艦魂年代史 恋する乙女は大艦巨砲主義エピローグ 僕達の艦魂物語は終わらない(5/16)PDFで表示縦書き表示RDF


艦魂年代史 恋する乙女は大艦巨砲主義エピローグ 僕達の艦魂物語は終わらない
作:黒鉄大和



第五章 艦魂達の宴


「それにしても、相変わらず宴会が好きなんですね。この人達は」
「・・・バカだから、仕方がない」
「そんな事言うもんじゃないの」
 ちびちびとラムネを飲む武蔵の頭を、大和はそっと撫でる。
「・・・うざい」
「ひどいなぁ、妹をかわいがってるだけなのに」
 笑顔で言う大和の手を武蔵は掴む。
「・・・私の頭を撫でていいのは翔輝だけ」
 真剣な瞳で言う妹に、大和はため息する。
「いい? 武蔵。翔輝さんは今も地上で生きてる。でも私達は死んでいてこの天国にいるのよ? 翔輝さんが亡くならない限り会うなんて無理なのよ」
「・・・関係ない。いつかきっと会える」
 武蔵は強い想いを込めた瞳で姉を睨む。その鋭い眼光に大和は慌てる。
「そりゃ、私だって会いたいよ。もう九年も会ってないし」
「・・・私は十年」
「でも、無理なものは無理なのよ。頭のいいあなたならわかるでしょ?」
「・・・理屈なんてどうでもいい。強い想いを胸に抱いていれば、人は狂わずに済む。希望があるから、人は生きれる。翔輝に会う。それが今の私の生きる原動力」
「武蔵・・・」
 真剣な顔で言う武蔵。でも大和は知っている。彼女の瞳の中にある決意の炎には、よく見ないとわからないが、哀しみが宿っている。
 ――別れてから十年経っても、彼女は今でも彼を思い続けている――
 その気持ちは自分だって負けてない。
 初めて天国に来た際、最初こそ悲しかったが、もう会えないと思っていた武蔵やみんなに会えて、嬉しかった。
 ずっと前に死んでしまった比叡や霧島、陸奥にも会えた。
 翔輝の事を聞かれた際、笑顔で自分達は両想いだと言って恋人宣言をしたが、見事に翔輝派の艦魂達に半殺しにされた。
 気が狂ったように暴行する陸奥にはある程度予想ができていたので対応はできたが、引きつった笑みで唐辛子汁がたっぷりと入ったじょうろを口に突っ込んできた霧島には死ぬほど恐怖した。
 それから二年の間に榛名や伊勢と次々に天国にやって来たが、会った早々に伊勢に半殺しにされた。
 そうやって再会した仲間達とは、今ではこうして共に宴会を開いてにぎわっている。
 大和は目の前で宴会をしている艦魂達――いや、今は天使と言うべきだろうか――を見つめて小さく微笑んだ。
 かつては一応軍人だったので軍服を着ていた艦魂達だが、今は退役した身なので皆思い思いの着物を着ていて微笑ましい。
「ちょっと大和ちゃん! そんな所にいないでこっちにおいでよッ!」
 お酒のせいか少し赤く染まった笑顔で陸奥が呼ぶ。
「そうですよ。大和さん」
「大和ッ! 武蔵もつれて来てッ! この前の野球の英雄なんだからッ!」
 霧島と伊勢が笑顔で言うが、
「あ、あれは手が滑っただけだッ! 負けた訳じゃねぇッ!」
 武蔵に見事敗北した榛名は持ち前の負けず嫌いさを奮起させて叫ぶが、
「見苦しい。負けは負けだ。素直に認めろ」
 金剛の言葉に見事一蹴された。だが、
「・・・エプロン姿で言われてもなぁ・・・」
 実はここは金剛と滝川の家で、金剛は皆の食事を作っている。さすがに給仕まではしないが、昔の彼女のプライド高さなら絶対にありえない。しかもかなり料理はおいしい。
「う、うるさいッ!」
