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ハミルトン姉弟は、こうして家族になった 作者:ぶちこ
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06ハミルトン弟は、こうして役割に投じた


 敬神、忠誠、礼節、名誉、勇気、寛容。
 そして何より、女性への奉仕。

 それらが、騎士道の理想とすべき徳だという。

 マーラ伯母上が切り盛りしる婦人会では、正騎士ミハエル・ハミルトンがその全てを兼ね備えていることになっているらしい。

 それを同僚から冷やかし混じりに聞かされた時は、唖然としたものだった。

 心身共に誰かを守れる強さが欲しかったら、鍛錬などはかかさず取り組んでいたし、軍部では秩序のための上下関係が重要であるため、忠誠や礼節などは自然に身に付くものだ。

 他の4つについても、そうありたいと思ってはいるが、しかし、女性への奉仕うんぬんについては、何のことだかさっぱり分からなかった。

 同じ同僚から後になって教えてもらったのだが、どうにも自分は、女性に対して必要以上に親身に接していたようだった。

 自分で思うに、私にとっての女性の基準が、男性に難のあるロゼット姉上だったため、そう取られても仕方のない振る舞いをしていたのだと思う。

 だからといって、騎士の鑑などと褒めそやされるような人間ではもちろんないので、マーラ伯母上には、ひかえてもらえるようお願いしてきたのたが、その願いはあまり聞き届けられていない。

 騎士道のために騎士になったわけではない。

 それは、紛うかたなき事実だが、騎士道精神とやらが、何の邪念もなく女性への奉仕を行うのならば、今ばかりは切実にこの身にあって欲しいと思った。

 この世で最も力になってあげたい女性が、結婚をすると言い出したからだ。

 その人は、やむにやまれぬ事情のために、男性のことごとくを近づけさせることができなくて、それに伴う様々な弊害に苦しんできている。

 にも関わらず彼女は―――私の義姉、ロゼット・ハミルトンは、どうして急にそんなことを言い出したのか。

 それを考えるたび、弟である私のためを思っての決断したのだと考えてしまうのは、ただの思い上がりだろうか。 

 だが、彼女が今をもって男性を忌避しているのは、確かめるまでもなく明らかである。

 だからこそ自分は、姉上にとって唯一そば近くに寄れる異性として、公の場に出る時はいつも隣りに寄り添ってきた。

 そして、そのせいで、あらぬ噂を立てられていることを知っている。
 いくら否定してみたところで、簡単には払拭できないことも。

 互いの将来を思うなら、何とかしなければならないと考えるのは当たり前で、姉上はそれを果敢にも正そうとしているように思えた。

 だとしたら私は、彼女の決意を受け入れるべきなのだろう。

 彼女にとって自分は、“ただの弟”でしかないのだから、とやかく言う資格はきっと無い。

 もう何度となくそう思ったことだろう。そして、それを思うたび、あの時の痛みが胸に去来する。

 数年前、騎士団に仕官するため、生活の拠点を王都に移す日を、ひと月後に控えていた日のことだ。

 王都に拠点を移してしまえば、姉上のいる伯爵領の屋敷には、頻繁に帰ることはできなくなる。

 だから引っ越してしまう前に、姉上に言い残していこうとした言葉があった。

 でも、それを伝えることは、結局できなかった。
 姉上が、私を“ただの弟”としてか見ていないことを知ってしまったから。

 そんな彼女に、伝えようとした言葉を言ってしまったら、きっと“ただの弟”にすら戻れなくなってしまう。だから、言うことはできなかった。

 それからほどなくして、騎士団に従騎士として入団した。

 あの時の自分は、姉上から逃げ出すような心情だったと思う。
 姉上と簡単には会えなくなってしまうことに、少しだけ安堵していたはずだから。

 それ以降は、週ごとの手紙や、ひと月に数日ほどの休暇、社交シーズンに王都へ滞在する3ヶ月だけ姉上と会える生活になった。

 そのおかげで、以前と変わらい姉弟の距離も保つことができていたと思う。

 だが、そのままの距離で数年の時が流れてしまうと、もしかしたら義姉弟としてなら、彼女の側に一生いられる。そういう、よこしまな考えを自分はおそらく抱いていた。

 けれど、そんな歪な未来など誰のためにもならないと知らしめるように、私の聡明な姉上は、自分たちの将来をきちんと見据えてくれていた。

 だから今回の事は、起こるべくして起こった事なのだと思った。姉上への想いに踏ん切りを付けるためには、良い機会になるはずだと、そう割り切ることにした。

 そうしたくせに、見合いをすると聞かされれば心乱し、当日には仕事に身が入らなかったせいで、上司に早退するよう命じられてしまった。

 しかも反省するどころか、はやるような気持ちで帰宅すれば、ロゼット姉上が見知らぬ男の手を取っていた。

 その光景を見た瞬間に、わきあがった感情は暴力的なものだった。

 あからさまな敵愾心を感じ取ったのかもしれない。ベルフラウ少佐が言葉をかけてくれたから、我に返ることができた。

 自分が情けなくなった。
 姉上の決意を受け入れると決めた矢先から、言い逃れしようのない体たらく。

 きっと自惚れがあった。彼女が触れられる男は自分だけだという、身勝手な思い込みが。

 そんなはずはない。いずれ姉上の生涯の伴侶に相応しい人物が見つかれば、長く時間はかかるだろうが、そこに立ち塞がる障害を、必ずや二人で乗り越えるだろう。

 何より姉上が、そのための努力を惜しまずできる人だということを、自分が一番良く知っている。

 自分に成り代わって姉上の隣りに並ぶかもしれない男にやっかみを抱くなど、見当違いもはなはだしい。

 私がしてもいいことがあるとすれば、慣れぬことをはじめられた姉上が、無理をし過ぎないよう見守ることと、マーラ伯母上が選んできた人物が、本当に姉上にふさわしいかを見定めることくらいだろう。

 それを頭では分かっているのに、ままならない自分に嫌気が差す。

 今こそ、音に聞こえた正騎士ミハエル・ハミルトンであらねばならないと思うのに、自分の名前が、ひどく他人のものめいて聞こえた。




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