艦魂年代史 恋する乙女は大艦巨砲主義エピローグ 僕達の艦魂物語は終わらない(2/16)PDFで表示縦書き表示RDF


艦魂年代史 恋する乙女は大艦巨砲主義エピローグ 僕達の艦魂物語は終わらない
作:黒鉄大和



第二章 海上自衛隊


 太平洋戦争が終戦して九年が過ぎた。
 戦争の傷はまだ完全には癒えてはいないが、もう混乱などは起きず、国民が一丸となって破壊し尽くされた日本の再建に専念していた。
 太平洋戦争が終わった後、敗戦国である大日本帝国は帝国主義国家から民主主義国家に変更され、世界で唯一の平和憲法を持つ平和国家となった。その姿はまるで牙をもがれた獅子のようだった。
 日本は敗戦と同時に軍部を解体され、かつてアジア最強と謳われた日本陸軍・日本海軍のどちらも消滅した。
 そんな武力を永久に放棄した日本だったが、太平洋戦争から五年後、朝鮮半島で北朝鮮・中国軍と韓国軍・国連軍との戦争が勃発した――朝鮮戦争だ。
 朝鮮戦争は一応両軍の休戦という事で収まったが、これにより武装をしていない日本の独立は脅かされる事となり、日本は再び武装する事を決定した。
 新たに編成された陸上部隊である『保安隊』。
 旧日本海軍の伝統を受け継ぐ『警備隊』。
 両部隊は日本の独立を守る為に戦力の増強を続けた。
 そして、太平洋戦争から九年後の一九五四年、日本に新たに自国の防衛を主とする中央省庁――防衛庁が発足した。これにより保安隊は『陸上自衛隊』と改称。警備隊も『海上自衛隊』と改称された。自衛隊という名前は平和国家である日本に矛盾しないようにという配慮だ。
 そんな紆余曲折の末に誕生した自衛隊。そのうち日本近海の海を守る海上自衛隊は新鋭艦などを配備して日夜猛訓練に励んでいた。

 春の朗らかな日差しに照らされる広島県呉市。
 以前は海軍の駐屯基地となっていた呉は、今は海上自衛隊第四護衛隊群の司令部がある重要基地となっていた。
 そんな新たに発足された呉の第四護衛隊群司令部には新しい司令部要員が日夜仕事に従事していた。
 多くのデスクにその数以上の隊員達が仕事をしている呉司令部。そこに一人の若い男が入って来た。
「みんな。仕事は順調?」
 二十代後半というまだまだ若々しい男の登場に仕事をしていた隊員達は慌てて立ち上がって敬礼した。彼は彼らの上官なのだ。
 男は皆の反応に申し訳なさそうに謝る。
「ごめん。邪魔しちゃいました?」
「いえ、そんな事ありません」
 この司令部室の部長である中年の男が明るく話しかけてきた。
「そうですか?」
「はい。皆副司令の到着をお待ちしていました」
「そうですか。ありがとうございます」
 男は嬉しそうな笑みを浮かべた。その笑顔は幾分か大人らしくはなってはいたが、そこにはどこか少年の面影が残っていた。
 部長である男は副司令と呼ばれた男に向かって再び敬礼した。
「これから先いろいろと迷惑をかけると思いますが、隊員一同貴官の配下になれた事を光栄に思います」
 部長の言葉に男は少し照れたような表情を浮かべると、キラリと輝く細メガネを直して満面の笑みで皆に向かって敬礼した。
「本日付で呉海上自衛隊司令部・第四護衛隊群副司令に任命された長谷川翔輝海将補です。まだまだ経験不足でみなさんにご迷惑をお掛けすると思いますが、よろしくお願いします」
 新しい副司令に向かって、隊員達は敬礼して答えた。そんな自分の部下達を見詰め、第四護衛隊群副司令――長谷川翔輝海将補(三十代直前の二九歳)は小さく笑みを浮かべた。

