元部下と好きな子に会いに行ってみた
「最低ですね」
元部下三人を引き連れてセシリアの屋敷に行った。 今日、セシリアは幸い予定が入っておらず会うことが出来たのだが……
「……優しい人」
ハピネスの奴。俺がやったことをセシリアにチクったのである。
セシリアはハピネスを抱きしめ、頭をよしよしと撫でている。
……うらやましい。
俺は正座をして、説教を受けているというのに……。
「ヨウキさんは馬鹿なんですか。やりようというものがあるでしょう。いくら魔物で人間に変装するためとはいえ、女の子の羽を全部毟るなんて……反省してください!」
「おっしゃる通りです。俺が馬鹿でした。」
謝っている内に、今更後悔しだした俺。
デュークもシークもうんうんと頷いている。
お前ら少しぐらいは助けろよ。
まあ、俺が全部悪いんだがな。
必死に土下座をして謝って何とか許してもらった。
「にしても、大きなお屋敷すっね〜」
「……広い!」
「それでも魔王城の方が大きいけどね〜」
デュークとハピネスは普通の感想だが、シーク、お前は失礼だぞ!
三人は珍しい物が多いのか、キョロキョロと、セシリアの部屋を見て回っている。
頼むから何か壊したりしないでくれよ……。
「元部下……ですか。ずいぶん慕われているみたいですね」
セシリアは三人を見てクスクス笑っている。
慕っていると言うんだろうか?
「今はな。デュークなんて最初会った時はあんなじゃなかったぞ。デュラハンは無口な奴が多いんだ。
なのに、あいつは何故かチャラくなっちまった」
最初に会った時を思い出す。
確か、魔王様から俺の元に派遣されたこいつが一番最初の部下だった。
デュークも俺とセシリアの会話が聞こえたのか口を挟んで来る。
「最初会った時、隊長のこと嫌いだったっす。魔王城で隊長かなり有名な魔族だったっすから」
頭を上に上げ、過去を懐かしんでいるようだ。
まあ、嫌われていたのは仕方ないな。
セシリアは俺が有名だったということを聞き、関心している。……なんか勘違いしてるな。
「……言っておくけど、有名って悪い意味でだからな? 良い意味でじゃなくて」
「え!? そうなんですか。私はてっきり強さが有名だという話だと……違うのですか?」
全然違う。そんなんで有名なら、中ボスなんてやっていない。
「隊長は、外に出ない引きこもりで有名だったっす。あと、上司のザエキル様に言った言葉も有名っすね」
おい、待てそれを言うな。
デュークを止めようとするが、セシリアは続けて下さいと言っている。 「いい加減人を襲いに行けと言った上司のザエキル様に『フッ、俺はここから動くことは出来んな。この部屋が俺に行くなと、そう伝えている。わかったら、この部屋から出た方がいい……俺が俺でなくなる前にな』って言ったらしいっす」
俺の黒歴史がまた一つ暴露された。
セシリアは手で口を押さえて必死に笑いをこらえている。
「ザエキル様は怒りのメーターが一回りしたのか、何も言わずに帰ったらしいっす。それから、何度か隊長の元に説得しに行ったらしいっす。でも、いい加減隊長の相手をするのが疲れたのか、いつしか、ザエキル様は人を襲いに行けと言わなくなったっす」
セシリアの我慢が限界を超えたのか、腹を抱えて笑いだした。
俺は満面の苦笑い。
あの時はいろいろあほだった。
……今もか。
「まあ、そんな噂があったんで、嫌いだったっす。でも、一応上司になったんで、俺が正してやろうとしたっす」
つまり実力行使である。
派遣初日に襲いかかってきたので、何事かと思った。
まあ、結果は言わずもがな。
「でも、返り討ちにされて、いろいろ吹き込まれて今の俺になったっす」
あの頃はまだ転生ひゃっほうとか思っていた時期だった。
初めての部下だったので、かなり、精神を改造してしまったのだ。
まあ、後悔はしていないがな。
「……他の二人はどういう出会いを?」
笑いがおさまったセシリアが聞いてくる。
ハピネスとシークか。
あいつらは――
「……そういえばあいつらどこ行った?」
いない。
思い出話に夢中になりすぎて、気がつかなかった。
いつの間にか、部屋から出て行ったらしい。
やばい、今は人間の姿に変装しているが、万が一という場合もある。
「急いで探しましょう。屋敷内にはいるはずです」
セシリア、俺、デュークは二人を探すため、部屋を出た。
あいつら勝手なことしやがって……
アクアレイン家の屋敷は広く探すのは一苦労だ。
エントランス、書斎、厨房と走り回って探すが見つからない。
一旦冷静になり、何か方法がないか考える。
「そうだ!ソフィアさんに協力して貰おう」
メイド長をやっている彼女なら屋敷に詳しいだろう。
それに、神出鬼没に現れるような人っぽいし、すぐに見つけてくれそうだ。
セシリアは賛成、デュークはわからないけどそれでいいっすとのことだったのでソフィアさんのいる使用人部屋へ行った。
「そうです。完璧な腰の角度ですね。お辞儀をする際にはその角度を忘れないようにしてください」
「……承知!」
……何だこれ?
