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考え事をしてました


「ねえ、アリーゼ。この服はどうかしら?」
「ん、ああ。いいんじゃないのか?」


 尋ねると、まるで魂でも抜けたかのような返事が返ってきた。

 ……アリーゼに買う服の相談をしているのだけど、本人はそれを分かって言っているのだろうか。

 ちなみに私が持っているのは、淡いピンクのワンピースに白いカーディガンを合わせた、少女的でかわいらしい感じのなんだけど……。

 普段のアリーゼなら断固拒絶するようなものだろう。

 ……まあ本人が言うのだからいいか。今度着せよう。絶対着せよう。言質はとった。

 にしても、本当に今日のアリーゼは、気が抜けてるわね。

 考え事をしているのが丸分かりだ。それも、それなりに重いことを。

 気分転換をさせるつもりで買い物にさそったのだが、案外手強い。


「アリーゼ、脱がしていい?」
「何を真顔で馬鹿を言っているんだ貴様は」


 それでいてここで正気を取り戻すのだから、少し残念。


「気を引く為に馬鹿の一つも言いたくなるわ。アリーゼ、少しも私のことを見てくれないのだもの」
「む……そんなことは……」
「ちなみにこれが今、アリーゼが今度着ると宣言した服なわけだけれど、覚えてる?」


 私がそれを見せると。アリーゼの顔が赤くなる。


「ば、馬鹿な! 私はそんなことを言ってはいない」
「いえ、言ったわよ?」


 着ると宣言したわけではないけれど、まあそんなに間違ってはいない。ちょっと誇張しただけだ。


「な、ならば前言撤回だ! 誰がそんなものを……!」
「嫌よ。一度言ったのだから、約束は守るのが騎士というものでしょう?」
「ここで騎士云々は関係あるのか!?」


 慌てるアリーゼに、思わず口元に笑みが浮かぶ。


「な、何故笑う! からかっているのか!」
「そんなわけないじゃない。アリーゼが可愛いからよ?」
「っ……そういうことを、軽々しく言うなと何度言えば分かる!」


 アリーゼが私を睨むけれど、それは受け流しておく。


「けれどアリーゼ。真面目な話、貴方、あまりにもぼけっとしすぎよ?」
「……気のせいだ」
「いいえ。私が言うんだから、間違いないわ」
「貴様は何様だ」
「アリーゼのことを好きな一女子よ?」
「……もういい」


 アリーゼが疲れたように肩を落とした。


「ともかく、アリーゼ。貴方の性格からして、任務が終わって気が緩んだ、なんてこともないでしょうし……なにか、あった?」
「……別に。なにもない」


 彼女が視線を逸らす。

 ほんと、分かりやすい。


「私に相談は、出来ないこと?」
「だから……ああ、もう。実は全部分かっていて聞いてるんじゃないのか?」
「残念。今回ばかりは私もなにも知らないわ」


 もちろん調べようと思えばそれは簡単。

 けれど、そんなことはしない。


「私はアリーゼのことを信じているし、アリーゼに私のことを信じて欲しいと思う。もしも私が力ずくでアリーゼのことを調べるのは卑怯というものでしょう? そんな信頼を自分から壊すような真似はしないわ」
「……」


 私の言葉に、面くらったようにアリーゼがたじろぎ、それで、やっぱり私とは視線を合わせてくれない。


「本当に……大したことじゃない。気にするな」
「そう」


 ……話しては、くれないか。


「それなら、もうこれ以上は何も言わないけれどね。でも、アリーゼ」


 これだけははっきりと言っておかなくてはいけない。


「もしも私を頼りたい時がきたら、遠慮なく頼ってくれていいのよ?」
「……そんな時はこないさ」
「それは残念」


 さてと。それじゃあ……、


「とりあえずこの服を買って次に行きましょうか」
「その服は置いて行け!」


 もちろん、それに対する私の答えは一つ。


「駄目よ」



「そういえば、明日の勝負に貴方達は参加するの?」


 歩いていると、不意にエリスがそんなことを聞いてきた。


「龍装獣騎隊は秘匿性の高い部隊だ。あまり表立った行動はしない」
「そう、それはよかったわ。アリーゼとは争いたくはないもの」
「私などいてもいなくても、貴様にとっては関係ないだろう」