 必死にエプロンを隠すが、もちろん隠れない。
 そんな変わってしまった姉を見て榛名はため息する。
「俺はちょっと幻滅だな。姉貴は一匹狼みたいな人だったのによぉ」
「うるさいッ!」
「まあまあ榛名。金剛もやっと女になったのよ」
「姉さんのエプロン姿なんて、微笑ましいわ」
「榛名。愛は人を変えるものなのよ」
 長門、比叡、扶桑の連合艦隊お姉さんキャラ三人衆は金剛のエプロン姿にうっとりとするが、金剛は激昂する。
「やかましいッ! 誰が好き好んでこんな物を着るかッ!」
「じゃあどうしてよ?」
「うぐ・・・ッ」
 言葉に詰まる金剛をニヤニヤした目で長門は見詰めるが、金剛は「ふんッ!」と鼻を鳴らして視線を逸らす。が、
「俺に恋してるなら、裸エプロンじゃないとな。白いお尻がプリンと揺れて、胸がプルンと動かないと。ただの裸より興奮するぜ?」
 いつの間にか横にいた滝川は何度もうなずくが、
「死ね変態ッ!」
 背中に隠していた竹刀を一瞬で引き抜くと、横で大笑いする滝川の顔面に叩き込んだ。
「ぐぬおおおおおぉぉぉぉぉッ! 何しやがる金髪ッ! 俺を殺す気かッ!?」
「そのまま死んでしまえッ!」
 ビシッバシッ! と何度も何度も滝川に竹刀をぶち込む金剛を見て、長門は一言。
「素直じゃないわね」
「いや、お姉様。それは違います」
 陸奥のツッコミにまわりの者は何度もうなずいた。
 そんな相変わらずな戦艦達を見詰め、翔鶴はため息した。
「まったく、騒々しい」
「そんな事言わないのよ。長門司令はきっと何かお考えがあるのよ」
「いや、それはどうかな?」
「たぶん、突発的な行動だと思いますが」
 うっとりした目で長門を見詰める赤城を加賀と蒼龍が呆れたような顔で見詰めるが、当の本人はすっかり自分の世界に入っている。
 そんな先輩三人を見て翔鶴は再びため息する。
「翔鶴。そんなにため息してたら幸せが逃げちゃうわよ?」
 飛龍が笑顔で言うが、翔鶴は複雑そうな顔をする。
「そういう問題では――」
「まあまあ、あれが長門殿なんでありますよ。もう慣れたであります」
 そう言う大鳳は私服世界の中で旧陸軍の軍服を着ている。その腰にはいつか翔輝から貰った日露戦争時の軍刀を挿している。
 本人曰く「今でも自分は身も心も帝国軍人でありますッ! もちろん帝国陸軍ッ!」だそうだ。
 終戦後に天国で発表された日本陸軍の横暴さ(略奪・虐殺・暴行・強姦等)
には当時引きこもりになるほど落ち込んでいたが、今ではすっかり回復している。
 あれは一部の愚かな兵達がした事で、ほとんど兵達は志を持って戦っていたと信じているらしい。
 翔鶴はそんな大鳳を見詰めて呆れる。
「こんな酒の席に軍服とはな」
「これが一番楽なんでありますよ」
「そうか?」
「そうであります」
 翔鶴はそれ以上の追撃をやめた。彼女には何を言っても無駄だという事はもう嫌というほど知っている。
「それにしても、今頃瑞鶴は何やってるのかな?」
「きっとまた君代さんと貝塚さんを奪い合ってるでしょうね」
 瑞鳳と飛鷹の会話に、翔鶴はそっと笑みを浮かべた。
 今ここに瑞鶴はいない。
 天国に来た瑞鶴だが、そこで貝塚が元妻の君代と再開してしまった。
 君代と瑞鶴の間で揺れる貝塚に対し、根が真っ直ぐな瑞鶴と徹底抗戦を構える君代の間で第一次貝塚戦争が勃発。一緒に暮らすという貝塚の妥協案で休戦した。
 そして今三人はここから少し離れた所で三人暮らしをしている。