ソフィアさんがメイド服を着たハピネスにお辞儀の角度を教えている。
使用人部屋に入ったら、この状況である。
「あら?お嬢様にヨウキ様と…新しいお客様ですか。何かご用でしょうか?今、新入りのメイドに教育をしているのですが」
いつの間に、新入りになったんだよ。
「ソフィアさん。その子はいったいどこにいました?」
「屋敷を歩いていました。今日新人のメイドが来る予定だったので、道に迷っていたのだと思い連れてきたのですが…」
何か問題でもありますか?と聞いてきた。
問題大有りである。
すぐに事情を説明し、ハピネスを解放して貰った。 ちなみに、本物の新人の子は不審人物としてメイドに尋問されていたようだ。
……俺らのせいじゃないよな?
「それにしても残念です。彼女、とても覚えが良かったので、優秀なメイドになれると思ったのですが……」
がっかりしているソフィアさん。
ハピネスも実は割とノリノリだったらしい。
まあ、諦めてもらうしかないだろう。
名残惜しそうな顔でハピネスを見ているソフィアさんを尻目に使用人部屋を出た。
「最後はシークか。あいつはどこに行ったんだ?」
ある意味一番怖い。
好奇心旺盛なので何をするかわからないからだ。
さっさと見つけないと大変なことになるかもしれない。
「……庭に出てった」
さすがハピネス。
シークがどこに行ったか見ていたようだ。
まあ、勝手な行動をとったことは許さんがな。
ハピネスの情報を頼りに庭に向かった。
「スースー……」
「かわいい子ねぇ。迷いこんだのかしら?」
庭に着くと、セリアさんにひざ枕してもらい、すやすや寝ているシークがいた。
良かった。シークにしては上出来だろう。
何をやらかすか心配だったが、杞憂だったようだ。
「あ〜、ほっとした」
「良かったっす〜」
「……安心」
シークの性格を知っている俺達三人は同時に安堵した。
「あら……?ヨウキくん来てたのね。後ろの二人はお友達かしら。……女の子もいるわね」
シークの頭を撫でながら尋ねてくる。
いやいや、ハピネスと俺を睨まないでください。
「はい。普通の友達です。あと、そいつもそうなんですが……。迷惑をかけたりしませんでしたか?」
友達というところは強調した。
……迷惑をかけていたらどうしようか。
「あらそうなの?私、子ども好きだから、全然迷惑じゃなかったわよ。庭で走り回って遊んでいたから、相手をしていたの。そしたら、遊び疲れたのか、寝ちゃったのよね」
なるほど、それで、ひざ枕をしてくれていたのか。 それにしても、助かったな。物とか壊していたらと思うと……ぞっとするな。
二人を無事見つけ、夕暮れになったので帰路についた。
別れ際、二人とも、いつでも遊びに来てねと言っていた。
話をするため、一度ミネルバから出て、近くの丘に行く。
「どうだ?満足したか?」
「出来たっす」
「……大いに」
「楽しかった〜」
そうか、なら別れることができるだろう。
「じゃあ、そろそろ別れの時間だな。俺は宿に帰るぞ……まさか、このままついてくるとか言わないよな?」
まあ、答えは分かるが……
「ついていくっす」
「……当たり前」
「セリアさんのひざ枕気持ちよかったな〜。またやってもらいたいからついてく〜」
やっぱりな。シークだけは何か違う気がするが、ついて来るらしい。
まあ、わかってはいたが……。
というわけでミネルバに元部下である、デューク、ハピネス、シークが住むことになった。
ちなみにハピネスは翌日すぐにソフィアさんに連れて行かれた。
どこから、情報つかんだ、ソフィアさん……?