前世の記憶を持ったままの人間が───


「おじいちゃーん。ことみのおむつ替えてー。悪いけどあたし今、手が離せないのー」

と、恐ろしいセリフが耳に入った。
 口臭じじいだけは勘弁してもらいたいのに!ちゃんとポリデント使えってんだ!あぁ、やばい。俺にキスしようとしてる!ひえー!(◎0◎)

「ことみー。おとなしいねぇ。いい子いい子。ほら、じいちゃんの接吻せっぷん攻撃だぞぉ!ブチュッ!ブチュッ!ブチュッ!ペロペロベロ〜」

 ペロペロはやめてくれぇぇぇぇぇぇ(T◇T)うぉぉぉぉぉ!!!

「あー泣いちゃったかぁ…きっとオムツが汚れて気持ち悪いんだな。じいちゃんが取り替えてやるから待ってな」

 またまた拷問だぜこれは。。

 俺はそのとき、あまりの不快感につい口走ってしまった。
 
「ハゲこら!やめんか!」────あ、しゃべれたw

「なに?え?ハゲ?」
 
 じいさんはきょとんとしていた。
 やべやべ…つい言っちまった。やっぱまだこの年でしゃべるのは早いな…

「わしの気のせいか。。うむ」

 じいさんは空耳だと思ったようだ。
 まてよ、これもけっこう面白いなw 退屈しのぎにたまにはこうやって遊んでみるかw

 それにしても早くうまいもん食いてぇなぁ〜



 第8話 有意義な毎日

 歳月が流れ2年後───

 俺は今や2歳になって、やっと自由に走り回れるようになった喜びではしゃぎまくっていた。
「もう、ことみはおてんばなんだからー」
と、美香に口癖のように言われている。

 でもまだ足元が少し不安定なので、よくけつまずいて倒れるが、前世時代俺は、柔道をしていたので、受身が自然とこの体にも受け継がれていた。倒れた瞬間にクルッと受身をして立ち上がることができるのだ。
 最初これを無意識にしたときは、美香をはじめ、ばあさんもじいさんも驚いていた。
「えぇ〜、ことみちゃんいつからそんなことできるようになったのー?」
「ことみ、すごいじゃないか!誰からも教えてもらわないのに受身ができるなんて」
「やっぱりこの子は浩一の子ね。でもやだわ。女の子らしくなってもらいたいのに、ことみったらしゃべる言葉が乱暴で…そんな言葉なんて教えたつもりはないのに。。」

 そう、俺はつい自分が2歳の女の子だということを忘れて男言葉をしゃべってしまう。というか、女の子らしいセリフを言うなんて、こっ恥ずかしい上に、芝居じみててとても言えなかった。
 だが、まわりに心配かけるのもなんだから、そろそろ女言葉でも話す努力をしようとは思っているんだが…

「ママ、おやつ」
 最近俺はよくおやつをねだる。食う意外、ひまでひまでどうしようもないのだ。
「もう今日はおやつないわよ」
「工エエェェ(´д`)ェェエエ工」
「ことみ。ほら、おじいちゃんのところに抱っこしに来たらおやつ買ってあげるからおいで」
「やだ!おじいちゃん口臭いんだもん。」
 2年たっても相変わらずじいさんの口臭は変わらなかった。
「(*^m^*)ムフッ。ことみちゃんは、はっきりもの言う子ねぇ」

 俺はどんなに暴言を吐いても何をしても怒られなかった。すべて子供だからという理由で許してもらえるのだ。

 今の年齢くらいが1番楽ができていいのかもな。。

「ことみも4月から保育園なのに、みんなと仲良くできるのかしら?」
 
 んなにぃぃぃ〜?この俺が保育園だってぇぇぇぇ?

