第四章 はたかぜ(メイコム)2
翌日、翔輝の歓迎セレモニーが行われた。
第四護衛隊群司令である日下部と副司令になった翔輝を、隊員達は盛大に歓迎した。
観艦式のように盛大に護衛艦などが海を翔けて翔輝達を歓迎した。
翔輝も終始笑顔でセレモニーを楽しんだ。
そんな翔輝を、物陰から見詰める少女がいた。
「あの人・・・副司令だったんだ・・・」
はたかぜはそう言ってうつむくと、静かに消えた。
さらに翌日、翔輝は再び『はたかせ』に来艦した。
昨日彼が副司令だという事が末端の兵まで伝わったので、翔輝が来艦すると敬礼をしたり案内をしようとしたりする兵が多かったが、翔輝はそれを全て回避して艦内に入り、はたかぜの姿を捜した。
だが、どこを捜しても彼女の姿はなかった。
「あれ? メイの奴どこに行ったんだ?」
翔輝は頭を掻くと再び一時間ほど捜したが、結局彼女は見つからなかった。
翔輝は仕方ないといった感じで退艦しようとした時、ドアの陰から自分を見詰めているはたかぜを見つけた。
「メイ。お前今までどこにいたんだよ?」
翔輝が声掛けると、はたかぜは慌てて走り去った。
「ちょっとッ! メイッ!」
翔輝が慌てて追い掛ける。そんな彼を艦魂が見えない兵達は不思議そうに見詰めていた。
「待ってよッ! 何で逃げるのさッ!」
「ついて来ないでくださいッ!」
はたかぜはなぜか敬語で叫んでさらに速度を速める。艦魂が持つ高い身体能力のおかげだ。
一方、大和達と共にいた時に比べたら体力が多少ながらも落ちた翔輝はその速度に対抗できる訳もなく・・・
「おいメイッ! ちょっと待て――うわッ!?」
足がもつれてその場に転んでしまった。
「あ・・・」
はたかぜもそんな彼に気づき走るのをやめた。
「いてて・・・」
「大丈夫?」
少し離れた所からはたかぜが心配して声を掛けてくれた。
「ま、まあ、なんとかね」
翔輝はゆっくりと立ち上がると、はたかぜを見詰める。その視線にはたかぜはうつむく。
「一体どうしたんだ? 何で逃げるんだよ?」
翔輝が不思議そうに聞くと、はたかぜは少し躊躇したが、ゆっくりと口を開いた。
「あなたは・・・副司令だったんですね?」
はたかぜの言葉に、翔輝はうなずく。
「うん。そうだけど・・・」
「第四護衛隊群副司令・・・長谷川翔輝海将補・・・」
はたかぜは翔輝の役職と名を呼んだ後、書類を空間から発現した。
久しぶりに見た艦魂の能力に翔輝は驚いたが、そんな彼を無視し、はたかぜは書類を見詰める。
「元日本海軍海軍少佐。戦時中は戦艦『ヤマト』に航海士・先任航海士を務め、同艦沈没後は呉鎮守府に勤務。戦後は第二復員省に入って復員船『ジュンヨウ』にて航海長を務め、同艦退艦後は警備隊に入隊。その後警備隊は海上自衛隊に改名され、同隊の幹部に昇格。現在は第四護衛隊群副司令を務める有能な自衛官」
淡々と自分の経歴を読み上げるはたかぜに翔輝は呆けていたが、読み終えるとはたかぜは書類を消すと真剣な瞳で彼を見詰めた。
一昨日会った時とはまるで違う雰囲気に翔輝は戸惑うが、そんな翔輝にはたかぜは静かに敬礼した。
「先日のご無礼、申し訳ありませんでした」
「え? あ、いや・・・」
「先日は普通の士官だと判断して軽々しい態度で接していました。今考えればちゃんと階級章を確認しておくべきでした。自分の失態のせいで長谷川副司令に不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるはたかぜに翔輝は慌てる。
「ちょっと待ってよッ! 急にどうしたのさッ!?」
「先日の私の愚行はどうかお忘れください。忘れていただけるような行為ではありませんが、これからは失礼な態度にならぬよう務めますので今回はどうか――」
「ちょっと待ってってばッ!」
翔輝の慌てた声にはたかぜは困ったように顔を上げる。
