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風が知らせました
 ……エリス?

 風が、吹いた。

 閉じられた執務室なのに……。


「どうかしましたか、オーム?」
「いえ……」


 首を横に振るう。


「なんでもありません」


 そう、なんでもない。

 なにを俺は心配しているのだろう。

 風の知らせ、というやつか。

 エリスになにかあった?

 いや……。


「少し、ぼうっとしていただけです」


 あのエリスだぞ。

 何を心配することがあるだろうか。



「……ねえ、じい?」
「は、どうかしましたか、お嬢様」
「なんだか、ね……」


 自分の身体を、抱きしめた。

 急に、不安になったのだ。

 どうしてだろう。

 ふと、エリスのことが思い浮かぶ。


「どうしてかな……少しだけ、怖いんだ」


 なんで、エリスのことがこんな時に思い浮かんだのか。


「エリスに、何かあったのかもしれない」
「は、エリス様に、ですか」


 じいが目を丸めた。

 そうして……優しげに笑んで、私の肩に手を置く。


「大丈夫でございましょう。お嬢様、あのエリス様ですよ? 失礼を承知で申し上げますが、お嬢様に心配されてはエリス様もお終いでしょう」
「……え、あれ、じい私の事今相当馬鹿にした?」


 したよね?

 ……まあ、でも、うん。

 そうだよね。

 エリスだもんねえ。



「ふん?」


 ぱきり、と。

 子供達が食べ終えた後の食器を片づけていると、戸棚に並ぶカップが一つ、触れてすらいないのに割れた。

 これは……。

 ああ、そうだ。

 エリスが使っていたカップじゃないか。

 んで、その後誰も使ってないカップだ。

 もちろんエリスが嫌われている、とかじゃない。

 カップを誰も使えないのは、笑える理由だ。

 子供達に言わせれば、エリスの使っていたカップを自分が使うなんて畏れ多い、とか。

 つまり子供達にとっちゃ、エリスはそれだけ特別な存在なんだろうねえ。そんな扱い、あの子自身は喜ばないと思うがね。

 にしても、またいきなりどうして割れちまったんだろう。

 ……まさか……。

 ――いや。

 それこそ、まさか、だ。

 ありえないね。あの子に限って。

 私は割れたコップを手に取ると、誰かが間違って手を切らないように布でくるんでから、戸棚の奥にしまった。

 エリスが次に戻ってきたら普通に直すだろし、捨てるなんてもったいない。



「エリス……」


 その名前を、呟く。

 暗い。

 暗い場所。


「エリス…………っ!」


 やってくれる。

 まさか、こんなことをするなんて。

 身体は、重い。

 この空間から逃げることは出来ない。それだけの拘束力が存在していた。

 エリスという私の内にある存在が、鎖となって私に巻きついている。

 保険、というやつだろう。

 エリスは私が表に出てきた時の保険に、こんな手を用意していたのだ。

 ああ……まったく。

 味方なら心強いけど、逆だと……こんなにも厄介とは。

 ふと、思う。

 味方の逆は、敵だろうか?

 エリスが私の敵?

 あれ……?

 どうして、だろう。

 どうしてエリスが、私の敵に……だって彼女は……私の……。

 ――ううん。

 そんなの、もうどうでもいい。

 エリスが邪魔をするなら、それを振り払うだけだ。

 今この状況も。

 エリスの意識を完全に沈めてしまえば、解決される。

 私は、愛されたい。

 愛されるのだ。

 その為に……。

 さあ、エリス。

 お願い。

 もう、いなくなって。


ワンクッション的な話で短めです。
……というのは言い訳でただ単にテンションが下がってたんでちょっとサボっただけです。

……うーあー。詳しくは活動報告へどうぞ。
うん。もうね、なんていうかね!


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