「まだ2歳だから上の子とかに虐められないか心配だわ」
「でもそれは先生がちゃんと見ててくれてるから大丈夫よ」
「だって…やんちゃな子って目につくでしょ?}
「まぁ、行ってみなけりゃわからんだろが。学校じゃないんだから嫌ならやめりゃいいんだ」
 「おじいちゃん、そんな簡単に言わないでよ。あたしだって生きていくために仕事しなきゃなんないんだから」

 そっかぁ…そうだよな。美香だっていつまでも、ぷ〜のままではいられんわな…

「ことみ、保育園に行ったら毎日おやつの時間があるからね」
「(@^∇^@)わぁーい。」と俺はおどけてみた。

 おやつもいいが、俺が保育園に行くようになったら絶対天下取ってやるさ。( ̄ー ̄)ふふ。 クソガキどもにナメられてたまるかってんだ!

 ●夕食の時間●

「ママのお刺身食べたい。。」
「Σ('◇'*エェッ!?ことみにはまだ生ものはちょっとねぇ…」
「食べたいったら食べたいっ!お刺身食べたぁぁぁぁい!」
「もぅ…じゃあ一切れだけよ?あ、これわさび醤油だから別なお皿にお醤油だけ入れるわね。」
「工エエェェ(´д`)ェェエエ工 刺身はやっぱわさび醤油に決まってるじゃん!」
 一同、同時に目がテン。
「(・_・)......え?」

 部屋が静まりかえってしまった;^_^A アセアセ・・・やべw

「あは、あははは・・こ、子供って予想もしないこと言うもんよね。」
「え、えぇ。そうだけど…なんでことみってこんなにオヤジくさいこと言うのかしら?」

 ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!

 前世のときもオヤジくさいなんて言われたことないのに。。
 やっぱそろそろ言葉には気をつけた方がいいな。と反省してみるw

 あ〜あ、早く酒も飲みてぇ〜!20歳までは長すぎるぜ。
 ま、中学になったら隠れて飲めるかもしれんけどな。辛抱辛抱…

「ことみに女の子らしくなってもらうために、今度もっと可愛いフリフリのスカート買って着せてあげるわね」
 
 げっ!今着せられてるミニスカートだって充分ロリじゃねぇか!
 ちょっと足上げたりお辞儀するとすぐパンツ見えるしよ。女はよくこんなもん恥ずかしげもなく履けるもんだぜ。

 そして4月になり、俺はいよいよ入園し、外の世界へのデビューが訪れたのである。



 第9話 保育園での出来事

 入園式当日、俺は真新しい園児服を着せられて全身が映る鏡の前に立っていた。ちょっとだけ、はにかんでみる俺。
 うん、我ながら可愛いかも。(*`▽´*)ウヒョヒョ
 これからクソガキ相手に退屈かもしれないが、家にいるよりは気分転換にはなるだろう。

「ことみ、可愛いよ。今写真撮ってあげるからね。」

 美香は昨日、スーパーの特売で買ってきた498円の使い捨てカメラを手にして、俺を玄関先の海が見える方向を背景にして数枚シャッターをきった。
「ことみ、ほらちゃんと胸張って!こっち見て!目線ズレてるわよ。あくびなんてしないの!ニコッと笑って。表情堅いよことみ。ダメダメ、もっとスマイルスマイル!」

 うっせぇなぁ…ったく。園児がこの年で愛想笑いできたら気持ち悪いだろがよ。美香のやつ、俺と付き合ってたときはこんなに口やかましい女じゃなかったのに。

「じゃあ時間なんで、ことみと行ってきます。お母さん」
「気をつけてね。ことみちゃん頑張って来るんだよ」
 
 頑張るもなにも。。どうしようもねぇじゃん;^_^A

「おばあちゃん、ことみちゃんが帰って来るまで、ご馳走作ってるからね。何かリクエストある?」
「じゃあ、乾杯するのにシャンパンかワインでも」
「……は?? ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄;)」
「ことみったらもう、また変なこと言って!さぁ行くわよ。早く来なさい」
 俺は手を引っ張られるようにして美香に連れられて行った。