 エリスの力はよく知っている。


「また過大な評価ね。私は万能であっても全能じゃない。アリーゼに倒される可能性だって、ゼロではないのよ?」
「よく言う」


 誰がそんな言葉を真に受けると言うのだ。

 少なくとも私は、そんな楽天家ではない。自分の実力がどこまで届くかは、理解しているつもりだ。


「なら、貴様は誰かに敗北したことがあるのか?」
「それは……まあ、ないけれどね」


 そら見たことか。


「でも……怖い存在なら、いる」
「は……?」


 なんだって?

 エリスが、怖い?


「……それは、一体どんな化物だ」
「そうね……あえて一言でまとめるのであれば、そう……」


 エリスが苦笑しながら、その言葉を口にする。


「――もう一人の私、かしら」


 もう一人のエリス?

 エリスが二人いるところを想像して、軽く背筋が凍った。笑い話にすらならないぞ、それは。


「どういう意味だ?」
「さあ……それよりも、よくよく考えたら、他にも怖いものはあるわね」


 エリスが、私のことを見た。


「アリーゼに、大嫌い、と言われるのが怖いわ。貴方にだけじゃない、ティナに、ウルに、ナンナに、ヨモツに嫌われるのは、怖いわね」
「……なんだ、それは」


 その馬鹿げた言葉に、力が抜ける。


「くだらん」
「くだらん、だなんて……私にとっては死活問題なのだけれどね」
「貴様はそうやっていつもふざけたことばかり言う。まったく……」


 肩をすくめるエリスの態度に、頭を抱えたくなる。

 どうしてもう少し真面目になれないのだ……。

 そうすればもっと好感が持てると言うのに。

 ……もっと?

 なんだそれは。

 それではまるで私が、現状でもエリスに対してそれなりの好意を抱いているようじゃないか。

 ――っ、馬鹿馬鹿しい!


「ねえ、アリーゼ?」
「なんだ?」


 変なことを考えていたせいだろう。自分の声が不機嫌そうになっているのがよく分かる。


「アリーゼは私のことが、好き?」
「――っ!?」


 咳き込む。

 な……な……。


「そこまで驚かれるとは、逆に私が驚いたわ」
「何を言っている!」


 こ、こいつは……!

 いきなりそんなことを尋ねられたら驚くに決まっているだろうが!


「いきなりすぎるぞ!」
「そう? 脈絡はあったと思うけど……」
「ない!」


 断言した。

 例えあったとしても認めるものか!


「……どうしてそんな慌ててるの?」
「私は、あ、慌ててなど……っ!」


 っ……変なことを考えているところに、丁度それに示し合わせたかのように変な質問をぶつけられたのだ!

 慌ててなどいない! 戸惑っただけだ!


「ふうん……それで、どう? アリーゼは私の事、好き?」
「そ、それは……っ」


 ――不意に。

 大将軍閣下からの、手紙につづられた文字が脳裏をかすめた。

 ……私は……。

 だが、いいのだろうか……?

 本当に、私はそれで……。


「それは……まあ、嫌いというほどでは、ない」


 分からないから……声は、絞り出したかのように小さなものだった。


「……」


 きょとん、という、エリスにしては珍しい、呆然とした顔。


「な、なんだ……その顔は!」
「あ、いえ……うん、ちょっと意外で……」


 そ、そんなに私はおかしなこと言ったか!?


「でも、うん」


 エリスが、私へと手を伸ばしてきた。

 え……?


「嬉しい……」


 そのまま、抱きしめられる。

 ――って、なぁっ!?


「な、なな、何をする!」


 慌ててエリスを引きはがす。


「アリーゼ、愛してる」
「阿呆が! 何を言い出す!」


 顔が赤くなるのを感じる。


「顔が赤くなってる。可愛い」
「――っ! もういい! 行くぞ!」


 エリスを置いて、先に歩き出す。歩調は早い。


「……ふふっ」


 背後から、エリスの笑い声が聞こえた。


アリーゼが揺れている!
もっと揺らしてやる!


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