こんなものを見つけました
「断固、断る!」
アリーゼがそう言って、私から一歩離れた。
「いいじゃない。ね、お願い」
だから私は、一歩近づいた。
「何故だ! 何故、そんなもの――!」
「きっと似合うわよ」
「嬉しくない!」
叫び、アリーゼは私の持つものを指さした。
「大体、なんだれそは!」
「これ……? そんなの、決まってるじゃない」
そんなやり取りをする私達から少し離れたところでは、ティナとウルが自分の洋服を選んでいる。
「これ、どうかしら?」
「あ……いいと思います」
「そう? じゃあこれにしようかしらね……で、ティナは何も買わなくていいの?」
「私はもう十分、これまでにエリスさんに買ってもらったので……」
「ふうん。まあ、でもどうせ後でエリスがティナの分もばんばん買うんでしょうね」
「う……それは、はい……」
ここは、旅の途中で寄った町あった服屋。
それも、こんな辺鄙な地にあるにもかかわらずに、かなり大きい。
どうやらかなり質がよく、近辺どころか遠く離れた貴族までもがここにわざわざ仕立てを頼んでいるらしく、それが店の大きさの秘密と言ったところか。
服の値段もそれに見合ったくらいに高い。
でも、ギルド提携の店なので、私かアリーゼの証明札を見せれば買いものの値段は本来の一割以下になる。
なので、未だに豊かとは言えないお財布事情でも、気兼ねなく服を選ぶことが出来きた。
というわけで、私達はその店に入って、自分の好みの服を見つくろっていたわけだ。
まあ、服はもう十分あるのだけれど、ウルが以外と買い物好きで、その得点稼ぎというのもある。
それに、皆が着飾ってくれると私も嬉しいしね。
閑話休題。
私は、手に持ったソレをアリーゼに差し出した。
しかし、アリーゼは拒絶感を露わにしている。
そう。
アリーゼは、これを着ることをさっきから嫌がっているのだ。
私がこの店に入って、そして見つけた、アリーゼにぴったりの服。
それは、
「アリーゼに、絶対に合うはずよ――このゴスロリ」
レースのフリルや、可愛らしいリボン、ひらひらしたスカートに、ヘッドドレス。それは紛うことなき、ゴシック・アンド・ロリータだった。
こっちの世界にこんなものがあるなんて……感動した。
しかもまるでアリーゼを狙って合わせたかのような、赤い色調をベースにしたものだ。
「さあ、アリーゼ。大丈夫、一度、一度だけ着て見ましょう?」
「ふざけるなっ!」
頑としてアリーゼは首を縦に振らない。
「そんな動きにくそうな服装……大体私に似合うわけがないだろう!」
「そんなことはないわ」
アリーゼにすっと近寄って、その綺麗な長い髪を撫でた。
「この紅い髪に、絶対にぴったりだから、ね?」
「っ、それでも、だ!」
アリーゼが私ことを突き飛ばす――より早く、私はひらりとアリーゼの手を避けた。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない」
「恥ずかしがってなどいない! ただ単に、騎士はそんなものを着たりはしないということだ……!」
「騎士だって、女の子なのだから着飾らなくちゃ」
それに、そうは言って、私の目から見てアリーゼはそんなにこの服を嫌がっているように思えない。
本当に嫌だというのなら、問答無用で私のことを無視すればいい筈だ。
けれどそうしないということは……アリーゼも少し興味があるということ。
それに何より、私は、私がこれを見つけるより早くアリーゼがちらちらとこのゴスロリを覗き見ていたことを知っている。
その赤い顔は怒りではなく、羞恥からのものだろう。
つまり、なんだかんだと言っても、やっぱり恥ずかしいだけなのだ。
「う、うるさいっ。いい加減それを元の場所に戻せ!」
「あら。本当にいいの?」
「……いいに決まっているだろうっ」
今の間で確定した。
やっぱりアリーゼ……可愛いものが好きなのね。
少なくとも、この服はアリーゼにとって、決して嫌いというものではない。
きっと、少しきつめの性格のせいで、そういう趣味を表に出せないでいるのだろう。
……だったら、遠慮はしない。
本当に嫌がってるならまだしも、ね。
「そんな強がりを言うなら……ほら」
指をならす。
次の瞬間。
フィルムのコマとコマの間を切り取って別のコマを差し込んだかのように、一瞬でアリーゼの服装が変わった。
