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Merry Christmas!
作:テルル


「ついにこの日が来たのよ、ジャスティス、ルチア」

赤い服を纏った一人の少女がウキウキしたように、玄関先で自分を待つ二匹のトナカイに語りかけた。

「仕事が成功すれば、大きい家も買えるし、ご飯も美味しくなるよ。仲間も増やしてあげるからね」

すると、赤いバンダナを左の角に巻いた、ジャスティスがブルッと首を振った。

「仲間なんざこいつで十分ですぜ」

すると、青いバンダナを右の角に巻いた、ルチアがコクコクと首を縦に振った。

「不服だが、右に同じ」

床に無造作に置かれた白い袋の中に、丁寧に包まれたプレゼントを入れながら少女は困ったように笑った。

「でも、二人だけでソリを引っ張るのは大変でしょう」
「オレたちゃまだ若いんですよ? これくらいお茶の子さいさいよ」
「この前ソリ引いて事故起こしたのは何処のどいつだよ?」

ルチアの言葉にジャスティスは黄金色の目を向けた。

「オマエだってこの前袋に穴開けたじゃねーか。そのご自慢の角でよ」
「昔のことだろ。オマエなんかふざけて飛んで屋根から落ちそうになった癖に」
「う、うるせぃっ!」

ジャスティスがバタバタと前足で雪をかきながらわめく。

「もー、分かったわよ。何でいつも喧嘩するの」

二匹のトナカイは不快そうに鼻を鳴らした。

「さて、そろそろ時間ね。出発するわよ」
「アーサー・ジョーンズの車持ったかい?」
「持ったわ」
「笹川英一の楽しい数学絵本は」
「この子には楽しい絵本を送るわ。五歳なのにお勉強の本なんてあんまりよ」

暖炉の火を消し、電気を消し、少女はファーのついた赤いコートを羽織ると、袋を抱えて外へと出た。
外は凍えるような寒さだが、少女は関係ないというふうに、積もったばかりの雪に足跡をつける。そしてトナカイ小屋の奥から緑色のソリを引っ張ってくると、二匹の相棒に手綱をつけた。

「ジャスティス、ルチア行ける?」
「準備万端!」
「オーケーです」

少女はソリに袋を乗せ、そして自分も乗るとしっかりと手綱を持った。ソリについているライトをつけ、白いポンポンのついている帽子を被る。

「じゃあ行きますよ?」
「あ、待って」

少女は袋の中から赤と青二つのマフラーを取り出し、前にいる相棒達の首に巻きつけた。

「ワタシからのクリスマスプレゼント!」

それぞれ二匹の【J】と【R】のイニシャル入りである。

「あ…、ありがとよ…」
「ありがとうございます」

ジャスティスは少し恥ずかしそうに、ルチアは瞳を大きくさせながら頭を下げた。

「じゃあ今夜も頑張るよ! それっ」

パシッと手綱を引き、トナカイ達を走らせる。
そして家の周りを一周し、そしてトンッと二匹のトナカイが前足で地面を蹴った瞬間、少女と袋を乗せたソリは紺色の大空へと舞い上がった。

「うわー、今夜はホワイトクリスマスね」

フワフワと紺色の空から降ってくる白い雪が頬に当たる。

「最初は…」

ゴソゴソとコートの中から可愛らしい模様の入ったメモ帳を取り出し、片手でペラペラとめくる。

「最初はカナダのオンタリオ州、ハニエル君八歳」
「ちょっと、そいつ親にサンタなんていねえって言われたんじゃないんですかい?」
「でも、サンタが来るのを待ってる」
「よーし、急いでプレゼントを届けるわよ!」

少女は張り切った様子で笑った。
そして少しずつカナダ、トロントの町並みが見えてくる。少女の乗せたソリが上空を飛んでも、町行く人々は気づかない。

「きれー。終わったら此処見て行こうよ」
「その前に仕事終わらせないと」

ルチアが注意すると、少女は照れ笑いを浮かべながら頭をかいた。

「忘れてた」
「しっかりして下さいよ」
「ほら! お家が見えてきた!」

ジャスティスの言葉を遮るようにわざとらしく少女は住宅街を指差した。

「えっと…右から七軒目…。此処ね」

ソリを家の屋根に止めて、煙突をトナカイ達と一緒に覗き込む。

「うーん…暗くて良く見えないわ」
「此処から入るのはよしとこうぜ。前の年は煤だらけになっちまったんですから」

ジャスティスの言葉に、少女は去年の煤だらけの姿を思い出して表情を歪ませた。

「一旦庭に降りてボウヤの部屋の窓から入りましょう」

ジャスティスとルチアにソリを引っ張ってもらい、静かに庭へと降りた。

「ハニエル君の部屋は何処かしら?」

そして明かりがついた部屋を少女は覗きこんだ。


†††


「さあハニエル、もう寝る時間ですよ」
「でも、ママ。今日はサンタさんが来るんだよ」

純粋な瞳でママを見つめるハニエルだが、ママは可笑しそうに首を横に振った。

「ハニエル、サンタさんなんていないのよ? プレゼントはツリーの下にありますからね」
「でも…」
「さあ良い子のハニエルはもう寝なくちゃね。はい、ママにおやすみのキスよ」

