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ヤンデレ要素が含まれていました

「……」


 部屋に戻ってきてからと言うものの、ティナはずっと口を固く結んで地面を見つめている。

 ……辛気臭いわね。

 まったく、命の一つ二つ狙われたくらいで何でここまで落ちこむのかしら。

 人間ってよく分からないわね。


「あのさ……」
「え……あ、はい」


 声をかけると、ティナが顔をあげた、


「貴方って、どうしてエリスと一緒にいるの?」
「それは……、」


 ティナの両親や、それに系譜の人間が次々に死んでしまったことを、彼女が教えてくれた。

 なるほどね……。


「もしかして……エルヴ様が皆を……殺したのでしょうか」
「じゃないの?」


 状況的に考えれば、そっちのほうがよっぽど辻褄があいそうなものだ。


「系譜ってのが何人いたかは知らないけれど、いくらなんでもその全員に死が訪れるような理不尽な不幸の運命……あるとは思えない」
「運命、ですか……?」


 そう、運命。

 運命は無慈悲だが、残酷というわけでもない。言うなれば、無機質。


「でも、運命じゃないなら、なんで皆は死んでしまったんですか? もし運命が違うものだったなら、皆は死なないはずじゃ……」
「運命っていうのはね、一本道じゃない。始まりは決まっていても終わりは一定ではないのよ。まるで木の枝みたいに、どんどん枝分かれしていく。一が二になり、二が四になり、そうやって人生は分岐していく。それが運命。運命は、人の手で簡単に左右されるわ。ただ、人の手では運命の操作までは出来ないけれどね」


 運命の操作は神様だけしか出来ない。それはあらゆる世界が始まった瞬間から決められた絶対真理。


「操作って……?」
「言ったわよね。人の運命は枝分かれだって。神様はね、その枝を接ぎ木出来るのよ。その人には本来有り得ない筈の分岐を用意してあげられるの。逆に、枝を切り落とすことも出来る。それが、運命の操作。ただ一人の例外を除いて、神様に操れない運命はないわ」
「ただ一人の例外って……まさか、」
「察しがいいわね。そう、エリスよ」


 彼女だけは、神様ですら運命を操作することが出来ない。

 正確には……操作しても、その操作を無視――いや、超越してしまうのだ。

 死の運命をどれだけ接ぎ木して、生きる運命を全て切り落としても死ぬことはない。以前天界がエリスの能力を危険視して抹殺を決定した時も、それは無理だった。

 ちなみにその時は最後まで神様だけは「エリスには手をだしてはいかん!」と声を高く叫んでいたのだが、流石に天界の最大権力者と言えども多数決には逆らえなかった。そして後日、神様と天界有力者の方々はエリスに半殺しにされた。


「それはともかく、つまり貴方の系譜の誰も彼もが短期間でそんな死に直結する分岐をするだなんて、天文学的確率よ? 偶然じゃなかなか有り得ない。あるとすれば、それは人間の干渉があったからと考えるのが普通」
「じゃあやっぱり……エルヴ様が……」
「大方、貴方の両親を殺した盗賊とやらもそのエルヴとかいうのに雇われたんでしょうね」


 言って……ティナの顔が真っ青になっているのに気付いた。

 ……まったく。

 そりゃ両親や周囲の人間を殺されて気分が悪くなるのは分かるけれど……。

 仕方ないわね。

 私は話題を切り替えることにした。


「しかし、エリスに子供を預けるなんて貴方の両親も目が節穴ね」
「そんなことありませんっ!」


 思わぬ強い反論に、思わず目を丸めてしまう。


「エリスさんは、優しい人です」
「優しい?」


 笑ってしまう。


「天界でエリスが何て呼ばれてるか知ってる? 最凶因子。最も凶悪な存在、よ。その気があれば人間界の一つや二つ簡単に壊せてしまうような、そんな化物」
「化物じゃありません。エリスさんは確かに強いですけれど、そんなこと、例え出来たってしません」
「なにを根拠に……」


 実際、今までだってエリスは魔界で暴れたり天界で暴れたり色々な人間界を許可なく勝手に行き来したり……やりたい放題している。

 いつ世界を壊しだすかも分からないのだ。


「エリスさんは、私を助けてくれました」
「それは貴方がエリスの好みだからでしょ。知ってる? 彼女、同性愛者なのよ。だからエリスは貴方を助けたの。自分のものにする為に」
「それでも、です」


 ……はあ?


「例え下心からでも、エリスさんが私を助けてくれたことに変わりはありません」
「驚いた。とんでもないお人よしね、貴方」
「それに、エリスさん押し倒そうと思えばいつでも押し倒せるのに、そうしません」
「…………」


 まあそりゃ、エリスがやろうとおもえば私達なんていつでもヤられちゃうわけだけど……。


「でも温泉で襲われたわよ?」


 あの屈辱は忘れない。

 まさか自分があんなに耳に弱いだなんて……しかも、そこをエリスなんかに舐めまわされるなんて。

 っ……思い出すだけでも恥ずかしい!