 新しい役職に着いた翔輝は副司令室に入って席に着くと、ふと戦後からの自分の軌跡を思い出した。
 翔輝は戦後第二復員省に就職して復員船(元空母)『隼鷹』で航海長を務め、太平洋の海を駆け回った後、警備隊に入隊した。そしてそこで必死に猛勉強して階級を上げ、今では海将補(旧軍でいう少将)にまで上り詰めた。そして今、自分は一個艦隊の副司令にまで上り詰めたのだ。
「長かったな・・・」
 翔輝はふとつぶやいだ。
 戦後、壊れた日本の中で必死に生きる為に努力した結果が、今ここに実ったのだ。
 どの国を見ても二十代後半の若者が一国の一個艦隊の副司令になる事は異例中の異例だ。よほどの才能がない限りそんな事は不可能だが、かつて航海の天才と呼ばれた翔輝の力はそれをやりのけてしまったのだ。
 翔輝は海上自衛隊士官用の制服を見詰めた。旧海軍のそれとは違い、詰襟型ではなく米軍式のブレザーにネクタイという出で立ちだが、翔輝は自分には似合わないと思っている。
 かつて三年半以上も着続けた詰襟の方が自分には似合っている。そう思うが仕方のない事だ。
 翔輝は軍帽を机に置くと、持って来たトランクを開けて私物を置き始めた。
 持って来た色々な物を置き終えると、翔輝は弁当を取り出した。今一緒に暮らしている元大金持ちにして今は貧乏貴族という不名誉な称号を持つ彼の幼なじみ――瑠璃が作ってくれたものだ。同居当初は家の中を破壊し尽くす事しかできなかった瑠璃だが、さすがに二五歳にもなるとそんな破壊工作をする事はなくなり、今ではどこに出しても恥ずかしくない一流の女になっていた。
 そんな幼なじみの温かい気持ちに感謝すると、弁当は机の横に置いた。さすがにまだお昼には時間が遠い。
 瑠璃と二人暮らしをしている翔輝だが、二人はあくまで同居しているだけで結婚はしていない。
 瑠璃が翔輝にプロポーズしたり強硬手段(なぜか翔輝の実印入りの婚姻届一〇〇枚を役所に提出しようとしたり、既成事実を作ろうとしたり)を何度も行ったが、翔輝はそれを全て回避した。
 彼は今でも、愛する彼女の事を想い続けているのだ・・・
 翔輝はトランクの中から最後に一つの写真立てを取り出すと机に置いた。それには若き頃の翔輝と十人の少女達が写っていた。
 それは太平洋戦争末期、戦艦『大和』以下第二艦隊の水上特攻作戦前に作戦参加艦艇の艦魂達と一緒に撮った写真だ。
 そんな写真に写る自分には二人の少女が抱き付いていた。
 一人は雪風。戦後中国海軍へ引き渡され、今では音信不通になってしまった今や翔輝の唯一の艦魂仲間だ。
 そして、もう一人の名は――大和。
 言わずと知れた日本海軍が世界に誇る超弩級巨大戦艦・戦艦『大和』の艦魂である少女。
 太平洋戦争ではいつも隣にいて幾多の戦いを生き抜いて来た戦友にして、最愛の者だった。
 菊水作戦の一環として『大和』は沖縄へ特攻の為に出撃したが、沖縄へ到達する前に敵機の猛攻撃を受けて沈没した。その際、翔輝は強く艦に残って彼女と運命を共にする事を願ったが、彼女はそれを許さず、無理やり『雪風』に転送されてしまい、彼は生き残った。
 彼女のおかげで、今の自分がある。そう思う事によって、彼女がいつも自分の傍にいるような気がするのだ。
「大和。君が死んで、もう九年経つんだね」
 春は心躍る季節と言うのが世間一般的なものだが、彼にとって春は辛い季節でしかない。
 四月一日は十四年前に死んだ妹の翔香の命日。
 四月七日は九年前に死んだ大和の命日。
 そして・・・
「隼鷹・・・」
 翔輝はワイシャツの裏側に隠れるようにして首に掛けた小さく銀色に輝くロケットを取り出すとふたを開きいた。
 中の小さなセピア色の写真には、五人の少女が肩を寄せ合って明るい笑みを浮かべている。
 中央で満面の笑みを浮かべている少女――瑞鶴を中心に右に彼女の親友の瑞鳳が抱き付き、反対側に緊張しながらも小さく笑みを浮かべている飛鷹。四人が笑っているのに一人だけ照れてるのかぶすっとしている長身の少女は翔鶴。そして、そんな彼女に抱き付いて満面の笑みを浮かべている少女は翔輝と最も長い付き合いを持つ戦友――隼鷹。
 戦後の二年間復員活動を共に行ってきた彼女も、一九四八年の春に解体されてもう存在していない。
 三人の大事な少女を失った翔輝にとって、桜舞う春の始まりは地獄でしかないのだ。
 翔輝はそっとロケットをまた胸にしまうと、ゆったりとした高そうな椅子に腰掛ける。
 それほどは広くはないがきれいに整理された自分の新たな部屋を見回し、翔輝は小さく微笑む。
 机の上に置いてあるネームプレートには『呉海上自衛隊司令部・第四護衛隊群副司令・長谷川翔輝海将補』と書かれており、自分の破格の出世を実感する。
 コンコン・・・
「はい?」
 そんな時突如ノックされて翔輝は驚く。だが入室して来た人物を見てまた驚く。
「部屋は気に入ってくれたかい? 副司令くん」
「司令ッ!?」
 現れたのは呉海上自衛隊司令部・第四護衛隊群司令――日下部くさかべ和泉海将だった。
 年は翔輝から大きく離れて五〇代後半の男だが、少年のようなキラキラとした瞳を持つ彼は翔輝が警備隊にいた頃からの付き合いで、何かと後押ししてくれた。今回翔輝が副司令に就任できたのも司令になった彼の推薦のおかげが一番大きい。
 そんな人生の恩人とも言うべき司令の登場に翔輝は慌てて立ち上がって敬礼する。
「司令。一体どういったご用件ですか?」
「うん? いや何。立派になったお前の顔を見たくてな」
「そんな、僕はまだまだ未熟ですよ。それに用があるなら呼んでくれればこっちから行きましたのに」
「いやいや、まだ慣れていない君にそんな無理をさせる訳にはいかないよ」
 そんな彼の心遣いがしんみりと翔輝の心を波打たせる。彼の優しさがあったからこそ今の自分がいると言っても過言ではない。
 日下部はそれなりに整った部屋を見回すと優しげに微笑む。
「どうやら問題はなさそうだな」
「はい。ここの皆さんいい人ばっかりですから安心です」
「そうか」
 日下部はそう言って微笑むと「じゃ、仕事があるから私は行くぞ」と言って部屋を出た。
 別れ際、日下部は「今日の仕事はない。明日からがんばりなさい。あ、暇があったら自衛艦を見学にでも行ってくればどうだ?」と言って去った。
 残された翔輝はうーんと考えると、瑠璃の作った弁当を別のカバンに入れて部屋を出た。
「自衛艦か、どんな艦魂がいるんだろうなぁ」
 艦に乗るのは『隼鷹』以来なので、翔輝は嬉しそうに微笑むと、司令部の廊下を歩き出した。












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