ハニエルは少しだけ納得出来ないような顔をしていたが、ママの頬にキスをした。ママは優しく微笑んでからハニエルの額にキスをすると、部屋の電気を消して出て行ってしまった。

「ママの嘘つき」

ハニエルはベッと下を出し、ベッドから起き上がると、机の上に隠しておいたクッキーの置いた皿とミルクを置いた。

「サンタさん、ゲームが欲しいです。ボクのママはお勉強道具しか買ってくれないの」

手を組んでまるでお祈りをするように、ハニエルはママに聞こえないように小声で呟く。

「おやすみなさい」

ハニエルはトタトタとベッドにもぐりこんだ。


†††


「うーん、どうしよう」
「どうしたんです」

袋の中からプレゼントの箱を取り出しながらルチアが問う。

「今、ママがツリーの下にプレゼントを置いたって言ったわよね」
「これじゃあ、プレゼントがサンタからなのか分からないじゃないか」

ママ達が用意したプレゼントに紛れ込んでしまうのだ。

「よし、こうなったらハニエルボウヤのそばにプレゼントを置きましょう!」
「えっ」
「でも…もし見つかっちゃったら…」
「大丈夫! 任せて」

ルチアからプレゼントを受け取ると、ハニエルの部屋の窓に手をかけた。
開けてくれていたのか、幸いに鍵は掛かっていない。少女はヒョイッと窓枠に足をかけて部屋へと入った。
ベッドではハニエルがスヤスヤと寝息を立てている。

「メリークリスマス、ハニエル」

そう呟き、机の上にプレゼントを静かに置いた。
そして部屋を去ろうとした時、床に転がっていた分厚い本に足をとられた。

「おっ? とっとっと?!」

崩れた体制を立て直そうとしたが、逆に足がもつれてしまい、そのままハニエルの寝ているベッドにボフッとうつ伏せに倒れこんだ。

「わぁっ」

少女が倒れた衝撃でハニエルが飛び起き、そして自分のベッドに倒れている少女を見つけた。

「ま、マ…っ?!」
「シーッ!」

叫ぼうとしたハニエルの口を慌てて少女が塞いだ。

「叫ばないって約束してくれるかしら」
「…!」

ハニエルがコクコクと頷いたので、少女はにっこり笑って手を離した。

「おっ、お姉ちゃん一体誰…」
「ワタシはサンタクロース」
「えぇっ? 嘘だ! サンタクロースはもっとおじさんで太ってて…」
「そのサンタクロースは今ブラジルに行ってるのよ」

少女は机に置いたプレゼントを手を伸ばして取ると、ハニエルに渡した。

「メリークリスマス。開けてみて」

不信そうな目を向けるハニエルは、渡されたプレゼントのリボンを解いた。そして箱を開けた瞬間、また叫びそうになったので少女はまた口を塞いだ。

「すごいや…。ゲームだ! ボクずっとこれが欲しかった…!」

感動の眼差しを向けるハニエルに少女は笑って立ち上がる。

「もう行かなくちゃ。貰うわね」

クッキーを一つ口に入れ、窓から外へと飛び出た。

「馬鹿な御主人だ…」
「まさか見つかってしまうとは…」
「うわーっ!! すごい、すごい! 本物だ!」

興奮したハニエルがついに叫んでしまった。家中の電気がパッとつき、ママが駆け足でハニエルの部屋の前へやって来る。

「ハニエル!? どうしたの?」

ママがドンドンと部屋のドアを叩いている。

「あちゃー…」

少女はそう声を漏らしたが、ハニエルに近づいて、自分の手袋を取ってハニエルに渡した。

「これあげるわ。次の次のクリスマスまでそれを持ってたら、もう片方もあげる」
「ありがとう」

ハニエルは大事そうに手袋を抱きしめる。
ママがハニエルの部屋のドアを開けようとしている。

「じゃあね、ハニエル!」
「せいぜい大切にしろよ、ボウズ」
「良い夜を」

少女は急いでソリに乗る。そして空に舞い上がると同時に、ドアが開けられママが部屋へと入って来た。

「ハニエル、一体どうしたの…」
「ママ! 見てよ!」

ハニエルは嬉しそうな顔でゲームが入っているプレゼントをママに見せた。

「サンタクロースが来たんだ!」
「嘘でしょう…」

ママは窓の外の庭を見ると、雪の上には足跡一つ残っていなかった。


†††


「あーあ、減給だわ」
「ドジなんだから!」
「オマエが言うことじゃないだろ」

溜息をつきながら少女が、喧嘩をしているジャスティスとルチアを見る。

「ま、いっか! 次はあっちよ!」

少女が手綱を大きく引き、空高く舞い上がった。

「Happy Merry Christmas!」

少女は初めてシャンシャンと鈴を鳴らした。












終わり


別にこれといって、事件や特別なことが起こる訳ではありません。ただ、クリスマスにちなんでの小説ということで、楽しんでいただけたら幸いです。

ではメリークリスマス!













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