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旅立ちの日に最強の域を突破してました
 町を出て数時間。

 山道を歩いていると、草むらから狼のような魔物の群れが出てきた。


「まあ、肩慣らしにはなるかしらね」


 腕を横に伸ばす。

 すると、空間に黒い穴が空き、その中から一本の、黒塗りの剣が現れる。

 ソウルイーター。神すら傷つける、魂そのものへの攻撃が可能な武器だ。

 そう、前世で私が神様を呼んだ時にいた騎士の悪魔が持っていた、あの剣である。

 私はそれを収納空間から取り出したのだ。

 何故私がこの剣を持っているか。簡単なこと。

 ちょっと前に魔界に散歩にいったついでに貰って来た。

 騎士の悪魔は快く私にソウルイーターを譲ってくれたわ。泣きながら。

 そんなこんなで、今やこのソウルイーターの持ち主は名実ともに私。


「さ、来なさい」


 魔物の一匹が、私に跳びかかってくる。 

 そして、空中で灰色になって砕け散った。

 ……ああ。


「ごめん、自動発動の迎撃魔術あるの忘れてたわ」


 私に殺意を持って触れようとした相手を石化させ、さらに粉々にする魔術である。

 ちなみに試したことはないけれど、神様にも有効らしい。

 ふふ……。

 この前天界にいる神様のところに遊びにいったら、凄く怖がられたわ。

 その時の神様の顔ったら……おかしかったわね。

 確か「な、何で被造物のくせに創造主より強くなっとるんじゃ!? ていうか確かに魔術の才能とか与えてやったが、こんなに強くなる筈ないぞ!?」とか言ってたのを覚えている。

 どうやら聞くところによると、本来私に与えられた才能は数値的に表すならば百だったのに、今やその遥か上になってるらしい。

 流石私……自分の才能すら超越するとは、我が事ながら出鱈目ね。

 神様には『世界に生まれた最凶因子』というなんとも素敵な名前を頂いた。

 まあ、それはいいとして……迎撃魔術を停止させる。

 よし。


「さ、きなさい」


 両手を広げて誘う。

 なのに、どうしてだか魔物達はそこに硬直していた。

 ……どうしたのかしら。


「さ、きなさい」


 もう一度言う。

 ――すると、



 ギャォオオオオオオオオオオオ!



 必死の形相で魔物達が一斉に飛びかかってきた。

 ええと……全部で十二匹か。

 なら、剣と魔術、半分半分でいいか。

 そう決めて、まず一振りで魔物を六匹切り裂く。

 斬られた魔物達の魂はソウルイーターがバリバリッと食べてしまった。

 そして魔術を発動。

 詠唱? 媒体? 魔方陣?