「待てとは、一体どのような?」
「そんな堅苦しい態度はやめてよ。この前みたいに接して」
翔輝の言葉にはたかぜは目を大きく見開く。
「何を言っているのですか? これが当然の接し方で――」
「そんなの関係ないよッ! 僕は君の素で接してほしいんだッ!」
「素で、ですか?」
戸惑うはたかぜに、翔輝は優しく微笑む。
「そうだよ。この前みたいに気安く接してよ。少しムカつく所はあったけど、こんな堅苦しい態度よりはずっとマシだよ」
翔輝の真剣な言葉に、はたかぜはしばし沈黙していたが、そっとイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「・・・あんたみたいな奴、初めて会ったよ」
元の口調と表情に戻ったはたかぜに、翔輝は微笑んだまま「そうかな?」と首を傾げる。
「そうだよ。普通あんたみたいな高級士官は偉そうな態度をするもんだ」
「世の中の高級士官がみんなそういう訳じゃないよ」
「そうかもしれないけど、あんたは特別よね。変な奴」
「そっかな?」
困ったように頬を掻く翔輝に、はたかぜはそっと微笑む。
「――でも、嫌いじゃないよ」
「メイ・・・」
はたかぜはゆっくりと翔輝に近づくと、そっと抱き付いた。
「め、メイ・・・?」
驚く翔輝のメガネを、はたかぜはそっと外す。
「へえ、あんたこうして見ると、結構かっこいい顔してるじゃない」
「そ、そっかな?」
翔輝は気にした様子もなくメガネを取り戻すと再び掛ける。そんな彼の頬は桜色に染まっている。
「むふふ、顔が赤いよ? 照れてるの?」
ニヤニヤしながら自分の顔を見上げるはたかぜに翔輝は顔を逸らす。
「照れてなんかないよ」
「へえ、そう。なーんだ」
何か意味ありげな笑みを残してはたかぜは離れる。
「・・・な、何だよ」
「ううん。別にー?」
「言いたい事があるならハッキリ言えよな」
翔輝が怒ったように言うと、はたかぜは意味ありげな笑みを崩さないが、ふと何かを思い出したように聞いてくる。
「あんたって『ヤマト』に乗ってたんだよね?」
「え? あ、うん」
「『ヤマト』の艦魂とも会ったんでしょ?」
「うん」
「その子とは仲良かったの?」
はたかぜの問いに、翔輝は小さい笑みを浮かべた。
「うん。最高の相棒にして・・・恋人だった」
「え・・・?」
驚くはたかぜに、翔輝は遠い目をする。
「あいつはもうここにはいないけど・・・きっとあいつは天国で幸せに生きてる。そう信じてる」
遠い目をして懐かしみを感じている翔輝に、はたかぜはしばし呆然としていたが、ニヤッとイタズラっぽい笑みを浮かべると、再び翔輝に抱き付いた。
「な、何だよメイッ!?」
驚く翔輝にはたかぜは色っぽい仕草で彼の耳元でささやく。
「あんたの寂しさ・・・あたしが癒してあげよっか?」
ふぅーと耳に息を吹き込むと、ゾクゾクと背筋が震えた。
「よ、余計なお世話だッ!」
翔輝ははたかぜを押し戻すと、怒ったようにしてはたかぜに背を向ける。そんな彼の背中を見詰め、はたかぜは再びイタズラっぽい笑みをする。
「むふふ、あんたって本当にかわいいわね」
後ろでイタズラっぽく笑うはたかぜを一瞥し、翔輝はため息した。
「・・・もしかして、僕はとんでもない奴と出会っちゃったのかな?」
「うん? 何か言った?」
そんなはたかぜの言葉を背に受け、翔輝は大きくため息を零すと、タバコを取り出す。
「へえ、あんたってタバコ吸うんだぁ」
「意外か?」
「あんたなら今でもジュースしか飲んでなさそうだもの」
「一応酒も飲むぞ」
「ふーん、一応大人なんだ」
「失礼だな。これでも苦労人なんだよ」
翔輝はタバコを口に含むとライターを取り出し、火を着けた。
煙を吸い込むと、ゆっくりと白い煙を吐き出した。
そんな彼の横顔を、はたかぜは笑顔で見詰めていた。 |