 入園式には、めかし込んだ若い母親がたくさんいた。美香もいつもよりケバい化粧をしていたが、さすがの俺も本人にそんなこと言えるはずもなかった。
「あら?もしかして美香じゃない?」
と、ひとりの園児の母親が声をかけて来た。
「あ…友里?」
「うん。そうだよー。おひさしぶりーw」
「ほんとだねー。その男の子友里の子?大きいわね。ここに入るの?」
「うん。そうなの。この子も4歳になったし、あたしもそろそろ仕事復帰しなきゃと思って」
「あたしもなのよ。うちの子なんてまだ2歳だけど生活のためには仕事しないとねー」
「ねぇ、お名前なんていうの?教えて」
 美香の知り合いと思われるその女性が俺に聞いてきた。
 「ことみ…(*^ - ^*)ゞ」
 俺は少し恥ずかしげに言ってみた。その方がきっと可愛く見られると思ったからだ。
 「あらw照れちゃって可愛いわね」
 ほら図星w 俺もなかなか演技がうまいもんだ。
 「うちの子は龍之介っていうの。よろしくね」
 俺より2歳年上の坊主のようだが、どう見ても馬鹿息子にしか見えなかった。母親同士が話してる間、このガキはずっとハナクソをほじっていた。
「ほら。龍ちゃん。ことみちゃんに挨拶しなさい。」
「べぇ〜だ!( ̄┰ ̄)」
と言ってこのガキは、ほじっていたハナクソを俺になすりつけた。俺がキレたのは言うまでもない。
「てめぇ何しやがんでぇ〜ごらぁぁ〜!!」
 俺はクソガキのボディにパンチを入れ、相手が前かがみになったところをひざ蹴りでアゴにヒットさせた。
 クソガキは1発で後ろに倒れ、そのあと大号泣した。
「こ…こ、こ、ここことみ。。な、なんてことを…」
 美香には想像を絶することが起きたようで、すぐには頭の中で整理することができないようだった。また、相手の母親も同じだった。
「美香…じ、自分の子に一発必中のケンカ技でも教えてるの?」
「…そ、そんな。。全然そんなことなんて教えてないわよ」
「でも慣れてないとできないわよ。今のなんて。」
「そうだけど…と、とにかくごめんなさい。本当にごめんなさい。龍ちゃん。友里」
 「いえ、悪いのは先にいたずらした龍之介だから、謝るのはこっちなんだけど…ことみちゃんにビックリしちゃって…」
「あ、あたしもなの。ほんとにもうびっくり…さぁことみ、あなたやりすぎよ!龍ちゃんにごめんなさいって言いなさい!」

 ここは素直に謝った方が良さそうだ。これで俺も人から一目置かれるに違いない。
「龍ちゃん、ごめんなさい」
「ほらことみちゃんが謝ってくれたでしょ。龍ちゃんも謝りなさい」
 クソガキはまだ泣いていたが、鼻水をすすりながら母親の言うことを聞いた。
「うぅ。。ごめんなさい。。ひっく…うぅ…ひっく。。」

 その後は何事もなく過ぎたが、帰宅してからも美香のショックは消えず、俺を見ながら放心状態のように座りこんでいた。

 悪いことしちゃったな。。こんな美香見るのは初めてだ。改めてちゃんと謝るかな?でも素直すぎると子供らしくないな。2歳にしてはモノワカリが良すぎるのもなんか変だし。

「…浩一」と、美香が口走った。

 え…?美香どうしたんだ?…お前は今何を考えてるんだ?今の俺には心の中でしか聞くことはできないが、一体お前の心の中はどうなってるんだ?