 傍から見れば仲のいい親子に見えるが、実際は一人の男性を取り合った泥沼の昼ドラのような関係――ではなく、互いに認め合い、今では一夫二婦制をしている。天国に一夫一婦制なんて法律はないのだ。
 そんな二人は今でも貝塚を取り合って幸せに暮らしているらしい。
 手紙が来たり時折会いに来るのが翔鶴の密かな楽しみだったりする。
「翔鶴。紅茶のおかわりいる?」
「悪いな」
 酒を飲んでいない翔鶴の持っているティーカップに比叡が笑顔で紅茶を淹れる。
「あ、紅茶なら私が淹れたでありますのに・・・」
「お前の茶はずさんで嫌だ」
 翔鶴の言葉に大鳳は少し落ち込む。壮絶な戦いをする陸軍の思想を持つ彼女に繊細な紅茶を理解しろと言う方が無理な話だ。
「も、申し訳ないであります」
「そんなに落ち込まないでほしいであります。人には得意不得意があるのでありますよ」
 落ち込む大鳳の肩を、彼女の後輩である葛城が微笑んだ。そんな二人を葛城の姉である雲龍と天城が優しげな笑みで見詰める。
 そんな空母達から少し離れた所に隼鷹は柔らかなポニーテールをした少女と話していた。
「そっか、順調なんだね」
「うん・・・実はボク明日も直兄ぃとデートなんだぁ」
 頬を桜色に染めてうっとりした表情で喜ぶ少女を、隼鷹は優しく微笑んで見詰める。
「へぇ、そうなんだ。がんばってね」
「お姉ちゃん?」
 話を聞いた大和が嬉しそうに少女を見詰めると、少女も微笑んだ。
「えへへ、今度こそ直兄ぃをメロメロにするんだぁ」
「がんばりなさい――信濃」
「うんッ!」
 少女――大和姉妹三女の信濃は微笑んだ。
「・・・そう言って毎回空回りして自沈する」
「ひ、ひどいッ!」
 武蔵は無表情で妹の恋話を粉砕する。確かに毎回信濃は元気良く恋愛成就宣言をするが、そのたびに勝手に空回りして失敗している。
「・・・また同じ失敗を繰り返すつもり?」
「ぼ、ボクだってがんばって・・・ッ」
「・・・努力なんて意味を成さない。世の中の全ては結果論。いくら努力しようと、結果が実らなければ愚行でしかない」
 元連合艦隊旗艦である武蔵は徹底的に理論武装していた。論戦百戦錬磨の武蔵にとってまだまだ未熟な信濃を返り討ちにする事など造作もない事だった。
 一瞬にして天国から地獄に叩き落された信濃は意気消沈した。
「ちょっと武蔵。信濃を落ち込ませないでよ」
「・・・妹のくせに姉である私よりも先に幸せになるのが、許せないだけ」
「完全に逆恨みじゃない」
 相変わらず自分主義の次女・武蔵と、そんな次女にいじめられて泣きそうな三女・信濃を見て、長女である大和はため息した。
「なんか、姉をやめたいです」
「そうでありますか? 私は妹がほしいであります」
 羨ましそうに大和を見詰める大鳳に、大和は再びため息する。
「一人っ子の大鳳にはこの気持ちはわからないわ」
「姉妹を持つ大和殿には、一人っ子である私の気持ちはわからないでありますよ」
 お互い立場が違うの意見が合う事はないらしい。
「私の妹でいいなら、いくらでもあげるわよ――武蔵ならね」
「いや・・・武蔵殿はちょっと・・・」
 そっと視線を逸らす大鳳。どうやら武蔵は妹にしたくない妹ランキング第一位らしい。
「・・・私は姉の妹をやめたい」
「やめて。お願いだから」
 睨み合う長女と次女を三女が不安げに見詰める。
 そんな大和姉妹を見て陸奥はため息する。
「どうして大和ちゃん達はこんなにケンカばかりするのかしら」
「お互いの性格が合わないのはもちろんだけど、きっと心の奥底では今でも長谷川君を取り合ってるのね」
