第8話
前方五メートル辺りだろうか。
歌子は目を凝らし見つめた。
「こ、これが…」
ウサギに教えたもらった不思議空間もとい、不思議歪み。
結構アバウトな教え方だったのに、適当に歩いていたら見つけてしまった。
何もないはずの空中に、些細な靄のような揺らめく空間を。
「発見!不思議空間発見!」
指差し叫んだ。
隊長やりました!うむ、素晴らしい発見だ歌子隊員!
そんなやり取りを想像したが、周りに自分しか居なかったため、悲しくなり辞めた。
「よし帰ろう」
不思議現象を着々とクリアしている。
七不思議的なアレで、もしかして世界不思議を発見したら…。
「元の世界に帰るなんて、こたぁーない」
ない。なかった。何故だか言いきれた。
てかこの世界には不思議が多すぎる。
全クリする頃には私老衰で死んでるわ!
歌子は思った。
「あーあ。お腹空いたな」
この辺に果樹はあるだろうか?
イッパイ食べて眠くなったら、ネロに迎えに来てもらえばいい。
ウサギたんが言ってた、あのエイスエレフ…、だっけ?どんな果物だろう。
「…ん?」
踵を返そうと歩き出した瞬間、歌子は首をかしげた。
不思議空間が、先ほどより手前に来ている。
その感覚は三メートルほど。
大きくなったのか近くなったのか。いや、たぶん近づいている。
知らぬ間に私が近づいていたのだろうか?
「い、いやいやいや」
じりじりと後退する。きのせいではないらしい。
不思議空間は少しづつ、しかし着実に歌子へと近づいていた。
「お、おち、おちち」
落ち着こう。そう言おうと思ったが口がうまく回らなかった。
お乳?ああ、最近牛乳飲んでないな。
濃い目で少し苦い、それでいて舌で転がせば、甘味を感じられるブレ○ディ。おいしいよね。
現実逃避をしている間に、不思議空間は一メートルほどまで近づいていた。
でもネロは、この森に私に害をなす存在はいないと言っていた。
人間以外で。
この空間は?近づいてきているけれど、どこか気を使うような近づき方だ。
例えるならそう、両手を上げじりじりと美人女教師ににじり寄る、思春期真っ盛りな男子生徒…。
「あ、あぶねーーー!」
歌子はひらりと不思議空間を避け、距離を取るため駆け出した。
ふん、ガゼルと言われた私の脚力、見るがいい!
実際言われたことがなかった。
どちらかと言うと「お前はもう少し頑張れないのか?」と体育教師に言われたものだ。
リレーでも前後に足の速い人が設置され、どんなに遅れても誰かが挽回してくれる。
そんな速度だった。
「はぁ、はぁ…、はぁあぁあ!?」
速い、両手を上げてにじり寄る、思春期真っ盛りな男子生徒、速い!
「うおーー、先生、うおーー!!」そんな副音が聞こえた気がした。
くそう、変態空間め!この私に害をなそうってのか!
歌子は立ち止まった。
向き合うように体を捻ると、勢いよく地面を蹴りあげた。
気分は一流ラグビー選手だ。
「どっせーーーい!」
どしーーーん…。
静かな森に空しい…、もとい、存在しないはずの効果音が響いた気がした。
存在しない理由は、歌子が半端ない速度で近寄る変態空間に向かい激突した瞬間、姿がゆらりと消えたからだ。
効果音は私の意気込みで、感じてほしい―――。
歌子が星空から手を振り、笑って言った。
もうジャンルに『ギャグ』を追加した方がいいでしょうか?
描くのが楽しくて楽しくて仕方ないです!
【恋愛遊牧民】
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