「あ、あれは、その……交流?」
「あんな交流があったら堪らないわねっ!」


 あれは単なるセクハラよ!


「う……そ、それでもっ!」


 ティナが怯まずに乗り出して私に言う。


「それでも、エリスさんは……私が悪夢を見たら、すぐに起してくれるんです!」
「……それがなによ?」
「私、知ってるんです。私がいつうなされてもいいように、いっつもエリスさんが寝てないって。本を読むとか、月を見ていたいって言ってるけど、本当はエリスさん、一睡もしないで私のこと見ていてくれるんですよ」


 ……。


「凶悪だとか、化物だとかいいますけど、もしエリスさんがそんなものなら、ここまでしてくれるわけありません!」
「……貴方、エリスのことが好きなの?」
「え……と、友達としてなら!」


 そこは強調するのね。


「……物好きね」


 あんなのの友達だなんて。

 私はごめんよ。

 神様に言われてなければ、今すぐにでも天界に帰りたいのに。

 ……私、いつまでここにいなくちゃいけないんだろ。



「周囲を警戒しろ!」


 告げて、大臣の執務室の扉の前に立つ。

 周囲には部下が数名、剣を片手に鋭い気配を発している。

 が、その表情には疲労が濃く浮かんでいる。

 無理もない。先程まで城内に溢れていた悪魔と戦っていたのだから。

 ……悪魔は、突如姿を消したが。

 しかも悪魔に傷つけられた者は全員いつのまにか傷が回復しており――それも腕や脚を失ったものまでだ――死者も今のところ確認されていない。

 ――悪魔がまるでこちらを殺さないように加減していたように思えたのは、私の勘違いだろうか。

 いや、今はそれはいい。

 何が起きたのかは分からない。

 だが我々が悪魔と戦っている最中、脳裏に浮かんだエルヴ大臣の悪事の数々。

 エルヴ大臣は今回の事件に無関係ではないのは確実だろう。

 大臣に直接事情を伺わねばならない。

 ……我々の頭の中に浮かんだ悪事の有無も。

 本来ならば正式な手順を踏まなければならないのだろうが、今回は致し方あるまい。

 扉をノックする。


「大臣。よろしいですか?」


 返事はない。

 ……なにか、嫌な予感がした。


「開けます」


 一言断ってから、扉を開けた。

 そして……狂いそうになるくらいの鉄の臭い。


「――っ!」


 部屋の中は、地獄だった。

 いや、地獄という表現すら生ぬるい。

 一歩足を踏み入れると、水音。見れば、部屋の床は一面大量の赤い液体で染め上げられていた。

 床だけではない。壁も、天井も、調度品の数々も、なにもかもが真っ赤に染まっている。

 その液体が何かは、問うまでもなかった。

 部屋の真ん中に、なにかが転がっている。

 ……それがなにかは、分かっていた。だが、認めたくなかった。

 切断された四肢の付け根を焼いて止血された、顔の皮膚を剥がされ、目を潰され、鼻を削がれ、全ての歯を抜かれた、大臣だ。

 恐ろしい事に、こひゅう、こひゅう、という呼吸音が大臣の口から洩れている。

 生きているのだ。

 それはこの場合、何よりも残酷なことでしかない。

 この惨状を見れば、何が起きたかは大まかに理解出来る。

 恐らく大臣をこんな有り様にした者は、大臣の身体を何度も痛めつけ、そしてその度に回復させたのだろう。城内で腕や脚を切断されたものが回復するのだ。それがもしも大臣をこんな目にあわせた者の仕業だと考えれば、その程度のことは容易いだろう。

 そして何度も何度も身体を壊されて直されて、その結果がこの部屋を塗り尽くす血の正体。よくよく見回せば、血の中に真っ赤な腕や脚、千切れた肉片や爪、歯などが散乱している。腕が八つあったり、脚が四本あったりもする。

 ここまでされては、大臣の精神は、おそらく既に正気を保ってはいまい。

 むしろショック死していないことが異常だ。そこも、恐らく相手がどうにかしていたのだろう。とはいえ、この状態では今生きていてもあと数時間で死んでしまうだろうが。

 ……むごいことを。いくら例の悪事の数々が事実だとしても、ここまですることはあるまい。

 出来れば楽にしてさしあげたいが、公爵に剣を向けることなど、いくら理由があるとはいえ出来ることではない。

 そこまで計算されているとすれば、なんと周到なことだろう。

 だが……相手は何者だ?

 こうなると、城内にいた悪魔を従えていたのは大臣にこんな真似をした者だろう。あるいは者達か。

 それだけの力量を持つ者など、自然と限られてくる。

 ……他国からの攻撃?