もちろん、ゴスロリに。
アリーゼの元着ていた服は今、私の手の中にある。
彼女はそれを見て、何が起きたのか分かっていない様子で首を傾げる。
もちろん、私が着換えさせたわけだけれど。
どんな手を使ったかは乙女の秘密にしておこう。
「……?」
「似合ってるわよ、アリーゼ」
「似合う?」
私の言葉に、怪訝そうにアリーゼは自分の身体を見下ろし、
一秒たって。
二秒たって。
「――…………なぁっ!?」
悲鳴じみた声をあげた。
「な、ななな……なん、これは、なんだっ!?」
「思った通り……いえ。思った以上に可愛らしいわよ、アリーゼ」
事態をのみこめていないアリーゼの頬に手を添えて、囁く。
「か、可愛っ……な、何を言っている!?」
また、アリーゼが私を突き飛ばそうとして――私はその手を掴んで、逆に彼女を引き寄せた。
「いいじゃない、騎士でも可愛いくて。アリーゼ、貴方はとても可愛い。それは、自慢していいことよ?」
「っ――、っ、う……うるさいっ!」
アリーゼが私の手を振り払う。
「私はそんなの、どうでもいいっ。それよりも、早く元に戻せっ!」
「じゃあ、またそれを着て私に見せてくれると言うなら、すぐにでも」
「な、何故そのような約束をしなくてはならない!」
「あら、駄目なの?」
アリーゼの後ろに回り込んで、収納空間から姿見を取り出して、アリーゼの前に置く。
「ほら。見てアリーゼ。貴方はこんなにも可愛いわ」
「っ……!」
姿見を見た瞬間、アリーゼの動きが止まった。
「わ、私はこんな格好を……」
その顔は、今まで見たことがないくらいに真っ赤。
後ろから、アリーゼの肩を掴む。
「可愛いわ。アリーゼ」
「か、可愛い……?」
「ええ。嘘偽りなく、お世辞でなく」
「む、ぐ……」
言葉に詰まりながら、しかしアリーゼは姿見から目を離せない。
「ねえ、アリーゼ。お願い。またいつか、これを着てはくれない?」
「く……っ、ぬぅ……!」
まだ迷っているようね。
だから、もうひと押し。
「貴方の気が向いた時でいいから、ね?」
「……っ、もう、好きにしろっ!」
自棄になったように、アリーゼが言い放つ。
「ただし、今言ったことを忘れるな! 私の気が向いたら、だ! 私が着ると言わない限り、金輪際二度とそれを私の前に出すな!」
「ええ。もちろん」
心の中で、小さく笑う。
きっと、いつかアリーゼにまたこれを着せて見せる。
「そんなことより、さっさと元の服装に戻せ!」
「分かってるわ」
次の瞬間、アリーゼは元の服に戻っていた。
「まったく……」
未だに赤い顔のまま、アリーゼは私を一睨みすると、早足にティナ達のほうへと逃げてしまった。
「さて……じゃあ、これを買うのはいいとして……どうせだから他のも買って行きましょうか」
赤だけじゃない。ゴスロリは、他にも黒や白など、いろいろな色のものがあった。
とりあえず全色手に取る。
いろいろな服を着て欲しいものね。
アリーゼだけじゃない。ティナや、ウルにだって。
服の大きさはアリーゼこそぴったりだったものの、ティナやウルには合わないだろうけれど、そこは私にかかればどうにでもなる。
私は軽い足取りで、店員の元に向かった。
†
……アリーゼさんと、仲良さそうに話していたエリスさんの横顔が思い浮かぶ。
胸の奥に、小さな棘が刺さる。
嫉妬だと、自分で分かった。
……やっぱり、少しだけ、ちょっとだけ……エリスさんに、私だけを見て欲しいという思いがある。
けれど、そんなことは口に出せない。
もしそんなことを私が言えば、エリスさんはきっと、私だけを見てくれる。
それは……エリスさんを縛りつけるということだ。
私は、そんなのは嫌だから。
私が好きなのは、今のエリスさんだから。
強くて、優しくて、ほんの少しエッチで、女の子に笑いかける。そのエリスさんが、大好き。
妬みよりも、愛おしさの方が、ずっと大きい。
だから、私はエリスさんに、私のことだけを見てとは決して言わない。
けれど、努力はしたい。
エリスさんが私を、私だけを見てくれるような、それだけの女性になれるような努力を。
だから……。
ゴスロリ、衝動的にやってしまった。
後悔はしていない。
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