 そんな自転車の補助輪みたいなものなんて必要ないわよ。

 空から、小さめの隕石が落ちてきて魔物達を消滅させた。

 隕石が落ちた衝撃で辺り一面吹き飛ぶけれど、私にとってはこのくらい微風である。

 後に残ったのは、巨大なクレーター。


「……味気ないわね」


 小さな溜息をこぼして、六つも魂を食べられてご機嫌のソウルイーターを収納空間に戻す。


「さて、と」


 とりあえず山道が途中でこんなことになっていたら私の後にくる旅人に迷惑なので、クレーターを元に戻しておくことにした。

 時間回帰でクレーターが一瞬にして元の山道に直る。

 ただし、草木を元通りにすることは、いくら私だった出来ない。

 命を失ったものの再生なんて、そんなのは神様だけの特権なのだ。神様より強いとはいえ、そのルールを破ることはできない。

 結果、草木一本ない大地が辺り一面に広がることになった。


「まあ、そのうち緑になるでしょ」


 そう呟いて、私は再び歩き出した。

 しかし、旅に出て一番最初に遭遇したのが魔物か……。

 出来れば、野党とかに追われている美少女がよかったわね。

 そんなテンプレな展開あるわけ――、


「きゃあああああああああああああああああ!」


 次の瞬間、私は女の子を抱きかかえていた。

 悲鳴が聞こえたと同時に、私はその悲鳴の発信源に転位していたのだ。

 恐るべき反応速度よね。我ながら感心するわ。

 自画自賛しながら、私は抱きかかえた女の子を見た。

 歳は……私と同じくらいかしらね。綺麗な栗色の髪の、緑の瞳をした小柄な少女だった。いや、美少女だった。

 今、私は神様にとても感謝している。

 よく私に美少女を引き寄せてくれたわ。

 今度菓子折りを贈ろう。


「名前、聞いてもいいかしら?」


 優しく美少女に語りかける。


「ぇ……え、あれ?」


 突如現れ、そして自分を抱きかかえた私の存在に困惑しているのだろう。美少女が首を傾げる。その仕草もまた素晴らしい。


「名前、教えてはくれないの?」
「ぁ……ぅ、それより! 今はそんな場合じゃないんです!」


 正気を取り戻したのか、美少女が私の腕の中で暴れ出した。


「と、盗賊が出て……馬車が襲われて……お父さんとお母さんが……!」


 ん……どうやら名前を呑気に聞ける状況ではないらしい。

 仕方ない……。

 とりあえず天界の人間管理課のデータベースに思考を繋げて、この子の名前を検索した。

 クリスティナ=エーメンス、か。ならティナね。

 ついでにティナの両親について検索。

 ……三分前に殺されていた。

 そういうこと。

 どうやら、ティナの乗った馬車が盗賊に襲われて、両親は彼女を逃がす為に身を盾にしたようだ。

 状況は理解した。

 私のやることは一つ。

 木々の向こうから、数人の男が現れた。


「いたぞー!」
「なんかもう一人いるぞ!」
「どっちも上玉じゃねえか。よし、さっさと捕まえちまうぞ」
「高く売れるぜ」
「その前に俺達で楽しむんだがなあ!」


 聞くに堪えないはね。こんな下種の声。

 そっと、ティナの目を手で塞ぐ。


「あ……え!?」
「少し我慢してね」


 耳元で囁いて、私は盗賊達を見る。


「さよなら」


 前の世界では、私は人殺しはしたことがない。

 この世界でも、したことがない。

 けれど……まさか私に人殺しは駄目、だなんて道徳心は求めていないでしょうね?

 私が人殺しをしてこなかったのは、そこまで私の気に障る人間と出会ってこなかったからにすぎない。

 けれどこいつらは……ちょっと駄目ね。

 私の別れの言葉に盗賊達が何かの反応を示すより早く、空間から巨大な黒い獣が現れた。その獣の身体は金属の光沢を持ち、口の中にはびっしりと鋭い牙が並び、瞳は真っ赤に輝いている。

 ソウルイーター。その第二形態だ。

 前の持ち主であった騎士の悪魔ですら使いこなせなかった魔獣形態だが、私ならその手綱を握るのも決して難しい事ではない。

 盗賊達の目が剥かれる。


「喰い散らかしなさい。けど悲鳴だけはあげさせないで、耳障りだから。血もこちらには飛ばさないでね」


 そして――黒の疾風が盗賊達の身体を撫でた。

 まず、私の命令を忠実に守るために全員の咽喉が裂かれる。赤い血が溢れ、声を出すことも、呼吸をすることすらできなくなった。

 次に右腕が、左腕が、右脚が、左足が食いちぎられ、腹を裂かれ飛び出た内臓を啜られ、首から下が消し飛び、最後に残った頭部が丸のみにされる。

 そうして、盗賊が瞬く間に全員消滅した。魂まで、完膚なきまでに魔獣の腹に収められたのだ。

 続いて、命令。


「この先にいるであろう盗賊の残党も同じように処理しなさい。そして、盗賊に殺されたこの子の両親の魂がまだ場に残っているようなら、くれぐれも丁重にそこに留めておきなさい」


