デートに出ました
主が好き。そう言い切るティナを……どうしてだか、羨ましいと感じた。
……我には、その感情がよく理解できぬ。
一緒にいたい、とは思う。
けれどそれは、愛情なのか?
別に、そうである必要はないように思える。
一緒にいる為の理由ならば、他にいくらでもあるではないか。
ならば、どうすればその感情を定義できる?
その感情における「なにか」が、我にはわからぬ。
そしてそれが分からぬ我は……果たして、主のことをどう想っているのか?
……だから、それをはっきりと言い切れるティナが、羨ましいのかもしれない。
ティナだけではない。
ウルも、アリーゼも、ナンナも……全員が、主を好きと、その感情をはっきりと認識している。
愛とは……何なのだろうか。
†
夜遅く……というよりも、もう既に早朝という時間。
まだ日の光のない空を見上げながら、私はぼんやりとしていた。
町外れの、小高い山のてっぺんにある草原に、横になっている。
用事があってこんなところにいるわけではなかった。
ただ……眠るのは、もう避けた方がいいだろうから。
彼女に近づかれてしまう。
その僅かな隙すら、私は見せられない。
だから、そうなるともう夜空を見上げることくらいしか、やることがない。
「――――」
そして、好きな曲を口ずさむ。
そうしていると、近づいてくる彼女の気配を感じた。
……また、どうしてこんな時間に……いや、私が言える立場でもないか。
そういえば、今朝の泉の時といい、なんだか彼女と二人になる場面が多い気がする。もちろん、嫌なわけではないけれど。
「主……なぜこんなところに?」
そう言いながら、彼女――ヨモツが私の横に立った。
「理由は特にないわ。強いて言うなら、夜空が見たかったから、かしらね」
「そうか……夜空を見て、なんになるのだ?」
「さあ? それは、人それぞれよ。夜空を見て、誰もがきっと、それぞれ違う感想を抱く」
「そうなのか?」
「ええ」
ヨモツが、夜空を見上げる。
私の言葉を確かめるように。
そういう素直なところを、可愛らしいと感じる。
「どう?」
「……分からぬ」
「そう。なら、その分からない、っていうこと自体が、ヨモツの感想なんでしょうね」
「……?」
ヨモツが首を傾げる。
「感想なんてものはね、なにがあった、なにがなかった……結局突き詰めれば、そんなものなのよ。だから、ヨモツのそれは、立派な一つの感想よ」
「……そうか」
もう一度、ヨモツが夜空を見上げる。
「主は、どんな感想を抱いたのだ?」
「私?」
私は……、
「星々が……羨ましい、かしらね」
「羨ましい?」
「ええ」
夜空に浮かぶ、無数の星の輝きを、見つめる。
「見て。あれは、誰から見ても、輝いて見える。その在り方が、ちょっと羨ましい」
しかもあの星の輝きは、遥か遠くからここまで届いているのだ。
それだけ強い輝きを、羨ましいと感じる。
「……我から見れば、あの星と同じくらいに、主も輝いて見えるが?」
不意に、ヨモツがそんなことを口にした。
その言葉に、柄にもなく照れくさくなった。
「そう?」
「ああ」
……そう。
「だったら……嬉しいわね」
笑んで、ヨモツと一緒に、空を見上げる。
しばらくそうしていて……唐突にヨモツが口を開く。
「主」
「なに?」
「……愛とは、何なのだ?」
また……ストレートな。
「さあ? 残念だけれど、その質問には、私は答えられないわ」
「……何故だ?」
「だって、答えを持っていないもの」
言うと、ヨモツが不思議そうな顔をした。
「だが……主は……」
「そうね。ティナやウル、アリーゼ、ナンナを愛している。もちろん、貴方のことも」
「ならば……」
「でもね、ヨモツ。これは、私の愛なの。今言った、夜空を見てどんな感想を抱くか、っていうことと同じよ。愛もまた、人それぞれ。愛し方なんて、それこそ人の数だけ存在しているわ」
だから、私はヨモツへの答えを持たない。
「愛について知りたいのならば、ヨモツはまず、自分の愛の形を見つけなくてはね」
「愛の、形……」
ヨモツが反芻する。
「見つけられる、だろうか?」
「もちろんよ。その手伝いなら、私もしてあげられるわ」
「手伝い?」
「ええ」
その為に、私がすることと言えば……、
「ヨモツ。明日――というか、もう今日ね」
彼女に笑いかける。
「デートをしましょうか」
ちなみに邪な気持ちはほんのちょっとしかない・
†
起きると、ヨモツさんがいなかった。
……?
どこにいったんだろう。
そう思いながら、部屋を出て、宿の一階に降りてみる。
と、そこにはウルさんとアリーゼさん、ナンナさんがいた。
あれ?
なんだか、少し空気が重い?
どうしたのだろうか。
「おはようございます、皆さん」
「……ああ、ティナ」
ナンナさんが、いつもより少し低い声を出す。
……本当になにがあったのだろう。
心なしか、辺りの色が若干褪せて見せる。
「どうしたんですか?」
「……これよ」
言って、ウルさんが一枚の紙を差し出す。
それを受け取って、視線を落とした。
……。
…………。
ああ……なるほど。
これは確かに……少し、あれだ。
その紙に書かれたのは、エリスさんの綺麗な文字。
『ヨモツとデートしてくるので、よろしく』
よろしく、って……なにをよろしくされたのだろう。
エリスさんってば……。
でも、うん。
「エリスさんらしいですね……」
昨日、ちょっとエリスさんの様子がおかしかったから……これはこれで、良かった――のだろうか?
なんだか複雑な気分だ。
「……なんだか、エリスが帰って来る時がむしろ心配だ」
アリーゼさんがぽつりと零す。
「ヨモツがどうなっているのか……不安だ」
「…………」
誰も、そのアリーゼさんの言葉に何も言うことが出来なかった。
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