 いや、そんなことはないだろう。

 この大陸は、平和とは言えないが物騒というわけでもない。国同士の戦争など百年以上起きていない。

 戦争する理由も思いつかない。

 愚王であるなら意味もなく戦争を行うのかもしれないが、今のこの大陸の王達に少なくとも愚かと言われるような方はいない。むしろ賢王の多い時代と謳われるほどなのだ。

 なにより、敵ならば城内の者達を回復させたりはしまい。

 であれば、個人的な怨恨?

 大臣に復讐するために城内に悪魔を放ち、その混乱の隙に大臣を痛めつけ、それが済んだから悪魔を収め無関係だった城内の者達の傷を治した……これならば、一応の説明はつくか……?

 だが、だからといってとても許せるようなことではない。

 いくら大臣に非があったとはいえここまでやるのは異常だ。さらには城を襲うなどという蛮行……。

 そんな危険な存在を放っておくわけにはいかない。

 なんとかせねば……。



「はあい、神様」
「……なんでここにおるんじゃ、小娘」
「少しお願いしに来たのよ」
「お願いじゃと?」
「そう。ちょーっと、今から言う人物が死んだら、その魂の転生に条件を付けてもらいたいの」
「……とりあえず、言ってみい」
「クラスト=エルヴ。転生後は転生前の記憶を持ったまま、医療技術の発展した世界に住む優しく裕福な両親の元に生まれる……」
「ほう、お主にしてはなかなか良心的な――、」
「ただし…………一生治らない病気を抱えて。重度の言語障害と、身体を自分の意思では絶対に動かせないという症状ね。で、この転生条件はその人生が終わったあと更に三回繰り返して」
「前言撤回! 鬼畜! それすんごい鬼畜すぎるじゃろ!? それってつまり何も出来ないまま人生終えて、その上記憶継続したまま四回繰り返せと!?」
「しかも両親は優しくて裕福だから安楽死なんて選択肢はとらないでくれるでしょうね。医療も発展しているから、『もしかしたらいつか直るんじゃないか』って両親は考えるだろうから、尚更。希望って、時として残酷よね。それで、どれだけ短くても一度の人生で二十年は生かされるでしょ。つまり最低六十年はベッドに縛り付ける予定」
「ぞっとするわ! 貴様は悪魔か! というか悪魔でもここまでグロいこと思いつかんじゃろ!?」
「エルヴの人生、ちょっと見てみなさい」
「ん……今、人間管理課に連絡して閲覧した……ああ、ようわかった。こやつ、お前の逆鱗にばっちり触れたのう」
「そゆこと……まあ、もう心は壊しちゃったから、六十年だろうが何年だろうがベッドに縛り付けられても何も感じられないんじゃない? しかも四度の繰り返ししかないっていう親切設定」
「親切という単語がこうまで嘘臭く聞こえたのは初めてじゃ」
「で、やってもらえる?」
「やるか! 神様なんじゃと思ってる貴様!」
「神様の能力を三割増しに強化してあげてもいいんだけどな」
「……二倍じゃ」
「いいわよ」
「人一人の魂、神のパワーアップの為には止むを得んな。うむ」
「神様もなかなかグロいわよねえ」



 天界に寄ってから宿に帰った私は、ティナに事の真相を教えた。

 やっぱり、と言うか……その表情は辛そうだ。

 両親や知り合いの死が他人に仕組まれたものだったと知って、悔しくてしょうがないのだろう。

 それでも憎しみの怒りの表情を欠片も浮かべないのは、心優しいティナらしい。

 彼女の身体を抱きしめる。


「大臣は、私がきっちり反省させておいたから」


 反省……まあ、反省したでしょ。嫌でもね。


「はい……」


 震える背中を撫でながら、私はちらりとウルを見た。

 なんでかウルはさっきから私を鑑定するかのような目で見ている。

 なに? 視線で問いかける。

 すると途端にウルは目をそむけ、身体を逆に向けてしまった。

 ……なにかあったのかしら。

 まあ、それは今度聞こう。

 今は、ティナを抱きしめていたい。


「ティナ。今度ご両親のお墓参りに行きましょうね。葬式には来るなと言われたけど、墓参りまでは駄目と言われていないでしょう?」


 こくりと、微かにティナが頷いた。

……だいじーん!?

作者自身が言うのもなんだけどエリスやりすぎだって。美少女と接する時との温度差ありすぎだよ。大臣が不憫でならない。

運命のくだりは、結構適当。別にさして重要ではありませんので忘れていただいて結構です。ただの行数稼――ゴホン!

エリスはもうヤンデレなんじゃないかと思います。こう……「愛するあまりその人を拘束しちゃう」みたいな方向性じゃなく「愛するあまりその人の敵を過剰攻撃しちゃう」方向性の。 ……エリスは怒らせちゃいけません。美少女は大切にしましょう。


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