 私の言葉を聞くや否や、木々をなぎ倒して魔獣は山の中を一直線に駆けた。

 その後ろ姿はすぐにみえなくなる。

 ……ティナの目を塞いでいた手をどける。


「――ひっ!」


 すると、ティナが辺り一面に散らばった血の色を見て、咽喉を引き攣らせる。

 しまった。配慮が足りなかった。

 瞬時に魔術で血液を消滅させる。


「ごめんなさい、驚かせてしまったかしら?」


 ティナが、まるで恐ろしいものを見るように私を見あげた。

 その視線に、少しだけ胸が苦しくなる。

 前世では何度か経験したことのある視線だったが、今世では初めての視線だ。


「あなたは……一体」
「通りすがりの旅人よ」


 言って、歩き出す。


「運がなかったわね。盗賊に襲われるなんて」
「っ、そ、そうだ……お母さんとお父さんが!」
「……二人のところにすぐにつれていってあげるわ」


 少し歩くと、山道に出た。

 そこに……馬車が止まっている。それを引いていた二頭の馬の頭には矢がささり、御者は何か刃物で胸を一突きされて息絶えている。

 そして――馬車の横には、女性と男性の死体。


「お母さん! お父さん!」


 ティナが私の腕の中から飛び出す。今度は私もそれを止めはしなかった。

 二人の死体に、ティナが駆け寄る。


「ねえ、ねえったら!」


 ティナが死体を必死に揺さぶるなか、私は周囲を見回した。

 ソウルイーターの姿を見つける。どうやら盗賊達は撤収するところだったらしい、少し離れた位置には血だまりが出来ていた。血だまりは魔術で掃除しておく。

 ソウルイーターの傍らには、常人の目では見ることのできない、魂の輝き。ソウルイーターがこの場に留めているのだ。


「いい子ね。お腹は膨れた?」


 満足げに鼻をならして、ソウルイーターは収納空間に帰る。

 ティナの両親の魂は、まだそこにある。

 私はその輝きに魔力を流し込んだ。

 魂は多くの魔力を得ると霊体になることができる。

 普通は未練が強くて現世に残った魂が長い月日をかけて空気中の僅かな魔力を集めてやっと霊体化するものなのだが、私にかかればそれも一瞬で済む。

 魂の輝きが強くなり、その中から二つの人影が浮かび上がる。他でもない、馬車の横で死んでいる二つの死体と同じ顔をした二人だ。


「……貴方は、一体」


 驚いた顔で、光の中から現れた父親がさきほどのティナと同じ質問をなげかけてきた。


「それは後でいいでしょう。しばらく私がこの世に留めさせてあげるから、あの子に別れの挨拶をしてきなさい」
「……」


 二人は顔を見合わせると、私に頭を下げてティナへと近づいて行った。

 ティナが、背後から寄ってくる二人に気付き、振り向く。そして酷く驚いた様子で腰を抜かした。

 私はそこで視線をそらす。

 ……家族の別れを盗み見るほど下世話ではない。

 しばらく、木々の隙間から覗く青空を眺めることにした。




「もういいの?」


 近づいてくる二つの魂の気配に、私は尋ねる。


「ええ……誰かは存じ上げませんが、ありがとうございました」
「気にしないで。大したことはしていないから」


 見ると、二人の顔は清々しいものだった。

 ティナは遠巻きにこちらを見ている。どうやら別れは無事終えたようだ。


「本来ならば何も伝えられずに消えるはずだった私達があの子に別れの挨拶だけでも出来たのは、貴方のおかげです。ありがとうございます」


 奥さんの方も私に頭を下げてくる。

 ……私は本当に大したことしてないんだけどね。

 盗賊をやったのはソウルイーターだし、霊体化に必要な魔力だって私にとっては雀の涙だ。

 まあ、感謝してくれるというなら、されておくけれど。


「気が済んだならよかったわね。これで悔いは無いでしょう?」


 言うと、二人の顔が少し曇った。


「それなのですが……おこがましいことですが、一つだけ、お願いを聞いていただけないでしょうか?」
「聞いてから判断するわ」
「……娘のことを、お願いしたいのです」
「……?」


 思わず訝しげに二人の顔を見てしまった。


「それって……どういう意味かしら?」


 私は二人の服装を見た。

 いかにも高級そうな、貴族風の服だ。

 馬車の作りもそれなりに豪華だし……そういうところから判断すると、恐らくティナの家は貴族階級なのだろう。

 なのに、ティナを私に?