 長門の言葉に陸奥はため息する。
「しつこい女の子は嫌われるって事を知らないのかしら」
「あらあら、長谷川君を諦めたらずいぶん余裕ね」
 長門の言葉に陸奥は小さく首を振る。
「そんなんじゃないよ。今だって長谷川さんの事は大好き。でも・・・」
 頬を桜色に染める陸奥に、長門は優しく微笑んだ。
「――初恋には、勝てないって事ね」
 長門は小さな笑みを浮かべながら妹を見詰めた。
 陸奥は、今は新しい恋をしている――いや、正確には新しくはない。
 遠い昔、第一次世界大戦の際に敵潜魚雷を受けて危険に陥った『陸奥』を助けて死んだある青年がいた。
 ――そして、陸奥の初恋の相手だった。
 それから四〇年近くの年月が経ち、陸奥は太平洋戦争で戦死した。彼が助けた命も、失われてしまった。
 だが、それは始まりであった。
 天国に上がった陸奥は、しばらくして彼と再会した。
 翔輝と彼の間で揺れ動く陸奥だったが、再び自分の前に現れて優しく接してくれた彼に、再び恋心が動き――今では、恋人同士になっている。
 翔輝派を抜けた陸奥は、今も翔輝を想っている大和達を、陰ながら応援している。
「女は恋すれば美しくもなり、強くもなる、か」
「お姉様も恋すればわかるわよ」
「言うわねぇ」
 恋話が大好きな長門だが、いまだ恋人はなし。そもそも恋を一度だけでもした事があるのか疑問だ。
「私は今だって少佐を諦めてなんかないからね」
「わ、私だってそうです」
 伊勢と霧島が必死になって陸奥に言うと、陸奥は小さく微笑む。
「私だって、嫌いになった訳じゃないよ?」
「ま、まさか・・・ッ! まだ付け狙って・・・ッ!」
「そ、そんなッ! はしたないです陸奥さんッ!」
「人を節操のないストーカーみたいに言わないで」
 わいわいと言い合う三人を見て、長門は小さく微笑んだ。
「おつまみはいかがですか?」
「あ、ありがとうございます」
 最上がおつまみを持ってきてくれた。
「最上さんも一緒に食べませんか?」
 大和が誘うが、最上は残念そうに首を振る。
「何せ今は人が不足していますので、すみませんが」
「そうですか。がんばってください」
「ありがとうございます」
 去っていく最上の背中を、大和は優しげな笑顔で見詰めた。
「あ、あれ? 山城は?」
 キョロキョロと辺りを見回す扶桑に、長門は首を傾げる。
「そういえばいないわね。さっきまであそこで一升瓶を十本も軽く飲んでたのに」
 長門が皆に尋ねるが、誰も知らないという。しかも、
「そういえば武蔵もいないわね?」
 大和の言葉に長門はため息する。
「さっきまで一緒に長谷川君で口論してたのに、何してるのよ」
「そ、そんなッ! いちいち朴念仁妹を見張ってる義理はありませんッ!」
「朴念仁ってそんな・・・以外に的を射てるけど」
 長門は苦笑いするが、すぐに偵察隊を編成して捜索に向かわせた。今でも彼女に従う艦魂は多い。
 大和も仕方なくといった感じでついて行く事になった。
「まったく、本当に世話の焼ける妹よね」
「そんな事言わないでよお姉ちゃん」
「妹があなただけならどんなに楽だろうな」
「ははは・・・」
 大和は信濃を連れて金剛の家を飛び出した。
 出て行く艦魂達の後ろでは、駆逐艦の艦魂を口説く滝川に金剛渾身の竹刀が炸裂していた。












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