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第3話
歌子は動物が大好きだ。
爬虫類も毒や害がないとわかれば触れるし、虫も嫌いではない。
虫の場合、一部例外もあるが。
毛がふわふわとしている動物は、特に好きだった。
猫が居れば「にゃんこ〜」と言って後を追い、迷子になることはしょっちゅうだったし、犬を見かければ「わんこー」と言って近寄り、吠えられることは常だった。
引っかかれても噛まれても、毛が生えた動物は大好きだ。
なので目の前に居るこの巨大な犬を見ても、驚きはしたがすぐに興味と愛着が沸いた。

「お、お座り!」

首輪もしていない、ましてや犬なのかさえも知らないが、歌子はビシッと命令してみた。
犬は鼻をスンと鳴らす。歌子はびくりとした。
しかし犬は尾を一振りすると、静かに座り込んだ。

「おー!いい子〜」

嬉しくなり笑う。裸だからと隠していた手を解き、今歌子はリラックスしていた。
犬だから裸を見られても問題なし!
一人と一匹は向き合うような形で座り込んでいた。

「お手!」

調子に乗って手を出す。噛まれるかもなどという心配は、今の歌子になかった。
噛まれるならもうとっくに噛まれて食いちぎられ食べられている。
何より歌子を見つめる犬の瞳が優しい気がしたのだ。
犬は歌子の手にポフッと前足を置いた。
その足は歌子の手のひらよりも大きい。
視線を前足から胴体へ、そして犬の顔へと移した。
虎の様に大きくがっしりとした体躯。
毛並みはとても美しく、漆黒の毛が太陽の光を帯びて妖しく光る。

なんて美しい犬だろう。それにとても賢い。
にやにやする顔を止められず、歌子の表情は緩みっぱなしだ。
傍から見ると、その後景は飼い主と忠犬。
犬が尻を上げ一歩踏み出した。歌子は動じない。
ゆっくりと犬の鼻先が、歌子の頬を掠めた。
優しく頬を摺り寄せられる。
歌子は心地よくてうっとりと瞳を閉じた。

『…お前は誰だ』

突然耳元で囁かれた。
なんて美声!イケメンどこだ!と歌子はカッと目を見開き、周りを見渡した。
しかし相変わらず、脇には犬しか居ない。
幻聴?

『言葉、通じているか?』

その言葉が聞こえたのと同時に、犬の口がもごもごと動いたのを、歌子は見た。

「え、えーと?」

『お前はどこから来た?』

どうやら聞き間違いの見間違いじゃなかったみたいだ。
歌子は一拍置いて答えた。

「お風呂場…、から?」

風が吹き、木の葉が揺れる。
何とも言えない空気を消し去ろうと、歌子は「えへ」っと笑った。



【恋愛遊牧民】


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