 美香が俺を見つめながらつぶやいた。
「ことみはまるで浩一のよう…あのケンカの仕方…そしてあの言葉。。」

 ────美香お前

 美香は俺を突然抱きしめた。
「浩一。。どうして?どうしてこの子の顔も見ないで先に逝っちゃったの?浩一。。浩一!なんであたしを置き去りにしたのよぉぉぉ〜」
 美香は誰に遠慮もせず泣いた。大声で泣いた。そばで様子を見ていたじいさんもばあさんも美香を止めることはなかった。

 俺はたくさんの人を不幸にしたんだな。。
 俺はこれからどうやって生きていけばいいんだろう。
 昔の記憶なんてなくなってしまえばいいのに。
 それとも俺は生まれ変わるのではなくて、あの世で過ごした方が良かったのではないのか。
 俺の本当の居場所ってどこなんだ?
 もう…誰にも迷惑はかけたくない。。



 第10話 楽しい保育園生活

 今の俺が年相応のいい子でいるには、かなり自分を抑えなくてはならない。頭脳は20代なのに行動は園児に合わせるんだから。
 こんなときって、きっと赤ちゃんプレイが大好きな変態野郎だったら得意満面なんだろうな。少し遊び程度で経験しときゃ良かったぜ。

 保育園で数日がたち、他の子供たちは結構慣れ始めてきて、仲良しグループも自然に派閥ができていた。
 俺は初日でケンカした反省から、おとなしく猫をかぶっていたので、おしとやかな女の子グループに属していた。他にも活発でオテンバな女の子グループもいるのだが、俺がそこに入ってしまうと天下を取ってしまうのが目に見えてわかるので、変にこの情況を乱さないように心がけた。

「はーい。みんなぁ〜。今日はお絵描きするよ〜」

 このリス組担当の、ちひろ先生が俺たちに声をかけた。
 この先生は倉木麻衣似で、けっこう可愛かった。俺が大人だったらきっとナンパしていただろう。
「今日はみんなのパパの顔書いてねー」

 ん?父親だって?俺は自分の前世の顔書けばいいのか?
 いや、そうじゃないだろう。

「せんせ〜!」
「なぁに?ことみちゃん」
「うち、パパがいないの」
「え?(゜〇゜;)」
 
 園児の家庭の事情くらいよく下調べしとけよ。ったく…

「うち母子家庭なの」

 ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!アタヽ(;△;ゞ=ヾ;△;)ノフタ

 と、ちひろ先生は自分のうかつな発言に気づいたようだった。

「ご、ごめんね。ことみちゃん。えと…あのね、じゃあお母さんでもいいわよ。あ、それともおじいちゃんでもいいし」
「じゃあ二人とも描くー」
「そ、そうね。そうしてちょうだい。それにしてもことみちゃん、よくそんな母子家庭だなんて難しい言葉知ってるわね;^_^A
「あ・・うん。マ、ママがよくゆってるからー」

 俺もちょっとあせった。子供らしい単語じゃなかったな( ̄ー ̄; ヒヤリ

 その後、俺はクレヨンであっという間に描いてやった。
 絵は得意というわけではないが、やはり前世で要領を心得てるせいだろう。でもこれがやっぱりヤバかった。

「うわー、ことみちゃんすっごく上手ぅ〜!びっくり〜!!」

 ちひろ先生はあまりに大声で絶賛したので、となりのうさぎ組のベテラン、ヨネ子先生が飛んで来た」
「ちひろ先生、なにがあったの?どうしたの?大丈夫?」
「あ、すいません。大声出しちゃったりして。別に事故とかじゃないんです」
「当たり前よ。事故なら大変よ」
「本当にすみません。実は、ことみちゃんの絵がすごく上手で、とても2歳児の絵とは思えないほど素晴らしいんです」
「えぇ?見せて見せて。どれどれ」
 