 それはおかしいように感じた。

 貴族ならば両親がいなくとも、どうにでも生きていけそうなものだが。

 少なくとも見ず知らずの私に預けようなどとは思わないのが普通だ。


「お察しのようですが、我々は貴族……ですが、没落寸前なのです。系譜の者が次々に不幸に見舞われ、こうして私と妻も死んでしまった今、残った血族はあの子だけなのです」


 系譜が絶えるほどの不幸……?

 なんだかおかしいわね、それ。いくらなんでも不幸がそんな集中して起きるなんて……。

 ……まあ、今はそれは置いておく。


「そうなると、あの子の未来はもう決まったようなものです。我々より低い身分の貴族があの子を娶って名声を高めようとするか、あるいは系譜が絶えた哀れなあの子を引き取ったという知名度を欲する者の元に取り込まれるか……そのどちらもか。どうなるにせよ、あの子が幸せになるとは思えないのです」


 確かに。

 貴族なんてのはその大半が欲の塊みたいな連中だ。そいつらに、女の子を幸せにすることなんで出来はしない。

 本当にティナを憐れんで善意から引き取ってくれる人ならばいいが、そうじゃなかったら最悪だ。


「だったらいっそ貴族の地位を捨てて私に……と?」
「ええ」


 でもそれなら、他にも手はあるだろう。


「人のいい貴族の知り合いがいるわ。その人ならば、きっと彼女を引き取ってくれると思うけれど……?」


 もちろんそれは、アーディア子爵のことだ。あの人ならティナを悪く扱うなんてありえない。


「いえ。実は貴方に引き取ってもらいたいのは、もう一つ理由が」
「理由?」
「はい。先程も言った通り、我々の系譜には最近、ひどい不幸が重なっているのです」


 ああ……なるほど。


「あの黒い獣を見て、貴方がただ者でないことは分かりました」
「だから私にあの子を守ってもらいたいわけね?」
「そういうことです」


 納得した。

 確かに私の側にいれば、ティナに降りかかるどんな不幸を払って見せる。

 自分達も不幸で死んでしまった身としては、次にティナがこんな不幸に見舞われるのではないかと心配なのだろう。

 それならば……断る理由はないわね。

 ――でも、受ける理由もない。

 だから理由を作らさせてもらおう。私の利益になるような。


「一つ、条件があるわ」
「条件、ですか?」
「ええ。大丈夫、簡単なことだから」


 離れた位置に立つティナを横目に見て、私は笑んだ。


「貴方達の娘さん……口説き落としていいかしら?」


 その言葉に二人が……苦笑した。



「お母さん、お父さん!」


 薄れゆく二人に、ティナが叫んだ。

 もう二人はこの世界にいられない。私が霊体の維持を放棄したから。

 二つの霊体が光の粒子になって空に溶けていく。

 天に還ろうとする二人へと駆け寄ろうとするティナ肩を、私は抑えつけた。


「駄目よ。下手に接触したら、魂に傷がつく」


 この段階でのあの二人の魂は露出された状態だ。

 生者に触れられるだけでも、無防備な魂は簡単に傷がつく。

 魂に傷がついたら、来世や、その更に後の生でも、その傷の影響が出てしまう。それは身体障害であったり、運の無さであったり、いろいろ。

 そんなことはさせられない。

 泣き叫びながら手を伸ばすティナに、彼女の両親は……微笑んだ。

 それを最後に、魂が還る。


「――あ」


 ティナの膝が折れた。


「ぁ、ああ……っ!」


 そして、慟哭。

 その震える身体を、抱きしめる。



「はじめまして。私はエリス」



 小さな背中を、慰めるように優しくたたく。


「これからよろしくね、ティナ」
うーん。エリスは何でもアリですね。
もはや単身でも神を超えてます。

というか神様すら殺気を感知した瞬間にフルオートで石化させて砕くって……。
自分で生んだキャラに言うのもなんですけど――ふさげすぎじゃね!?


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