 やっぱマジやばかった。まだいろいろ気をつけることだらけで疲れるぜ。

「すっごぉぉぉぉぉい!ほんとにこの子が描いたの?まだこんなちっちゃな子が?ひょっとしたら天才かもしれないわよ!きっと生まれ持った才能ね」
「でしょう?ヨネ子先生」
「だって顔の輪郭も太く描いてるし、肌の色に影があって立体的になってるなんて。。とても2歳の描く絵じゃないわよ」
「これは永久保存版だわ。額に入れて廊下に飾りましょう」

 おいおい、随分大げさじゃねぇかぁ?こりゃ困った…(⌒-⌒;


 その後、このお絵かき時間の大騒ぎ事件もなんとか一段落して、俺はいつものおしとやかグループの中で遊んでいた。いつも人形遊びとつみきばかりで退屈していたが、この日は仲間のミホちゃんが別な遊びをしようと持ちかけた。

「ねぇ、みんなでおままごとしようよ」
「うん。いいよぉ」
「しよしよ」
「(@^∇^@)わぁーい」
「じゃミホはお母さん役ね。さくらちゃんは赤ちゃん役。もえちゃんはおばあちゃん役。ゆりかちゃんは隣のおばちゃん役。そしてことみちゃんはお父さん役でいい?」
「うん。いいよぉ」

 偶然にも俺に男役とはw マジでリアルになっちゃうぞ?w

 それにしてもミホちゃんて子は、一見おとなしそうに見えるが、何かしようというときはいつもテキパキと人に支持するし、決断力が早い子だ。

「じゃ始めるねー」

 ここからは子供のアドリブの世界なのだw

「ただいまー!帰ってきたよー」
「お帰りなさーい。ごはん出来てるわよー」
「今晩のおかずはなんだい?お母さん」
「今日はチーズハンバーグよ」
「おぉ〜!それはおいしそうだ。でも先に晩酌してからだな」
「???え?ばんしゃくって?」

 あ、ヤバ。まだこの言葉は早すぎたかな(^_^;)そばで聞いてるちひろ先生もズッコケてるしw

「んん〜と…あのね、ごはんの前にお酒飲むことだよ」
「ふぅ〜ん。でも体に悪いからウチではお酒とタバコは禁止にします!」
「ええええぇぇぇ〜?」

 きっとミホちゃんの家庭の事情ではそうなのだろうw

「さぁ、早く食べないと冷めちゃうわよ。もえおばあちゃんと隣のゆりかおばちゃんもどうぞ」
「(・д・)ノ はーい」
「いただきまーす」

 なんで、隣のおばちゃんがウチでごはんを食べるのかは、よくわからないが、子供の世界ではこれで納得済みのようだ。

「あ〜おいしかったぁ。お母さんのハンバーグは最高だよ!」
と言ってみる。
「ありがとぉ。明日はお父さんがごはん作る番ね」

 当番制かよっ!!( ̄Д ̄;;

「ふぅ…お母さんもお腹いっぱいになっちゃったから、赤ちゃん産まれそうよ」
 (ノ _ _)ノコケッ!!((ノ_ω_)ノバタ…にゃにぃぃ〜?w

 またもや、ちひろ先生もコケてるしw
 子供の解釈は想像を絶するもんだ。

「やったぁ!赤ちゃん産んじゃったぁ〜!さぁ、さくらちゃん。みんなにご挨拶しなさい」
「はーい。みなさんこんばんわ。さくらちゃんです」
 
 ・・・( ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄;)産まれてすぐ挨拶かよw
 しかも当然のごとく名前まで決まってるしw

 俺は、この非現実的なままごとで、腹をかかえるほどの笑いをこらえるのに必死だった。みんな真面目に演技しているのに、芝居を壊すわけにはいかなかった。それなのにちひろ先生は、柱に頭を打ち付けて、ひとりで抱腹絶倒していた。

 保育園も悪くないな。。うん、悪くない。
 どの子もみんな個性を持ってて面白みがあるし。
 先生たちもヨネ子先生以外はきれいだし。
 卒園までいろいろ楽しませてもらおう。
               (続く)
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